第29話

「クリエイトパワー、クリエイトマジック、クリエイトプロテクト、クリエイトマジックプロテクト、クリエイトクイック」

 エリスが竜人たちに補助魔法をかける。


「みんな、お兄ちゃんを助けて。」

 ミーナはアルたちに能力解放を使うと、アルとピピはキマイラに向かっていった。


 キマイラの周りでは竜人、ラビア、リジィーが取り囲んで何度も攻撃を仕掛けていた。

 竜人がキマイラの前足の攻撃をかわすと、そのまま走り抜け後ろ足を切りつける。

 キマイラが咆哮を上げながら竜人に追撃をしようとするが、ラビアが盾を構えキマイラの攻撃を受け止める。


 バキン。

「くっ。」

「ラビアすまない、大丈夫か。」

「はい、問題ありません。」

 ラビアは吹き飛ばされるもなんとか体勢を立て直した。


簡易魔造矢クリエイトマジックアロー!」

 ティーナは、後方から弓矢の連射攻撃でキマイラの牽制を行う。しかし、矢はキマイラの皮膚に刺さるもたいしてダメージを与えられていない様子だった。


「ガアー」「ピリリリィ」

 アルの氷魔法がキマイラの足を地面へと張り付け、ピピの炎魔法が体を焦がしていく。


 バリン!

 キマイラは凍りついた足を直ぐ様脱出させると、ライオンの頭がピピを捉えると氷のブレスを吹き付けた。

「ピィー」

 氷のブレスの直撃を受けたピピは地面に落下しそうになり、キマイラから距離をとった。


「ミーナ、ピピを一旦下がらせろ。エリスは回復を頼む。」

 ピピを呼び戻したミーナは心配そうにピピの様子を見ていた。


召還槍アラドヴァル!」

 リジィーの槍がキマイラの足を地面に縫い付けるように刺さる。

「グワアアア」

(今だ。)

 竜人は槍に縫い付けられた足を魔力を通した「暁」で切断することに成功する。


 片足を失ったキマイラはバランスを崩すと地面へと伏せてしまう。

「無駄ですよ。」

 ザルモの放った言葉通りキマイラの足は、ビデオの逆再生のように元へと戻ってしまう。


(くそ、やっぱり駄目か。回復スピードがサイクロプスの時の比じゃない。)

 いくら竜人たちが攻撃を仕掛けても、傷の回復スピードが上回ってしまい、致命傷を与えることができなかった。


 キマイラとの戦闘が始まってから十分以上が経過していたが、今だに終わりの見えない戦いが続いていた。

(このままじゃじり貧になっちまう。)

「そろそろ諦めてはどうですか? 私のキマイラは究極の魔獣。人間ごときに倒せるものではありませんよ。」

 ザルモは高みの見物をしながらの竜人に話しかけてきた。


「生憎と俺にはしなくちゃならないことがあってね。こんなところで殺られるわけにはいかないんだよ。」

 反論をした竜人だったが、事態の打開策を思い付かずにいた。


 ピピが再び戦線に復帰すると、竜人たちは総攻撃を開始した。

 アルがキマイラの体に飛び掛かると、体当たりをして数メートル程吹き飛ばした。

斬鉄剣一刀両断

 ラビアがキマイラの腹を切り裂き大量の血が吹き出す。


「ガアア」

 キマイラが前足でラビアを攻撃する。間一髪で盾で防いだラビアだったが後方に吹き飛ばされてしまう。


四元素の槍フォースエレメントルーン(嵐)」

 リジィーの槍の周囲を風の刃が囲み、その槍がキマイラを突き刺すとその周囲を爆散するように肉片が飛び散る。


 チャンスと見た竜人は「暁」に最大魔力を込め走り出す。

 キマイラの上空に飛び上がると「暁」の刀身がキマイラのライオンの頭部を切断した。

(よし、これならどうだ!)


 竜人がキマイラから少し距離を取ると様子を窺う。

「ほぉー、なかなかやるじゃないですか。ですが先程から言っている通り無駄なことです。何故ならそのキマイラは不死身の魔物なのですから。」

 ザルモの言葉に竜人たちは凍りついた。


 ザルモの言葉通りキマイラの切断されたライオンの頭部は、今までと同じく再生されていった。

(ふざけるな、本当に不死身じゃないか。なんとか撤退する方法を考えなくては。)


「さぁ、そろそろ終わりにしてあげなさい。」

 ザルモの指示にキマイラの体から膨大な魔力が噴出し始めた。

「まずい。全員後方に退避して防御を固めろ!」


 竜人は皆に叫ぶと後方に下がる。

「ガアアアアアアアーーーー。」

 キマイラの全身からいかずちが全方向へと放たれる。


「クルルルーー。」

 クーの額にある赤い宝石が激しく輝くと、竜人たちを赤い結界が包み込んだ。

 ドオーーーン。

「きゃあああー。」


 広間を白い煙が立ち込めていた。やがて煙が晴れていくと竜人たちは地面に倒れ伏せてしまっていた。

「皆無事か?」

 竜人は周囲を見回したが、全員ダメージは受けていたが幸いにも死者はいなかった。


「クー!しっかりして!」

「キュウ・・・」

 ミーナの悲痛な叫びが響いていた。クーの額の赤い宝石が弱々しく点滅していて、力なく鳴いていた。


(まずい、このままじゃ全員殺られてしまう。)

 竜人は自分の判断の甘さを後悔していた。

「やれやれ、漸く終わりましたか。人間にしてはなかなかやりましたが所詮はここまでのようですね。」


 その時、広間の中央にある光の玉の輝きが失われて、ザルモの手の中に収まる。

「クックックッ、やはり人間の負の感情は結界を破るには有効ですね。これで我々の悲願に一歩近づく。後はあなた方の始末だけですね。」


 キマイラが竜人たちに止めを指そうと近づいてくる。

ふざけるな・・・・・、こんなこと認められるか!」

 竜人は、目の前で息を引き取っていった獣人の少女の光景が頭の中でフラッシュバックしていた。

「もう二度と、俺の目の前で理不尽な死はやらせはしない!」


 竜人は「暁」を支えにして起き上がる。

「無理をしなくても皆仲良くあの世に送って差し上げるものを。」

 ザルモの言葉に竜人は目を見開く。


「頼む「暁」、俺の全てを賭ける。俺に力を貸してくれ!」

 竜人が気力と魔力を限界まで高めたその瞬間、「暁」の刀身は目映い黄金色に輝くと竜人の体へと光が吸収されていく。

「なんだと!」

 ザルモが思わず呟く。


○柳竜人

神魔刀技しんまとうぎ

天火明命アメノホアカリ


○神刀「あかつき」封印解放Lv.1

攻撃力1000


「行くぞ!」

 竜人がキマイラの正面から突撃をする。キマイラの双頭が炎と氷のブレスを放つが、竜人の打ち出した黄金色の斬撃により相殺する。

 なおも前進を止めない竜人に、キマイラが前足を叩きつける。竜人は「暁」を逆袈裟ぎゃくげさに斬り上げる。

 両者がすれ違ったあとには、右足を切断されたキマイラが悲鳴をあげて倒れ付していた。


「バカな!なぜ再生しない・・・。」


天火明命アメノホアカリ・・・魔を断つ太陽神の力。呪いを断つその刀に斬られたものは再生、回復能力を不能にする。使用者の能力を四段階上昇する。気力と魔力の消費量が激しく、デメリットとして使用後はステータス三段階減少する。


○柳竜人

能力値

○力S++ ↑4+1up ○魔力S+++ ↑4+1up ○俊敏S+++ ↑4+1up ○賢さS- ↑4up ○生命力S+ ↑4+1up ○魔法防御S ↑4+1up


 竜人は「暁」を上段に構えると、一気に振り下ろし黄金色の斬撃がキマイラの体を包むと光輝き消滅させていく。

「間違いない、この力は魔王様を封印した勇者の力。なぜあんな小僧が・・・。」

 ザルモは消滅していくキマイラを見て思わず呟きが溢れる。


「しまった、奴は何処に?」

 わずかな瞬間目を奪われたことで竜人を見失ったザルモは焦っていた。

「ここだー!」

 竜人はザルモの下に素早く移動すると、「暁」の刃を上に向け飛び上がり、ザルモの体を左右真っ二つに切り裂くことに成功する。


「この私が人間ごときに・・・・・・、申し訳ありませんゲイルードさ・・ま。」

 ザルモは地面に落下するとそのまま息絶えた。

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