第9話

 ドラゴン。言わずと知れた魔物のなかでも最上位に位置する最強種。攻守に優れほとんど弱点と呼ばれるものもほぼ存在しないとされている。


 竜人は地球に居たときにもある種憧れのようなものを持っていたのだが、実際に自分と対峙しているとそんな呑気なことも言っていられない。


 竜人は戦いには情報の重要性についてはもちろん理解していたため、ギルドでは魔物のの情報についても収集していた。憧れのドラゴンについても確認はしている。


 素早く観察して直ぐにアースドラゴンであることは理解した。


○アースドラゴン・・・竜種のなかでも特に攻撃力と防御力に優れた種。飛行することは出来ない上、素早さも他のドラゴンに比べれば低い。ただし物理、魔法の耐性は高く討伐にはSランクの高火力か、軍隊で対応する必要がある。

能力値

○力S++ ○魔力A+ ○俊敏S- ○賢さA ○生命力S++ ○魔法防御S++

討伐ランクS-

衝撃波の咆哮、土属性の攻撃魔法を使用してくる。


 竜人は基本情報をみんなに伝えるとそれぞれに指示を出す。

「エリスとクーは結界を張ってくれ。絶対に攻撃を通すな。エリスはそのあと補助魔法を頼む。そしたらみんなの回復に専念してくれ。ミーナはアルたちの能力解放をしたあとは周囲の警戒を頼む。ピピは上空から炎で牽制しつつ警戒を頼む。アルは回避優先で氷魔法や爪での攻撃で撹乱をしてくれ。俺は正面から攻撃を仕掛ける。」


 エリス姉妹たちはドラコンを初めて見て呆然としていたが、竜人の声に反応して直ぐに準備に移る。


「エリアサークル、クリエイトパワー、クリエイトマジック、クリエイトプロテクト、クリエイトマジックプロテクト、クリエイトクイック」

「くるるるーーーー」


 エリスが魔法を使用するとエリスたちの周りを結界が包み込む。更にその周りをクーの結界が覆う様に展開された。竜人はエリスの補助魔法で能力が上昇している感覚を受ける。

 ステータス確認すると補助魔法をかけた能力値が一段階上昇していた。


「みんなお願い!」

 次にミーナが能力解放を使い幻獣たちの能力が上昇した。


アル ○力S ○魔力S- ○俊敏S+ ○賢さA+ ○生命力S- ○魔法防御S-

クー ○力B ○魔力S+ ○俊敏S- ○賢さS ○生命力B+ ○魔法防御S+

ピピ ○力B- ○魔力S- ○俊敏S ○賢さS ○生命力S++ ○魔法防御A+


 各能力が二段階上昇している。

 ピピは上空を旋回し攻撃体制に入る。アルもアースドラゴンの周囲を回り隙を窺っていた。

 そして竜人は「暁」を抜き正眼に構えると正面から睨み付けていた。


 最初にアースドラゴンが咆哮を上げると衝撃波が竜人を襲いかかる。素早く右にかわすと衝撃波は後ろの木々をなぎ倒していった。


 衝撃は結界内にいるエリスたちの方にも余波がいったが結界に阻まれていた。

 竜人はアースドラゴンに向かって行き「暁」に魔力を纏わせ牽制の攻撃を前足に仕掛ける。


 ガキンとまるで金属にぶつかったような音をだし、暁は弾かれてしまった。急かさずアースドラゴンの前足が竜人を捕らえようとするが、左にかわすと距離を取った。


 背後からはアルが爪を使いアースドラゴンの背中に降り下ろす。

 少しダメージが通ったのか、「ぐおおおー」と声を上げながらアルを振り落とそうと体を回転させると、アースドラゴンから離れたアルに尻尾で攻撃をしかけた。


 アルは後方に大きくジャンプすることで攻撃をかわした。上空のピピは追撃をさせまいと炎の魔法をアースドラゴンに叩き付けたがぶつかった炎は暫くすると消えてしまった。


 アースドラゴンは唸り声を上げると周囲を警戒するように見渡し、動きを止める。


 (ちくしょう! やっぱり対してダメージは通らないか。想像以上に頑丈だな。ピピの炎も森のなかでは全力を出すことも出来ないし。能力を強化していてこの程度とは、やっぱり気闘陣を使わないと戦いにならないか?)


 そのあとも何度か攻撃を仕掛けるも決定打にはならずに事態は膠着していった。


 (不味いな。エリスやミーナを狙われると厄介だし、何よりこのままではみんなの体力が持たない)。

 そう考えた竜人は全力で戦うことを決意する。


「エリス! これから奥の手を使う。もしそれでもダメだった場合はミーナを連れて逃げるんだ!」

「そんな! 竜人さん、逃げるならみんなで逃げましょう。」

「駄目だ。そんな事をしても直ぐに追いつかれてしまう。俺一人なら引き付けながらでも逃げることは可能だ。いいな!」


 エリスも本当はみんなで逃げ切ることは出来ないことはわかっていた。

 ミーナはアルに乗ればよいが、エリス自身のスピードでは直ぐに追いつかれてしまう。

 自分が足手まといになってしまっているのを痛感していた。


「竜人さん、死なないでください。」

「竜人お兄ちゃん!」

 エリスとミーナの心配する声を聞きながら竜人は気闘陣を発動させる。

「当たり前だ! ねーちゃんを見つける前にこんなところで死ねるかよ‼」


柳竜人

能力値

○力S ○魔力S+ ○俊敏S ○賢さA+ ○生命力A+ ○魔法防御A


 エリスの補助魔法で一段階上昇していた能力値が、気闘陣により更に二段階上昇する。現段階で竜人が出せる最大の戦闘力である。


 (持ってせいぜい十分程度。これで決まらなければ勝機はない!)

 覚悟を決め竜人はアースドラゴンに向かい攻撃を仕掛ける。


 竜人は「暁」に全力の魔力を纏わせる。刀身が黄金色に輝き始め、アースドラゴンの前足を切りつけると抵抗なく切り裂くことに成功する。


 アースドラゴンから血が吹き出し、初めてダメージらしいものが入った。「がぁああーーーー」とアースドラゴンの悲鳴が当たりに響き渡る。


 (よし! これなら行ける)。

 勝利への展望が見えた竜人は、この期を逃すまいと再び攻撃を開始する。アルやピピも負けじと攻撃に参加を始める。


 アースドラゴンは前足や後ろ足、体にと傷だらけであちらこちらで出血をしており満身創痍状態であった。

 動きが鈍ったのを確認し、竜人は止めの攻撃をと背後から飛び掛かり、アースドラゴンの首を「暁」で切り裂いた。


 (殺った!)

 そう確信した竜人だったが、アースドラゴンは最後の力を振り絞り体を回転させると、尻尾で竜人の体を打ち付け吹き飛ばした。


「竜人さん!」「お兄ちゃん!」

 二人の悲鳴が聞こえる。咄嗟に「暁」で防御をしたため直撃を回避したが、竜人は数十メートルほど体ごと吹き飛ばされた。


 地面に吹き飛ばされた跡がのこりようやく動きを止める。意識はなんとか保った竜人だったが、起き上がることが出来ず倒れ伏したままだった。


 エリスとミーナは慌てて駆け寄るとエリスは回復魔法を唱える。

「ギガヒール!」


 体の痛みが引いた竜人はなんとか体を起こすとアースドラゴンの様子を見る。力尽きたのか首から大量の血を流しピクリとも動かなかった。念のため鑑定を使う。


アースドラゴン(死体)魔物

魔石ランクS-

最強種ドラゴン属のアースドラゴン。体は貴重な素材で肉は高級食材とされている。


 (ふうー、ようやく終わったか。)

 そう考えていると体に衝撃が走った。エリスとミーナが泣きながら竜人に抱きついて来たのだった。


「竜人さん心配したんですよ!」

「お兄ちゃん良かった!」

 竜人は二人に心配をかけてしまったことを反省していた。


 (ドラゴン相手に油断をしてこの様とは、まだまだ修行不足ということか。こんなんじゃじーちゃんに叱られるな。)

 そう思いしばらくは二人の好きにさせることにして、竜人は二人の頭を撫でるのだった。

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