第3話
盗賊たちを制圧した竜人は馬車の方に移動し、檻のなかを覗くと声をかけた。
「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
馬車の中には怯えた様子の二人の少女が身を寄せ合うようにしてこちらを窺っていた。年上の方は茶色い髪を肩甲骨辺りまで伸ばした少女で、年下の方は髪をツインテールにまとめていて、二人とも良く似た顔立ちをしていた。
「俺の名前は竜人って言います。たまたま通りかかったところ襲われているのを見つけまして助けに来ました。盗賊たちは全員倒しましたので安心してください。」
なるべく怯えさせないように笑顔で、先ほどとは違い敬語で話しかけることにした。すると年上の少女の方が返事をした。
「助けていただいてありがとうございます。私はエリスでこっちは妹のミーナと言います。」
「それでこの檻の扉を開けたいのですが鍵が何処にあるかわかりますか?」
「恐らくは商人の方が持っていると思います。」
それを聞くと、殺されていた身なりの良い男のもとへ向かい持ち物を調べるとポケットから布の袋が出てきた。なかになにも入っていないようなのだが竜人は鑑定を行った。
○アイテム袋(中級)
物を収納することができる。重量1000キロまで重さは感じない。袋のなかの時間の流れは外と変わらない。取り出したいものをイメージすると取り出すことができる。
(これは便利なものだな。中身は携帯食料と水、調理道具、貨幣らしきものと回復薬系に鍵か。多分この鍵かな?)
馬車のにもどって鍵を使うと檻の扉が開かれる。
「さあ、出て来て良いよ。」
「ありがとうございます。」
そう答えると二人は外に出て来て、辺りの死体と盗賊たちが目に入ったのか妹の方が怯えたように姉に抱きついていた。
少女たちには刺激が強いとも思ったのだが、とりあえず現状確認をしたかったので、なるべく目につかない位置に行ってから質問をすることにした。
すると少女たちの方から「くー」とお腹の鳴る音が聞こえてきた。どうやら妹の方がお腹が空いているようだったので、竜人は残っていたリップルを取り出すと妹の方に視線を合わせるため膝をつくようにしてから差し出した。
「美味しいから食べてごらん。」
「良いの?」
そう言うと姉の方に視線を向けて頷くのを確認すると嬉しそうにリップルを受け取り食べ始めた。
「美味しい!」
その笑顔を見るとつい竜人も釣られて笑顔になってしまう。もう一つのリップルを姉の方に差し出すと「すみません」と言いながら受け取った。二人が食べ終わるのをしばらく待つことにした。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
ミーナにそう言われ「どういたしまして」とつい頭を撫でながら答えた。そしてエリスの方を向くとどうしてこうなったのかの状況の確認をする。
それによると姉妹はここから馬車で三日程行った先の「ハーデ」という町に住んでいたこと。
父親は三年前に事故で、母親は一年前に病気でそれぞれ他界していて二人で支え合って生きてきたが、四日前薬草を取りに二人で山に行った時に商人の男と冒険者風の男たちに捕らえられ、強制的に奴隷印をつけられると商人の男と仮奴隷契約を結ばされたとの事だった。
そんな事が許されるのかと聞いたらやはり違法なことではあったが、被害にあってしまえば自分からは訴えられないし、まず助からないとのことだった。
(まあ因果応報だったな。)
竜人は殺された男たちにに対して全く同情する気も失せていた。
「とりあえずハーデの町に行くとして、奴隷はどうすれば解放できるんだ。」
そう竜人が尋ねると驚いた顔をエリスは浮かべるが直ぐに暗い顔になってしまう。
「奴隷の解放は高位の神父に頼まなくてはなりません。さらには多額のお布施も必要になりますので基本的に奴隷からの解放というのは行われません。」
「だが商人は死んでしまったのだろう? その場合はどうなるんだ?」
「主が死んだ場合は持ち主のいない奴隷ということになります。そして奴隷は物です。一人では町に入ることも働くことも出来ません。結局は誰かの奴隷となるか、捕まって売られるかしかありません。」
そうエリスが答えミーナを抱き締めながら涙を流していた。
「竜人様お願いいたします。どうか私達のご主人様になってください。私はどうなっても構いませんから、妹だけは助けてください。」
エリスが深々と頭を下げると竜人に懇願した。竜人は困っていた。町まで送り届け奴隷から解放すればすむ話だと思ったが、このままでは二人とも不幸な未来しか待っていない。
かといって自分は姉を捜すため旅を続けなくてはならない。そんな旅に二人の少女が堪えられるか、また敵に襲われた場合二人を庇ったままた戦えるかは、どんな敵がいるかわからない今のままでは保証ができない。
悩んだ末竜人はエリスに言う。
「先ずは家まで送るからその先はその時のに考えよう。」
竜人が出した答えは問題の先送りだった。
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