第12話 練習の成果
「おぎゃー!んぎゃー!」
「ほーらいい子いい子、いい子だから泣き止んで〜(汗)」
マリーカさんの必死のあやしも通用せず、泣き続けるのは男の子の赤ん坊。
明るい赤髪が目立つ元気な子だった。
対して、今俺の腕の中で気持ち良さげに眠っているのは、鮮やかなオレンジ色の髪を持つ女の子。
どちらも生後数ヶ月と言ったところかな。
髪色も顔立ちも似ていることから双子だと思われる。
幼いながらも整った顔立ちで将来はかなりの美形になるだろう。
また、特徴としてあげるなら、もう一つ重要なことがある。
女の子の頭を撫でると指先にふわふわでピクピクと動く部位が当たる。
そう、獣耳だ。
オレンジ色の髪からツンと突き出た先端だけが白い狐耳。
耳も付け根部分をカリカリと引っ掻くように触られるのが気持ち良いらしく、腕の中で身じろぎする姿がまたなんとも可愛らしい。
「ジルア〜!」
マリーカさんからの救援要請が入った。
やれやれ、と思いつつも手を貸すことにする。
どうやって泣き止ませるかと言うと……
「【
俺は泣き続ける男の子の目の前に、ソフトボール大の水球を作り出した。
「おぎゃー!あー……あう?」
よし、注目してくれたな。
次に俺は水球を操作して、平べったくしたり細長くしたり自由自在に変形させ始めた。
魔法をマリーカさんから習い始めて早1年、その成果がこれだった。
魔法はイメージに起因して外形も威力も自由に変えられる。
魔法をイメージ通りに変えられるのは発動する前だけかとだと思っていたが、発動後でも自分の魔力が元となっている魔法ならば遠隔操作が出来るらしい。
因みに一般的には外形までも変えられるとは知られておらず、射線変更が関の山という認識なのだとか。
俺はそろそろマリーカさんを『常識ブレイカー』の名で呼ぶべきか考え始めていたりする。
そもそも村の外れでマリーカさんと2人で暮らしていた俺が、この世界の常識の浸透率なんて知っている訳もなく、どれだけ非常識なことを行っているのか自覚するのはまだ先の話である。
「あうっ!あい!」
楽しそうにペチャペチャと空中に浮く水球を叩いて遊ぶ男の子。
泣き止んでくれたみたいでよかった。
そう言えば、と前置きして安堵のため息をするマリーカさんに尋ねる。
「お母さん、この子達の名前って決めてるの?」
「ええ、もう決めてますよ。女の子の方がミリア、男の子の方がカルタです」
ミリアとカルタ……うん、いい名前だと思う。
前世では一人っ子だったから初めての弟妹である。
兄らしく、なんてよく分からないがそれでも尊敬できる長男になりたい。
「よろしくな。ミリア、カルタ」
「…………ん」←スヤスヤ
「あうー!」←ペチャペチャ
予想通りの反応に苦笑が漏れた。
なんだか心が暖かくなった気がした。
水遊びに満足したカルタが夢の世界へと旅立ち、一時の静けさが戻った部屋で、俺はマリーカさんに見てもらいながら魔法の練習に励んでいた。
目の前で浮遊するバスケットボール大の水球。
部屋に入る光に反射してキラキラと光って見える綺麗な光景だ。
その水球に両手を翳しゆっくりと引き離してゆく。
するとどうだろう、水球は楕円形に伸び真ん中がくびれ始め、終いには綺麗に別れ二つの一回り小さな水球が2つ出来上がった。
「続けてください」
マリーカさんの言葉に頷く。
再び水球の制御に集中し、手のひらの上に浮かぶ2つのそれを見つめた。
魔法の制御は、どれほど詳しくはっきりと操作後の完成形をイメージ出来るかによって精度が変わってくる。
俺がさっき、水球を2つに分裂させた時にイメージしたのは細胞分裂だ。
実際には水球に核は無いのだが、あると仮定してそれが2つに別れ、周りの水がそれぞれの核に引き寄せられて均等に別れる、ということをイメージしていた。
手でジェスチャーを付けたのはその方がイメージしやすかっただけで、なくても出来る。
小さくなった水球に新たに水を作り出し加え、大きさが増す。
そして別ける。
水を加え、また別ける。
1つが2つに、2つが4つに、4つが8つ、8つが16になったところで止める。
というよりも現在、これ以上出来ないのだ。
この作業は水球の数に比例して、脳への負担が倍々に増加していく。
4歳児の脳では16個でかなりキツイ状態だった。
「ではジルア、仕上げを」
最後の仕上げを行う。
マリーカさんが出した課題は水球16個の維持ではなく、そのもう1歩先。
「【
俺の言葉と共に出来上がったのは16個の拳大の氷球だった。
「……ふぅ」
カランコロンと音を立て机の上に氷球が落ちる。
【
効果は既存する水分の凝固。
氷属性の魔法の中でも初歩の初歩と言えるもの。
もう少し難易度を上げると、直接氷球を生み出す【
【
これを怠ると、高難易度の魔法の制御を誤った時に大惨事が発生する場合があるのだとか。
何処かの王国在住時、魔導師マリーカ先生の生徒の1人のぽっちゃりお坊ちゃまが衆人観衆のなかで、火属性の派生型である火焔属性魔法を暴発させて自身の服を焼き払ったという逸話があるとかないとか……
俺が魔法を暴発させた時はどうなるのだろうか?…………雪だるま?
うん……基礎固め、チョー大切。
さて、基礎の大切さを再認識したところでマリーカさんに評価を頂こう。
山盛りになった氷球を一つ一つを手に取りじっくり眺めていくマリーカさん。
「…………そうですね、だいぶ良くなっています。後少しといった所でしょう」
そう言ってマリーカさんが手に取った氷球は3つ。
それぞれ歪な楕円型だったり、表面がでこぼこしていて球体とは呼びにくいものだった。
「あと3つか〜、そこからが難しいんだよね……」
「だからこそ練習あるのみ、ですよ。多数の属性を扱えれば多少大雑把でも良かったのですが、ジルアが扱えるのは一属性のみですからね……」
今更「転生するならもっとチートな能力が良かった」とか言うつもりは無い。
生まれることができただけでも幸運なのだ。
『彼女』と再会できる可能性が僅かでも持てたのだから。
そしてマリーカさんに拾ってもらえて、さらには魔法も教えて貰っている。
俺だけこんなに恵まれていていいのだろうか?
一属性しか使えないなんて、元々魔法のない世界にいた俺にとってはデメリットでもなんでもない。
「別に使える属性の数がそのまま強さに現れる訳ではないんでしょ。なら一属性だけの方が使いやすいし、技術面でも伸ばしやすいから、むしろこれで良かったと思ってるよ」
「……ふふふ、そうですか。それなら私が知る限りの水魔法を教えてあげますから、覚悟してくださいね」
「あはは……御手柔らかに」
翌日の練習からマリーカさんの評価がかなり厳しくなるのだが、今はまだ知らない。
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