第二章

第12話 学校に入学してから4年後

 俺がこの学園に入ってから、4年の月日が経った。

 クラスメイト達は入学当初とは比べ物にならないほど魔法が使えるようになり、そこらにいる雑魚の魔物なら、単独でも簡単に倒せるぐらいにはなっていた。

 国王はその間に、私兵の隠密部隊を動かして、国内に潜む密偵と魔王軍の情報を集めてまとめていた。


 そして今日。

 この学園の卒業式である。


 全学年の生徒たちが校庭に集まって列をなしていた。

 俺はもちろん卒業生側なので卒業生の列の方に並んでいる。


「これより、卒業式及び卒業試験を開始します!」


 校長が音声拡張魔法を使って式の開始を宣言した。

 在校生たちが拍手をした。

 俺はさらっと職員の席の方を見る。

 そこには、なんと国王と大賢者がいた。


 まあ、今回が初めての卒業式だからきてもおかしくは無いのか。


「ではまず、卒業証書を贈与!」


 卒業生たちが一斉に立ち上がる。

 一番前に居たリフィアが、校長のいる朝礼台の前へと進む。

 この学校では成績のいい者から並ぶらしい。

 校長の前で一礼すると片膝をついた。


「リフィア殿、あなたはこの学園でとても良い成績を叩き出し、主席として卒業することを認めます」


 校長が手に持っていた紙をリフィアに渡す。

 リフィアはそれを受け取ると広げて地面に置いた。

 そこには魔法陣が書いてあった。

 その魔法陣は魔力を流すと色つきの花火が上に飛んで行くという仕組みだ。

 いわゆる遊び用の魔法陣である。


 リフィアはそれに魔力を流す。

 魔法陣は青色の光をともしながら回転を始める。

 魔力を流し終わったリフィアは魔法陣から少し離れてその様子を見ていた。

 校長は知っているのか次の紙を横の箱から取っていた。


 魔法陣の回転がまあまあ速くなると光を発しながら小さい球が飛んで行った。

 その球はリフィアの目の高さぐらいで止まって爆発した。

 すると緑色で1と書かれた花火が上がった。


「リフィアは緑の1だな、そのままクロエ先生の方へと移動してくれ」

「わかりました」


 校長はそう言ってリフィアをクロエの方へと移動させた。

 そして次の生徒が呼ばれる。

 卒業生は全員で200人いるので結構時間がかかると思う。

 俺は無理に校長に頼んで列の一番後ろにしてもらったので自分の番が来るのは遅い。

 自分の番が来るまで少し目を瞑って休息を取ることにした。


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 198人目が終わった。

 時間は始まった時から1時間は立っている。

 そろそろ昼時だ。

 俺は目を開けるとちょうど199人目が魔法陣に魔力を流して花火を上げたところだった。

 赤色の100が出た。


「よし、お前は赤色の100か、クロエの方に行ってくれ」

「わかりました」


 どこかデジャブを感じながら俺はその光景を見ていた。

 199人目がクロエの方に移動した。


「次、ジン」


 おっと、俺の番が来たようだ。

 俺はそのまま校長の前に移動して、立膝をついた。


「ジン、顔を上げてくれ」


 校長がそう言って俺に紙を渡した。

 俺もそれを受け取って魔力を流して花火を打ち上げる。

 花火は青色の1だった。


「そうか、今回最初の青色はやっぱりお前だったか」


 校長がそういう。

 俺はとりあえずクロエの方に移動した。


 全員が移動したことを確認した校長がマイクを持った。


「ではこれより、卒業試験を始める。合格した者のみ本当の証書を貰って学校から出ることを許されるので頑張るように」


 校長がそう言ってマイクを国王に渡した。

 卒業生たちは杖などを持ったりして準備している。

 俺は特に何もすることがないのでそのまま国王の方を見ていた。

 国王が朝礼台に上がる。

 教職員含めその場にいた俺以外の人たちが立膝をついた。


 国王は俺の方を見て苦笑いをしていたが、俺はそのまま目を瞑った。


「ここ居る勇敢な魔法使い並びに教職員諸君、顔を上げてくれ」


 在校生、卒業生、教職員が顔を上げる。

 俺の方を見て「え?」とか言っていた奴がいたが無視だ。


「今回が初めての卒業式なので色々と分からないだろうが、わしが来るのは今回限りなのでそんなに緊張しないでくれ」


 国王がそう言うと在校生たちの方から安堵した雰囲気がわかった。

 まあ、毎度毎度あんな威厳とした国王のオーラに当てられたらさすがに耐えられないからな。


「では今回の卒業試験を発表する」


 卒業生たちが息をのむ。

 まあ、これで卒業できるかできないかが決まるのだ、緊張感が高まるのも無理がない。


「今回の試験、チーム対抗のバトルロイヤルとする」


 ほう、バトルロイヤルかそれは楽しめそうだな。


「先ほどの花火の色がチームの色である、数字の方はそのメンバーの人数を現している」


 国王が説明を続ける。

 えーと、確か俺の色は青色で1だったから‥‥

 あれ?これってもしかしなくても俺、1人か?


「今回は赤チームが100人、緑チームが99人、青チームが1人だ」


 おいおい、なに普通に説明してるんだよ。

 さすがの俺も力を隠したままこの学校で魔法を習ったやつら相手にはちょっと骨が折れるぞ。


「それと、今回の戦いのルールは相手を殺さないこと、負けたものはそのまま自軍の結界に入ること、そして‥‥」


 国王が俺の方を見た。


「全力を出すことだ」


 ほう。

 俺の耳がぴくっと動いた。

 全力、それは己の持つ力量全てを出すこと、つまり力を隠さないで戦ってもいいということだ。

 ああ、だから国王は俺を敢えて一人だけのチームにしたのか。

 確かに、俺が仲間を持つと、他のチームとはまともな戦いにならないからな。


 まあ、仲間がいなくても変わらんが。


「それでは各自、これから移動する戦闘区域の自軍の色に移動して試合開始の合図を待て」


 国王はそう言って朝礼台から降りた。

 卒業生たちは同じチーム同士で集まって作戦やら、偵察やらを話し合っていた。


「はーい、赤チームの生徒はこっちにきてくださーい」


 俺らの副担任だったリーズが手を振って赤チームの生徒たちを呼んでいた。

 多分人数確認をして転移するのだろう。

 ちなみに今回の戦闘区域、もとい戦場は俺が空中に用意した森をテーマにした浮遊島である。

 転移魔法も同様だ。

 まあ、審判はクロエに任せたが。


「緑チームの奴ら!こっちだ!」


 校長が緑チームの生徒を呼ぶ。

 卒業生たちはざわざわしながら移動していく。


「ねえ、ジン君」


 俺も移動しようとした時、後ろから声がかかる。

 そこにはリフィアがいた。


「どうした?リフィア」


「え、えっとね」


 リフィアは言いにくそうにしている。

 俺は今回は自分から言ってあげることにした。

 早く戦いたいからな。


「もしかして、俺だけがどうして一人なのかと言うことか?」


 リフィアは頷く。


「それは簡単な話だ」

「どうして?」


 リフィアが首を傾げた。

 俺は言う。


「まあ、今回の戦いで分かるよ」


 リフィアはまだ首を傾げていたが、緑チームが呼ばれたので仕方なく走っていった。

 俺はクロエの方に行った。


「主様、本当に全力で戦うつもりで?」

「ああ、もちろん」

「しかし、主様が全力を出した場合、下手したら闘技場だけでなく、この世界も滅びますが?」

「おいおい、クロエ。さすがの俺も魔力を全開放して戦いはしない」

「では、何を解放するのですか?」


 俺はにやりと笑いながら答える。


「ああ、それはもちろん今の姿をだよ」


 クロエはため息をつく。

 多分、心の中で(この戦闘狂は戦いと聞くとすぐにこれなんだから)と思っているだろうな。


「まあ、安心しろ、別にこの世界を消したりはしない」

「ええ、流石に私もまだ生きたいですから」


 お前は、俺が悪魔とか思っているんじゃないだろうな。

 流石に俺もこの世界を消したりはしない。

 そんなことをしてもなんの意味もないし、俺の楽しみがなくなってしまう。


「では行きましょうか、主様」

「ああ、行くか」


 俺は地面に転移魔法陣を書いてその上に乗る。

 クロエも一緒に乗ったことを確認した。


「さて、久々の戦いだ!」


 俺はテンションを上げて飛んだ。


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 目を開けるとそこは大きい木の上のてっぺんだった。


「転移成功だな」


 俺はそう言って変装を解く。

 銀髪になり、魔導書を出す。

 運営している人と監督官が一緒とは限らない。

 木の上はある程度の面積があったので、そこに魔法陣を描いて出した魔導書を置く。


「戦闘用アルゴリズム起動」


 俺がそう言うと、魔導書が光だし魔法陣がそれに反応する、そして目の前に数枚の魔法画面が出てくる。

 画面上には各チームの居場所、この闘技場の全体マップ、そして監督している先生方の場所が表示されていた。


「さて、誰がここまで来るかな?」


 俺はそう言って笑うと、クエスト画面を開く。

 各チームの中で別れたグループのリーダーたちに、クエストと言う名の命令が伝達できるようになっていて、そのクエストをクリアして、この戦いに有利になるアイテムが貰えるようになっている。

 そのための依頼を出すためのクエスト画面だ。


 俺は画面に指を置いてスライドして、文章を入力して、赤と緑チームのグループリーダーにクエストを送った。


「さて戦闘開始だ」


 俺はそう言って、開始用の合図を送った。








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