第2話

 日の出が辺りを明るく染め上げるころ竜人は目を覚ました。

 (ふう、やっぱり夢じゃなくて現実なんだよな。)


 昨日の事が夢だったらと少し期待していたが脆くも崩れ去ってしまった。

 くよくよしてもしょうがない。そう考えた竜人は昨日の残りのフォレストウルフの肉を食べると再び人里目指し移動を開始する。


 それから二時間程移動してようやく木々の切れ目までたどり着いた。そこには土を踏みかためて造られた道が南北の方向に伸びていた。

 (川は南の方に流れているし南に向かうとするか。)


 そうして道を南の方に進み始める。三十分ほど進むと前方より金属のぶつかる音と悲鳴が聞こえてきた。竜人は急いでその場から音の聞こえる方に走り出した。

「きゃああああー」

「お姉ちゃん怖いよー」


 そこには馬車が止まっており中から女の子の声が聞こえてきた。馬車の周囲には複数の人が倒れており、馬車を囲うように汚い身なりをした屈強な男たち八人がいた。


 竜人は男たちに向かって声をかける。

「一応確認したいんだがお前たちは何者なんだ?」

 突然の竜人の声かけに男たちの一人が叫んだ。

「てめえ何者だ」

「俺は通りすがりの一般人だが、お前たちは悪人でいいのかな? もしその中の女の子を救う為のいい人だったら申し訳ないが。」


 一応の確認をする竜人だったが、それを聞いた男たちは鼻で笑うと

「俺たちが盗賊に見えないなら神父か医者にでも 頭の中を見てもらった方がいいんじゃないか?」

「今ならその剣を置いていけば見逃してやるぜ。」

 男たちは笑いながら竜人に返事をした。

「いや~テンプレな回答ありがとう。ここで逃げるんなら見逃してやるぜ」


 竜人が男たちの言葉をそっくりそのまま返すと男たちは怒り出した。

「ふざけるんじゃねーぞ、そんなに死にたいなら始末してやる。お前たちその小僧を殺せ。」


 盗賊のボスらしき男の言葉に男たちは武器を構え竜人に向けた。はじめに二人の男が竜人目掛け襲いきってくる。竜人は二人の間をすり抜けるように移動し、峰打ちで脇腹を打ち付けてあばら骨を折り二人を戦闘不能にする。


「ぐわ~」

「痛えよ、ちくしょう」

「何をやっている。相手はたった一人だ! 全員で一斉にかかれ。」


 一瞬で二人を戦闘不能にされてしまったボスは、残りの部下に怒鳴り付けた。

 男たちが竜人を囲もうと移動を始めるが、攻撃に移る前に竜人が右にいる男に攻撃を仕掛ける。

 ほんの一瞬男の動きが止まってしまったが、竜人には十分過ぎるほどの隙であった。

 峰打ちで動きを封じると、右側にいた男にも腕を折るように峰で叩きつけて横方向に体ごと吹き飛ばした。


「くそ!早えーぞ」

 男の一人がナイフを投げつけるも、刀であっさりと斬り捨てる。そして一分も経たないうちに七人の盗賊たちは皆戦闘不能になってしまう。


「馬鹿な、たった一人にやられるなんて。」

 盗賊のボスはその光景を呆然と見ていることしか出来なかった。


「さて、残りはお前一人になったわけだがどうする?」

 竜人はボスの方に視線を向けると刀を肩にかけてなんて事ないような様子で尋ねる。

「まっ待ってくれ。お前と戦う気はもうない。ここは退くから見逃してくれないか?」


 盗賊のボスは、先ほどとはうってかわって許しを乞うように答えた。

「殺すつもりで部下たちをけしかけた挙げ句、自分だけ無傷で助かろうなんて随分と虫がよすぎないか?」


 竜人は盗賊のボスをにらめつけると吐き捨てるように問い返した。

「まあいい。こちらの質問に素直に答えるなら殺しはしない。」

「何でも答えるから助けてくれ。」


 盗賊のボスの答えを聞いてから竜人は質問を始めた。

「まずはこの武器と同じようなものを持った人物について見たり聞いたりしたことはあるか?」

 そう聞くと「暁」を良く見えるように前に差し出した。


「いや俺は知らない」

 そう答え他の盗賊にも聞いてみたが同じ答えがかえってくるだけだった。まあこちらはあまり期待はしていなかったので案の定の結果だった。


「じゃあ次にお前たちが襲った相手はどういうやつらだったんだ?」

「商人とその護衛役の冒険者達だ。積み荷から考えて多分奴隷商人の類いだろう。」


 馬車には檻が付けられていて、ここに着いたときに中から聞こえてきた悲鳴は恐らくは奴隷のものだったのだろう。視線を馬車に移し様子を見るが今は物音は特に聞こえない。


「それじゃあ最後の質問だ。お前たちのアジトは何処にある? 其処には何人残っていて、拐ってきた人達はいるか?」

「アジトはここから一時間程東の山に入っていったところだ。留守役は三人だけで他には誰もいない。これでいいだろ。」

「わかった、じゃあお前たちをしかるべきところにつき出すとするか。」


 そう言うと盗賊たちは顔色を青くし始めた。

「約束が違うぞ! 質問に答えたら助けてくれると言ったじゃないか。」

「俺は殺さないと言っただけだ。正当な裁きを受けた結果についてはこっちには関係ないことだ」

「ふざけるな!」


 盗賊のボスは持っていた剣を竜人に投げつけるとそのまま振り返り山の方に逃げ出そうと走り出した。

「仮にも組織のトップが部下を見捨てて逃げようとしてんじゃねーよ」

 剣を素早く避けすぐさま追いかけると、竜人は盗賊のボスの足を暁の峰で打ち払い骨を折り逃走を阻止する。


「ぐわあああ・・・」

「人を殺したんだ。その報いを受けるのは当然だろ。」

 そう言うとボスを引きずり八人を一ヶ所にまとめた。

「次に逃げ様としたら容赦はしないからな」

 竜人が殺気を込めて睨み付けると男たちは押し黙ってしまった。

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