風降る世界
ふわり、ふわり。
瓦礫のわずかな足場を見つけて、ケイッティオは身軽に上っていく。ケイッティオは決してギリヴのように身体能力が優れているわけではない。けれど、自分にかかる重力を一時的に【奪う】ことで、まるで羽のようにふわふわと浮くことはできる。
天辺までくると、びゅう、と風が吹きすさび霰が横殴りにケイッティオの頬を引っ掻いて行った。眼下に広がる砂原には大きな洞窟が埋もれて、その入り口は、蔦と岩が絡んだ扉で塞がれている――多分、レレクロエが作ったのだろうとケイッティオは思った。レレクロエは【修復】の力を持つから、雨に打たれ枯れた蔦を再び息吹かせることもできる。壊れた瓦礫を、元あった姿に戻すことだって――その過程で二つを同時に混ぜ込むことも、容易いだろう。事実、六人で棺の中に眠りにつく以前、彼が割れたガラスの花瓶と枯れた花で似たようなことをして暇をつぶしていたのを、なんとなくケイッティオは覚えているのである。
頬に流れる血を拭う。風ではだけたフードをかぶり直し、ケイッティオは来た道を顧みた。随分と待ったが、モンゴメリのつむじはまだ天辺に届かない。その髪も抜けて頭皮が血で滲んでいるのを見ると、憐れみが胸の内に湧き上がった。そうだ、とようやく思い至って、ケイッティオは薄い唇を開く。
「手を貸す?」
「煩い」
モンゴメリは、瓦礫のでっぱりに手と足をかけ、ぜえぜえと息つき汗もだらだらと零していた。それでも拒絶の言葉を吐かれては、ケイッティオは彼を見つめることしかできない。
マキナレアの身体能力には個体差がある。それぞれの能力に特化した身体を持っているのだ。戦闘向きなギリヴは跳躍力も含めて運動能力が著しく高いし、外界からの様々な影響を受けやすいミヒャエロは、傷つく分早く回復できるように強い生命力と免疫力を持っている。そしてケイッティオは、他者からあらゆるものを奪う代わりに、自分は奪われにくくなっていて――体力の目減りが小さく、めったなことでは疲れを感じないし痛みにも鈍い。そのせいでケイッティオは、他者の疲れや不調にあまり共感することができないのである。
けれどそれは、生き物としてはおかしいことなのだと、目覚めてから知った。レグドの幼い子供達が、血を流し肉をえぐらせた状態でも平気で歩くケイッティオに、それは変だと言ったのである。おかしいよ、おねえちゃん、と。痛いならもっと痛がっていいんだよ――ケイッティオにとっては痒いくらいの痛みでしかなかったものを。だから自分は、とても異常な生命体なのだとケイッティオは自覚している。こうして瓦礫の壁面を懸命に上ってくるモンゴメリが、実際にどれくらいの無理をしてどれくらいの苦しさを感じているのか、推しはかることもできない。共感してやることも。モンゴメリのせいでなかなか思うように進めないことにわずかな苛立ちさえ覚えて、ケイッティオは仄かに絶望した。
そもそも、とケイッティオはなおもモンゴメリから目を離さず、首を傾げる。モンゴメリは己の力の性格上、人の母性や庇護欲をかきたてる性質もあるはずだった。彼の能力は特に何か役に立つわけではない。これと言って特化した身体能力があるわけでもない。言うなれば彼は赤子のようなものである。彼は人の庇護欲を掻き立て、それによって守られ生き延びるようにできている。その性質が生かされていれば、もしかしたら自分も彼を思いやれるのかもしれないのに、とケイッティオは思う。
けれど、彼は己のそれをひどく憎んでいるから、自分の能力を無意識に封じて抑制してしまっているので。おかげで、元々感情が希薄なケイッティオは今現在ますます彼に対して思いやりを持ってやることができないのだった。不意にケイッティオは違和感を感じて空を見上げる。雨足が弱まって、途切れて。やがて風だけがケイッティオの肌を撫でた。血に濡れたところが乾いて、少しだけ気持ち悪い。
長年の雨に晒され風化した建物の墓場は、砂のように崩れやすくなっている。時に雨の止むような日には、その砂を風が上空へと巻き上げていく。それは雨上がりのこの灰色の世界でしか見られない閑散とした光景だ。砂が喉の奥に張り付いていく。ケイッティオは反射的に咳をしながら、冷たい雨を恋しく思った。たしかに雨は痛いものだ。けれど、空も地も空気も、全てが水に満たされた世界の方が好きだった。凍える冷たさ、むせ返るような湿気。苦しい世界は、自分も等しく生きているのだと感じさせてくれる。
足下で、モンゴメリが酷く咳込んだ。長い前髪の奥に、ケイッティオは湿るものを見た。ようやく、ほんの僅かに胸の奥が傷んだ。ケイッティオは届くほどに近づいた彼の手を、掴んだ。
「やめ、ろ」
咳込みながらそれでも拒絶しようとするモンゴメリを引き上げる。やがてモンゴメリは抵抗をやめて、大人しくケイッティオの足元に座りこんだ。
――どうして……あなたはそんなに悔しいの。
わからない。彼が自分の瞳を嫌う気持ちが理解できない。どうして人に愛されることを許されたこの人が、こんなにも人を――自分を拒むのだろう。
顔に貼り付く前髪を剥がしてやろうと手を伸ばしたら、鋭くはねのけられた。
「触るな」
――綺麗なのに。
悲しいと思った。ケイッティオは、初めて造られ、棺に入れられるまでのほんの少しの間に見たきりの、彼の紅玉のような瞳が嫌いではなかった。むしろまた見たいとすら思っている。そんな自分に、僅かに戸惑ってもいる。
手負いの獣のような鋭い眼差し――あの美しい眼で、憎しみや恨みや色んなものがないまぜになった敵意の眼差しを向けられたとき、痛みに鈍いはずの自分の心が、痛いと叫ぶのを聞いた気がした。どうしてそんな目でわたしを見るの、と叫びたくなったこと。……それだけは、棺から目覚めた時も鮮明に覚えていた。
けれど、久しぶりに会った彼は、目をすっかり隠してしまっていた。心もますます見えなくなって。そのことに、ケイッティオは痛みを感じた。そんな自分に、戸惑いを覚えた。あなたのことが知りたかったのに、と思って。
雨は止んだけれど、そっとモンゴメリの頭にフードをかけてやる。モンゴメリは、今度は抵抗しなかった。代わりに、唇をぎゅっと噛んだ。
彼の唇は、いつも血が滲んでいる。唇を噛むのは癖なのだ。
「おい、その真新しい蔦の壁がそうなんだろ。早く行かないのかよ」
やがて、息を整えて、モンゴメリがぶっきらぼうにそう言った。
「あんたがあの蔦を枯らせばいいだろ。生命力を奪う、ってやつ。簡単じゃんか」
――残酷なことを言うわ。
ケイッティオも、唇を僅かに噛んだ。痛くはなかった。けれど何故だか、体の奥がずきずきと疼いている。いつだってあなたはわたしを無自覚に傷つけるのね。わたしはあなたの言葉に傷つくのね。
それが植物だろうと動物だろうと、誰が好き好んで命を奪いたいだろう?
気づいたら、掠れた声が漏れていた。
「じゃあ……あなたは、あなたの命をわたしが奪えば笑ってくれるの」
風の音も聞こえない。
呼吸の音だけが耳にまとわりついて。
ケイッティオは、紫色の髪を見つめ続けた。きっとそこに隠れた目は、自分を見ているから。目を逸らせなかった。
「……は、何言ってんの?」
戸惑うようなモンゴメリの声が、どこか遠いところから聞こえてくる。
ケイッティオは焦っていた。どうしてあんな言葉が口から出たんだろう。思ってもいなかったのに――ああ、変な子だと思われてしまう。気持ち悪いと思われたらどうしよう。
「い、嫌味よ」
我ながらお粗末だ。声が震えた。けれど表情一つ変えずに言えたと思う。誰かに褒めてほしいくらいだ。ケイッティオは、く、と喉を鳴らした。
モンゴメリはしばらく黙っていた。しばらくして、その口元がにやっと歪む。どきっとした。心臓がどきっとするようなものだなんて知らなかった。どきってなんだろう。訳が分からない。そもそもわたしが見たかったのはそういう顔じゃない。あと、目が隠れているから意味がない。
「何か? 俺に笑ってほしいとでも言ってんの?」
「い、言ってない。笑ってほしいだなんて言ってない」
「じゃあどういう意味?」
「意味なんかない」
「へえ。命を奪いたいほど笑ってほしいんだ。へえ」
「ち、ちがう! たまには笑えばいいのにって思っただけ……」
「なんであんたのために俺が笑わなきゃいけない? それで何か俺に得はありますか」
「と、得はないかな!」
焦って、小さな声で叫ぶ。くはっ、と息を思い切り吐き出してモンゴメリは笑った。あとは声を押し殺して、肩を震わせて笑い続ける。そんなモンゴメリを初めて見たので、ケイッティオは困惑した。ついでに目も見せてくれたらいいのになあと思う。何が彼の琴線に触れたのか、わからないけれど。
――ああ、これだからわたしはだめなんだわ。
人の気持ちにまったく共感ができない。本当は共感したいのに。みんなと気持ちを分かち合いたいのに。
モンゴメリはやがて何度か深呼吸をした。片手を額に当てて。赤い色。柘榴のような。一瞬。隠れて。
あまりにも自然すぎた。モンゴメリは、掻きあげた前髪を下ろして指で梳いていた。あの柘榴色が、自分に向けられていたと気づくのに時間がかかって。ケイッティオは、遅れて頬がかあっと熱を帯びるのを感じた。
「はは……おまえ、顔が真っ赤。面白れ。……ほら、早く行こうぜ」
モンゴメリは立ち上がって、尻についた砂を払う。心なしか、その声色が優しくなっている気がした。小さく呼吸を整えてから、ケイッティオは首を振った。
「まだ、だめ。ギリヴ達が来てから」
「は?」
「あの……多分、だけど、ギリヴが最初に行った方が、多分喜ぶ、から、あの人は」
舌がうまく回らない。何度も口の中で噛んで、痛みはあまりないのに泣きそうになってしまった。
モンゴメリは鼻で笑うと、巻き上がる砂嵐に顔を向けた。その横顔を目に留めて、ケイッティオもまた、洞窟を見下ろした。風が二人の髪を撫でていく。それからミヒャエロたちが来るまで、二人が言葉を交わすことはなかった。
✝
「あれ? 待ってたんだ?」
瓦礫の山を登りながら、ミヒャエロがそう声をかける。差し伸べた手を、ミヒャエロは何のためらいも無く掴んでくれた。大きくて武骨な手に、安心する。ミヒャエロはありがとう、と言ってふにゃりと笑った。ケイッティオは頷いた。
「ケイッティオー! 会いたかったよー!」
わぁん、と泣き叫びながらギリヴが勢いよく跳躍してケイッティオに抱きついてくる。少しだけよろけながらも、ケイッティオは嬉しくなって思わず微笑んだ。
「ギリヴ、大丈夫だった? 仲良くできた?」
「うんうん!」
「あんたもガキのお守りで大変だな」
モンゴメリはミヒャエロに言って、ふん、と鼻で笑う。
「ちょっと、それどういう意味よ」
「まあまあ」
ミヒャエロは宥めるようにギリヴの頭を撫でた。ギリヴはまだじっとモンゴメリを睨んでいる。ミヒャエロはケイッティオの顔を覗き込んで、そっと囁いた。
「大丈夫だった?」
「何が?」
「うん……何もなかったならいいんだ」
ミヒャエロはどこか悲しげに笑う。
「ミヒャエロこそ、また無理しなかった? 自分の回復力にあまり甘えないで」
「あー……えっと、えへへ」
「ケイッティオからも言ってやってよー……この人自分から怪我しに行っているようなものだったんだから」
ギリヴがひらひらと手を振る。
「あっ、それは言わない約束――」
「何のこと」
ミヒャエロの焦った声に、ケイッティオはにっこりと笑った。
「あ、その、これは、ね」
ミヒャエロはたじたじとして両手を合わせ腰を折った。ケイッティオは肩をすくめた。
「ごめん、ごめんって……! 後生だから見捨てないでください!」
「……必死かよ」
モンゴメリが呆れたように呟く。
「見捨てるなんて言ってないわ」
ケイッティオは苦笑した。ミヒャエロはほっと息を吐いて、えへへと笑った。
「で、あれでしょ? サラエボの入り口。これからどうするの? 大勢で押しかけちゃって、怖がられないかしら」
ギリヴが腕をまくりながら言う。
「あんたら攻撃班がさっさと破壊すればいいんじゃないの」
モンゴメリがぼそっと呟いて、ギリヴはぎゅっと眉根を寄せた。
「ちょっともー。あんたはすぐそうやって実力行使に出ようとするわね!」
「当たり前。その方が俺が楽できる」
「うわ、最悪……」
「ふふ」
言い合う二人を見ながら、ミヒャエロが柔らかく笑う。ケイッティオは首をかしげてその横顔を見つめた。
「なあに」
「ああ、なんか嬉しいよね、こういうの。つい最近までさ、こんな風にみんなで集まって……って、想像できなかったんだ。争いあうのかなって思ってた」
「そう……そうね」
ケイッティオも静かに頷く。
「それで、結局どうするつもりだよ」
モンゴメリが先を促す。
「元々、軟禁されているあいつらを連れ出すためにここまで来たんだろ。話し合いにやつらがやすやすと応じるとは思わないんだけど」
「それは…あたしもそれは思ってたけど…」
ギリヴが唸る。
「ケイッティオはどう思うの?」
ミヒャエロが優しくそう言った。
「あなたこそどうなの」
ケイッティオはミヒャエロを見つめた。
「おれ? おれは別にどうでも構わないよ? みんなに合わせる」
その返答に、ケイッティオは思わず小さな嘆息をついた。
「またそうやって人任せにするんだから」
「あはは」
あまり反省していない風でミヒャエロが頬を掻く。
ケイッティオは口を引き結んで考え込んだ。強硬手段に出るのは一見容易いが、ギリヴの言うとおり、サラエボの人々に恐怖を植え付けてしまうかもしれない。それでなくとも、敵が攻めてきたと怖がって心を開いてくれなくなってしまうのではないかと思う。かと言って、話し合いをしても、二人を正当に連れ出す理由をうまく思いつかない。正直に話してしまえば六人は一緒にいないとだめだから、という単純な理由でしかないのだが、そのあたりを説明するのにも、人間に余計な真実を伝えなければいけない。そしてそれはとても残酷な真実だ。今まで信じていたものがまやかしだったと知った時、彼らがどれほど絶望に落とされるのか想像はつかなかった。苦しい思いをするのは自分たちでいいのだ。そのために造られたのだから。彼らが知らなくていいことが、世界にはたくさん残っている。
ケイッティオは自分が口下手なのを知っているし、残りの三人も説明には向いていないと思っている。そもそも、三人ともいつもケイッティオの判断を仰ぐところがあった。それがなぜなのか、ケイッティオにはわからないのだけれど。ここにレレクロエがいたらなあ、とケイッティオは思って、苦笑した。そのレレクロエを連れ出すために、今自分たちはここに居るのだ。
「レレクロエは……」
ケイッティオは、あまり考えのまとまらないまま呟いた。
「あの人は、多分わたし達が壁を破壊して乗り込んでくるような集団だと思っているだろうし、それを望んでいるような気がする」
「ケイッティオ、それはちょっと語弊があるわよ。あの人はさらにその上で本当にそれをやったらあたしたちを物凄い嘲り笑いで罵るのよ……あの人のことだからケイッティオがそういう結論に至ることも想定済みだと思うの……」
「うん」
そうだろうなと思う。レレクロエはそういう人種だ。彼が彼にとって【退屈なもの】を虫けらのように見下していることも知っている。彼はもし自分たちが大人しく登場したら、途端に興味を無くすだろう。
ケイッティオがそう感じているだけかもしれないが、レレクロエは一人だけ特殊なのだ。
自分は誰とも違うものだと、同じものではないからと他とは一線を引き、一歩後ろから世界を眺めているような人なのである。それをギリヴは意地悪と評するし、モンゴメリはそもそもレレクロエにあまり興味がない。ミヒャエロと言えば、何か彼に対して引け目のようなものを感じているようで、あまり彼に積極的に意見しない。だから彼をよく見ているのはケイッティオとハーミオネくらいのもので、ハーミオネは「あれは子供なのよ」と言っていた。「そんなに、大した人じゃないわよ」
そしてケイッティオはと言えば、彼は何かを諦めているように感じられるのである。彼は一人でいるとき、よく表情を消している。そして、他といるときにはよく回る口が、ケイッティオといる時は黙っている。多分、自分とレレクロエは、根幹が似ている。皆の中で最後に造られた彼の、どこか隔てられた気持ち。みんなと同じなはずでいて、同じになれないとどこかで悟らざるを得ない――そういう気持ちが、ケイッティオにはなんとなくわかる。
「サラエボは、他の二つの地と比べて非力で、流行病に苦しんでいる魔の地だと誰かが言っていたわ」
ケイッティオは静かに言葉を紡いだ。
「それが本当だとすれば、ハーミオネがそれを放っておけるとは思わない。多分彼女は、今もあそこに居続けることが自分の役目だと思って囚われているかもしれない。見て、洞窟の周りに花が咲いているわ。そして岩の傷。白い傷がいっぱいあるでしょう。苔むした岩肌の古い傷よ。でも新しい傷はほとんど見当たらない……ハーミオネは、きっとこの周辺の雨を浄化しているんじゃないかしら。花を咲かせたのも、あの蔦壁を作ったのもレレクロエかもしれないけれど、でもきっとハーミオネは意志を持ってあそこにいるんだわ。だから……だから、ハーミオネの嫌がることはしない方がいいと思うの。たとえば、」
「いいように言いくるめられてるんじゃないの」
あの蔦壁を破壊する、とか――そう続けようとしたケイッティオの言葉は、モンゴメリの気だるげな声に遮られた。
「レレクロエなら、ハーミオネの正義感を煽るくらい簡単にできるんじゃない」
「つまり、またあの人がハーミオネをいいようにたぶらかしたってことね」
ギリヴはわなわなとこぶしを震わせた。ケイッティオは「あ」と小さく呟くことしかできない。また、口下手なせいでうまく説明できなかった。ギリヴの顔が赤く染まっていく。だめよ、とケイッティオは思った。まだわたし、最後まで言い終えてないわ。
「いや、まだそう決まったわけじゃないだろ」
ミヒャエロが静かに口を挟む。ケイッティオは少しほっとした。
「多分、何か考えがあってのことだと思うよ。レレクロエはおれたちが考えるよりもずっと色々抱えてるから」
「でも、でも、あの人がただの子供じみた人だってことには変わりないもの!」
「そのガキにいいように遊ばれてるからってムキにならなきゃいいじゃん」
「モンゴメリったらもう黙っててよ!」
ギリヴがかんしゃくを起こす。ケイッティオは嘆息した。こうなるとギリヴに自分の声は届かないということを、ケイッティオは経験的に知っている。
「まあ、あの岩肌の様子を見ても、ハーミオネが相当に参っているには違いないと思うよ」
ミヒャエロは肩をすくめた。
「追い詰められてるというか」
「わかった、もう許せない」
ギリヴは口をぎゅっと引き結んで飛び降りた。はは、とモンゴメリは楽しそうに笑った。ケイッティオは思わずぎゅっと眉をつり上げてモンゴメリを見たけれど、モンゴメリはどこ吹く風だ。
「あーあ。どうするの。血が上ってるじゃん。あいつも大概ガキ」
「君が相当に煽ったのもあると思うけどね」
ミヒャエロも、何とも言えない顔で呟いた。
「俺の主張は一貫してるよ。楽したい」
「あ、うん……そうだったよね」
ミヒャエロは嘆息して、ケイッティオを見た。
「どうする? 止める?」
ケイッティオは俯く。
「……人の話、最後まで聞いてくれたらいいのに」
ミヒャエロは苦笑して、ケイッティオの頭を撫でた。
「まあ、あんな岩壁で入り口を固めてたら、空気の通りも悪いよ。新鮮な空気を入れてあげるのも悪くはないよね」
いつのまにか、モンゴメリはギリヴの後を追って飛び降りていた。体力がない割に行動力だけは人並みだ。ケイッティオは口を引き結んだ。それをミヒャエロが心配そうに見つめてくるのがなんとなく気恥ずかしい。
ミヒャエロがケイッティオの手を引く。ケイッティオは頷いて、急いで二人の後を追った。
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