第11話 胎動
「第一偵察部隊、陛下の御身の前に」
俺が国王の隣に行ってリドールと話していると、王の間にそんな声が響き渡った。
正面を見ると、黒いフードローブを羽織った四人がいつの間にか現れて、立膝をついていた。
ローブの背中には、この国のシンボルが刻まれていた。
「うむ、ご苦労」
国王がそう言うと、その四人はフードを取っての国王を見る。
四人のうち、二人が男で、二人が女だ。
「陛下、お話しがあるとのことで……何用でしょうか」
四人の中で、先頭に居た男が前に出て伺ってきた。
多分、彼が偵察部隊の隊長なのだろう。
どこか身のこなしが周りの仲間たちと比べて身軽だった。
国王は少し考えるそぶりをすると、俺の方を見て口パクで「正体をばらしてもいいのでしょうか?」と聞いてきた。
俺はそれを静かに首を横に振って、拒む。
理由は、俺の正体を知っている人をこれ以上に増やしたくないからだ。
俺がこの世界を去ったのは、自分の正体を知っている者達が、力を利用しようと媚びてきたり嫉妬などで要らない犠牲と気苦労が増えるのが嫌だったからだ。
ただでさえバレれば騒ぎとなりかねないのに、また姿を消すときに面倒になる。
国王は俺の返答が意外だったのか、目を瞑り口元に手を当てて考える仕草をする。
うーんと唸り始めてから数分、国王が口を開いた。
「……お前たちを呼んだのは他でもない、やってもらいたい任務がある」
「はい、一体なんでしょうか」
「お前たちは、魔王が再び出てきたのは気づいているか?」
「……ええ、それらしき兆候は掴んでいます。聖獣が住み、人が入ることが出来ないと呼ばれている聖域の森にて、不自然な魔物の集団とそれを取りまとめる長が居ました。魔王ではないでしょうが、その配下だと思います」
「我々はこれから、その魔王の配下であり、その軍勢と戦わないといけないのだ」
「そのために、再び戦うことになった時のため、優秀で屈強な魔法使いを集め育てる魔法学校を作られたのでしょう?」
「ああ、そうだ。しかし、その準備のためには相手の行動が早すぎたのだ。こちらには魔王に関する情報が足りない。何せ今から数十年前の出来事じゃからな。残っている文献が圧倒的に少ない」
魔王軍と戦うにしても、相手の情報を知らずしては戦うこともままならない。
戦いとは相手の力量や技術、身に着けている装備品や特徴などで戦況がいくらでも変えることができる。
相手の情報が無い状態で兵士や部下を戦場に送り込むことは、無能のやることだ。
だが、文献が少ない理由は、俺自身のことを忘れさせた時に、魔王との戦闘記録までもが消えてしまったからだろう。
正直、申し訳なく思う。
当時の俺に、精密に魔法や魔術を扱う技術が拙かったのだ。許してほしい。
「……陛下、つまりは私たちがその情報を仕入れてくればいいのですね?」
「ああ。危険なことを頼むのは重々承知しているのだが、我が国の存続のために力を振るってはくれぬか?」
偵察部隊の面々は顔を合わせて頷いた。
そして全員が、陛下に再び立膝をつく。
「わかりました。その命、謹んでお受けいたします」
「しかと頼んだぞ」
「「「「は!」」」」
そう言って四人は風のように、その場から消えた。
戦闘に手練れている者や、魔法を見るだけで見破ることが出来る奴ぐらいでないと分からないだろう。
流石は、この国で一番の偵察部隊の名を貰ってるぐらいではあるな。
「ところで勇者様、一体この後どうなさるつもりで?」
「ああ、俺はこのまま学園に戻るぞ」
国王は俺の解答に、少し目を見開いた。
戦うための準備だとか、何か欲しいものが無いかとかを聞きたかったのだろうが、生憎マイホームに全てが揃っている。
取りに行くのに少し時間が掛かるが、問題ないだろう。
「……わかりました、何か足りないものがあったら言ってください。何とかしますので」
「わかった」
俺は魔力を抑えて黒髪に戻る。
「じゃあな、また来る」
俺は、その場で転移魔法を発動し、学園の校舎裏に飛んだ。
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「やはり、主様の魔力だったのですね」
俺が転移して、廊下を歩いて教室に戻る途中、後ろから声を掛けられたと思えば、クロエがいた。
「授業はどうしたんだ?まだ授業中だろ?」
「ええ、そっちの方は副担任に任せました、それで?どうして今更、正体を現したのですか?」
クロエは気づいていたらしい。
それもそうか、俺の抑えている本来の魔力を少し解放したのだ。
俺の唯一の弟子であり、既に国一つぐらいなら滅ぼせるほどの力を有しているクロエに、少しの魔力の異変が気づかれないはずがない。
「ああ、それはな。どうしても正体が知りたいと言われたから教えたまでで」
「だったらもう少し加減をしてください!ここまで届いてましたよ、まあ、主様からしたら1割も出していないんしょうけど」
なんだ、分かってるじゃないか。
クロエが言った通り、俺は国王の前で出した力は全体の一割にも満たない。
俺が昔、冗談と腕試し程度で5割ほど力を解放したら、山が十数ぐらい一瞬で消えたことはある。
多分、全力をだしたらこの世界が終わってしまう。
「だがまあやはり、ここまで届いたのか」
「そうですよ!生徒たちがびっくりしていましたよ」
「ああ、それはすまなかった」
俺は素直に謝る。
流石に力があるからと言って、このまま力ずくで誤魔化して終わらせようなんて思っていない。
クロエとはこれからも仲良くしていきたいからな。
「はぁ……全く、それで?どうでしたか?」
「ああ、魔王軍についての情報収集をやってくれているよ、あとは何かあった時の保険かな」
「そうでしたか……それだけで済んで良かったです」
まあ、国王の息子と戦って怪我を負わせたりしたけど、話さなくていいか。
誤魔化しはしないが、話す内容の選別ぐらいはする。バレなければ問題ないと、昔誰かが言っていたからな。
「それで、主様はこのままここに残るので?」
「ああ、今はまだ魔物や魔族に襲われてはいないからいいが、これから先、いつなんどきに奴らが国に攻め込んでくるか分からないしな」
「残りの学生生活である四年間は、ここで戦力を育てるのですか?」
「そうなるな、でもやるのは俺じゃなくお前だけどな」
クロエは怪訝な顔をした。
「やっぱりそうなりますよね……主様の姿じゃ、絶対言う事聞きませんものね……」
おい、それ、遠回りに俺のことバカにしていないか?
まあ、確かに他のやつから見たら、少し大人びている少年だけどな。
「もちろんサポートはしてやる、基本はお前がやるけどな」
「まあ、そう言うことなら…」
クロエは渋々了承した。
さてここから始めますか。
俺はそう言って動き始めた。
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――――魔大陸・魔王城
魔大陸、それは人間たちが住む大陸とは、遠くかけ離れたところに位置する。
そこは魔物が住むのに適しており、いろんな種族が住んでいる。
スライムや蜘蛛、スケルトンや吸血鬼など低級から最上級まで様々だ。
しかし、それらはすべて魔物と分類される。
では魔族とは何か。
それは人間の姿をしながら、角や尻尾などの気管があり、普通の魔力ではなく、何処か禍々しいねっとりとした魔力を持つモノのことを言う。
何故か自分と仲間以外の種族を強く敵対しており、それらを滅ぼそうと企む。
そして、それら魔族と魔物を束ねるもの、それが魔王である。
魔王が復活するちょっと前、昔から魔王に仕えている一人の大臣がいた。
そしてその周りには、各魔物の代表者が数人集まっていた。
「魔王様は、まだ復活しないの?」
とある緑色の髪をした少女は言う。
「そういわれてもな、まだその兆しが見えないのだよ、ライム」
「そういわれても、もうスライムたちをまとめるのも限界に近いよ?」
ライムはスライムの代表で、いろんなものに擬態したり、他のモノに憑りついたりできる。
「ライムの言うとおりだ、そろそろ復活してもいいのじゃないか?」
「まあ、そうなのですが―――」
「ったく、もういいぜ、俺たちスケルトン部隊は勝手にやらせてもらうぞ」
「もうすこし待ってくださいよ、スカル」
「私はいいけどねぇ、このまま魔王様が復活しなくても」
吸血鬼代表のミリアが口を開いた。
「な、なにを言ってるんですか!」
大臣は強めに言う。
しかし、ミリアはそのまま話を続ける。
「だってねぇ、別に魔王様が復活しなくとも、その娘がいるだろ?」
ミリアは、大臣の後ろで小さく震えている角の生えた少女を示した。
「おいおいミリア、流石にまだ幼い少女には無理だろ」
スカルが口をはさんだ。
「そんなのはわかってるのよ、だから表向きはあの子が魔王としてやってもらうのよ。そうすれば人間たちが彼女を殺しに来るでしょう?」
「そうすればそれを理由に滅亡のための戦争が出来る……そうゆうことですか、ミリアさん」
ライムは何か納得したように頷く。
しかし、スカルはそのまま首を捻っていた。
「どうゆうことだ?」
ミリアは軽くため息をつくと説明をした。
「つまりはね、魔王様が復活したことにして、裏では私たちが魔物たちを操って人間を絶滅させるのよ」
「そんなことして意味があるのか?」
スカルはさらに頭を捻った。
「もう、馬鹿ね、あんた、私たち魔族が魔物を使役して魔大陸を征服することができるかもしれないのよ」
大臣が驚いて口をはさむ。
「そ、それは魔王様に反するのでは!」
「うるさいわね!魔王魔王って、もう復活しない者は仕方ないのよ!それに私達は……はぁ、まあ良いわ」
ミリアは立ち上がり、大臣の後ろにいた少女を引っ張り出す。
「いい?今日からあなたが魔王よ?いいわね?」
ミリアは半分脅しのように言う。
少女は震えながら頷いた。
すると、少女の周りからものすごい魔力があふれ出した。どうやら世界は彼女を魔王として認めたようだ。
「へぇ、一応魔王の娘ではあるのね。血はしっかりと受け継いでるのね」
ミリアは大臣の方を向いた。
「もしこのことを誰かにばらしたら、分かってるわよね?」
ライムの大臣の方を向いて。
「私のことも言ったらわかるよね?」
そしてスカルも。
「じゃあ、俺のことも言ったらわかるよな?」
大臣は青い顔をしながら頷いた。
彼らは一応、それぞれの魔物を統べる代表なのだ。
その力は前魔王と対等だと言われていた、実力者である。
流石の大臣でも、魔王と対等と言われていた者が三人も揃っていれば勝てるはずがない。
大臣は、彼らが出て言った後一人ぽつっと言った。
「どうして彼らはこんなことを……いつになれば魔王様は復活してくれるのですか?」
すると大臣の肩を誰かが叩いた。
大臣が後ろを振り向くとそこには魔王様の娘がいた。
「わ、私が、い、今の魔王だもん!」
少女は必死に背伸びしながら、どうにかしないとと頑張っていた。
大臣は柔らかい笑みを送りながら少女を撫でた。
「なるほど、これが死んだ者の定めなのか……。ごめんな、レイナ」
その様子を見ている者がいることに、誰も気づかずに……
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