第1章 異世界転移編

第1話

異世界メーナス~

「う~ん、ここはどこだ」

 竜人が目を覚ますとそこは木々に囲まれた山の中にいた。回りを見渡しても竜人には見覚えのない場所であった。

「そうだ! ねーちゃん! 居ないのか?」

 先ほどの事を思い出した竜人は慌てて声を張り上げ辺りを探し始める。しかし、聴こえてくるのは鳥の囀りだけがだけであった。


「とにかく早くねーちゃんを探さないと。」

 そう呟き、ふと近くの木の根本を見ると日本刀が一本立て掛けられていることに気が付いた。

「どうしてこんなところに暁が?」


 それは柳流の道場に代々受け継がれてきた二対のうちの一本、作者は不明だが名刀と呼ばれるにふさわしい刀で銘を「あかつき」とつけられたものであった。


 「暁」を手にした竜人はもう一対の小太刀「月光げっこう」と呼ばれているものだが、そちらはしばらく周囲を探すも見つからなかった。


「しかし、いくら山の中といっても刀なんか持ち歩いてるのを見つかったら色々面倒なことになりそうだな。」

 そう呟くと上着を脱いでとりあえず「暁」を包むことにした。

「とりあえず麓まで降りて街まで行かないとな。」


 そして、山を降りることにした竜人は歩き始めると不意に体の異変に気がついた。

「体が軽い?」


 確認のため軽く走り出すと気で強化した時の様なスピードが出たことに驚く。

 どういう事か気にはなったが今はそれどころではないことを思い出し山を降り始めた。


 しばらく獣道伝いに降りながら木や花等を眺めていると、見たことのないものがいくつも目に入ってきた。

 竜人は木や花、動物にそれほど詳しかった訳ではなかったが、それでもここまで知らないものばかりが目には入り不安を感じ始める。

「なんかすげー嫌な予感がする。」


 竜人は普段武術馬鹿と言って良いほどのめり込んでいたが、友達の隆司の影響もありそれなりにオタクの知識も持ち合わせていた。

 特に異世界転生もの等のファンタジーものを良く薦められていたため、今の現状から自分の置かれている立場を薄々感じ始めていた。


 そして、少し開けた場所に出てようやく辺りを一望できる事になり確信することになった。

「ていうか太陽二つもあるし」


 異世界転移もののお約束の召喚者による説明がないということは、おそらく姉が本来の召喚されたもので俺はそこに割り込んだため何らかの不具合により姉とは別の場所に来てしまったのだろう。


 今は第一に食料の問題をどうするか、第二に街もしくは人に会い情報収集(果たして言葉が通じるかどうかという問題はあるが)、第三にとにかく先立つものが必要になってくると考え移動を開始する。


「まずは川を探して人里を見つけるのが先決だな。しかし、異世界とはねーちゃん大丈夫かな? あんまり暴走してないといいんだけど。」


 竜人は別に姉を心配していないわけではないが、自分より遥かに強い姉が直ぐにどうにかなるとも思ってはいなかった。

 転移ものなら偶然か故意のどちらかだが「暁」のみが一緒に来たとは思えず、おそらく「月光」の方は姉のもとにあるのだろう。


 ということは何者かの意思によるもので、これだけ大がかりな事をしておいて召喚された者を直ぐにどうにかしようとは思えなかったからだ。

「ねーちゃんより強い存在なんてじーちゃんくらいだしな」


 それから一時間程移動しているとようやく川を発見することができた。近付いて水の様子を観察する。

「臭いも色も問題はないようだな」

 少しだけ水をすくい口に含ませてから飲み込む。

「うまい」


 ようやく一息つけると、途中で見つけたリンゴのような木の実を食べる。初めて口にした味わいで少し酸っぱいがこれはこれで美味しかった。

 少し開けた場所から眺めたが、人の暮らしていそうな場所は確認出来なかったため川下に向かって川沿いを歩き始める。


 日が段々と暮れてきて本格的に野宿を覚悟していたときに周囲から動物の気配が感じられた。

 およそ百メートルの距離に五つほどの気配を感じ取った竜人は素早く「暁」を手に取ると、いつでも抜ける体制を整えた。


「グルルル・・・・・・」

 前方と左右より四匹のオオカミのような生き物が姿を現す。油断なく全てが視界に入るよう位置取りをして観察を行う。

 (一見オオカミのように見えるが、目が赤いし何より大きさが四メートル位ありやがる)


 その濃厚な殺気を肌で感じ戦いは避けられないと鞘から「暁」を抜き放つ。

 (しかし、四匹だけとは恐らくは・・・・・・)


 ジリジリと四匹のオオカミモドキが距離を詰めてくるのを見て左足を一歩下げ半身の体制を取る。その瞬間後ろからいきなり気配が近づいてきた。


 とっさに右に避けるとともに体を一回転させるとそのまま刀身を地面に向け降り下ろす。後ろから奇襲を仕掛けてきたオオカミモドキの頭と体が両断される。


 急かさず今度は前後から挟み撃ちで二匹が攻撃を仕掛けてくる。

 竜人は前方から向かってくるオオカミモドキに自分から突進をして、左手に持った刀を水平にして体の前に出し、オオカミモドキの体を上下に切り裂くと、そのまま少し距離を離れ振り返ると残り三匹を視界に捉えて油断なく構え直す。


「無駄な殺生はしたくないんだけどな。悪いがかかってくるのなら容赦はしないぞ。こっちも死ぬわけにはいかないからな。」


 言葉は通じないだろうがそう話しかけると体を気で包み込み、リーダー格であるだろう少し後ろにいた一匹を睨み付ける。

「グルル」


 しばらくにらみ合いが続いたが、やがてリーダー格がこちらを見たまま下がり始めると残り二匹も後退を始め、茂みの中へと姿を消していった。


「ふうー、なんとか退いてくれたか。」

 そう言うと刀に付いた血を振り払い刀身の確認をする。


 (それにしてもこの「暁」の切れ味といい、先ほどの戦闘でも刃こぼれ一つないなんて。)

 竜人が戦闘を早く切り上げたかったのは、無駄な殺しを嫌ったからもあるのだがそれ以上に刀に負担をかけたくなかったからであった。


 いくら名刀といっても刀という武器にはそれほど強度はないはずだからだ。

 ところが刀身のを確認しても傷どころか曇り一つないきれいな状態であった。

 (どういうことなんだ?)


 さらに良く調べようとすると突然頭の中に情報が流れ込んできた。


神刀「暁」封印

攻撃力506

効果 破壊不能、成長、切れ味上昇

○封印・・・本来の能力が封じられた状態。

○破壊不能・・・神の加護により破壊されない。

○進化・・・敵を倒すごとに成長し攻撃力を増す。

○切れ味上昇・・・魔力を纏うことで切れ味が上昇する。攻撃力、魔力量に依存。


「なんだこれ?」

 思わず頭を押さえて暁を見つめる。竜人は恐らく今のが暁の情報であることは理解したのだが、まるでゲームのような出来事に声を出さずにはいられなかった。

 (ここまでテンプレ通りということはまさか・・・・・・)


ステータス・・・・・

 そう呟くとまたしても情報が頭に流れ込んでくる。


柳竜人 人間 17歳 異世界人

能力値

○力A ○魔力A+ ○俊敏A ○賢さB+ ○生命力B+ ○魔法防御B

装備

○神刀「暁」

特殊技能

○気闘陣 ○鑑定 ○メーナス言語

???


ステータス・・・S、A、B、C、D、E、Fの七段階に分類され、さらに各段階を+、無印、-の三つに分けられている。SランクのみS+++まである。最上位はS+++、最下位F-となる。


気闘陣きとうじん・・・気力を体に纏うことで身体強化を行う柳流奥義である。各ステータスを二段階上昇させることができる。ただし、使いすぎると疲労によりステータスが一時的に下がってしまうデメリットがある。


○鑑定・・・物の情報を読み取ることができる。ただし、不可能なものも存在する。人物や生き物の鑑定は出来ない。


○メーナス言語・・・メーナス世界の言葉の習得


「うん、まさにゲームだな。しかし、???ってなんだ?情報が出てこないな。言葉が通じるのは助かったな。まあとりあえずさっきのオオカミモドキでも調べるか。食べられるといいんだけど。」

 竜人はオオカミモドキのところまで行き鑑定を行う。


フォレストウルフ(死体) 魔物

群れで行動する狼属の魔物。一般に食用として用いられる。魔石ランクD


 竜人は食べられそうな部位を切り取り、魔石を取り出すと他の魔物が来ないよう残りは土を被せてその場をあとにした。


 戦闘があった場所からさらに数キロ移動したところで今夜の野宿場所を決めることにした。回りを岩で囲まれた場所で枯れ草と木を使い火をおこすとフォレストウルフの肉を焼き夕食を取り始める。


 (今日はここまでにして休むか。明日までには人里を見つけたいな)

 そう思いデザートのリップル(リンゴのような木の実)を食べ早めの就寝を取ることにした。

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