第10話
二人に抱き付かれてから五分ほどが過ぎた。エリス姉妹に竜人は心配をかけたことを謝った。
(ミーナだけでなくエリスにまでこんなに泣かれるなんてな。いくらしっかりしているからって、まだ十五歳だったもんな。本当なら両親に甘えたりして、幸せな日常を過ごすのが当たり前なのに。そんなことも分からずにいたなんて、ねーちゃんにどやされるよな。)
竜人は深く反省すると周りに集まってきた幻獣たちにも心配をかけたことを謝った。しばらくしてようやく泣き止んだ二人にある提案をした。
二人はあっさりと竜人の提案を了承した。竜人がした提案とは二人と本当の兄妹になるとの事だった。今までミーナが竜人にお兄ちゃんと呼んだり頭を撫でられたりするのを、少し羨ましく思っていたエリスは特に喜んでいた。
エリスは「兄さん」と呼びミーナは「お兄ちゃん」と呼ぶことにした。これからは竜人が長男として二人を守っていくことを誓った。
そして姉妹はまだ見ぬ長女である「柳舞」を探すことを誓い合った。
「よし! それじゃあアースドラゴンの解体をしたら町に戻るか。全部は持てないから魔石や貴重な素材、肉を持てるだけ持っていこう。」
「そうですね。でもこれでお金の方は心配しなくて良くなったので、直ぐにでも舞姉さんを探しに行けますね兄さん」
「そうだね。早く舞姉ちゃんに会いたいな。」
二人に兄と呼ばれテンションが上がりまくる竜人。(駄目だこのシスコン、早く何とかしないと)と隆司なら確実に突っ込むこの状況も、幸か不幸かここにはいなかった。
(ねーちゃん、俺たちに二人の可愛い妹が出来たよ。)
心のなかで報告し竜人は絶対に姉を探し出すことを固く誓った。
アースドラゴンを大方解体してアイテム袋や持ってきた大きな袋に詰め込むと、袋は竜人とアルが背負うことにして町へと戻っていった。
日が傾き始めた頃にようやく町についた一行は、門番のところに行く前にアルを犬の姿に戻し袋を竜人とエリスが背負い直すと、町へと入ろうとした。
ところが門の前は人が多くいて何やら慌ただしい様子になっていた。
門番に状況を確認すると、魔物たちが大量に森から出て来て襲われたとの情報があちこちから報告が上がり、未確認ながらドラゴンの存在もあったとのことだった。
どう考えても自分達の遭遇したアースドラゴンのことだと確信した三人は、思わず顔を見合わせた。
竜人は門番に状況を説明すると詰所の方に通され、証拠のアースドラゴンの首を取り出した。
門番は慌てて部下を領主と冒険者ギルドに報告に行かせると、竜人たちにしばらくこちらで待つようにお願いされた。
特に断る理由もなかったので了承すると、三人は出されたお茶とお茶菓子を食べながら部屋で待つことになった。
三十分ほどが過ぎ使者が来て、三人は冒険者ギルドのギルドマスターの部屋まで案内をされた。
部屋に入ると六十歳を過ぎたであろう初老の男が座っていた。
体はまるで年を感じさせない筋骨粒々で、竜人が感じたのはまるでじーちゃんを彷彿とさせる気配を身に纏っていた。
男は三人を観察すると竜人たちに話しかけてきた。
「わしはここのギルドマスターをしているベールじゃ。お主たちがドラゴンを討伐したというのは間違いないか? 証拠の首があるそうじゃが見せてくれるか?」
そう尋ねてきたギルドマスターに竜人は了承すると、アースドラゴンの首をテーブルの上に置く。
ギルドマスターは椅子から立ち上がるとテーブルの前まで来てアースドラゴンの首を観察し始めた。観察を終えたギルドマスターは竜人に話しかける。
「この首はどのようにして切断をしたのじゃ?」
竜人は「暁」を取り出すとギルドマスターの許可を得て鞘から抜き放つ。ギルドマスターの視線は鋭くなり「暁」を見つめていた。
「かなりの業物のようじゃの。」
「はい、家に代々伝わる名刀です。作者はわからないのですが。ギルドマスターはこの刀と言う武器の事をご存じですか? または、この武器を使っている人に覚えはありますか?」
「ふーむ、直接は見たことはないが特徴が良く似たものは古い文献で読んだことがあるの。」
それを聞くと竜人はギルドマスターに質問をする。
「その文献についてお聞きすることはできますか?」
「それくらいは構わん。特に秘匿されている訳でもないしな。それは昔、魔王を退治したとされる武器の一つとされている。魔王の文献には幾つかあって話もそれぞれ違っているので、本当かどうかの確認は出来ないがな」
「いえ、あと一つ質問なのですが私の姉、柳舞という人物をご存知でしょうか? 冒険者にそのような人物がいれば教えて欲しいのですが。」
「冒険者の情報は個別には教えることはできないのじゃ、すまぬな。」
「いえ、無理を言ってすみません。」
そう答える竜人。
「しかし、お主ランクはEじゃったな。よくアースドラゴンを退治できたものじゃな。まあランクが必ずしも実力を反映しているとは限らないのじゃが。」
「いえ、自分でもよく倒せたなとは思っています。私の妹たちの協力とこの暁、それに奥の手を使ってどうにかと言ったところです。」
「ほう、奥の手というのは少し気になるな。まあ冒険者は命懸けじゃ。秘匿したいこともあるじゃろうから深くは詮索しないが。」
「ありがとうございます。ところでこのドラゴンの魔石や素材はどうしましょうか?」
竜人が切り出した。
「出来ればギルドに売ってもらえると助かるの。まあ自分達用に使う分までとは言わぬが。」
「わかりました。防具などに少し取っておいて魔石や他の素材はお売りします。肉も食べる分以外はお売りします。ただ、流石に全部は回収出来なかったためかなりの量を森に残してきています。」
「助かるよ。回収はギルドのほうでやっておくので場所だけ教えてくれるかの。もちろん代金はちゃんと支払う。」
「こちらこそ助かりました。常時依頼品も一緒にお願いしてよろしいでしょうか?」
「構わんよ。鑑定にはしばらく時間がかかるじゃろうから今日のところは帰ってもらってよい。明日にまたギルドの方に来てくれるか? ランクアップについてはその時にしよう。」
「わかりました、それでは失礼します。」
そう言うと三人は部屋を出ていった。一人残されたギルドマスターは呟いた。
「あの男、気配といい武器といい只者ではなかったな。特に危険な感じはしなかったが。しかし、後ろの姉妹や動物たちも並の気配ではなかった。一体何者なんじゃ。」
ベール・・・アテルナの町ギルドマスター。元SSランク冒険者、大剣を操る最高位の冒険者だった。今でもその戦闘力はSランク相当と言われている。
ギルドを後にした竜人たち一行は宿屋に着くと一悶着していた。
「兄さん。お金が勿体ないし、家族なんだから部屋は一つでいいと思います。ね、ミーナ」
「うん。お兄ちゃん一緒に寝よ!」
「いや、でもエリス。十五歳にもなって一緒の部屋でというのはちょっと・・・」
竜人は激しく困っていた。なぜエリスがここまで強硬な態度なのか。
普通十五歳にもなって兄妹で同じ部屋で寝るのはあり得ないというのが竜人の常識なのだが、ここは異世界だ。
これが常識なのか?と混乱中である。当のエリスは今日の出来事で情緒が不安定になったのと、初めてできた兄にテンションが暴走しているというのが事実だった。
結局妹二人に押しきられる感じで部屋を三人部屋にした。流石に一緒のベッドは犯罪(竜人のなかで)なのでそこだけは死守した。
(というかねーちゃんにばれたら軽蔑されて口聞いてくれないかも知れない)。
竜人にとってはまさに死活問題であった。
「お兄ちゃん。なにかお話聞かせて。」
ミーナは竜人に抱きつきながらしたから見上げるようにしてお願いをしてきた。思わず鼻血が出るような感覚に襲われた竜人は、鼻を押さえるようにして了解をした。
横ではエリスがジと目でこちらを窺っていたが気付かない振りをすることにした。
「それじゃあ今日はシンデレラの話をしよう。女の子と王子さまのお話だよ。」
「わーい! やったー。」
そうミーナは言い、エリスも嬉しそうにして三人はベッドに座ると身を寄せ合いながら時間を過ごした。
「・・・・・・こうして女の子と王子さまのは結婚をして幸せに過ごしましたとさ、めでたしめでたし。」
話が終わると右側からは寝息が聞こえて来ていた。
(今日は大変な一日だったからな、しょうがないよな。)
そう思いミーナをベッドへと寝かしつけた。
「エリスも今日は疲れただろう。もう休むか。」
そう声をかけるとエリスは竜人に抱きついてきた。
「兄さん、今日は本当に怖かった。また私たちの前から大事な人が居なくなるかと思って。」
そう言うと涙が流れているのがわかった。
「大丈夫だ! 俺は決して二人を置いていったりしない。二人に心配をかけないようにもっと強くなってやる。誰にも負けないように。」
「兄さん! 私も強くなりたいです。守られるのではなく兄さんを支えられるように。」
「わかった、一緒に強くなろう! 訓練のほうも厳しくなるけど大丈夫かな?」
「当たり前です。私は兄さんの妹なんですから。」
そう言うと竜人に微笑みかけてきた。
(強くなってやる。この笑顔を決して曇らせないために。)
竜人は再び誓うとしばらくエリスを抱き締めながら過ごしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます