第28話
「ゆりか。私、もう一度、ゆりかに約束する。ずっと一緒にいるって約束する。ゆりかがあそこに行きたいって言うなら、一緒に行く」
青空の彼方を指差すと、正気のない目がほんの少し瞬くように煌めいた。
「だから私を置いて、何処かにいったりしないで。私をひとりぼっちにしないで」
私はゆりかの手首を手に取ると、彼女の小さな唇に自分のそれを押し当てるようにしてゆっくりと口付けた。
ゆりかの唇は氷みたいに冷たくって、触れたところから体温が冷えてしまいそうだった。私の行動にたちまち身体を強張らせたゆりかの目が大きく見開かれるのを感じながら、私は棒切れのように細いゆりかの身体を強く抱きしめた。
ゆりかの体はかすかに震えていた。少しだけ開かれた口元からは、小さな嗚咽が漏れていて、私はその声を聞きながら何故か安心していた。ゆりかは泣きながら、私の身体を弱々しく殴りながら、きえちゃんはばかだ、と繰り返し言った。
「きえちゃんは、本当にばかだ。こんなことして。こんなことするなんて」
ゆりかのこと、放っておけないから。
そう言おうとしたけれど、声は出なかった。頬に液体が伝う感触がして指を当てると、鮮血に濡れた人差し指が真っ赤に染まっていた。身体を離そうとしたものの、家庭用にしては大きすぎるカッターナイフを右手に握りしめたゆりかが私の動きを止めた。
「ねえ、きえちゃん。私と一緒に死にたいの?」
「………」
「私と一緒に溶けたいの?」
「………うん」
「分かった。じゃあ、屋上に行こう」
私とゆりかはふたり、しっかりと手をつないで歩き出した。
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