第27話
夜営も訓練という事で、出来合いのものではなく保存食を活用して料理をすることにした。
テントの設営はエリスとラビアやってもらい、竜人とミーナとティーナが料理の担当になる。リジィーは見張りを担当して、動物たちには訓練のために突発的なことが起こらない限りは手を出さないように言っておいた。
竜人は保存食用の干し肉と調味料や香辛料を使いスープの用意と、お米を炊いてフライパンでイタ飯を作ることにした。
「ティーナはスープを作ってくれ。俺は米を炊いてイタ飯を作るから。ミーナはテーブルの設置と食器類を並べておいてくれ。」
それぞれの役割を決めると準備に動き出す。竜人は飯ごうがなかったので鍋を利用して米を炊くことにした。
(こうやって米を炊くのはじいちゃんと野宿をしたとき以来だな。みんな心配してるかな。)
つい日本にいた頃を思い出し、両親たちに心配をかけてしまっているんだろうなと感傷に浸ってしまった。
(まあ、今は出来ることをやっていくだけだ。ねーちゃんを見つけなければどのみち戻ることもできないし。)
気を取り直した竜人は、鍋の様子に気を配りだいたい良い頃合いだと判断すると、鍋のふたを開ける。
中からは白い湯気が立ち上ぼり、久々に嗅いだご飯の匂いに竜人のテンションは上がっていく。
「お兄ちゃん、それがお米なの?」
ミーナは準備が終わったのか竜人の様子を見に来ていた。その周りにはアルたちも付いてきていた。
「そうだぞ、これからこのお米に一手間加えて美味しい料理を作ってやるからな。もうちょっと待っててな。」
「うん!楽しみにしてるね。」
そう言うとミーナはエリスたちの方に向かっていった。
玉ねぎ、レタス、トマト、干し肉を入れてフライパンで炒めると、バター、塩、こしょうで味を整えてイタ飯が完成した。スープのほうも完成したので皿によそっていった。
食事の時の見張りはローテーションを組んで竜人、ラビア、リジィー、ティーナの順番で行うと決めていたので、見張りをしていたリジィーを呼ぶと、竜人は見張りを代わり皆に食事をするように指示した。
「兄さん、このイタ飯という料理とっても美味しいです。」
「お兄ちゃん、美味しいよ!」
「はい、はじめて食べましたがとっても美味しいです。さすが竜人様。」
皆に大絶賛のようでほっとした竜人。
「これも米が手に入ったからことなんだ。米には他にもたくさんの食べ方があるからな。これからもいろんな食べ方を教えてあげるからね。」
「こんなに美味しいものを食べていたら、竜人様から離れられなくなってしまいます~。」
ティーナは特にイタ飯にご執心のようだった。
「お代わりはまだあるから良いけど、食べ過ぎには気を付けろよ。」
「は~い。竜人様。」
そう言って早速お代わりをするリジィー。
一足先に食べ終わったラビアに見張りを代わってもらうと、竜人も漸く夕食にありつくことができた。
「お~、久しぶりに作ったけどなかなか上手くできたな。ティーナの作ったスープもとっても美味しいよ。」
「ありがとうございます竜人様。」
夕食を食べ終えた竜人たちは片付けをすると、夜の見張りの順番を決めた。
三時間交代の三交代制を取ることにする。初めての夜営だったので、見張りは竜人以外は二人体制を取ることにした。慣れてきたら一人で行うことに決めた。
順番は最初にラビアとエリス、次に竜人、最後がリジィーとティーナの順番になった。
ミーナについては、小学生の夜更かしは成長に悪影響を与えるとの竜人の強い訴えにより却下された。
テントは二つ用意しており片方に竜人たち兄妹、もう片方をラビアたちと振り分けた。
「それじゃあエリス、ラビア時間になったら起こしてくれ。」
「はい、兄さんおやすみなさい。」
「おやすみ~。」
「おやすみなさい竜人様」
竜人はミーナとアルたちを連れてテントの中に入り休むことにした。
サイド~エリス~
竜人とミーナがテントで休み始めてから一時間くらい経過した頃、ラビアといろんな話をして過ごしていたエリスだったが、不意にエリスはラビアに問いかけた。
「ラビアは人間が憎いですか?」
しばらく考える仕草をしていたラビアだったがやがて口を開いた。
「憎くないと言ったら嘘になるかもしれません。奴隷のころはそんな事考える余裕は有りませんでしたが。ただ、竜人様やお嬢様方は、私たちを命を懸けて救って下さっただけでなく、対等に扱ってくれましたから感謝しています。多分リジィーやティーナも同じ意見だと思います。」
「私もミーナも奴隷になる前に兄さんに救われたので、ラビアたちの気持ちが分かるとは言えません。でも、人間全てを嫌いにならないでほしいんです。」
「はい、もちろん人間全てが悪いと思っているわけではないです。獣人にだって悪人は居ますから。ただ、今は自分の気持ちに整理がついてないのかもしれません。それにしても、竜人様には驚かされました。まさか出会って始めに奴隷の解放のことを言われるとは思いませんでした。」
「ふふ、兄さんは私とミーナの時も始めに奴隷の解放についていろいろ悩んでいましたから。誰かが理不尽な状況になっているのを放っておけないのでしょう。」
エリスは初めて竜人に出会ったときを思いつい笑みが溢れる出す。
その様子を暖かい眼差しでラビアは見つめていた。
「エリスお嬢様は竜人様がお好きなのですね。」
「な、何を言ってるの。兄妹何だから当たり前じゃない。」
突然のラビアの言葉につい動揺してしまうエリス。
「兄妹だからですか。そうですね、今はそのようにしておきましょう。」
「本当に違うんだからね。」
なにやら含みのある言い方にエリスはたまらずに否定した。
「あ、もう交代の時間ですね。」
ラビアは次の見張りの竜人を呼ぶために立ち上がった。
「ラビア、ちゃんと聞いてるの?」
ラビアは答えることなく笑みを浮かべながら、竜人のいるテントへと向かっていった。
サイド~竜人~
なにやら妙に楽しげなラビアとほんのり頬を染めたエリスが竜人を起こしに来ていた。
「どうしたんだ、エリス。」
「何でもありません。兄さん見張りの交代お願いします。」
そう言うとエリスは寝袋に潜ってしまった。ラビアに聞くも同じ答えだけしか帰ってこずに、竜人は釈然としないまま見張りにつくことになった。
竜人は一人焚き火の前で見張りを行っていた。
(はあ~、やっとエリスたちを奴隷から解放したと思ったら、また三人も奴隷を持つことになるとは。しかも全員女性だし、本当ねーちゃんに会ったら何て言われるか。)
竜人は姉にあったときのことを想像すると気が重くなっていた。
竜人が奴隷解放に拘るのは、制度自体の忌避感もあるが姉にどう思われるかの方が比重は重かった。
(まあ、お金を地道に貯めていくしかないかな。)
竜人は気を取り直すと見張りに集中することにした。
やがて何事もなく朝を迎えた竜人たちは、朝食を済ませると迷宮の攻略を開始する。
そして、無事五階層の転移装置までたどり着き迷宮の実戦訓練は終了した。
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