第12話『恋愛対象』
翌日の朝、わたしが駅のホームに上がると既に智史は来ていた。
昨日約束した通り、わたしを待っていたんだ‥
「おはよう夏希、ちゃんと来てくれたんだ」
「そりゃ‥智史が待ってるって言うから‥」
智史が待っていてくれたことが嬉しかった。
まるで何も無かったようにあの頃のように話をしてくれる智史にわたしはどう向き合えばいいのだろうか‥
わたしは許された訳ではない。
それは智史への想いをハッキリ口に出して伝えても拒絶されるということを意味している。
一緒に学校へ行ける‥それだけで嬉しい筈なのに、わたしは欲張りなのだろうか?
そんなことを考えながらいつもの急行に乗って車窓から流れる景色をボンヤリと見ていた。
「何を考えてるの?」
智史の質問に、
「色々」
「色々って?」
「色々は色々だよ」
わたしはそう答えた。
「そっか」
「智史は何考えているの?」
今度はわたしが智史に同じ質問を返した。
「俺も色々かな‥」
智史はそう答えた。
「ねえ、七海のことどう思う?」
「どうって?恋愛対象としてどうかってこと?」
「うん、そう‥」
わたしは小さく頷いた。
「夏希にそれ答える?」
「‥」
「恋愛対象だと思うよ、可愛いし、優しいし、ちょっと気が強そうだけどね‥」
そっか‥恋愛対象か、わたしは?って聞いたら何て答えるのかな?
「夏希は?夏希はどんな奴がタイプなんだ?」
それをわたしに聞くかな‥わたしは智史以外、誰かを好きになんてなれないよ‥
「どんなって‥智史にとってわたしは恋愛対象なのかな?」
わたしは思い切って智史に質問をぶつけた。
「俺は振られたんだよな‥」
わたしはその言葉に思わず下を向いた。
やっぱり聞かなければよかった‥
智史は、智史はわたしを許してくれない‥
これから先も、多分永遠に許されることはないんだと思った。
「夏希‥夏希がまだ恋愛対象なのかどうか、俺はその答えを探しているんだ」
「智史‥」
わたしは顔を上げて智史を見ると、智史は少し苦しそうな顔をしていた。
「だから夏希と一緒に学校へ行くし、話もするんだ、そうすることで答えが見つかると思ってる、答えが出たら真っ先に伝えるよ」
智史が少しだけ苦笑いを浮かべてわたしにそう言った。
「うん‥わかった」
わたしも作り笑いを浮かべて頷いた。
智史が心のままにわたしと向き合うと言った意味がようやくわかった。
智史は自分を探してるんだ‥
わたしなんか必要としない本当の自分を‥
急行は程なく学校がある駅に到着した。
ホームに降りて改札に向かうと七海が待っていた。
「おはよう神谷君!夏希もおはよう!」
「おはよう遠野」
智史が七海に挨拶を返した。
「七海おはよう」
わたしも挨拶を返した。
智史を真ん中にしてわたし達は学校へ歩き出した。駅前のロータリーを渡ると、
「智史!七海!わたし先に行くね!」
そう言ってわたしは走り出した。
「夏希!待ってよ!」
七海の声が背後で聞こえた。
その言葉を無視してただ走り続けた。息が切れて苦しかったけど、智史の傍にいる方がよっぽど苦しいかった‥
だから‥わたしは智史から逃げた。
昼休み、七海にお昼を誘われてわたしと七海は中庭のベンチにいた。
「今朝はどうしたの?」
七海が心配そうに言った。
「わたしは智史と電車が一緒で二人っきりだから、七海にも同じように智史と二人っきりになる時間を作ってあげたんだよ」
わたしは七海にそう答えた。
「随分と余裕があるんだね?それとも諦めたの?」
「余裕なんて無いし、諦めてもいないよ」
「じゃあどうして?」
「わたしは智史から逃げたんだ‥」
「どうして逃げなきゃいけないの?」
「智史は自分を探してる」
「自分を探してる?」
「わたしを必要としない自分を探してるんだよ」
「そうかな?神谷君、寂しそうだったよ、夏希がいなくなった後‥」
「それでも智史はわたしを許さないよ」
「そうかもね‥確かに神谷君は悩んでる、それは夏希を取り戻そうとしてるのか、忘れようとしてるのか、わたしにはわからない、けど、わたしは神谷君に自分の想いを伝えようと思う、どんな結果になっても‥もし、神谷君が夏希を忘れようとしているのなら、わたしがキッパリと忘れさせてみせる」
七海がハッキリとした口調で言った。
「七海‥それでいいと思うよ」
「神谷君に告白する時は必ず事前に夏希に伝えるから、だから夏希も告白するんだったらわたしに伝えてね」
「わかったよ」
わたしは七海に頷いて答えた。
いよいよわたしと智史の関係に結論が出てしまう‥その日が近づいているんだ。
わたしは憂鬱な気持ちを紛らすために中庭のベンチに座りながら空を見上げた。
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