始発ローカル

さこ

始発ローカル

‪車両には私1人だけだった。‬


‪最後に握られたのはいつだろうか、

使われるのを待ちくたびれたようなつり革がたくさん、静かにその身を連ね、

電車の揺れに身を任せていた。‬


‪何駅か過ぎた頃、高校生だろうか、

頭を綺麗に刈り上げた男の子達が乗り込んできた。‬

‪寒そうな頭を見て私は、


(冬なのに、大変だなあ。)


とよく分からないことを考えた。

そして、首元にとても暖かそうな白いマフラーをしている姿を見て、

頭と首とのギャップにこっそり笑った。‬


‪電車が動き出すと、フワフワマフラーの彼が、ふいにつり革に捕まった。‬

‪私はつい、「あ、」と小さく声を出した。‬

‪なんだかつり革達の静寂が破られたような

気がしたからだ。‬


‪車両には、私と彼等しかいなかったから、

私の小さな声に気づいたフワフワの彼と目が合った。‬

‪まさか

「つり革の静寂が…」

なんて言えないから、曖昧に目を逸らして、帽子を深く被り直した。


‪彼等が降りた後の車内は、

また元の静寂に戻っていた。‬

‪ただ一つ、

フワフワの彼の握ったつり革だけが

温度を持って、使われていない他のつり革

よりも少し、誇らしげに見えた。‬


‪電車の揺れに合わせて子気味よく揺れる

その姿は、なんだか見ていて飽きなかった。‬

‪外に目をやると、空が白んで、

オレンジの光を帯びる少し前だった。‬


‪何故か少し焦ったのは、

布団に入っても朝まで眠れなかった日、

カーテンの隙間から朝の白さが見えた時に

(ああ、朝になってしまった)

と思うことが幾度かあったからだと思った。‬


‪オレンジの眩しい光が車内に刺してくると、それは紛れもなく朝で、

心地よかった電車の揺れは、

目覚ましのような揺れに変わっていた。‬

‪つり革はもう、元通りだった。‬


いつもの駅で降りるとそこはいつも通りで、

特別だと思っていた朝は、

特別でも何でもなかったのかもしれない、

と思った。


息を吐くと、白くてフワフワと宙を舞うもの

だから、思わずクスリと笑った。




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始発ローカル さこ @3wako0

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