2-6:染戦1
時は放課後。ミライ、マモリ、ライチの三人は校舎屋上の扉を開く。
「お待ちしておりました。空地先生、それと弟子のみなさん」
金峰 香希音、つまりカキネは、大仰に挨拶をした。
「まあまあ、お互いの素性は知っているのですから、堅苦しい挨拶は不要ですよ、カキネさん」
ライチは警戒を解かずに言葉で牽制する。ミライとマモリも、ライチの後ろで身構える。
「まあ、それもそうですね。私が”
「ええ。そして、リッカちゃんを狙っているということも」
「そこまで分かっているなら、私を止めに来たの?」
「いや……」
ライチの言葉に続いて、ミライが言葉を放った。
「どうして、リッカを狙うんですか?」
「どうしてですって?彼女が危険だからよ」
「危険……?」
事情を飲み込めないミライに、カキネは説明を続ける。
「彼女の魔力はとても特別で危険なの。もしも黒魔法使いにそそこかされて黒魔法に目覚めたら、それこそ取り返しがつかないことになるわ。だから、その前に漂白しなければならないの」
「でも、漂白したらリッカは」
「そう、心は死ぬわ」
カキネは淡々と答える。
「それじゃあ、リッカを殺すってことじゃないか!?」
「でも、彼女を放っておいたら黒魔法使いが目をつけるわ。そして、大きな被害を生むことになる……彼女一人の命よりも、ね」
「だからって!」
「だから何?キミはどうすることもできないじゃない」
「くっ……」
カキネの言葉に、ミライは言い返せない。彼女の言葉はその通りで、それを覆す理論がないのだ。
「いや、できるさ」
口を開いたのはライチだ。
「どういうこと?」
「ミライ君がリッカちゃんを守るってことさ。彼ならそれができる」
「へぇ……アンタがそういうんだったら、そうかもしれないわね」
カキネはしばし吟味して言葉を選ぶ。
「え!?ライチさんってアイツと知り合いだったの!?」
マモリが驚く。
「ま、腐れ縁みたいなもんさ。いろいろとね」
ライチは飄々と答える。
「でも、言葉だけじゃ信用できない」
そう言うと、カキネは腕を伸ばし。掌をミライに向けた。魔法使いが魔法使いに掌を向ける。これは、合意の上での染戦の合図である。
「その力、証明してみなさい。もしそれだけの力があるなら、漂白は見送りましょう。もちろん手加減はしてあげましょう」
「わかりました……!」
ミライはカキネの掌に腕を伸ばす。
「待った!」
ライチが止める。
「ミライ君は魔法に目覚めたばっかりだ。僕達の援護を認めて欲しい」
「それもそうね。いいでしょう」
カキネは快諾した。
「よし、いいかい?これからキミは一対一で金峰先生と染戦をする。だけど、俺とマモリが分体になって支援するから、いつもどおり戦えばいい」
ライチはミライの右肩に手を乗せる。
「あたしもサポートするからね。しっかりやんなよ!」
マモリもミライの左肩に手を乗せる。
「うん、わかったよ……!」
「では、手を」
カキネの言葉に従い、ミライは手を合わせる。意識が、心の世界へと沈んでいく。
◆染戦開戦◆
ミライの意識が目覚めると、いつもの公園があった。これはミライの心理世界だ。一方、少し離れた位置からは空間がいびつに繋がるように。カキネの心理世界が退治していた。もちろん、カキネもそこにいる。
カキネの心理世界は、まさに病室だった。清潔潔白そのものであり、一切の汚れを許さないといった気概を感じる。
「では、力を見せてもらうましょう……”滅色!”」
カキネが呪文を唱えると、病室から無数の包帯が飛び出し、ミライに襲いかかった!
ミライは青いカードを手に取り呪文を唱える!
「”渦巻いて絡みとれ『水』!”」
カードから水流がほとばしり包帯を飲み込まんとする。だが!
包帯は軌道を変え水を避けてミライに迫る!
「”衝撃炸裂『爆発』霧散!”」
ミライの後ろからマモリ声!その呪文に答えて包帯は崩壊し霧散!
「だから気をつけなさいって言ったでしょ!?」
「マモリ……え……?」
ミライが振り返ると、そこには手乗りサイズの赤いドラゴンが飛んでいた。
「もしかして、マモリ?」
「そーよ!援護するって言ったでしょ!?」
マモリドラゴンはパタパタと羽ばたきながらミライに言った。
「俺もいるからね」
ミライの足元で、紫色の猫が言った。
「その声はライチさん?」
「ああ、そうだよ。さあ、次の魔法が来る。俺たちの援護は数が限られている。だからあまり頼りにしないで、自分の力を見せつけるんだ!」
「自分の力って言っても……」
ミライは迷うが、カキネはそれを待ってはくれない。
「”消色!”」
カキネは純白のナース服を身にまとい、ミライに突撃!
「くっ!”渦巻き守れ『水』!”」
ミライが青いカードを掲げると、ミライの周りに水の渦が立ち上った!全方位ガードだ!
「こんな水、どうということはない!」
カキネは渦に突っ込み突破!ミライの目の前に迫る!だが、その時だ!
「”水流『爆発』衝撃放射!”」
マモリドラゴンが呪文を唱え、水の渦が爆発!
「ぐあっ!」
カキネが吹き飛ばされる!
「マモリ、ありがとう!」
「残念だけど、あたしはここまでね。あとはアンタの力で頑張って!」
分体の力を使い切ったマモリドラゴンが消えていく。
「いまだ!畳み掛けるぞ!」
ミライの足元でライチネコが吠える!
「よし……!」
ミライは橙のカードを手に取り、呪文を唱える。
「”思いと想いをぶつけろ『記憶』!”」
その言葉にカードが応え、鋭い光がカキネに向かう!
「これは、まさか……!」
カキネはその魔法に魅入られ、そして……光が直撃した!
橙色の光に包まれ、カキネはミライの覚悟を見た。
「そ、そんなまさか!記憶の魔法を……!そんな……!」
カキネを包む光が広がり、心理世界を塗りつぶした。
◆染戦閉戦◆
ミライ、マモリ、ライチ、そしてカキネは目を覚ました。さきほど手を合わせてから数分も立っていない。
「わかったわ。あなた達の力を認めましょう」
カキネはそう言うと、一歩引き下がった。
「それじゃあ、リッカは……」
「ええ、漂白の準備は一旦ストップするわ。リッカさんを、あなた達に委ねましょう」
「本当にいいのかい?」
あまりにも潔いカキネに、ライチが問いかける。
「良いのです。私が漂白するのは、黒魔法に染まった時の危険を避けるためなのですから。あなた達がいれば、リッカさんの心配はないでしょう」
「よかった……」
ミライが安堵の声を漏らす。
「ただし、今は見逃すということです。ですから黒魔法使いを倒すために協力はしません。万が一、自ら黒に染まる可能性があれば、その時は強制処置を行います」
カキネは淡々とそう告げた。
「はい……」
ミライは不安を隠せない。
「ダイジョーブだって!リッカちゃんはそんな悪い子じゃないでしょ?」
マモリがいつものようにミライを元気づける。
「うん……そうだよね……」
「さて、そうと決まったら、次は黒魔法使いの対策だ。もしかしたら俺達を何処かで見ているかもしれないからね」
「そーだよね!がんばろー!」
「はい!」
ライチの言葉に、マモリとミライは元気よく応えた。
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