トマト
見晴 良名
第1話
魂刻記二十三年、世界から神流国セノンが立国しておよそ四千を超える月日が経たこの年、かつて神代の時代と呼ばれた来庭刻、神が形を潜め人が唸りを上げ繁栄した奏人刻、過人の業により災禍をもたらされた崩刻、その長い歴史に埋もれた神代の時代を体現するような出来事が起きる。
世界、時代に埋もれた失われし九柱の神とそれにまつわる人の業。
今、物語は再び奏で始める。
それは晴天、曇りなき良き日。神の流れを紡ぐ国セノンから。
広大な土地に肥沃な大地、円状に広がる大きなる外壁の内側、その中心部に建てられた圧倒的な存在感を放つ城の中庭でのこと。
祭儀に用いる豪奢な杖を掲げ、厳格なる面持ちで祈りを捧げる僧侶の姿が参列する人たちに映っていた。
儀式において重要なものは二つ、何に捧げるものか、誰が捧げるものか。
今回の祭儀において参列者はその二つをもちろん理解していたが誰が捧げる者なのか、それだけは唯一知られずにいたのだが。
参列する者たちは延べ、数十人ほど。その城の中で働く者や関係者の人数からしたら
あまりに少なく、今行われていることがどれほど重大なものかを彼らは知っている。
「これにて婚前祭儀の開始を告げる。」
荘厳なる雰囲気の中ではじめに紡がれた言葉は神流国セノンにおいて婚姻をする前に行われる重要な儀式の一つの言葉。僧侶によってややしわがれた声で発せられたそれは婚姻をする予定の男女が、一人ずつ各人がそれぞれ信奉する神へと向かいその一生を神のみならず伴侶となる者にもその愛を捧げることを許し願う祭儀である。
その祈りを捧げる際にこれまでの生涯の中で最も身につけてきた装飾品、衣類、武器や雑貨などを神へと奉納する。私の代わりにはなりませんがこれは私が生涯において大切にしてきた半身とも呼べるものです。どうかこちらを捧げることで私たちの婚姻を認めてはいただけないでしょうか。そういった儀式である。
「此度の婚前祭儀は神流国セノン、レイズ・ブラザハール・セノンが十子、テスカ・セノンと隣国トゥルーア、メファス・ソール・トゥルーアが三子、リベリオ・トゥルーアが両人のものである。」
トマト 見晴 良名 @ameno
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