色褪せる世界
棺で眠りにつく前のことを、覚えている。忘れられない。
ミヒャエロはレレクロエの前に生まれた。本当は、ミヒャエロが最後のマキナレアになるはずだった。マキナレアは五人で終わるはずだった。アルケミストの記憶は、最後のマキナレアに託されるはずだった。だからミヒャエロは、それをいつか来る当然の未来として受け取っていた。けれど、アルケミストはミヒャエロを作って、こう言ったのである。
――ミヒャエロ。お前は恐らく、全てを抱えきることができない。
そうして、彼はレレクロエを造った。これが最後だと、今度こそ終わりにするのだと何度も自分に言い聞かせるように呟きながら。ミヒャエロには、何も理解ができなかった。ただ一つわかったのは、自分が彼の願いに沿わなかったのだ、という事だけだった。
レレクロエは生まれ落ちたその瞬間に、アルケミストの記憶を受け継いだ。レレクロエはそれを決して語らなかった。だから、ミヒャエロはアルケミストのことを何も知らない。覚えてもいない。言われた言葉だけが耳に残り、姿さえ思い出すことはできない。
棺に入る前。まだあの頃は、アルケミストは生きていたのだろうか、それすら定かではなかった。彼がよく咳をしていて、苦しげに蹲っていたことだけは、なんとなく覚えているのだけれど。
『早く棺に入ってよ。僕はこれに蓋をしなきゃいけないんだからさ』
レレクロエと、最後に交わした会話を、覚えている。砂めく世界での、黄土色の記憶。
『君はどうするの。君を眠らせる人がいない』
棺の縁にもたれて、入れとミヒャエロに促すレレクロエに、ミヒャエロはそう声をかけたのである。けれどレレクロエは、鼻で笑っただけだった。
『自分の心配だけしてなよ。ほんと、君は……よく笑ってられるね』
『ごめん……おれ、そんなに笑ってた?』
『いや、いいんだ』
いいんだ、とレレクロエは繰り返して。
『次の世界でまた会おう。その時は、僕も笑顔を覚えておくことにするよ。あのヤブは、僕に笑顔の機能だけはつけていかなかったみたいだからね』
『そんなことはないはずだよ』
『うん』
レレクロエはそこで初めて悲しげに笑った。
『わかってるんだ……わかってるんだよ』
『どうして、自分だけ残ろうとするんだよ』
ミヒャエロがそう尋ねると、レレクロエは静かに目を閉じて。
『僕は、覚えていなきゃいけないんだ』
そう言って。
それが何のことを言っているのか、俄にはわからなかった。そして、思い出した。アルケミストが、呟いていたこと。細胞の一つ一つに記憶を刻み付ける。全てを覚えているために。世界を救うなら必要な機能だけど、これを抱えられる子が一人もいないんだ。そろいもそろって欠陥品だらけだ――アルケミストの苛立った声が、耳に蘇る。きっと彼は、レレクロエを造ることで成功したのだと思った。そう思ったら、言葉が口をついて、あとは止まらなかった。
『そ、そんなこと、する必要はないよ。そんなの、彼が勝手に押し付けたことだろ』
『はあ? 勘違いしないでよ。僕はあいつの言いなりに生きる気はないよ。僕は僕なりに……その、色々と消化したいだけだ』
『だったら一緒にいるよ。一人で残る必要なんかないじゃないか』
『黙って僕のいい通りにしろってば』
『でも、おれなら少しは分け合うことができるだろ? おれはそのために元々造られたんだから』
『僕に役目を取られて悔しいだけのくせに』
レレクロエの蔑むような声、眼差し。赤紫色の目。
とっさに反論はできなかった。自分が請け負うはずだった【最後の使徒】を、何の苦労もなく手に入れたレレクロエ。彼を見ていると焦燥が胸の奥から湧き上がる。だから否定なんてできなかった。
役に立ちたい。おれだってできるんだって。役に立てるって。
ミヒャエロは、褒めてもらいたかった。よくがんばったねと、懐かしい、優しい手で撫でてほしかったのだ。
――でも、誰に?
その時、胸に去来した温かな気持ちと切なさを、どう表現すればいいのか、今でもミヒャエロにはわからない。いつの間にか、頬には涙が伝っていて。瞼の裏側に、笑顔が見えた。ミヒャエロの心を、ずっとずっと昔から占めていた優しい笑顔である。小さな手の温もりも思い出した。おれを、いつも引いてくれた手。
遠い記憶だった。こんなものは知らない。知らないのに、思い出して、覚えていて。
『おれは……おれは、守りたかったんだ。そうだ……守る、ために…』
頭が混乱するまま、そう呟いたミヒャエロを、レレクロエは憐れむように一瞥しただけだった。
『そういうことも、君も直にきれいに忘れるだろうさ。そのために僕たちは眠りにつくんだよ。君は知る必要もない。思い出す必要もないんだ。いいじゃない。君は幸せだ。大事だったたった一つのものが、生まれ変わってもなお傍にあるんだからさ。僕やギリヴとは違う。君たちは恵まれてるんだよ。ある意味残酷な仕打ちだけどね』
棺の中にミヒャエロを押し倒し、レレクロエは蓋を閉めた。がこん、という音が、ミヒャエロの耳に妙に残った。
『だから、それを僕が覚えているんだ』
レレクロエのくぐもった声が暗い棺の中に染み入って。多分、レレクロエはその言葉もミヒャエロが忘れてしまうと思っていたのだろう。あれは初めて聞いたレレクロエの本音だったとミヒャエロは思っている。
目覚めても、その記憶は鮮烈に残っていて、離れなかった。だから最初にやったことは、紙にその言葉を書き留めることだった。鉛筆を持つ手が震えて、いつの間にか、また泣いていた。一緒に目覚めたモンゴメリは、ミヒャエロの泣き顔を怪訝そうに見つめて、何も言わないでいてくれた。目覚めて数日して、モンゴメリはどこからか古びて黄ばんだ手帳を見つけ出してきたのである。そしてそれを、ミヒャエロに渡してくれた。
『ほら、これでもいいか』
頼んでいたわけではなかった。だからよけいに、その気持ちが嬉しかった。レレクロエとの会話を書きとめた後、しばらくはモンゴメリのことばかり書いていた。そのうち、マグダの民のこと、まだ会えない仲間のことを書いた。ケイッティオのことを、書いた。書く度に涙が出た。生まれた時からずっと大切な女の子が、どうしているのか気になっていた。また会えたら全てを書き残そうと思っていて。レレクロエの知らない、自分が見た景色を、誰かの表情を、書かなければと。そうすれば、みんなのことも、ケイッティオのことも文字になって残るから。いつか誰かが、読んでくれるかもしれないから――それが、ミヒャエロの見つけた自分の存在意義である。書いて書いて書いて、いつか、本当に信頼できる人に預けて消えようと思っている。それがレレクロエにとって意味があることなのかはわからないけれど。本来、この記憶はおれだけのものであればいいんだから。
「で、何しに来たのさ」
赤い毛糸を編む手をふと止めて、レレクロエがぽつりと呟く。ちらりと寄越された彼の射抜くような眼差しに、ミヒャエロは息苦しさを感じる。
レレクロエは笑っていなかった。いつだって、たとえそれが嘲笑であろうと笑みを絶やさない彼が、その言葉を吐き出して、笑っていない。心が深くえぐられた心地がしたのである。お前たちは何もわかっていないのだと言われたようで。
お前達には、僕の背負うものなんかきっと一生わからないんだよ――そう、言われたようで。
子供のために編み物なんかやっているレレクロエは、ある意味とても滑稽で、そしてとても穏やかだった。まるで、人間みたいだ。自分とは違う何かに見える。一人だけ、違うものを背負っているからなんだろうか。そう考えるとミヒャエロの心が少しささくれだつ。託された者。そして、何かを得た者。目の前の最後の使徒に、劣等感が込み上げて。
懐に入れた日記が、急に重く感じられる。おれのやっていることなんて、無駄なのかと思って。届かない。追いつけない。焦りが。
「わたしたちは馬鹿だから、」
ふいに、ケイッティオが静かな声で話し始めた。ミヒャエロははっとしてケイッティオの横顔を見つめた。
「言ってもらえないと、わからないわ。わたし達は、あなたとは違うの」
ケイッティオのその言葉に、レレクロエは口の端に嘲りを浮かべ、ゆっくりと顔をあげた。
「で?」
「え?」
ケイッティオが戸惑ったように肩を跳ねさせる。
「それで?」
レレクロエは鼻で嗤った。
二人の様子に、ギリヴとモンゴメリが顔を見合わせた。ハーミオネは眉を潜めて、レレクロエをじっと見つめている。レレクロエは尚も畳み掛けた。
「わからないから何?」
「それは……」
ケイッティオは口ごもった。それを見て、レレクロエは目を細めた。
「違うから、何?」
しばらく、誰も何も言えなかった。レレクロエの傍にいた赤毛の子供の不安げな眼差しと少しだけ目があった。レレクロエは黙々と赤い毛糸を編み続け、それがくまの形を成したところで子供に投げて寄越した。
「ほら。糸の始末は婆さんにでもしてもらいなよ」
「ありがとう!」
手を繋ぎ、子供たちは奥の方へと駆けていく。大きい方の子供が、一寸こちらを振り返った。レレクロエはその後ろ姿を見送って、立ち上がった。きっと自分達は、強張った酷い表情をしていただろうなあとミヒャエロは思う。レレクロエは自分達を見渡して、小さく息を吐いた。
「言っておくけど、僕だって君たちと変わりのない馬鹿だからね。ちゃんと言ってもらえないとわかんないんだよ。ほら、ケイッティオ。もう一度言ってごらんよ。『わたしは何もわからない馬鹿だから、懇切丁寧に一から教えてください』ってさ」
レレクロエはケイッティオに詰め寄るように笑顔を向ける。ふいに、モンゴメリがケイッティオの肩を引き寄せて唸った。まるで、庇うみたいな仕草だとミヒャエロは思った。
「おい、いい加減にしろよ。人を小馬鹿にしたその態度、いい加減改めろ。不愉快だ」
「はあ? どうして?」
レレクロエはふん、と鼻を鳴らす。
「君たちとは違う? だから何? だからこうやって僕がかんしゃくを起こしても逆らえない? どこか遠慮でもあるの? 負い目でもあるわけ。くだらないなあ。そういうのが嫌だって言ってるんだよ。僕だって君たちとなんら変わらないんだよ。それで? 心優しい僕から聞いてあげるよ。君たちは何をしにのこのことここに来たわけ」
「それは、あなた達をここから連れ出すためじゃない。あたしたちは六人で一つなんだから、一緒にいないとだめじゃない。そうしないと、世界の荒廃が進んじゃう――」
「それさあ、あのくだらない発明馬鹿が言ってた理想論をそのまま言ってるだけじゃん」
ギリヴの小さな反論にも、レレクロエは言葉を被せる。まるでうんざりしているみたいに。
「六人一緒にいないとだめだって誰が言った? この世界を荒廃させちゃだめだって誰が言った。みんなを救わなきゃいけないって誰が言ったよ。全部受け売りだろ。おまえは何かを自分のその陳腐なおつむで少しでも自分なりに考えたことはなかったの? それで? 街を守る尊いマキナレアの皆様は、こうしてはるばるこんな辺境の土地までお越しいただいたわけですけど、なんて言って来たの?」
「な、なにが……」
ギリヴは口籠るのにも構わず、レレクロエはまくし立てた。
「だから、君達の守ってる二つの街の人たちにだよ。ちゃんと説明したの? しばらく街を離れる言い訳はちゃんとしたんですか」
「そういえば……してないわ」
ケイッティオは俯いて首を横に振った。それを見てレレクロエは深く息を吐いた
「ほらね、すぐそうやって思いつきで行動する。人間を守るため守るためって言って。目の前の人間一人守れなくてどうするの? それで、もし君たちがいない間に二つの地でまた紛争が起こってたらどうする? それで誰かが死んでも諦める? じゃあ今まで死んで来た人たちは? 仕方なかったんだと言い訳する? ちゃんと考えてる?」
「あ……あ……」
ギリヴは頭を抱えた。目を逸らしていたことだ。特にギリヴには酷な話だろうなとミヒャエロは思った。ミヒャエロ自身も、聞いていて尚も胸が抉られているような心地だ。
「大体さ、今更なんじゃないの? 六人一緒にいなきゃいけない? ならなんで目覚めてすぐに集まろうとしなかったの。散々くだらない戦闘を繰り広げといて、よく言うよ。人間を守るために戦う? そんなことするより、僕たちが目覚めたからもう安心ですね、あとは世界の再建までしばしお待ちください、って言ってさっさと世界のために消えればいい話」
レレクロエは首をかしげた。
「なのに、どうしてくだらないモラトリアムに身をうずめたの? ちゃんと考えてるの? 何とか言いなよ」
レレクロエはそう言って、モンゴメリの傍につかつかと歩み寄った。レレクロエがモンゴメリの前髪を強く引っ張る。モンゴメリはその場に崩れ落ちる。
「ほら、なんか言ってみなよ。こんなくだらないことやってるのは何故? 何なのこの髪は。自分で滑稽だと思わない? 君は自分の能力が嫌いだとでもいうの」
「……っ、煩い」
「煩い? 馬鹿なの? 被害者ぶってる? こんな能力好きで持って生まれたわけじゃないとでも思ってる? どうしようもないくずだね。そんなのおまえに限ったことじゃないよ。マキナレアだろうが人だろうが一緒だよ。誰がこんな世界に好き好んで生まれてくるものか」
レレクロエはモンゴメリを突き飛ばした。
「おまえたちは自己本位なんだよ。それなのに人のため? 冗談言うならもっと洗練された冗談言って。耳が腐る。自分の気持ちに向き合わないで、人の言った理想論を自分の言葉にして、滑稽だと思わないの? 君たちの本当の気持ちは何? 僕の気持ちを教えてあげようか」
レレクロエは口の端を歪ませる。
「僕は、君たちさえ覚悟を決めるならいつだって使命を果たす準備はできてるよ。端からそのつもりだ。逃げる気もない」
「あなたは……強引すぎるのよ」
ハーミオネが、静かな声で割り入った。
「よく言うわよ。自分が一番天邪鬼なくせに。あなたこそ言ってない気持ちがあるじゃない」
レレクロエは黙っている。
不意に、その赤紫色の眼が、ミヒャエロに向けられた。
お前も何か言えよ、と言われている気がする。ミヒャエロは心臓がどくどくと嫌に鼓動する音を感じた。
自分の気持ちになんて向き合ったことがない。
ケイッティオともっと一緒にいたい。自分と彼女以外は皆いなくなったっていいとさえ思っている。けれど、皆を好きな気持ちも本物だ。こんなこと、言えるわけがないじゃないか。冷たいよ。冷たいって、自分でもわかってる。
――違う。言わなきゃいけないんだ。向き合わなきゃいけないんだ。
ミヒャエロは俯いた。手は汗で酷く濡れていた。
「だ、誰も聞いてないんだよ」
声が震える。
「だ、誰も……見てないんだから」
レレクロエは黙って聞いていた。こんな時だけ、狡いと思う。同時に、嬉しいとも思う。いつだって、ミヒャエロの話を蔑にしたりはしなかった。レレクロエはそういうやつで。
「ここにアルケミストはいないんだよ!」
ミヒャエロは、心に巣食っていた恐怖の塊を吐き出すように叫んだ。
いつの間に、彼を怖いと思っていたのだろう。彼の定めた使命から逃げることを、罪のように感じていたのだろう。
そう育てられてきた。造られたのだ。逆らわない様に。疑問を持たない様に。
「お、おれは……まだ消えたくない……もっと、みんなと、一緒にいたい」
顔をあげると、レレクロエがまだ自分を見つめていた。けれど、そこに棘はない。凪いだ眼だ。張り詰めていた糸が切れたような気持ちで、ミヒャエロは続けた。
「おれは、世界とかだって本当はどうだっていいんだ……ケイッティオや、みんなが、笑って暮らせるなら。だから……」
「じゃあ、逃げればいいじゃない」
ハーミオネが手を合わせて、笑った。
「私達、逃げればいいのよ」
「そ、そんなの……」
ギリヴが狼狽える。
「そんなの、だめよ……だって、だって……」
「おまえは?」
モンゴメリがケイッティオをつつく。
「そんな……あなたこそ」
「知らない。俺は別に楽できればいい」
「逃げるなんて。目を背けるのはとても気力のいることだわ。わたしたちは、使命に忠実であるように埋め込まれているのだから。人類を、救いなさいって」
ケイッティオは戸惑うように視線を彷徨わせる。レレクロエはそれを見遣りながら、なんでもないことのように言った。
「でも、ミヒャエロは君と逃げたいって今言ってたよ」
ミヒャエロは顔がかっと火照るのを感じた。
「レレクロエ!」
「そうね。それなら、わたしは彼を守るのみだわ」
ミヒャエロの動揺にも構わず、ケイッティオは静かに言った。
――やめてくれ。
叫びたくなった。そういうことを言わないでくれ。
色々と辛くなる。
「でも、逃げるならレグドの人たちに説明しないと……」
ケイッティオは俯いた。モンゴメリが呆れたように言う。
「は? あんた馬鹿なの……最初から逃げ出したようなものだろ。俺達は何も言わずに飛び出してきたんだから」
ケイッティオはきゅっと口を引き結んだ。
「そうだけど……でも……きっと待ってると思うし」
「あたしは……裏切れない」
ギリヴが唸った。
「あたしのせいで傷ついたのに、それでもあたし達を信じてくれた人を、裏切れない」
「偽善だね」
レレクロエは嗤った。ギリヴは声を荒げて叫ぶ。
「違うわ!」
「君の性格は一番僕がよく知ってるよ。逃げたい気持ちと、それは許されないことだという理性がせめぎ合ってるんだろ。一番人間を恨んでるのは、おまえのくせに」
レレクロエは緩やかに首を傾ける。ギリヴは頭をかきむしった。
「どうしてそんなひどいことばかり言うの! だったら逃げろって言うの!」
「知らないよ。自分で決めなよ」
レレクロエは吐き捨てるように言う。
「僕は、人間が嫌いじゃないよ。だから、僕はここにいるんだ」
そしてレレクロエは、振り返ってハーミオネの顔を覗き込んだ。
「それにしても、君が真っ先に逃げるなんて言い出すとは思わなかった」
「そうね。私もびっくりだけど……でも逃げたところで使命から逃れられはしないのよ、きっと」
ハーミオネは静かに笑った。
「だったら、みんなで一緒に少しでも長く居たいじゃない。お互いを理解しあえるのは世界にたった六人しかいないのよ」
ハーミオネはどこか悲しげで、そして晴れ晴れとしたように柔らかく言う。その淡い青の眼と、少しだけ視線が交錯した。ハーミオネは、それきりミヒャエロから目を逸らしてしまった。
「レレクロエは?」
ミヒャエロはそう声をかけて、レレクロエを見つめた。彼の本心だけ聞いていない。尋ねたところで、容易に言ってくれるとは思わないけれど。
それでも、聞きたかった。あの時一人残った彼が、何を考え何を感じたのか、聞きたかった。
「僕はみんなと一緒にいるよ」
案外、レレクロエは静かにそう言った。
「僕のたった一つの、我儘さ」
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