絓糸を千切る

 降る雨は、こんなにも温く、不快なものだったろうか。

 雨に濡れることは痛みを伴うことだった。

 肌に傷をつけていく小雨。

 いつか子供たちを苦しめる雫。

 いつか誰かに背負わせる終焉おわり

 ハーミオネがこの雨を浄化しきってしまえば、もう僕は二度と傷つくこともない。

 それと引き換えに、きっと僕は、彼女を止められなかったことを、止めようとしなかったことを、自ら選んだ道に苛まれながら、一人で苦しむことになるだろうと。

 それでも構わないと、思っていた。

 この雨がいつか恵みの水滴しずくになる時、

 僕への罰が始まるのだろうと。

 その時、立っていられるかどうかが不安だった。祖父は僕のことを強い子供だと言った。けれど僕は、自分が強い人間だと思ったことは一度もない。

 僕はただ、何かに鈍かっただけなのかもしれない。

 ヨーデリッヒは僕のことを感受性が強すぎると言った。でもそんなことはないだろう。現に僕は、ハーミオネが消えてしまったと知っても、その悲しみに呆然自失している彼らを眺めて、苛立ちしか覚えない。

 悲しむのは構わない。けれどそんなことは後だ。

 上空で、唸り声をあげながらアムリタの錆を纏わりつかせた鼠色の金属が旋回している。

 狙われている。

 この場所を捨てるか、それとも、隠すか。惑わせるか。

 それとも落ちてくる爆弾を呑みこんでしまうか。いっそ、あの飛行船ごと。

 アムリタがただの水に戻ってしまった今、この場所に大した意味はないのだ。むしろ、足枷でしかない。

 このまま何も行動を起こさなければ、無駄に僕達は死に瀕してしまうだろう。ミヒャエロとモンゴメリはもう限界の淵にいる。ここで力を使い果たせば、ハーミオネの死が報われるとでも言うだろうか。そんなことはない。

 どうせ死ぬにしても、生きた証を遺さないまま死ぬなんて、そんなことは許さない。

「悲しみに浸る気は済んだ?」

 僕はやや苛立った声で言い放っていた。

「もう充分でしょ。そんなの後回しにして。上に飛行船があるよ。あれをどうにかしないと。こんなところで死んで、ハーミオネの死を無駄にでもする気?」

「ちょっと」

 ギリヴが躊躇ったように声を上げる。

「言いすぎだわ。誰かを失ってそんなすぐに気持ちを切り替えられるわけがないじゃない!」

「人間でもないのに、よく言うよ」

 僕がそう応えると、ミヒャエロが僕の胸ぐらを掴んだ。その眼には何も宿っていない。虚ろな目で、僕を見下ろす。

「君が何者だか知らないけど、」

 ミヒャエロの声は抑揚なく響く。

「自分のお気に入りを助けるためだけの自己勝手で、おれ達から人であった未来を奪ったお前達は絶対に許さない。おれ達がどこで死に場所を選ぶなんてこっちの勝手だ。爆弾? 落とせるだけ落とせばいいさ。それごときで死ぬならその程度のざまだったってことだろ」

「その爆弾で死ぬ寸前だったくせに何えらそうに言えた口なの? 君のそういうところが嫌いなんだよ。だからハーミオネが君を庇わざるを得なかったんでしょうが。悲しいのが自分だけだなんて思うなよ」

 僕が鼻で笑うと、ミヒャエロは口角を釣り上げた。

「へえ……そう言えばお前、彼女と仲が良かったもんね……そりゃあご愁傷様だ」

「何それ。嫉妬でもしてんの? 今更? 馬鹿じゃないの?」

「馬鹿なのは知ってるよ。はは。それで悲しんでるつもりか? それならそういうそぶりを少しでも見せろよ………ほら。できないんじゃないか。君はそういうやつなんだろ? いつでも先のことを見てるつもりで、単に自分に向き合うのが怖いだけじゃん。お前の、」

 ミヒャエロは歯をぎり、と喰いしばって僕を睨みつける。

「大事な人があの人と同じように目の前で自分を庇って死んだとして、お前、冷静でいられるわけ」

「言っとくけど、ついさっきまで君にとっての大事な人は僕が背負っているこの子だけだったでしょ。何を今更。せいぜい自分の愚かさを悔いていろよ。もう二度と君はあの子に謝れない。二度と出会うこともない。そうして今度はハーミオネのことばっかり? 君を想ってもう少しで死ぬところだった君の大事な大事な妹のことも少しは思いやってやれよ。なんのためにこの世界に来たんだよ。自分から逃げてんのはそっちだろ。僕が覚悟ができてようができてまいが、君には何の関係もない」

「もうやめてよ!」

 ギリヴが叫んだ。

「今そんなこと言い合ってる場合なの!? どうして……どうしてハーミオネが……いなくなっちゃったばかりなのに、そんな悲しい言い争いしかできないの!」

「だから、」

 僕は少しだけかっとなった。

「そんなのいいから今できることを考えて行動しろよ!!!」

 ミヒャエロは僕から手を離した。

「口先ばかり達者な卑怯者」

 ミヒャエロは、ケイッティオを庇ってよろけた僕を冷え切った目で見降ろす。

「今度は自分の番だろ? レレクロエ。今まで何にもやってこなかっただろ。せいぜい傷ついたおれ達の蘇生にでもいそしめよ。どうせおれ達が死ぬことを望んでるんだろ? だから力を使おうともしない。この場所を守って見せろよ。できないんだろ? お前にできることなんて、壊れて灰になったこの場所に佇むことだけだろ。おれはおれの身くらい自分で守るよ」

 そう言って、鼻で笑い、言い捨てる。

「お前、ケイッティオのことやけに大事にしてるね」

 ミヒャエロは踵を返して、森の入口へと向かった。

「ミヒャエロ……!」

 ギリヴは手を伸ばしかけて、やめた。そうして僕の方を振り返る。

「あの……」

「何」

「ミヒャエロは、多分今混乱して気が立ってるだけだから……」

「そう。で? それがどうしたのさ」

 胸の奥でどろどろと渦巻く気持ちに腹立たしさを感じながら、僕は吐き捨てる。

「その……気にしないで」

「別にミヒャエロのことを悪くも何も思ってないよ。僕が口が悪いのはいつものことでしょ。それより、あれ。なんとかしてよ。ミヒャエロはあんなんだし、僕は何もできないし、ケイッティオは気絶してるわモンゴメリはもう限界だわ。とりあえず君しか目下頼れそうにないな。僕はご存じの通り、役立たずなんでさ」

「……多分、あれは爆弾とかはもってないわ。小型だもの。恐らく偵察だと思う。この場所の正確な座標を記憶してるんだと思う……体制を整えようとして。あれを壊すことはできるけど、多分もう手遅れよ。大方の情報はもう本部に転送されてるだろうし、それに、壊してしまったらますます相手側を刺激してしまうわ……今は、そっとしとくしか、ない」

「へえ。ギリヴの割にわかってるじゃない」

 僕は上空を見上げ、滴る雨水に目を細めた。

「じゃあ、いよいよ僕達万事休すってわけだね」

「そんな……」

「死ぬ準備をしないと」

「だから、そんなことばかり……っ」

 ギリヴは唇を噛みしめながら俯いた。

「じゃあ、やっぱりあとは俺がやるしかないってことだ」

 モンゴメリがふらり、と立ち上がった。

「惑わすの? でも、君それ以上したらいい加減死ぬんじゃないの? ここを惑わせたところで、一時しのぎだ。無駄に力を使う必要なんてもうないよ。この場所から逃げるのが……たとえ無駄なあがきだとしても、できる最善じゃないの?」

「いや、そりゃこの場所をもう隠すことは無理だ。操縦士を混乱させたところで情報がもう転送されているなら意味もない。できるとすれば、情報を改竄することくらいだけど……」

 モンゴメリはギリヴを見た。

「ギリヴ、悪いけど」

「うん」

「俺を抱いてあの飛行船まで飛び乗ることはできる? 中に入りたいから」

「できるわ。あたしの力を舐めないでね」

 ギリヴは幾分笑って頷いた。

「機械を扱う気? できるの? 君が?」

 僕が訝しげにモンゴメリを見つめると、モンゴメリは疲れたように笑った。

「お前な……一応俺、救世主様だったから一通りの知識は持ち合わせてるよ。どうせたいしてあれから技術も進歩してないだろ。あの時代、主流は科学より錬金学だったし……まあ、やってみないとわからないけど」

 そう言って、モンゴメリはギリヴに手を出した。ギリヴはその手と、モンゴメリの腰のベルトを掴んで大地を踏みしめると、思い切り上空へ向かって跳躍する。

 僕はそれをしばらく見上げていた。

 やがて、爆発に似た煙が見える。

 ――結局、力任せじゃないか。

 僕は小さく笑った。そう言えばあの子、昔も裁縫とか細かいことは苦手だって言ってたっけ。

 僕は多分、気を抜いてしまったのだと思う。ケイッティオを抱きしめたままふらり、とよろけて、近くにあった木の幹にしたたかに背中をぶつけた。

 そのままずるずる、と下にずり落ちて、地面に座り込む。

 腕の中のケイッティオは、額に汗を滲ませ、苦しげに顔を歪ませていた。

 僕はその額を撫でる。

 ぽとり、とその指先に雫が落ちた。

 僕は俯いた。

 彼女の目を覆ってやる。

 君を傷つける雨の雫が、これ以上君の瞼に落ちないように。



 ああ、思えば、僕の人生は、ある感情を知ってしまってから全く変わってしまったと言っていい。

 僕はその感情に苛まれ、振り回され、自分さえ見失って、大事なものさえもうわからない。

 選んだ道が正しいのかどうかもわからない。

 僕の行動原理は単純だ。

 何も考えなくていいように。

 何にも苛まれないで済むように。

 僕は僕でない人の思考と感情を、記憶の全てを受け入れた。

 僕でない何かになることを受け入れた。

 それはとても楽なことだった。

 すべて記憶のせいにすればいい。

 僕の生きる意味なんて実に簡単だ。

 僕は、天性のアルケミストの記憶に従って、彼の計画通りに動けばいい。

マキナレア――僕とは異なる彼らを想う心も、かける言葉も、すべて【彼らしく】息づかせればいいのだ。

 もしそれで多少なりとも心が痛んだとしても、それは自業自得だ。

 痛んだ心は僕のものではない。僕と共にあるヨーデリッヒのものだ。

 僕は何も感じない。傷つかない。

 僕は、

 ……ただの器。

 ただ一つの願いを叶えさせてもらうために生き永らえる、【僕】の奴隷。

 僕は、【レレクロエ】になった瞬間、あの暗く毒々しい感情から解放されると思っていた。

 実際には、僕の体に入り込んだヨーデリッヒと言うアルケミストの感情は、僕よりもずっと深く暗く哀しいそれに――嫉妬、という感情に侵食されていたのだけれど。

 きっと彼は、もしも今彼にまた出会えたとして、僕が「あなたのそれは、ただの嫉妬だよ」と伝えたところで、受け入れることはできないだろう。受け入れられなかったからこそ、僕に託したのだ。

 【優しい】と誰からでも言われてしまう外面の中で、嫉妬の感情に苦しんでいた僕には、彼のその感情は毒であり、同時に逃げ道にもなった。僕がこれから感じる暗い感情は、全て僕の中にいるヨーデリッヒの想いなのだと、客観視しておくだけでよかったのだ。

 いつしか僕は、客観視のやり方を覚えて。そうしてマキナレアの子供たちを見つめるうちに、やがて気が付いたのだ。

 とても単純なことだ。ヨーデリッヒはただ、モンゴメリが――世界のかつての救世主が、好きだったという事。

 彼が好きになった女の子を、ケイッティオを、自身もまた好きになってしまったこと。

 どちらが大事か、どちらも大事なのか、まだ自分で整理をつけられるようになる前に、自分でその気持ち全てを押し込めようとしてしまったこと。

 ケイッティオと一緒にたわいなく話すミヒャエロが、モンゴメリが、羨ましかったこと。自分も笑いあって、彼らと一緒に温かな時間を過ごしたかっただけだったという事。

 本当に、何の落ちもない、なんという事はない。

 逃避行を始めたある日、僕は雨水の溜まった水面に映る自分の姿を見つめていた。

 僕自身の顔。僕はヨーデリッヒにはなれない。きっともし彼らが思い出してしまったら、僕が彼でないことは誰にでもわかってしまう。

 派手な、人間らしからぬ色の髪と目で気張っているけれど。

 ヨーデリッヒと違って地味な顔立ち。

 それでも僕には、こうやって鏡に映しでもしない限り、僕自身の顔など見えやしない。

 だから僕は、せめて、そんな当たり前の幸せを過ごすこともできなかったあの哀れなアルケミストのために、彼を演じようと決めた。

 彼を演じれば、とても楽だった。

 彼にとって本当に大事なのは、モンゴメリとケイッティオ。それ以外は、情こそあれ、どうでもいいのだ。

 面白いほどに顔が歪み、言葉がすらすらと喉を突いて出てくる。それもそのはずだ。だって僕は、何の柵もなくなったヨーデリッヒなのだから。彼がこうありたいと、望んだ姿なのだから。そしてそれをできるのは僕しかいない。

 僕が選ばれたのだから。僕が望んだのだから。僕が、ヨーデリッヒを選んだのだから。

 けれど、じゃあ、

 僕自身の意思は?

 五人を憎からず想っている僕自身の心は?

 記憶を思い出そうと思い出せまいと、

 誰一人僕のことを知らない。きっと思い出してくれはしない。


 僕は、この悪趣味にも関わり合いのある人間ばかりを集めたマキナレアの中で、ただ一人の異物だった。

 嫉妬。


 嫉妬。


 嫉妬。


 嫉妬。



 嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬。


 僕はいつしか、ヨーデリッヒそのものになっていた。ああ、この感情を僕は知っている。

 僕はついに、ヨーデリッヒと同じものになってしまったのだ。

 あの中に入りたいと焦がれながら、自ら後ずさってしまう。

 もう、ヨーデリッヒの感情を、記憶を、僕とは違うものとして見ることができない。

 僕は何だっただろう。

 誰か、僕の名前を――。

 ああ、じいちゃん。

 あなたのお墓をあの世界に置いてきてしまった。

 あなたの愛していた店も、家族も、夢も置いてきてしまった。

 僕を誰よりも愛してくれたあの場所を、僕は自分から捨ててしまったのだ。

 嫉妬に駆られて。

 嫉妬を踏みにじられた悲しみに突き動かされて。

 僕は? 僕自身のものは何?

 何もわからなくなっていた。

 僕は急に怖くなったのだ。

 侵されていく。僕がヨーデリッヒになっていく。構わないと決めた。だから僕は今この姿でここに居るのだ。だけどじゃあ僕は? たとえ記憶が置き換わっても、こうやってあれやこれやと考えている僕はヨーデリッヒ自身ではない。だとしたら正常な判断ができない。ヨーデリッヒの望んだ未来を造れない。彼がようやく笑えるような世界へ連れていけない。

 僕は誰だっけ?

 嗚咽が止まらないのだ。

 僕は独りきりでいるのが怖かった。独りでいると、僕は僕が何者なのかわからなくて混乱してしまう。でも誰かがいれば、僕はヨーデリッヒでいられる。ヨーデリッヒのレプリカの、モンゴメリの本当の名前を借りただけの容れ物になれる。


 ――置いて行かないで。


 僕は息苦しさに首を掻き毟りながら空を見つめる。まだギリヴとモンゴメリは降りてこない。

 ああ、そうだ――僕はケイッティオを抱きしめる。

 そうだ、ヨーデリッヒはこの子を好きだった。そうだ。僕も好きだ。ケイッティオ。お前が大事だ。そうだね、君がいるなら僕はヨーデリッヒでいられる。死ななくてよかった。僕の役目は――そうだな、モンゴメリが生を全うするのを見届けること。そして、ヨーデリッヒの代わりに君と同じ時間を過ごすこと。君を好きになること。君の死を怖がること。君の死を怖がらないこと。

 ああ、疲れてるのかな。ぐるぐると思考が渦巻いて、気持ちが悪くて、同じだけ気持ちがいい。

 ケイッティオが身じろぐ。睫毛を震わせて、目を覚ました。

 虚ろな目で僕を見つめる。その瞳に、ヨーデリッヒではない誰かの顔が映っていて、どきりとした。背筋が泡立つ。ようやく僕は、我に帰る。 

「……ミヒャエロは、どこ」

 ケイッティオはか細い声で呟いた。

「……あ、ああ、無事だよ。大丈夫。でも、ハーミオネを目の前で失ってしまって、今は一人でいたいみたいだ」

 ケイッティオに笑いかけると、いつだって切なくて、苦しくて、痛くて、そして幸せな気持ちが込み上げた。今も、そう。僕はヨーデリッヒ。大丈夫。まだ大丈夫。

「そう……。モンゴメリ、は」

 そうして、その名前を聞くと心がかき乱されるのだし。僕は無理やり微笑んでみせる。

「今、上空で、飛行船の中でちょっと格闘してるよ。ギリヴと一緒」

「そう」

 ケイッティオは息をゆっくり吐くと、空を仰いで、ゆっくりと上体を起こした。

「無理してないといいけど……」

「それ、君の台詞じゃないよ」

「そうなの?」

「だって、君ったらさ、ミヒャエロが死んだって思ったのか混乱しちゃって力を暴走させて、気を失っちゃったじゃない」

 ケイッティオはコートの裾をめくって、皮膚の剥げ落ちた足を眺めた。青い骨が透けて見える。

「治ってない……」

「腕もね。結構力を使いすぎたみたいだね。でも、まだ穴はほげてないから大丈夫だよ。時間はかかるだろうけど、治るよ」

「治してくれないんだ」

 ケイッティオが僕の瞳を覗き見る。

「治してほしい? 頼んでくれるなら、治すよ」

 ケイッティオは少しだけ眉をひそめた。

「どうかしたの。レレクロエ」

「いや」

 反射的に否定していた。

「何もないよ」

 ケイッティオはそれ以上何も言わず、上空を見つめていた。二つの影が、光を背にしてゆっくりと落ちてくるのが見える。ようやく終わったらしい。

「そういえば、ずっと疑問だったの」

「何が?」

「レレクロエは、わたしには優しい。なのに、今日は傷を治してくれない」

「何、傷を治してやってないからちょっと不満なの?」

「違う……何か、どうかしたのかなって。わたしに優しくしたくない理由ができたのかなって。そもそも、どうして、わたしには優しいんだろうって」

「それは……」

 僕は作り笑いを浮かべた。

「僕だってこれでもきてるんだよ。ハーミオネとはそれなりに仲良かったの、知ってるだろ」

「それも、そう」

 ケイッティオは瞼を閉じた。雨を感じるように、頬を濡らしながら。

「僕は、ケイッティオが好きだから」

 僕は、人生で二度目の――レレクロエとしては初めての、告白をした。

「好きなんだ。一人の、女の子としてだよ」

 ケイッティオは僕を静かに見つめ、少しだけ頬を赤らめると俯いた。じんわりと、胸の奥にこそばゆさと温かさが広がって、僕はとても楽になった。

 ケイッティオはやがてぽろぽろと涙を零した。僕はそれを、少し冷めた気持ちで眺めていた。

「顔、はっ、違うのに……同じ顔で、笑う……っ」

 ケイッティオは喉から嗚咽を漏らす。

「でも、それは、ちゃんと、生きている時に言ってほしかった……っ」

「いつから思い出してたの? ヨーデリッヒのこと」

 僕は静かにケイッティオを見つめながら静かに尋ねた。

「その名前……は、よく思い出せない……ハーミオネが死んじゃって、どうしてミヒャエロを庇ったんだろうって、考えてた。でも、わたし、ハーミオネの気持ち、わかる。だって、わたしもきっと、同じ思いで、この世界に、来た。やり方は違ったけど、わたしは、あの人の力になりたかった。わたしを好きとは言ってくれなかったけど、でもわたしに……っ、あの人の傍にいてください、って、託され、て。だから、思い出して」

 ケイッティオは目尻を何度もぬぐった。

「君って普段はすごく表情の変化に乏しいじゃない? でも、ほんとはやっぱり、それだけあいつのこと好きだったんだね。僕の顔はやっぱり違和感がある?」

「別人だわ」

 ケイッティオはぐすっ、と鼻をすすった。

「そう。じゃあ、僕のことは愛せないか」

「違うわ。わたし、違うの。もうわたしは――」

 その言葉がいい終わらないうちに、ギリヴとモンゴメリが落ちてきた。僕は二人に声をかける。

「で、どうだったの?」

「なんとか……」

 疲れ切った声でギリヴが吐き出す。

 モンゴメリは青ざめた顔でげほっと血を吐いた。ケイッティオがふらつくモンゴメリを抱きしめるように支える。モンゴメリの虚ろな目が、わずかに見開かれる。

「どうしてそんなに疲弊してるの……」

 僕が眉をひそめると、モンゴメリはわずかに顔をあげて、僕を見つめて、少しだけ笑った。

 今度は、僕がわずかに驚く番だった。

「それが、あの機械、科学と錬金術を組み合わせた術式で作られてたの。だから、操縦士を眩惑して、操作方法の説明をさせた後で、結局機械に直接力を注ぎこんだのよ。あたし馬鹿だから理論はよくわかんないんだけど、これでどうも中枢の方の情報回路も狂わすことができたみたい……。とりあえず、モンゴメリをどこかで休ませようよ。あと……レレクロエ、治せないの? ほんとに?」

「確かめてみる?」

 僕はモンゴメリの肌に触れた。ぱきぱき、と音がして、裂けた皮膚がつながっていく。けれど、それは途中でぴたりと動きを止めてしまった。

「もう、限界ってことだよ」

「……そっか」

「でも、体力を回復するくらいはできるよ」

 僕は小さく笑う。モンゴメリは、先刻に比べれば穏やかな呼吸を繰り返していた。

 ケイッティオは僕を見つめる。泣きそうな顔で。

 僕は笑った。

「答えなんか、それで十分だよ。【僕】はそれで幸せさ。それが正解」

「踊らされたわ」

 ケイッティオはくしゃりとした顔で笑った。

「あの人の言いなりになるつもりはなかったのに」

「じゃあ僕を選ぶ?」

 僕がおどけたように言うと、ケイッティオは頭を振った。

「わたしは、モンゴメリが、好き」

 ギリヴが隣で、えっ、と小さく声をあげる。僕は苦笑しながら、手伝うよ、と言ってモンゴメリを抱えた。



     *



 簡単なことだ。

 言ってしまえば、こんなにも簡単なことだったのだ。

 ケイッティオは、昏々と眠り続けるモンゴメリの手を握りながら傍に寄り添っている。そんな彼女を少し離れたところで眺めながら、僕は深く息を吐いた。

 あんなに暗かった嫉妬から、こんなにも、解放される。

 言ってしまえば、やっぱり、ヨーデリッヒの幸せは彼女がモンゴメリを選ぶことだけにあったのだと気づいてさ。

 ――そりゃ、あの性格だから、自分では気持ちも伝えられないよな。そもそも認めてすらいなかったんだから。

 僕が、同じ記憶を持ちながら、同じ感情を持ちながら、想いを伝えることに躊躇いなどない他人だからこそ言えたことだ。

 ――これがケイッティオのためだから。ヨーデリッヒ、君だってそれが分かってたから僕に託したんだろ。

 ふられることなんて、なんてことない。

 だって、僕自身はとうの昔に、初めて好きになった人から振られている。

 あれに比べたら、僕自身の想いではないものでふられたからって、あの時ほどの悲しさはない。

 僕は、同じように離れたところで二人を心配そうに見つめるギリヴを眺めた。

 僕自身を保たせてくれる人。

 僕が、ヨーデリッヒとは違うと唯一思い出せる感情。

 僕は、ヨーデリッヒの心を埋め込まれる前の僕は、彼女のことが好きだった。

「はは……」

 乾いた声が漏れる。

 結局僕もヨーデリッヒと変わらない。

 心の一番柔らかい部分は隠し通して生きている。

 隠し過ぎて、本当に僕は今でも彼女のことが好きなのかどうかさえ分からない。

 優しい言葉のかけ方もわからない。

 僕がじっと見つめているのに気付いたのか、ギリヴがこちらを振り返った。

「な、なによ」

「別に?」

 そっけなく言い返す。遠い記憶、僕自身が彼女と話していた頃。

 僕は暗い感情なんて知らなかったし、初めての恋に舞い上がってたし、とにかく、彼女に嫌われたくなかった。だから常にへらへらと笑っていたように思う。いいように思われたかった。利用されてもいいから、できるだけ傍に居させてほしかった。

 なのに、今は、あの頃かけていた優しい言葉さえ、この喉からは零れてこない。

「あの……」

 ギリヴはそわそわとしながら、僕をちらちらと見る。

 僕はそれに無性にいらっとした。

「何? 言いたいことがあるなら言えば?」

「あ、えっと……その、」

 ギリヴは顔を真っ赤にする。

「レレクロエって……ケイッティオが好きだったのね。あたし知らなくて……なんか、ごめんね。落ちてくるタイミングがすごく悪かった」

「は?」

 指先がじんと傷むほどに血の気が引いた後、かっと頬が熱を帯びた。

「違う!」

 熱のままに、吐き出すように、叫んでいた。

「え? でも……あれ? あたしの勘違い……?」

「そう! 勘違い! その目は節穴? あのね! 話の流れわかんないくせに口出ししないでくれる!」

「なっ……わかんないわよ! だってレレクロエって本当にわけわかんないじゃない!」

「語彙力が乏しいな! あーあ僕も君の言ってることさっぱりだ」

「なんですって!?」

「ちょっと、寝てるんだから、静かにして」

 ケイッティオが諌めるように言う。

 僕達は睨み合ったまま黙った。けれど、やがて僕は、自分の顔が崩れていくのを感じた。泣きそうだ。

 ああ、そりゃそうだよ。

 だって、僕でさえよくわからないんだから。

 ケイッティオを愛しく思う気持ちは、本物だろうか? 偽物だろうか。

 本当にヨーデリッヒだけの気持ちなんだろうか? 僕だって、あてられて、いつの間にか惚れてしまっているんじゃないか?

 ヨーデリッヒと同じ轍を踏んでいるんじゃないか。

 自分だけが気付いてないだけで、

 ギリヴを好きなのは本当に僕の気持ちなんだろうか。

 ヨーデリッヒが本当は気づいていなかっただけなんじゃないのか? ギリヴのことも大切だったって。

 それを、未だに僕自身が勘違いしてるんじゃないのか。

 そもそも僕は、誰かを好きだっただろうか。

 誰を好きかだなんて。誰かを好きかだなんて。

 そんなに重要なことだろうか。

 もうどれが僕でどれが僕でないのかさえわからないのに。

 そんなこと、今考えて意味はあるんだろうか。


 どうして僕は、

 最後に一人、残ろうと思っているんだろう。


「ギリヴ」

 暗い、擦れた声が聞こえた。

 はっと顔をあげると、ミヒャエロが虚ろで侮蔑的な眼差しを浮かべ、ギリヴの背後に立っていた。

「あ……」

 ギリヴは少しだけ、僕を気にするように振り返ると、ミヒャエロにぎこちなく笑いかけた。

「何? ミヒャエロ」

 ギリヴが少し上ずった声で、モンゴメリの容態を、聞かれてもいないのに説明する。

 僕は目を逸らせなかった。

 ミヒャエロが、ずっと、

 ずっと、僕を見つめていたから。

 まるで嘲るように。

「そういうの、別にいいから」

 ミヒャエロは気だるげに言う。

「そういう気遣いとか、いらない。うざい。あのさ、ちょっとだけ……ついてきてくれない?」

 ギリヴは思いつめたように俯くと、頷いた。

「そう。よかった」

 ミヒャエロはギリヴに柔らかく笑いかける。その目の端で、僕を一瞥した。


 かっ、と体中が熱を帯びる。


 こんな感情、

 ようやく解放されたと思ったのに。

 僕はもう何も考えられなかった。

 震えて声も出ないまま、血が出るほど拳を握りしめ、

 二人が森の奥へと消えていくのをただ睨みつけていた。


「ミヒャエロ……わたしに会いたくないのかな」

「知らない」

 ケイッティオの小さな声に、僕は暗い声で応える。

「そうだね。わたしにももうわからない」

「君のミヒャエロに対する最大の罪は、彼の気持ちに応えてやらなかったことだよ」

 ケイッティオは唇を噛みしめ、肩をわずかに震わせた。

「だからって……」

 鋭い声で呟く。

「だからって、大事じゃなかったわけじゃない。わたしにとっては家族だった。大切な家族だった。それをただ、わたしはわかってほしかった」

「別に、君が悪いとは言ってないだろ」

「どうしてそんなに機嫌が悪いの?」

 ケイッティオが少し苛立ちを混じらせた声で言う。

「人に当たるくらいなら一人でいて」

 その言葉に、僕は言いようのない虚無感を感じた。

 かっと頬が熱くなる。

 僕は逃げるように立ち上がって、どこともなく歩き出した。

 ケイッティオが静かに泣いていたことにも気づいていたけれど。

 僕は頭を掻き毟った。モンゴメリはまだ目を覚まさない。





     **






 じりじりと、日差しが僕の皮膚を焦がす。

 アムリタが降らなくなってから、空には太陽が時折顔を覗かせるようになった。

 元々、ヨーデリッヒが世界の理を捻じ曲げて降らせていた雨だ。役目を終えた今、無駄に水を募らせ大地をせり上げる必要もない。

 ばりっ、と言う音がして、足をあげる。

 干からびた虫の死骸が砕けて広がっていた。

 僕は、履いていた靴を脱ぎ捨てた。

 もうこんなものいらない。

 こんな靴は、もう必要がない。


 いつしか、森を抜けて、がらくたの散らばった白い砂漠を歩いていた。

 ちくり、と足の裏に棘を感じる。

 血が点々と赤く白の砂を色づけた。

 僕は誤って踏みしめた裂けた木の枝を拾い上げ、しばらく何の感慨もなく見つめていた。

 それは、きっと衝動だったと思う。

 僕を痛めつける雨が、僕に痛みを与え続けてくれるものが何もなくなってしまった今、僕は痛みに飢えていた。

 僕を鈍く優しく苛むものに、渇いていたのだ。

 僕はその枝の先端を、じわじわと左手の中央に突き刺した。

 血がぼたぼたと零れ落ちる。

 やがてそれは僕の掌を貫いた。

 僕はそれを眺めて降ろし、フードを被ってまた黙々と歩き続けた。


 ヨーデリッヒになれたかもしれないだなんて、まやかしだ。

 僕は、僕に、ギリヴのことでまだこんなにも心かき乱される僕が残っていたことに、喜ぶべきだ。

 なのに、僕を苛んだのは、僕が僕自身の意思で、言い訳のままにハーミオネを、モンゴメリを、ミヒャエロを、死に追いやろうとしていたことだった。

 ヨーデリッヒになんかなれない。

 僕は、君にはなれない。

 レレクロエなんて名前、僕には荷が重すぎる。

 いつでも止められた。

 それなのに、止めなかったのだ。

 消えていくのを黙って見ていたのだ。特に悲しみも負わなかったのだ。

 僕はいつから壊れてしまっていただろう。

 僕は結局、いつの間にか、

 ヨーデリッヒから愛された五人のマキナレアを、彼らを見殺しにするために作られた自分を、

 それを受け入れた自分の未来を、呪っていたのかもしれない。

 君に会わなければ。

 あの時、君になんか出会わなければ。

 僕は地味で平凡で、けれど温かくて幸せな、そんな世界で、いつか終焉を迎える穏やかな砂の世界で、生きて、死んで行けたのかもしれなかったのに。

 ギリヴ。

「レレクロエ?」

 声が空から響いて、ふわりとギリヴが降ってきた。

「どうしてこんなところにいるの? よかった、丁度あなたを呼びに行くところだったの」

 僕は虚ろな目でギリヴを見つめる。

「やだ、なんでフードなんか被ってるの? おかげで一瞬上空からじゃ誰かわかんなかったわよ」

 そう言って、ギリヴは僕の頭からフードを取る。

「ど、どうしたの……酷い顔してる」

「僕が醜いのはいつものことさ」

「は? 誰もそんなこと言ってないわよ。表情のことよ」

「でも、君は前に言ったじゃない。顔が地味だって」

「地味と醜いはえらい違いよ! ていうかそんな覚えはないわよ…」

 僕は目を伏せる。

 モンゴメリは、自分の瞳が人を惑わす目だからと、隠してしまっているけれど。

 僕にとってはいつだって、彼女のこのマゼンタの目が――まるで僕を惑わせるようで、かき乱すようで。

 その目を向けてほしくて、でも見ていられなかった。

「血の匂いがする」

 ふいに、ギリヴが静かな怒りを滲ませて呟いた。そうして、僕の左手を突然掴む。

 ぬるりとした熱いあかが、ギリヴの爪を汚した。

「ちょっと……!」

 ギリヴは叫んだ。

「何これ……」

 僕は上目遣いでギリヴを眺める。今更ながらに、身長があまり変わらなくて、悔しいなと場違いなことを考えていた。

「ミヒャエロが、僕は何にもしないって言ったから、」

 僕は笑っていた。

「でも、こうしていたら、僕の修復の力は嫌がおうでも働き続ける。延々と。意味なんてないのに」

 そう言って、僕は右手で木の枝をぐるりと回旋させ、さらに奥深く左の掌を貫いた。

 ギリヴが僕の頬を叩いて、木の枝を抜いてしまう。

「何を腑抜けたことを言ってんの! 構ってほしいの? それとも自虐に浸りたいの! 許さないわよ、いつだって人のことを傷つけるようなことばっかり言ってて、それで今度は自分まで傷つけるですって? 許さないわ!」

「許さなくていいんだよ」

 ギリヴがまた僕の頬を叩いた。

「馬鹿っ」

「じゃあ、」

 僕は擦れた声で言った。

「思い出してよ」

「は?」

「僕のことを、思い出してくれよ」

「何、を……」

「僕のことをさっさと思い出してよ。なんなんだよ。どいつもこいつもあれだけ強く催眠をかけたのに簡単に思い出しちゃってさ、なのにどうして君は思い出さないんだよ。それとも僕はやっぱり君の記憶にも残らなかった? それはわかってたけど……」

 頭がくらくらする。血が足りないせいなのか、強い日差しのせいなのか、もうわからなかった。

 まるで、あの砂の街に戻ってきたみたいだ。

 日差しだけは強くて、水が少なくて、いつでも僕らを渇かせた世界。

「僕のこと思い出して、こんなところまでついてきたのかって、追いかけてきたのかって、気色悪いって、気味が悪いって、僕を傷つけてくれよ。諦められるように。僕が君を嫌いになれるくらいに。さよならを言ってよ。僕なんかもういらないと言ってよ。僕は、僕は……」

 僕は置いてきた過去に向かって、砂風に向かってふらつく手を伸ばしていた。

 行かないで。置いて行ってごめんなさい。僕から逃げていかないで。帰りたい。帰りたい。

 君と出会ったばかりのあの日に、帰りたい。

「君にただ、置いて行かれるためにここにいるんだ。僕の名前を呼んでよ。おかしくなりそうだ。僕を嫌いだと言ってよ。僕なんか気持ち悪いって言ってよ。わかってるんだ。本当に気色悪いってわかってるんだ。好きになってよ。僕を好きになってよ! 幸せにしたかったんだ。君にあたたかい家ができるようにって、君の帰る家が、あんな場所じゃなくて、僕の店だったらって、何度も何度も……その靴だって、」

 声が止まらない。息が苦しい。体中が熱い。

「君たちのために作ったなんて嘘だ。僕は、アムリタが、君の足を傷つけないようにって、思って――いつか、君が目覚める世界でもこの靴が残っていたらいいと、思ってた」

 僕は崩れ落ちた。もう限界だ。何も見えない。

 こんなに脆弱だったなんて。ギリヴが僕を支えるように抱きとめる。そんな優しさはいらない。大体君は誰にでも情をかけすぎだよ。どうしてヨーデリッヒの言いなりになったんだよ。どうして利用されたんだよ! どうして――。

 ……どうして、最後にヨーデリッヒを連れて僕の前に来たの。

 あの日の記憶が僕を今でも苛んでいる。

 君が最後に告げた、助けを求める声だったんじゃないかって。

 僕は気づけなかった。

 だから君を失った。

 化け物になった君と、同じものになった。

 僕はあの時、ヨーデリッヒに嫉妬して、作り笑いして、君に悪く想われたくなくて、笑って見送ったんだ。

 僕の嫉妬は僕を苛む。

 いつだって、道を間違えてしまうんだ。

「レレクロエ……大丈夫、大丈夫だから」

 ギリヴは僕の頭を抱いて呟いた。

「レレクロエだなんて呼ばないで」

 僕は泣いていた。

 君を失ったと知ってさえ流れなかった涙が、ようやく、血の雫のように零れて砂を汚していた。

「僕の本当の名前で呼んで」

「だって、知らないわ。教えてくれなきゃわかんないわ」

 僕は嗚咽を漏らした。


「エスト――」

 僕は擦れた声で、体中に毒が回ってしまったような心地で呟いていた。

「エスト=ユーフェミル=フェンフだよ。じいちゃんの名前をもらったんだ」

 ギリヴは僕を強く抱きしめた。

 思い出してはくれないみたいだ。

 僕は笑った。

 泣いて、笑った。










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