第13話『ノーサイド』

あれから一週間程経った昼休み、わたしは七海から再び中庭のベンチに誘われた。


「今日の放課後に決めたよ」


七海がわたしの目を見て言った。

七海、いよいよ智史に告白するんだね‥


「そう‥」


「学校来るの三人一緒だけど、もうそれも終わりにしようと思う」


「そうだね‥」


「わたしが告白して返事がオーケーだったら、夏希も終りにしてくれるよね?」


「もちろん‥そんなの当たり前だよ」


「かなりドキドキするよね、緊張するな‥」


「七海は告白とかしたことあるの?」


わたしは七海に質問した。


「あるよ‥」


「そうなの?告白される方が専門かと思ったよ」


「ハハハ、もう随分昔のこと、中二の時にね、こう見えてあの頃は全然目立たない子だったんだよ‥」


「そうなの?それって、にわかには信じられないな」


七海の言葉にその頃の七海をまったく想像出来なくてそう答えた。


「夏希は?」


「わたしは告白なんてしたことないよ」


「告白されたこともないの?」


「‥」


「あるんだね?それって都司君なんでしょ?」


「‥」


「図星だね、やっぱりな‥」


「何でそう思ったの?」


「だって都司君の夏希を見る目がね、一年間同じクラスにいたんだから気がつくよ、もちろん夏希にその気がないのもね」


「七海‥どうして?」


「だって、都司君と話してる夏希って、そういう感じがしないんだもん、そんなの親友なんだからすぐにわかるよ」


わたしは七海に初めて自分の想いを言葉にした。


「わたしは智史が好きだから‥中学の入学式の日に初めて会った時からずっと智史が好きだから‥生まれて初めて好きになった人なんだ」


「そんなに大好きな神谷君とどうして?」


「それは‥わたしが智史を裏切ったから‥」


わたしは七海に全てをを話すことにした。


「‥」


七海は黙って話を聞いてくれた。


「‥だから智史はわたしを避けていた、そしてわたしを許さないんだ‥」


「そっか‥そんなことがね、でも夏希と神谷君ってすごく仲良かったんでしょ?」


「そうだね‥」


「それだけ夏希を信じてたってことなんだね‥その分、彼のショックは大きかった‥」


「‥」


「まあいいや、わたしはわたしの気持ちを全力でぶつけるだけ‥それだけ、正々堂々ちゃんと夏希には言ったからね!」


「うん、本来なら親友として応援してあげたいんだけど‥それは出来ない」


「わかってる、夏希が神谷君とのこと話してくれたから‥わたしは夏希の気持ちもわかるよ」


「ありがとう‥七海」


「でも不思議だな、まさか夏希と同じ人を好きになるなんてね」


七海がしみじみとわたしに言った。


「本当‥そんなこと考えもしなかった」


「それも明日になったらもう終り、ノーサイドだからね!」


「ノーサイドか‥」


わたしにとってはゲームセットなのかも知れない‥


「さて、お弁当食べようよ!」


そう言って七海はいつもの笑顔を見せた。


お弁当を食べ終わって教室に戻ると、七海は智史に声を掛けた。


「神谷君、ちょっといいかな?」


「何だい?」


「放課後、部活の前に悪いんだけど少しだけ時間もらえるかな?」


「時間?‥」


「うん、話したいことがあるんんだ」


「話したいこと?‥そっか、わかった」


そう言って智史は頷いた。


午後の授業が終わると、智史と七海は二人で教室を出て行った。


わたしは二人の背中をただ黙って見送るしかなかった。


智史は七海の告白にどう応えるんだろう?

わたしは部室に向かって廊下を歩きながら、今までの智史との思い出が走馬灯のように頭に浮かんできた。


ずっと一緒、そう思っていた智史が、初めて会った時からずっと好きだった智史が、親友の彼氏になってしまうかもしれないんだ。


わたしはどうしようもない絶望感にさいなまれながら廊下を歩いていた。


永遠に明日が来なければいいのに‥そう思った。



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