第28話

 迷宮での実戦訓練を終えた竜人たちは、一日休みを取ると十階層まで転移して迷宮内調査を再開した。

「今日から迷宮調査を本格的に再開する。十三階層で異常が見られたことから何が起こるかはわからない。みんな油断せずに行くぞ。」


 しばらくして、あの魔物が大群で押し寄せてきた広間へと到着する。

 竜人たちは慎重に周囲の警戒をするも、特に異常は見られずに皆ほっとしたようすだった。

 その後も何事もなく十五階層の転移装置、二十階層の転移装置の登録を完了する。

 二十階層から下の地図が売られていなかったことから、マッピングをしながらの調査となった。



 第二十二階層~

「ゴーレム二体を確認した。ゴーレムは物理に強いが魔法が弱点だ。先制攻撃にピピは炎の魔法で攻撃してくれ。その後、右は俺とリジィーで仕留めるから左はラビアとアルで頼むな。ティーナの弓ではダメージが通りにくいと思うから、他の敵がいないか警戒していてくれ。行くぞ!」

『はい!』


 ピピが先制で飛び出すと炎を体から飛ばし、ゴーレムは炎に包まれる。

 ゴーレムはその身を溶かしながらもこちらを確認すると、竜人たちに向かって歩き出した。


 竜人とアルが飛び出しそれぞれゴーレムのタゲ取りを行う。その隙にラビアとリジィーが後方より攻撃を仕掛ける。

四元素の槍フォースエレメントルーン(炎)」

斬鉄剣一刀両断


 リジィーの槍が炎で包まれるとそのままゴーレムの右足を溶かすように切り裂く。

 ラビアの剣は左足をまるで豆腐を切るように綺麗な切り口で切り裂いた。


 それぞれのゴーレムがバランスを崩すと横転してしまった。

 そこを竜人は「暁」を使い頭部を切断し、アルは前足でゴーレムの頭部を踏み砕いた。

 しばらく警戒するも動き出す様子もなく構えを解いた四人。


「今日の調査はここまでにしようか。」

 魔石を回収した竜人たちは、今日の野営場所を探すために周囲の探索をすることにした。

 そして、丁度良い広間を発見して竜人が野営の指示を出そうとした時アルが反応をした。


「ガルルル~」

「どうしたんだアル。」

「お兄ちゃん、気を付けて。アルが敵の気配がするって言ってるの。」

 それを聞いた竜人たちはエリスたちを中心に円陣の陣形を取ると、すぐに周囲の警戒を始める。


「誰か何か見つかったか?」

「竜人様駄目です、何も見つかりません。」

「兄さん、こっちも何もありません。」


(アルがここまで警戒している事から、何かがあるのは間違いないだろう。今は状況が分からない以上一旦引いた方がいいか。)

 竜人が皆に撤退の指示をしようとしたとき、「暁」が脈打つように反応を示した。


(ドックン。)

「何だ?」

 竜人が「暁」を見つめると刀身が激しい光を発する。

 思わず目を閉じた竜人たちは、やがて「暁」の光が収まり周囲を見回すと先程まで行き止まりの広間だったところに、奥へと続く通路が現れていた。


「兄さん、いったい何が?」

「分からない。だがこの奥から何か気配を感じる。」

「竜人様、どうしましょう。」

 ラビアたちの問い掛けに直ぐには決断できなかった竜人。


(「暁」の反応を見れば、恐らくこの奥に迷宮の異常の原因がある可能性は高い。どうする?)

 竜人は自問自答をし、やがて決断する。


「俺とリジィーで先行偵察をしてくる。エリスたちはこの場で待機、俺が退却の指示をしたら速やかに二十階層の転移装置で逃げろ。」

「兄さん、駄目です。みんなで行動しないと危険です。」

「大丈夫だ。危険だと判断したら俺たちもすぐに逃げるさ。」

 竜人は落ち着かせるようにエリスの頭を撫でる。


「ラビア、ティーナ、エリスたちを頼んだぞ。」

「分かりました竜人様。どうかお気をつけて。」

 竜人は頷くとリジィーと共に通路を進んでいく。


「リジィー気を抜くなよ。何が起きても不思議じゃないからな。」

「はい、竜人様」

 リジィーは槍を握る手に力が籠る。

 やがて開けた場所まで竜人たちが辿り着くと、広間の中央に水晶玉サイズの光の玉が浮いているのが目に入ってきた。


「何だこれは。」

 思わず呟く竜人に声を掛けてくる者がいた。

「おやおや、入り口には結界を張っていたのに招かれざる客が来るとは。」

 竜人が声のする方を見ると、人間とも獣人とも違う青い肌をした人物が空中に浮いていた。


「お前は誰だ!」

「たかが人間ごときが随分な口の聞き方ですねぇ。」

「竜人様、気を付けてください、あれは魔族です!」

 リジィーが竜人の問いに答えた。


「迷宮内での異常事態はお前の仕業か?」

「なるほど、私が放った魔獣たちが次々と倒されていったのはあなたの仕業でしたか。」

 魔族は納得したように頷くと竜人に語りかけた。


「まあ良いでしょう。我が悲願が遂に叶う時に折角来たのです。冥土の土産に自己紹介でもしましょうか。私の名はザルモ。魔王様が配下六魔将軍ゲイルード様のシモベ。」

(こいつはまずい。)


「ラビア!今すぐ撤退しろー!」

 竜人は外へと叫ぶとザルモに向かい「暁」を構える。

「ほう、その武器から感じる忌々しき力は。どうやらあなたは確実に始末しなければならないようですね。」


 ザルモから膨大な魔力の力が溢れ、その足元に巨大な魔方陣が現れる。

 竜人も撤退をしようとリジィーに声をかけようとすると、地響きが起きて通路の出口のほうから音が聞こえてきた。

「出口は塞ぎました。逃がしはしませんよ。」


 そう言ったザルモの足元の魔方陣から黒い闇が現れると、その中から山羊とライオンの双頭を持ち、体は山羊、尻尾には蛇、背には翼を持った魔物が姿を表せた。

 Sランクの魔物とされるキマイラであった。


「これは私の最高傑作であるキマイラ。そこらの魔獣とは格の違いを見せてあげましょう。さぁ行きなさい。」

「ガアアアアアアー」

 キマイラが咆哮を上げると竜人たちに向かって走り出した。


「リジィー、全力で回避しろ!」

 竜人は気闘陣(焔)を使うとキマイラの攻撃を間一髪で避ける。

 距離を取るため広間の中央に移動した竜人は、魔力を込め始める。

「飛斬撃!」

「暁」から放たれた紅の刃はキマイラの体に当たり血が噴き出すも、サイクロプスの時と同じく傷があっという間に塞がっていく。


召還槍アラドヴァル!」

 リジィーの槍がキマイラの背後から襲い掛かり、左の翼を吹き飛ばした。しかし、数秒もすると先程までと変わらない翼がそこにはあった。

(まずい、今までの敵とはレベルが違いすぎる。このままではこっちの体力が先に尽きてしまう。)


○キマイラ(凶化)

能力値

○力S++ ○魔力S ○俊敏S++ ○賢さA+ ○生命力S++ ○魔法防御S+

・超回復力


 キマイラがリジィーの方を向くと、山羊の口から炎のブレスが放たれた。

「避けろリジィー!」

「エリアサークル。」

 ブレスを受けそうになっていたリジィーの体が、光の結界により包まれると炎のダメージを防ぎ、結界は消滅した。


「エリス!何で来たんだ!」

 竜人は思わず叫んでしまった。

 通路からは撤退を指示したはずのエリスたちがやって来ていた。


「すみません竜人様。エリスお嬢様が竜人様の声を聞くと突然の走り出してしまい、通路の出口は今瓦礫で塞がれてしまっています。」

「兄さん、私たちも一緒に戦います!」

 エリスの強い言葉に今は説得は無理だと諦めた竜人は、直ぐに指示を出すことにした。


「敵のキマイラはサイクロプスの時と同じく超回復力を持っている。それと先程のブレス攻撃もある。前衛は散開して回避と防御を優先しろ。後衛は回復と牽制を頼む。行くぞ!」

『はい!』

 竜人たちの試練の戦いが始まった。

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