朽ちた世界
風が吹きすさぶ。砂埃は舞い上がって少女の頬をざらざらと撫でた。その感触に僅かな不快感を覚えながら、少女は細い指先で頬を撫でる。
見渡す限り、地平線の向こうまで白金色の砂漠が広がっている。時々、かつての文明の遺残物、建物の名残が砂の中からその角を見せている。少女が足を乗せ、立っているのもその一つだった。それさえも風化して、ともすると崩れ落ちてしまいそうだ。
雨はしとしとと水の匂いを漂わせながら降りしきっている。雨の筋が肌を引っ掻き、血を滲ませる。少女は雨の来る先、雨雲の向こう側で透ける日の光の筋を眺めた。瞼が爛れて、片目はよく見えなくなってしまった。右手で爛れた目を覆う。その手の甲も、容赦なく雨に溶かされ皮膚が削れていく。
少女は白金色の髪に、茶色と緑を滲ませたような榛色の眼をしていた。右の頬の真ん中に、小さな円形の瘢痕がある。少女の体は雨で爛れた傷も時間が立てば修復できるように作られているはずだが、その頬の瘢痕だけはどんなに時間が経っても治らなかった。少女はフードを被って、再び目を伏せた。髪に結んだ黒いベルベットのリボンは、なるべく雨に当たらないように守っているつもりだ。けれど、やはり端の方が少し雨に溶けてぼろぼろになっているのだった。 不意に、少女の髪を巻き上げるような衝撃が砂の大地に走った。空から降ってきた赤紫色の髪の少女は、片腕にはたくさんの動物の骨を抱え、もう片方の手で膝についた砂埃を払って榛色の眼の少女と向き合った。
「ケイッティオ、今日はこれ以上収穫はなさそう。帰ろ」
「そうね」
ケイッティオと呼ばれた榛色の眼の少女は大人しく頷いた。腰をかがめて、足元に置いていた形の歪な固い植物の大きな種を抱えて、立ち上がる。骨も、殻の実も、この世界では大切な資源だ。赤紫色の髪の少女は、根城に帰ると決まったせいかコートのフードを外してその鮮やかな色の頭を露わにした。見る見るうち に、その髪が溶けて、禿げ落ちていく。
「ギリヴ、何してるの。フードを被ってないとだめだよ」
「暑くっていやなんだもの。いいじゃない、どうせレグドに戻ればいくらでも回復できるんだから。あたしは風を感じる方が好きなの。フード被ってたら、音が籠って気持ち悪い」
「痛いのは一緒なんだから、無理してそんなことする必要なんてないのに」
「痛みのわからないあんたがよく言うわよ。いいの。いいのったらいいの!」
ギリヴと呼ばれた赤紫色の髪の少女は、髪よりも少しだけ暗い赤紫色の眼を細めてにっと笑った。彼女が不器用な手で編んだ短い三つ編みの房の片方が、どろりと溶けて地面に落ちた。ギリヴは何がおかしいのか、くすくすと笑いながらその房の端に結ばれた髪紐をとって、コートのポケットに入れた。
ケイッティオは振り返って、白む地平線の向こうを見つめた。目覚める前に見た、柘榴色の目の鋭さが、今も気になっている。
あの人はどこにいるのかな、と思ったら、少しだけ胸がちくりとしたような気がした。ケイッティオは頭を振った。
私が、痛みを感じるはずがない。
✝
レグドと言うのは、この雨に侵された大地に残された三つの水場のうちの一つだ。レグド、マグダ、サラエボ――その三つの土地に散らばって、人々は生きている。雨に晒されないように、今もなお少しずつ雨で削られ続ける石の洞窟の中で、いつか洞窟が崩れる未来に怯えながらひっそりと生きている。
ケイッティオとギリヴは、そのうちのレグドで目を覚ました。棺から体を起こしたとき、人々は泣き叫んで二人の目覚めを尊んだ。人々の話では、二人はこの荒廃して久しい世界を救ってくれるはずの、六人の救世主のうちの二人なのだそうだ。かつての世界で一人の
――【いつか遠くない未来、六人の使徒が世界に降り立つ。彼らは新たな大地を創造し、我々を
他の四人は、残りの二つの土地で眠っている。ケイッティオには救世主というのはよくわからなかった。目が覚めた時、意識がもうろうとして昔のことをよく 思い出せなかった。ギリヴも同じようだった。ギリヴの第一声は、ケイッティオにとっては印象的だった。――「あれ、三つ編みが綺麗」
ギリヴは眠そうに瞼を擦りながら、不思議そうに首を傾げていた。ギリヴは、自分の癖のある短い髪が、綺麗に二つの三つ編みに編まれていることをとても喜んでいた。けれどそのささやかな倖せは、外に出た途端にぐしゃりと踏みつぶされてしまった。雨は、ケイッティオとギリヴの肌を傷つけ、髪を溶かした。髪がほとんど抜け落ち爛れた頭皮を撫でて、ギリヴは溜息をついた。――「あーあ、編み直さなきゃ」
レグドに戻って、ケイッティオはようやく、自分たちが救世主と呼ばれる所以を知った。普通の人間なら雨によって受けた外傷は簡単には治らない。膿んで、四肢を切り落とさなければならない人だっていた。けれどケイッティオとギリヴは、ほんの少しの時間が経てば肌も髪も修復して、雨に打たれる前の傷一つない 姿に戻るのだった。二人の傷が治るのを見て、人々は歓喜した。
「レグドの水源はもうすぐ底をつこうとしています。我々は他の水源を求める必要があるのです。ですがこの雨の降りしきる中、マグダやサラエボまで誰も辿りつくことはできず、滅びを待つのみでした……救世主様、どうか私たちを助けてください。マグダやサラエボを私達の手に」
どうせ歩いて行けない場所の水を、どうしてほしがるのだろうとケイッティオは思った。けれど、それを拒む理由もなかった。ギリヴはあまり興味がないのか、三つ編みを編み直すことに躍起になっていた。ややあって、目覚めた時よりはずっと不恰好な三つ編みになったが、ギリヴは妥協したようだった。なんとなく、ケイッティオは彼女の最初の髪は、誰か別の人が編んだのだろうと思った。
近場のマグダを目指して、二人は肌を爛れさせながら砂と瓦礫の山を歩いた。ギリヴはケイッティオとは違って身体能力に秀でていた。空高く跳ぶことができたし、ケイッティオでは動かせないほどの固くて重い瓦礫も片手で壊すことができた。
「あたし、【破壊】の使徒だったと思うのよ、確か。おとうさまがそんなこと言ってなかったっけ」
崩れた瓦礫が砂埃を巻き上げるのを手で払いながら、ギリヴはぽつりと呟いた。ケイッティオはその傷だらけの横顔を見つめながら、ゆるゆると頷いた。
マグダを目指しているうちに、少しずつ記憶は戻ってきていた。今は救世主と呼ばれる自分達を作った人がいたこと。その人は、自分達を【
――『人間はその強欲で、いつだって未来を切り拓いてきた。強欲は悪いものじゃない。その欲に秀でたお前達なら、きっとただの人間以上に未来を切り拓ける。そうしてお前達は、生き残った人類を救うんだ。……もう何もなくなった、滅びを待つ終焉の世界で』
彼に頬を挟まれ、その血のような目で見つめられたときのことを思い出して、ケイッティオはふと爛れた頬を撫でた。指先で、頬にある黒子のような硬い瘢痕を手慰んだ。
「あんたは【強奪】の使徒だったでしょ。違う?」
ギリヴはぼうっとし続けるケイッティオにそう声をかけた。
「あんたの力の性質は、【痛みを奪うこと】。だからあんたは、自分の痛みにも鈍くて、あたしみたいに雨が痛い、ひりひりするって弱音を吐かない。痛さを感じにくいんでしょ。それってうらやましいなあ。あたし、壊すことしかできないんだあ。こんな風にさ」
ギリヴはそう言って、目の前の邪魔な瓦礫を再び壊した。巻き上がる砂埃に、ケイッティオは眉根を寄せて目を閉じた。
二日を過ぎる頃には二人の肌は、骨が見えるほどにぼろぼろになっていた。皮膚と肉の隙間から覗く、輝く青い骨をケイッティオは無感動に眺めた。切り落とされた人間の足の断面に見えていた骨は、白かったように思う。血で赤く染まっていた。自分たちの骨は、宝石のように青くて、やはり人間じゃないんだなあとぼんやり思う。どうしてそんなことを気にしたのか、自分でもよくわからなかった。感傷なんて感じるはずがないのに。わたしは、強奪の使徒、だから。
空洞になっていた瓦礫の中で、二人はしばらく体を休めた。ケイッティオに比べて、ギリヴの回復は遅かった。「相手を壊す力に長けている分、自分を治す力 はお粗末なのよ。ね、笑えちゃうでしょ? 何かを傷つけるやつは、痛みを与えるしか能のないやつは、せいぜい痛みに苦しんでいればいいって誰かに言われてるような心地だよ」――ギリヴはそう言って、荒んだ目で笑った。太陽が翳って、空は赤く染まっていた。まるでギリヴの眼のようだとケイッティオは思った。 青と橙と桃色が混じって、空はギリヴの色を隙間に滲ませていた。
その日は月が無く、日の光の潰えた晩は夜目が効かないから、二人は夜が明けるまで瓦礫の下で過ごした。人間とは違う二人は、一度棺から目覚めてしまえば 決して眠くもならなかった。何時間も待ち続けるのは退屈だった。ギリヴは何度ももぞもぞ身体を動かして、暇そうに溜息をついた。ケイッティオは星のまたたきを数えていた。途中で飽きて、眠くはないけれど目を閉じて風と雨の音を聴いていた。ざり、ざりと砂を擦るような音がして瞼を開けると、ギリヴが薄明かり の下で石の尖端で砂の上に絵を描いていた。ギリヴは絵が下手だとケイッティオは思った。二人でしばらく絵を描いているうちに、なんだか楽しくなって、二人はたくさん笑った。
空が透き通る青さを取り戻し始めた頃、二人は出発した。今度は、その方が移動が速いからとギリヴがケイッティオを抱きかかえ、何度も大地を蹴って跳躍した。ギリヴが大地を強く蹴るたび、二人の身体は放物線の軌道を描いて空に昇り、落ちていく。びゅんびゅんと吹きすさぶ風は、ほんの少し雨を飛ばしてくれて いるようだった。前日よりはずっと傷を負わないまま、二人は眼下にマグダの洞窟を見つけた。二人で顔を見合わせて、花咲くように笑った。けれどその瞬間、黒く輝くオーロラのような帯が縄のように伸びて爛れたギリヴの足首を掴んだ。ギリヴは悲鳴を上げてケイッティオの身体を手放した。ケイッティオは自分にかかる重力を【奪い】、空に浮いたままギリヴが黒い靄に引きずられるのを呆然として見ていた。黒いオーロラの帯は先端にギリヴをぶら下げたままぐるんぐるんと回旋した。ギリヴの身体は何度も洞窟の壁にぶつかって、赤い血が跳ねた。ケイッティオはその場からふわりと落下し、両手を翳して黒い帯を掴んだ。オーロラは水飛沫が跳ねるように散らばって、消えた。
体が自由になったギリヴが、足を押さえたまま咳込んだ。吐き出した唾は血で赤く染まっている。ギリヴの足は折れていた。ケイッティオはギリヴを抱きしめて、オーロラの起点を睨んだ。捨てられた子供のような、琥珀色の眼と視線がかち合った。
その少年は、煙るような金髪を風になびかせた。雨の雫がその髪をはらはらと千切って、砂金のように空を煌めかせた。【混沌】と【秩序】を司る使徒――あの黒いオーロラは、彼がその力を組み合わせた武器なのだと、ケイッティオは察した。
「ケイ……ティオ」
少年は掠れた声で呟いた。そのまま目と頬にのろのろと指を這わせる。少年の唇はきゅっと釣り上がった。
「ケイッティオ! 会いたかった……」
「こんなことする人になんか、会いたくないわ、ミヒャエロ」
「なんで……」
ミヒャエロは呆然としたように呟いた。
「だって……だっておれは、使徒だから……ここの人達に頼まれたから……この水源を、レグドから守ってくれって」
「まだ何も攻撃していないのに?」
ケイッティオは棘のある声で言った。
「え?」
ミヒャエロは目を見開いて、きょとんとした。
「ケイッティオ、何を言ってるの?」
「操り人形みたいに、だまくらかされたんだろ」
ぼそりと、低い声がミヒャエロの後ろから響いた。小さな声だったはずなのに、まるで意識を惹かれてしまうような音だった。ケイッティオは目を見開いた。鼓動がとくとくと速くなった胸をそっと押さえた。
ミヒャエロの後ろからは、フードを被った少年がもう一人、姿を現した。そのフードの奥に、目が隠されてしまうほどに長い紫色の前髪が見える。ケイッティオはふるりと体を震わせた。先刻から、体が自分のものでないような心地だ。まるで綿毛みたい……そんなことを思い戸惑いながら、口を開く。
「モンゴメリ……あなたもここにいたの」
「いちゃ悪いかよ」
紫色の髪の少年――モンゴメリは、抑揚のない声で答えた。
「……っ、は、じゃ、じゃあ、サラエボにはレレクロエとハーミオネがいるってことね。は、ややこしい」
ギリヴは咳込みながら、にやりと笑った。
「お前ら、騙されてんだよ」
モンゴメリは嘲るように言った。
「お粗末。まだ何も攻撃していない? よく言うよ。お前らが目覚めるまで、レグドの人間がどれだけこの場所を攻撃してきたと思ってんだ。飛空艇に乗って、爆弾を落としたい放題落として、てめえの目覚めた場所が、雨の跡以外の傷が無いって気づかなかったのか? ここの外壁が不自然にひび割れてることに気づかねえかよ。これ全部、お前らの守ろうとしてる人間様がやったんだよ」
モンゴメリは唇を噛んだ。
「俺の……俺がいるせいで、俺の力のせいで、レグドの人間の悪意がこの場所に集結するんだよ。だからここは、俺が目覚めるずっと前から攻撃され続けて来てんだよ。ミヒャエロがやっと目覚めたから、何とかミサイルを飲みこんで、互角に戦えてるだけだ」
「【混沌】の力をこんな風に具現化して、この中にミサイルも生物兵器も飲みこんでるんだ。ほら、おれの身体ってどんな毒を飲みこんでも死にやしないだろ。だから自分の体内で、飲みこんだもの全部代謝してる。おれの取り柄の一つって、回復が早いことだしね」
ミヒャエロは、手の平から黒いオーロラの帯を出して、はためかせた。
「え……?」
ギリヴが擦れた声を零した。
「な、にやってんのよ、ミヒャエロ。いくら死なないからって、そんなことなんで――」
「だって、頼まれたから」
ミヒャエロはくしゃりと笑った。
「ここを守ってくださいって頼まれたから。でも、戦えるのっておれしかいないからさ。ここの軍事力はレグドに比べたら規模が小さいし、おれが応戦した方が効率もいいよ。君達だってそうでしょ? だから来たんだよね」
「わたし……わたし達、レグドとマグダが戦っているなんて、知らなかったの」
ケイッティオは小さな声で言った。モンゴメリが鼻で嗤った音が聞こえた。
「ただ、水をとってきてください、マグダの水源をくださいって言われたから……」
「マグダにも人間がいるのに? 飲み水が不足してるのはどこも一緒だよ」
ミヒャエロは悲しげに笑った。
モンゴメリは舌打ちした。
「だから、てめえらは利用されたんだよ。飛空艇を出すにしろ、それは人間様が何かしら危険にさらされるってことだろうが。こんな雨が降る大地で、何が起こったっておかしくないだろ。でもお前らなら雨に打たれたところで死なない。すぐ回復するし、犠牲にするには持って来いだろうが。お前らは、やつらの代わりに俺達と戦争して来いって言われたんだ。馬鹿が」
モンゴメリは唇を一層強く噛んだ。その血色の悪い唇から、赤い血が滲んでいるのを見て、ケイッティオは胸の奥がほんの少し痛んだような心地がした。
「人間なんざ、守る価値もねえよ。勝手にくたばればいいんだ」
「モンゴメリ」
ミヒャエロが窘めるように振り返る。
「だって、じゃあ俺はどうすればいいんだよ。【魅了】の力のせいで、ここに居るだけで悪意を集める。この場所は一層攻撃されるし、ここに居るやつらだってどんどん他の土地への悪意を募らせてるじゃねえかよ。じゃあ俺はなんなんだよ。人間滅ぼすためにいるのかよ!」
後の方は、まるで悲鳴のようだった。ケイッティオはモンゴメリを見つめ続けた。この場所で、どれだけ彼が苦しんだのか、ケイッティオにはわからないの だった。頑なに目を隠し、棘のある言葉を吐き続ける彼が、どれだけ傷ついているのか、痛みに鈍い自分には、わからないのだった。
それが、少しだけ、苦しい。
「あんた達、あたし達より前に目覚めてたの」
ギリヴがぽつりと呟いた。ミヒャエロは頷いた。
「うん。二ヶ月くらい前、からかな」
「そう……」
ギリヴは疲れたように言った。
「じゃあ、ハーミオネとレレクロエも、目を覚ましてるかな」
「多分ね。多分、一番起きるのが遅かったのは君達二人だよ。サラエボはあの二人が目覚めてから籠城を決め込んでる。あの二人は【修復】と【浄化】だから、あの二人だけであの場所は雨の被害からもある程度守られるんだと思うよ。なら、もうおれ達と無闇に争う必要はないだろ? 自分たちの居場所を守ってさえいれば。レグドの戦意はモンゴメリに引きずられてここにだけ集中してるし、ここはレグドの攻撃を迎え撃つので精一杯。サラエボは皮肉にも守られてる」
「そう。でも、だとしたらあの子達も、人間に利用されてるのね」
ギリヴはぎらぎらとした眼差しで、地面を睨みつけた。ミヒャエロは手をひらひらさせた。
「人間を守るのが、おれ達の仕事だろ」
「守るのと、戦争の道具にされるのは違う。あたしは、あの二人が自分の意思でサラエボに留まっているのか、利用されているだけなのか知りたいだけ。それに……」
ギリヴは目を上げた。
「おとうさまも言ってたじゃない。あたし達は六人で一つ。六人でバランスを保ってる。だから、今のバラバラな状態はよくないはずだよ。現にモンゴメリの力が偏って、弊害が出てるじゃない」
「じゃあ、なんで棺をばらばらの場所に安置したんだよ」
モンゴメリは低い声で唸った。
「おとうさまの考えなんてあたしにはわからないわよ」
「じゃあ、その考えに従う必要もないだろ」
「じゃあ、それ以上の解決策があるっていうの!」
ギリヴはぎらぎらとした目でモンゴメリを睨みつけた。赤紫色の髪の毛が、ぶわりと逆立ったようにケイッティオには見えた。
「二人に会いに行くのは……賛成だよ、おれは」
ミヒャエロは、悲しげな眼差しでギリヴを見つめた。
「せっかく六人で生まれたのに、争いあうのは悲しいよ」
「そう。じゃあ、そうしましょ。異存があっても聞かないわよ!」
ギリヴはモンゴメリを睨んだ。ケイッティオは、不安な気持ちでギリヴを見つめた。ギリヴの感情の起伏が激しい。傍目に見ても、ギリヴの思考が攻撃的にな りすぎていることはわかった。ケイッティオはギリヴを呼びとめて、そっと腕を引いた。ギリヴはケイッティオの眼をしばらく見つめて、ようやく呼吸を落ち着けた。
「力を暴走させてるのは、そっちもだろ」
モンゴメリは、ぼそりと呟いた。
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