第33話
「でもね、えりかとゆりかが私に教えてくれたの。私は今日まで、私の意志に蓋をして、誰かの意志に依存して生きてきた。それじゃダメなんだって。それじゃ私は、永遠に、幸せになることはできないんだってこと」
もしかしたらとても、自己本位に聞こえるかもしれないけれど。
大きく深呼吸をして、一息で告げる。私の正直な気持ちを。
「私、幸せになりたいの。その為には、早坂さんが必要なの」
その瞬間、周囲の音が聞こえなくなった。カメラのシャッターの中に閉じ込められたみたいに時間が止まる。灰色の電柱、タバコ屋の看板、違反駐車の自転車が、濃紺の色に溶けていく。
ふたりぼっちの私たちはお互いを見つめ合っていた。そのときようやく、私は今までの私が懸命に追い求めてきたものを手に入れられるような気がした。
空からぼたん雪が私たちの間に落ちてきたのをきっかけに、時間が再び流れ出したのを感じる。
「あ、雪」
「ほんとだ」
雪を見上げると、自分の体ごとぐんぐん高く昇っていくような気がした。大きなぼたん雪が早坂さんの鼻のてっぺんに落ちたかと思うと、一瞬にして溶けてなくなる。少し赤くなった鼻の頭が愛おしくてたまらなかった。
「ねえ、後ろ乗んなよ」
早坂さんは自転車に軽々またがると、私を振り向いてそう言った。
「いいの?私、重いよ。すっごく重いよ」
「いいよ。背負ってやるよ、お前の重さごと、全部」
聞き間違いと思って、思わず聞き返す。
早坂さんはうるさそうに手をふって、決して私と目を合わせようとしなかった。
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