或る子供の記憶
昨日、彼が見舞いに来たらしい。
生憎僕は熱にうなされていて、彼が僕の手を握っていてくれていたのだということも気づけなかった。
僕は何の役にも立たない。彼は生まれながらにして世界に愛されている。そして彼はそれをとても重いと、息苦しいと感じている。
当然だ。一体どんな子供が望んであのような力を得るものか。
僕たちはただの子供で、世界はもっと広くて、空はもっと高いんだよ。なのに彼は、望みもしない力のせいで鳥籠に飼われている。きっと世界で一番、彼こそが自由に愛されるべき人なのに。
そして今日も変わらず、僕は役立たずだ。彼は僕を暇つぶしの相手に選んでくれたのに、その暇つぶしにさえなれていない。僕はクズ以下だ。こうして体調を崩してばかりで、彼と遊ぶこともままならない。
……昨日彼が来たというなら、夢の中で聞こえたあの言葉は、彼の言葉だったんだろうか?
――僕はもう疲れたよ。
――世界なんていらない。国なんていらない。
――僕が欲しいのは、僕を安らかに眠らせてくれる死だけだ。
あなたが欲しいものはそんなものなのか。それすらあなたにとっては願いなのか。
僕は何をすればいい? 僕はあなたに何ができますか。
あの実験を……やはり進めるべきだろうか。
君は僕を軽蔑するだろうか。それともやっと解放されると言って、笑ってくれるだろうか。
あれはきっと、僕にしか、僕だからこそ、できることだ。だから――
人並みの生も暮らしも与えられず、倫理の崩壊した世界で、ただ生きるためだけに藁でも貪ってきた。そんな、貪欲な僕だからきっと、あれを何の抵抗もなくこなせるだろうと思うんだ。
あなたは僕よりずっと育ちがいいから、もしかしたら僕を憐れむかもしれないね。
けれど僕は、あなたの拠り所になりたい。縋れる場所になりたい。僕だけが、あなたを終わらせる人間でありたいんだよ。こんなのは歪んでいる。そんなことはわかっている。
けれど止められない。この怒りも、この執着も、この恍惚も。何も手放せないんだ。
僕もまた、あの日、暗い路地の片隅で君に見つけてもらえたあの日から、ずっとあなたに魅了されているだけなのかもしれない。
だとすれば、僕はあなたと居てはいけないね。
あなたを世界と……僕から、解放しなくちゃいけないね。
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