第14話 合格の基準

「さて、そろそろできたころかな」


 俺は即席で作った椅子に座りながら、画面から地図を開けてみてみる。

 緑が6グループに分かれていて、赤も4グループに分かれていた。

 えらく早いものだ。

 普通ならあと数分はかかっても仕方がないと思っていたのだが。


「早速クエストクリアだな」


 俺はさっそくアイテムを転移させて与える。

 中身は回復系のポーションだ。

 ポーションはそこまで希少ではなく、魔法店などに行けば売っている代物だ。


「しかし、俺もお人よしだよな」


 クエストにわざわざ〈グループを作ること〉なんて入れたのには理由があった。

 それはもちろん俺ことだ。

 なんせ俺はこの時代ではありえない力を持っている。

 だから、俺が誰かと組んだりしたら誰も倒せないだろう。

 つまり、一人だけだからグループになる相手がいない。


 俺はクリアできない。


 すると2チームだけがアイテムを得ることになる。

 これで対等に戦えることができるだろう。


「まあ、楽しめたらいいか」


 俺は自分を転移させた。

 そろそろ、線上に顔を出さないと怪しまれるからな。

 転移先は木の下に。


「さて行くか」


 俺は剣を腰にしっかりとあるのを確認して、赤チームの方へと近づいて行った。


 -----------------------------------------------------------------------------------------


「早速戦ってるのか」


 地図を見ながら進んでいると、すぐ近くで戦っていることが分かった。

 思ったより早かった。

 俺はすぐにその場所に飛んで行く。

 ちょうどリフィアのグループとぶつかっているようだ。


「さて、お手並み拝見かな?」


 俺はばれないように木の上に乗り、戦いを観戦することにした。

 すでに両方とも戦闘に熱中していて、火魔法やら水魔法、風魔法が飛び交っていた。

 どちらもいい勝負をしていた。

 ただ2人しかいないフィリアのところが6人と互角なのはすごいと思う。


「主様は参加しなくていいのですか?」


 俺の後ろからふいに声がかかる。


「あんなところに出て行ったら、袋のネズミだ」


 俺はおどけて言いながら後ろにいるクロエの方を見た。

 クロエは今回は審判側なので基本見ているだけだが、戦いの戦況などを報告する仕事もある。


「むしろ、叩きのめすのでは?」


「はは、そうだな」


 クロエは俺の隣に立つ。

 ‥‥そこ木の枝の結構細い場所なのに、どうやって立っているんだ?

 俺はそんなことを思いつつ戦闘の方を見る。

 ちょうどリフィアが防壁魔法を張っていた。


「クロエ、戦況はどう見る?」


「そうですね‥‥多分、このまま戦うとやはりリフィアの方が負けるかと」


「やっぱり、そう見るか」


 確かにクロエの見立てが正解だ。

 6人で来ている相手は3人ずつ交代で戦っており、2人しか居ないリフィアのチームでは魔力が持たないのである。

 なら近接戦闘にもっていけばいいのではないかと思うが、あいにくリフィア側は戦闘術を持っている者がいない。

 まあ、魔術専門の学校なんだからそんなこと習えないが。

 多分、今張っている防壁魔法の後数分で破られるだろう。

 使っていないもう一人の方は魔力が回復して戦えるだろうが、リフィアの方は常時展開しているせいで戦えるほど回復はしない。

 つまりは持久戦に持ち込まれると間違いなく負けだ。


「どうするかな?」


「主様、流石にあの二人には無理でしょう」


「だろうな、でも今回はポーションがある」


「‥‥あれでも持つのは数分間では?」


「まあ、見ていろ」


 リフィアの防壁が破れた。

 すぐさま相手の後ろで準備していた3人が魔法を撃った。

 リフィア側のもう一人が、それを相殺する。

 ただ魔力の減りが多い。


 相手はもう一度実行しようとする、リフィアがそれに対してさらに魔法を放って阻止する。


「しかし、あんな小さい火魔法では‥‥まさか!」


 リフィアは相手側に飛ばした火魔法を爆発させた。

 気づいた相手は咄嗟に防壁魔法を使い守る。

 あたりに爆炎が広がり、粉塵が巻き上がる。


「そう、そのまさか」


 俺は地図の方を見ると、さっきまで6人いたはずの赤チームが5人に減った。


「まさかそんなことができるとは‥‥」


 クロエは驚いている。

 まあ、そうだろう。ふつうに生きていればあんなものは見れないのだから。

 そしてさらに1人減り、4人になる。

 俺は地図に載っているリフィアグループのもう一人の方をタップする。

 するとその子の情報が出てきた。


 ============================

 name:マイ

 HP:320/530

 MP:2000/750

 skill:暗殺術

 ============================


 やっぱりそうだったか。

 あの粉塵は相手の目くらましをするために起こしたもの。

 その間に、マイが暗殺術を用いて相手を戦闘不能にすると言う作戦。

 アイツら‥‥楽しめそうだな。


「主様、今、楽しそうとか思っていませんよね?」


 クロエが冷たい視線を送りながら聞いてきた。


「そ、そんなわけないだろ‥‥」


 俺はその視線から逃げるように否定しておく。

 だって、楽しいだろ!戦いは!

 俺なんて死なないから戦い以外の楽しみがないんだよ!


 クロエはため息を吐いた。


「まあ、いいでしょう。して主様、あの子は一体何者ですか?」


 俺は画面を操作してとある情報を出した。


「これを見てみろ」


 俺はマイの情報が出ている画面をクロエに見せた。


「‥‥暗殺術‥‥この世界にもしっかりと残っていたんですね」


「ああ、本人はうすうす気づいている感じだがな」


「でしょうね、鑑定眼や神眼しか見えないでしょうから」


 暗殺術。

 それは古くからある必殺の術で、相手を確実に殺す技だ。

 魔法とは違い、本人の素の身体能力を元にして力にする、つまりは魔力を一切使わずに使える技。

 クロエも持っており、俺に攻撃してきたものを排除してきたりもした。


「ああ、だからどうかなと言ったんだ」


「そういえば‥‥主様は魔眼がありますからね」


 相手のスキルが見える目なんてそれぐらいしかない。

 今回のこのシステムも俺の魔眼が主になっている。


「さて地図を見てみろ」


 俺はそう言って地図を見る、クロエも隣から見た。

 地図上ではすでに相手側は2人になっていた。


 この数秒でこれだけの実力を見せたマイには勲章ものだ。

 軍隊なら階級が上がるか。


 リフィアによって起こされた粉塵が消える。

 マイはしっかりと自分のところに戻ってきていた。


「合格だな」


 俺はそう言って、戦闘を続けようと頑張っていた、緑チーム側の前に出た。


「な!」


 相手のリーダーが驚く。


「よく頑張ったな、だがここまでだ」


「貴様一体誰だ!」


 あーそういえばこいつらの前で俺の姿を見せるの初めてだったな。

 まあ、いまさら教える気もないが。


「気になるなら終わってからマップを見るんだな」


 俺はそう言って、手を前に出した。

 緑側の二人は慌てて障壁魔法を張る。

 しかし、俺から見たらただの膜と一緒だった。


「寝てろ」


 俺はそう言って〈睡眠衝撃魔法〉を使う。

 この魔法はただ単に眠らせるだけではない。

 相手に攻撃を与えながら眠らせるのだ。

 ただ、眠らす直前に頭に衝撃がくるだけなのでそこまで苦しむわけでもない。

 これも俺が作ったオリジナル魔法だったりする。


 緑側の二人は一瞬だけ「がはっ」と息を漏らしたが、そのまま倒れて寝てしまった。

 さてと、これでとりあえず攻撃が飛んでくることは無いな。

 俺はそのまま後ろを向き、リフィアの方へと近づく。


 リフィアは完全に魔力を使い果たしたのか、地面に座り込んでいた。

 マイはその近くに行き、ナイフを出して俺の方を警戒していた。


「まあまあ、そう警戒するな」


 俺はそう言ってポーションを出す。

 カバンとかないのにどこから出したかだって?

 そりゃあ空間から。


 そしてそのポーションをリフィアの方へと投げ割る。

 マイはそのポーションを掴んで当たらないようにしたんだろうが、まあ体力が少なく暗殺術を使った後だから思ったように動かなかった。

 割れたポーションの中身を被ったリフィアは自分に魔力が戻ってくるのを感じた。

 そして慌てて画面を確認する。

 魔力と体力が全回復していた。


「これでいいだろ?」


 俺は笑って言った。


「どうして私たちを攻撃しないの?」


 マイは警戒を解かずに質問してきた。

 ますます、合格点だ。


「それは私が説明しましょう」


 俺の後ろからクロエが出てきた。


「先生」


「よく頑張りましたね、あなた達は合格です」


「「え?」」


 マイとフィリアは声を重ねた。

 クロエは説明を続ける。


「今回の卒業試験はチーム対抗戦のバトルロイヤルです。しかしルールでは相手を殺さないこと、負けたら自軍に戻ることしか言われていません。では一体何が合格基準なんでしょう」


 リフィアは言う。


「それは自軍以外の敵チームを倒したらいいんじゃ‥‥」


「それでは時間がかかると思いませんか?」


「あ」


「つまりはこの試験、私たち監督側が力を認めればその時点で合格なのです」


 全力を出すこと。

 あれは確かに俺にも言ったことなのだろう。

 しかし、それ以前にこの試合は卒業試験だ、つまりは自分の力を出し切らないといけない。

 だから全力で戦ってもらうためにポーションを与えたのだ。


「それで、あなたたちは見事合格したのですよ」


「てことは‥‥」「私たち‥‥」


「「卒業できるんですね!」」


 マイとリフィアが嬉しさのあまりまた声を合わせて言った。

 クリエは苦笑いしながらも「そうです」と答えた。

 俺はそのまま魔法陣を展開して、クロエを含んだ俺たち四人を魔法陣に入れた。


「では行こうか」


 リフィアとマイは突然出てきた、魔法陣に驚いた。


「行くってどこに?」


 リフィアが聞き返す。

 その間にも魔法陣は光を増していく。


「ん?もちろん王宮だよ」


「「え?」」


 俺は魔法陣にさらに魔力を流した。

 光が強まり転移しようとする。



「「えええええええええええええええええええええええ!!!」」




「あれ?今更だけど、俺今回戦えなくない?」


 そのあとには、リフィアとマイの叫び声と俺のちょっとしたつぶやきだけががこだました。



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