第23話
次の朝、私はえりかの自死を知らされた。出席番号順の連絡網だった。電話を切った後の受話器の規則的な電子音を忘れたことは一度もない。白いペンキをぶちまけたように頭の中が真っ白になって、何も考えられなかった。
通夜に行き、額縁に入れられた彼女の写真を見たとき、やっと実感が湧いた。彼女が自分から命を絶ったということ。この世界からいなくなってしまったということ。もう二度と、彼女とお弁当を食べることはないのだということ。
帰り道に手をつなぐこと、秘密の話をささやきあうこと、夕焼けの小道を並んで歩くこと。彼女と共有した時間の全てが、永遠に、戻ってこないということ。
普段死にたがっているやつは、死なない。
自殺なんてしなさそうなやつほど、人知れず闇を抱えているものだから。
尤もらしく誰かが言った言葉に、私はひどく傷つけられた。ようやく事の重大さを理解したのかもしれない。圧倒的な無力感だけが、私の心臓をびりびりと焼いた。
きゃああ、というわざとらしい叫び声と共にゆりかが落ちてきた。まるでスローモーションされた映像みたいに、時間がゆっくりと流れている。少しずつ下へ落ちていくゆりかの個体が地面に叩きつけられ、何度か大きく跳ね上がった。
ゆりかの頭部から螺旋状に広がっていく血だまりを見て、周囲は騒然となった。昔良く遊んでいた女の子の人形みたいにぎこちない身体のしなり方を見て、私は冷静に「ああもう彼女はダメかもしれないなあ」と考えていた。通常の人間ではありえないような身体の曲がり方だったから。
そのとき突然、私の視界が真っ暗になった。目を塞がれているとわかったのは、人肌の体温を目に感じたからだった。じんわりと温められるまぶたの奥にゆりかの身体から出ていく真っ赤な液体を感じて、私は遂に叫び声を上げた。
地鳴りのようなうめき声だった。自分の喉からそんな声が出ているなんて初めは信じられなかった。早坂さんの大きな胸に抱きしめられながら、私は叫び続けた。どんなに努力しても止めることができない。心から這い上がってくる恐怖が私の口から放出されていくのが分かった。教師の怒鳴り声と、少女たちの怯えたさざめきは確かに耳に届いていたけれど、何も考えられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます