第九話 少年、国王に呼ばれる

「例の少年はいるか?」


 あの失態から数日、国王からの使者が学校に来た。

 クラス中が使者の突然の来訪に驚きを隠せずに、ざわめきが起こる。


「れ、例の少年とは、誰の事をお探しでしょうか?」


 授業を行っていた教科の先生が尋ねる。


「火魔法で三人の学生を気絶させた少年だ」

「それなら……」


 先生と生徒達は、俺の方へと一斉に視線を向ける。

 

「君が、例の少年か?」

「国王陛下が探している話が本当なのであれば、私です」


 国王と俺は、場所を移すために校長室へと向かう。

 クロエも付いて来ようとしたが、止めておいた。

 メイド服を着ている人が少年に付いてるなど、変な噂が立ちかねない。

 まあ、既にここまでにいくつか絡んでいるところを見られているので、杞憂かもしれないが。


 国王に使えている使者は、赤を基調としてところどころに金色の刺繍が入っている鎧を着こんでいた。右胸には王家の紋章が入っている。

 多分、国王直属の騎士か近衛兵だろう。


「さて、確認だが君が例の少年か?」


 使者が言っていたので頷く。

 校長先生はずっと真顔で席に座って、使者とのやり取りを見ている。


「もう一度聞くが、あの魔力は仕掛けとかではないのだな?」


 多分、見ていた使者の人とはこの人のことだろう。


「ええ、正真正銘、俺の魔力です」


 使者は少し黙って、考えるそぶりを見せた。

 俺は次の言葉を発してくるのを待った、こっちから話したらぼろを出しそうだし。


「よし、分かった、では行こうか」


 やっぱり来たか。

 なにがわかったのかはわからないがまあいい。

 ここは一応聞き返しておくか。


「行くとは何処に?」

「それはもちろん、王宮に」


 使者とともに学校の門の前まで来る。

 そこにはとても煌びやかな馬車が止まっていた。

 俺と使者は馬車に乗ると、馬引き人が鞭を鳴らす。

 そのまま王宮に直行した。







 ------------------------------------------------------------------







 国の中心にある大きな城が、今回行く宮殿だ。

 外装は一見、普通の石で出来ているが、実は魔力が込められており、ちょっとやそっとでは傷がつかない。

 内装は外装みたいな質素な感じではなく、赤い絨毯がひかれており、ところどころにメイドさんがちらほら見える。

 見てる限り、うちのメイドよりはまだまだひよっこだが。

 柱には大理石が使われていて、これも魔力が込められている。

 ざっと見た感じ、部屋は10、20あって複雑な構造をしている。

 多分、簡単に攻め入られないためだろう。

 王の間までは迷路みたいな道を通って10分ぐらいで着いた。


 ちなみにどうして建材に魔力が込められているとわかるかと言うと、瞳のおかげである。

 瞳は他の人から見れば、普通の目に見えるのだが、実は右目が魔眼で、鑑定から千里眼まで様々なことができる。

 どうして持っているかというと、魔王を倒したときに頂いたものだ。


 魔眼の機能を切ると、目の前にある大きな扉を見る。

 どうして、こうまでして王の間の手前は大きな扉なのだろうか。

 一説によると、王の大物感を漂わせるためだとか、たくさん王に会いに来る貴族がいるからだとか言われているが、定かではない。


「陛下、ご命令通り、少年をお連れしました。失礼します」


 俺を連れてきた使者もとい、騎士が言うと、扉の奥から「うむ、入室していいぞ」と返事が返ってくる。


 騎士は扉を開けて一礼すると、そのまま入っていく。

 俺も使者に続き、後から入った。


 騎士は国王の隣に行くと、耳元で何かを話している。

 多分、俺との質疑の結果を伝えているのだろう。

 ジンは今のうちに周りの観察をする。


 国王の隣には、緑色のローブを着た魔術師が立っていた、多分あれが賢者様だろう。

 そして、五人のメイドがそばに控えている。

 流石に国王に直接従えているメイドとして、先ほどのひよっこのメイドとは違った。

 まあ、クロエには敵わないが。


 そして国王の側近として、近衛がさっきの騎士を合わせて三人。

 近衛は全員腰に剣を装備しており、それぞれこの国のシンボルが入っている。


 ジンがちょうど観察を終えたところで、国王の方も話が終わったらしい。

 国王が王座からこっちを見てきた。


 この広大な国を治めている王だけあって、そのオーラは尋常じゃない。

 多分あのいじめっ子三人組は、見た瞬間失神するんじゃないかな。

 外見は白髪で、王冠を被っており、いろんな模様が入った服を着ていた。

 あの模様、どっかで見たことがあると思えば、クロエが昔教えてくれたような……。

 まあ、いいか。


「少年よ、観察は済んだか?」


 国王が喋った。

 おっと、流石にじろじろ見るのは失礼か。


「失礼しました。幾分、初めて見たもので」


 一応、頭を下げる。

 相手はこの国のトップ。

 軽率な行動で、この国に居られなくなる可能性があるから下手なことはできない。

 魔眼で見たりしてるから、失礼なのはいまさらだが。


「そう頭を下げずともいいぞ、その気持ちはわかるからな」


 国王がそう言い、頭を上げるように言う。

 そして本題が始まった。


「では少年、少し聞くがいいか?」

「ええ、答えられることならなんでも」


魔法学園での魔法騒ぎだけで、国王に会えるのだからどのような質問が来るのかは大体予想はついているが、一国の主である大物からの質問なので、予想外の質問が来る可能性も低くは無い。


「では、まずその魔力、見るからに尋常じゃない量だが、何かしたのか?」

「と、言いますと?」


俺はその言葉に、少し驚きつつ返す。


「私は相手の力量を推し量る神眼を持っているのだ。少し悪いが、君のことを見させて貰ったよ」


 やはり、国王は魔力が見えるのか。

 神眼とは、魔眼とは違い、魔力を使うことが無い先天的な力だ。

 いままで冒険してきた中、実際に神眼を持った者と出会ったのは少なかった。

 

 神眼は個人によって力の内容も威力も効果も様々だったが、その眼があるだけで誰からも喉から手が出るほど羨ましがられたものだ。

 使い道を間違えなければ、自身の望んだことがなんでもできると言っても過言ではない。


 この世界には、もう残っていないと思っていたが、まさか国王が持っているとは……。

 ちなみに国王が持っている神眼は〈選定眼〉と言い、選定神から授けられる。

 相手の魔力や状態などが見える。俺の魔眼と同じようなモノだ。


「まさか国王がその眼をお持ちとは……」

「おお!少年!まさか、この目のことを知っているのか!」

「はい、少しですが」


 嘘だ。

 ああ言う特別な能力を秘めたものは、新しく生まれていない限り、全部知っている。


「そうかそうか、知っているのか」


 国王はそばにいた魔導士を呼ぶと、俺の前に出す。


「こやつは大賢者リドールだ」


 国王がそう言うとリドールが礼をした。


「紹介に上がった、リドールじゃ」

「私はジンと言います」


 一応定型文みたいな挨拶を返した。

 まあ、挨拶は基本だしな。


「ではジンよ、貴様は一体、何者なのだ?」


 国王が言った。

 近衛たちに緊張が走る。

 まさかさっきまで気軽に話していた少年が、何者なんて聞かれると思っていなかったのだろう。いや、ここに連れて来た時から警戒はしていたのだろうが、突拍子もなく言われたので、反応が遅れたのだろう。


「何者、ですか」

「ああ、私は規格外の大規模な魔法を単独で使用した少年が気になって呼んだだけなのだが、まさか神眼を知っているとは思っていなかった。それを知るのは一部の大臣と側近、リードルだけだったからな」


 騎士達は腰にあった剣の柄に手を当てる。

 メイドたちも即座に魔導書を取り出した。

 魔導書は魔法の効果を向上させる補助道具みたいなもので、誰でも使え、さらに魔導書に認められたものは、自由に空間から出したりもできる。

 リドールも魔導書を出した、しかしその魔導書は他とは違い少し大きい。

 それは上級魔導書で、魔法をある程度極めたもののみ使うことができる。

 流石は大賢者だ。


「それは流石に考え過ぎでは?」

「考えすぎか?どう見てもその魔力、人間が持てる量ではない。もしや少年、貴様は魔族か?」


 近衛たちが剣を抜刀した。

 多分、怪しい動きとかしたらすぐに斬るつもりだ。

 こんな時クロエがいたら、多少は何とかなったかもしれないが、連れてきてない以上、ねだっても仕方がない。

 それに、俺が攻撃されると察知しただけで、既にここは阿鼻叫喚の地獄絵図になっていただろうからな。


「魔族と申しますか……。残念ながら、私は魔族ではありません」


 少し周りの気が鎮まる、魔族なら即刻処刑だろう。


「では、なんだと言うのだ?」

「それならば見てもらいましょうか」


 ジンは指を弾く。

 するとジンの周りが光りだした。


「な、なんだ!」

「陛下!」


 国王が叫ぶ。

 騎士たちは国王を守るように、その前に盾になるように陣形を組んだ。


 俺の黒くなっていた髪の色素が取れていき、銀色になっていく。

 それと同時に、手元に一冊の魔導書が出てきた。その魔導書は白く、普通の魔導書と同じ大きさだった。

 しかし、他の魔導書と違い、魔導書からは一切の魔力が感じることが無い。

 図書室にでも置いておけば、一見、白いだけのただの本に見えるだろう。

 それと、腰には一つの短剣が出てくる。

 柄は金色に装飾されているが、鞘は真っ黒。その短剣は、魔力を流すと大きさや長さ、形が変わり、大剣にも槍にもなる万能な武器だ。

 まあそんな芸当ができるのは、膨大な魔力を持つ俺ぐらいだが。


 そして光が収まって、完全に姿を変えた俺が現れる。

 目の前にいたリドールが驚き、顔には冷や汗をかいていた。

 国王たちは完全に唖然としており、まじまじと見ている。

 国王が口を開く。


「銀色の髪、白い魔導書、腰についている短剣―――まさかそなたは、いやあなた様は伝説の……」

「ええ、そうですよね。この時代に途中で間違って伝わっていないのであれば、伝承通りの〈勇者〉です」


 その言葉を聞いた瞬間、その場にいた国王を含めてすべての人が膝をついた。






 --------------------------------------------------------------------





 おまけ

 ジンが自分の姿を解除したときのクロエ側の様子


「先生!その構成式は何ですか?」


 クロエが黒板に魔法陣を書いていると、フィリアからそんな質問が飛ぶ。

 さっきまでざわついてた生徒達だったが、クロエが何とか授業へと戻したのだ。


「これは火魔法の上級魔法を使うための魔法陣です」

「上級魔法ですか……」


 普通、魔法陣はしっかりと魔法を使いこなせるようになった者が、更に魔術を学んだ後にしか使えないと言われている。この時代ではだが。

 このクラスの委員長が質問する。


「先生、その魔法陣は私達じゃまだ使えないんですが‥‥」


 他の生徒達も頷く。

 しかし、クロエはそんな言葉を一瞬で跳ね返す。


「それは君たちがそう思い込んでるだけで、実はこの魔法陣、火魔法だけは誰でもできるんですよ」


 クロエがそう言った。

 しかし、生徒たちは首を傾げていた。

 クロエはため息をつくとリフィアを前に出す。


「では今からリフィアさんにやっていただきましょう」

「ええ!そんなの、いくら私で出来ませんよ!」


 遠回りに自分はほかの人たちより上だと言っているようなものだが。

 現実、そうなので黙っておく。彼女は天然である。


「いえ、できますよ。いま書いた魔法陣に手を当ててください。そして魔力を送るだけです。多分、自身に向かって飛んでいきますので、発動した瞬間に避けてください。私がそれを打ち消します」


 そう言って、クロエは教室の黒板と反対側に行くと水魔法を用意する。

 自分の方に飛んでくる魔法など、完全に自殺行為でしかないのだが、上級魔法を始めて使用できるかもしれないというワクワクで、フィリアは了承した。


「わ、分かりました!やってみます!」


 リフィアは黒板に手を当てて魔力を流す。

 すると魔法陣が、ほのかに魔力を受けた部分から赤色に光りだす。

 そして完全に赤く光ったところでフィリアが手を放した。


「リフィアさん。その魔法陣は安全機構が備わっています。最後に火魔法を魔法陣に思いっ切りぶつけてください。初級で構いません」


 リフィアはその場で火魔法の呪文を唱えて打ち出す。

 魔法陣に当たると一層赤く光って、人間の目では直視するのが難しくなった瞬間、魔法陣から特大の火柱が上がる。

 魔法陣は向いていた方向へと魔法を飛ばすので案の定、クロエの方へと飛んで行く。


 生徒たちからは「おお!」という声が上がる。

 クロエはそれを見て、「流石は大賢者と呼ばれる方の弟子ね」と小声で口に出して、水魔法で難なくその魔法を打ち消した。

 打ち消した際の効果で、水蒸気が発生する。

 さらに「おおおお!」と大きな声が上がった。

 クロエは黒板の前に戻った後、生徒たちに言う。


「とまぁ、こんな感じです。威力は見て分かる通り、対策を取らなければ容易に相手を吹き飛ばすことができます。だだ慣れれば、火魔法しか使えない人でも使用することができるので、今後の役に立つのでぜひできるようになりましょう」


 そして手元にあった魔法陣を書いてある紙を配る。


「これは先生が簡略化して書いた魔法陣です。上級魔法では無く、中級魔法となります。なので威力は抑えられますが、上級魔法を覚えるまでの過程だと思ってやってみましょう。先ほどのようにやれば大体できます。今から、一週間以内にその魔法を使えるようになってください。もちろんその魔法陣の暗記も宿題です」


 生徒たちからは「わかりました!」という声が上がり、その魔法陣をほかの紙に移している者もいた。

 クロエはそれを見て安堵の色を示す。

 もし、この国に何かあってもこの子たちだけで対処できる。

 クロエが生徒に紙が行き渡ったのを確認して、教卓に手を乗せた瞬間だった。


 国のどこから見てもわかる国王の城から膨大な魔力と、窓からの眩い光が流れてきたのだ。

 生徒たちはその魔力に驚き、椅子から落ちている者もいた。

 リフィアに至っては―――


「もしかして、ジン君に何かあったのでは……」


 と心配までしている、そういえばあそこには自身の師匠である大賢者もいるんだった。

 それで心配しているのか。

 しかしクロエだけは驚いていなかった、と言うよりかはやってしまったという怪訝な顔をしていた。

 この魔力は普段から感じているのでわかるのだ。


 これは表に出している魔力ではなく、正真正銘の主様の魔力である。


 つまりは自分の正体を明かしたことを意味する。

 クロエは生徒には聞こえないように独り言を言った。


「やってしまわれましたね、主様」


 生徒達にはもちろん聞こえていない、しかし一人を除いては。







「やはり、あいつは私が起きるときに自身も現れるように何かしら細工をしていたか……。まあ、私は今更暴れるつもりなどないから、杞憂になるだろうがな」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る