第八話 魔法授業での失態
校庭に集まった生徒たちは「何からやるんだろう」とか、「どうせなら一番使いやすい火属性にしてほしいよな」とか、これから始まる授業に対して期待を膨らましていた。
正直、殆どの魔法を習得し、自身でも作り出しているので、別にどの属性の授業でもいいのだが。
「はいはい、みんな静かに」
クロエが出てきて、ざわついている生徒達を鎮める。
「今日一日は初回の授業という事で、簡単なレクリエーションと魔法について授業を行いたいと思います。一時間目は、火属性の魔法を教育します」
クロエが本日の予定と、今から行う授業内容を発表する。
すると生徒達は、初めて習う魔法に興味を示していた。
「やっぱり基本の火属性からだよな!」
「いや、お前、火属性しかまだ発動出来ないだろ」
「そんなわけないだろう!」
幼馴染なのか、同じパーティだったのか、よく一緒に行動している三人組の男の子たちが盛り上がりを見せていた。
「はいはい静かに」
クロエが再び鎮める。
「では、今回の教えていただく講師を紹介しましょう」
「あれ?先生が教えるのではないのですか?」
俺は質問した生徒を横目で見る。
さっきの教室での紹介の際にクロエが、魔法の教育は副担任に任せると言っていたのを聞いていなかったのだろうか。
人の話もまともに聞けないのであれば、これからの魔法の授業についてこられるか分からないぞ。
「そうですね、私よりも火属性が優秀な方です。それではどうぞ」
するとさっきから生徒の集まりの横で、そわそわしていたもう一人の先生が出てくる。
「え、えっと、私は副担任のリーズと申します!よ、よろしくお願いします!」
どうやら彼女は緊張すると頭の中が真っ白になるのか、声が詰まってしまっていた。
まあ、誰でも初めて何かをするときは緊張してしまうものだから仕方ない。
しかし、このままでは生徒達に第一印象で舐められる。
これからの学校生活で、教師として仕事をしていく以上、教師の威厳は無ければならない。
舐められたままだと、生徒から虐められたり、最悪の場合この学園を去ってしまうことになる可能性がゼロでは無いのだ。
俺はクロエに助けに入るように目線を送り、頷いた。
それに気づいたクロエは、すかさず助けに入る。
「彼女は火属性の魔法が得意で、私よりとても技術を持っています。中型の魔物ぐらいなら一瞬で丸焼きに出来るでしょう」
「そうなんですか!」
フィリアが食つく、確か魔法を習い続けたいんだっけ。
「はい、まあ出来なくは無いですね」
「では早速教えてください!」
フィリアはリーズ先生を急かし、手を引っ張って連れていく。
彼女は魔法のことになると、周りのことを忘れてしまう性格のようだ。
他の生徒達も「俺も見たい」だとか、「火魔法しかできないから俺も!」と言って付いていく。
いや、あいつ火属性しかできないの、本当の事だったのか。
「フェリアさん、そんなに急かさなくてもちゃんと教えますよ。では、皆さん均等に広がって下さーい。魔法は後で見せるので、取り敢えず現状で火魔法をどこまで出来るのか見せてください」
そう言うと生徒達は、広い運動場の中を広がっていく。
リーズ先生は一人ずつ見て回って、足りないところは実際に魔法を実演し授業をしているようだった。
クロエはも同じように教えながら、リーズ先生の方を見ていた。
どうやらクロエなりに、リーズ先生のことを気にしているようだ。
俺はそれを、微笑みながら見ていることにした。
「おい、お前は火魔法できないのか?」
だが数分も経たずに、俺にさっきのいじめっ子三人組が話しかけてくる。
確か記憶は消去したので、あいつらは何も覚えていない。
つまりはこれが一回目のからかいだ。
「いや、できるが?」
「だったらやってみろよ」
ああ、こいつらなぜ俺が魔法ができないと思って、絡んでくるんだ。
そう思い、三人組を見ると、その三人の視線は何処とく泳いでおり、その先には数人の少女のパーティが居た。
なるほど、俺に絡んで負かせることで、少女達の気を引くことが狙いか。
これだから子供は―――。
「はぁ……」
「おい、なにため息ついてんだよ!」
ああ、知らない間にため息が出てしまっていたようだ。
俺は手を前に出して魔法を発動する。
「『
手のひらから野球ボールぐらいの火を作り出す。
「なんだそんなものか、もっと大きくできないのか?」
「できるが必要あるのか?」
「うるさいな!お前は俺の言うこと聞いていればいいんだよ!」
一体、こいつは何様のつもりだろうか。
容姿や服装はそれなりのモノで、何処かのお金持ちか貴族なんだろうと推測できる。
しかし、俺はお前の家来でも部下でもない。命令することが日常的なんだろうが、そんな態度では社会に出た時に苦労することになる。
俺は少し頭に来たので、少し痛い目を見てもらうことにした。
「ああ、わかった、分かりましたよ。大きくですね、ちょっと待ってください」
俺はクロエとの間に念話を発動する。
『クロエ、今から火魔法を使う。周りの生徒たちを俺に近づけるな』
『待ってください!一体何をしようと?』
『俺の方を見てみろ』
クロエがこっちを向く、そして納得したように頷いた。
『またやってるんですね』
『まあな。こいつらの目的もそこにいる少女達のようだ。俺に絡むのはそのついで』
『でしたら、私が注意して止めればいいんじゃ』
『それじゃあこいつらはやめないだろ。教師が間に入って止めても、こいつらは反抗心で、もっとエスカレートだけだ』
『‥‥‥わかりました、無茶はしないでください』
クロエは少し考えて行動に移した。
「皆さん、火魔法の中級版を見せますので、少しこっちに来てください」
クロエの近くにいたほとんどの生徒は集まっていく、しかしこっちにいた3人は俺をいじめるのに気を取られていて、クロエの号令が聞こえていなかった。
「おい!早くしろよ」
リーダー格が大声を上げた。
するとクロエの近くにいたやつも、その声にこちらに気づく。
フィリアがクロエに言う。
「先生、止めなくていいんですか?」
「ええ、大丈夫です」
クロエはそう言ってから号令に集まって来た人たちに、俺の方を見るように促した。
ところどころに「おい、アイツがやるのか」とか「あいつ、来た時に感じ悪そうなやつだろ」とか言っている。
感じ悪いのは悪かったな!俺だっていろいろあるんだよ!っと心の中で言いながら、手を出して魔法を開始する。
「クロエさん、大丈夫なんですか?あれどう見てもいじめられてるんじゃ……」
「ええ、大丈夫ですよリーズ先生。見ていてください」
クロエは、生徒達に手を出さないようしっかりと見学しておくようにと言ってから、俺の方を見て、念話で「やりすぎないでくださいね」っと言ってきた。
俺は「頑張ってみる」っと返して詠唱する。
「―――我が身体に宿りし魔力よ。その力を元とし、ここに原初の火を顕現させよ。そして、我に歯向かうものを永久の理へと、燃やし尽くせ」
ちなみに、この呪文は俺がいまこの場で即興で作ったモノだ。
魔法はもともと詠唱がなくても発動することができる。
しかし、しっかりとしたイメージを持たなければ、発動しても失敗する。
なので、詠唱という形で、イメージを直接的に思い起こさせ使えるようにするのだ。
俺が適当に操っている魔法なので、被害が出ることは無いので問題ないのだが、周りに魅せるための詠唱が必要なので、それらしいことを言ってみたのだった。
「おい!なんだその詠唱は!聞いたこともないぞ!」
そりゃそうだ、これは俺のオリジナル魔法なのだから。
知っていたらびっくりだ。
ちなみにまだ半分である。
「そして、わが身を守れ。〈
俺の周りに二つの火の玉ができる。
火の玉は数秒浮いた後、3人組に対して飛んでいき周りで停止する。
「なんだその名前の魔法。全然すごくないじゃないか」
そいつはその火の玉に触ろうとした。
その瞬間、火の玉はそいつらの周りで回転を始めて、スピードが上がっていく。
「な、なにが起きるんだ!?」
集合していた生徒たちが騒ぎ出す。
クロエは何も言わずに、俺の方を見ている。
俺はその視線を感じつつ、生徒たちのざわめきを無視し、そのまま続行する。
「俺を怒らせたのが悪いんだからな?」
そう言って、手を前に出し握った。
火の玉は回りながら3人組に迫っていく。
「やめろ!止めてくれ!いや、止めてください!」
なんだ、敬語も使えたのか。
しかし、もう遅い。
火の玉は極限まで近づくと、三人組の少年たちを巻き込んで、学校中に響かせる爆音を轟かせた。いわゆる大爆発である。
生徒達が唖然としていて、他のクラスの生徒や教師も校舎の窓から何事だと覗いている。
そして爆炎が収まった後、服がボロボロになっていて気を失っている三人がいた。
「少しやりすぎたかな」
「少しどころじゃありませんよ。これは完全に伸びてますね。多分、救護の先生が飛び出してきますよ」
「まあ、先生の仕事を増やすのは申し訳ないな。回復ぐらいはしておいてやるか」
俺はそう言って、回復魔法を3人にかける。
体力は戻りはしないが、傷や魔力はこれによって戻るだろう。
さて、体の方の傷を治したから、問題は服だな。
服は正直って高そうなものを身に着けていたから、今お金が無い俺達にしては、損害賠償を負止められても払うモノが無い。
俺がどうしたものかと考えていると、後ろから声がかかった。
「い、今のは君がやったのか?」
俺は後ろを振り返るとそこには、慌てて飛び出してきて肩で息をしている校長先生がいた。
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「一体あれはどういうことだ?」
校長先生は、俺とクロエを校長室に呼んで話をしている。
他の生徒たちは授業に戻ったが、さっきの魔法を見たからか、興奮してしまいなかなか進まないらしい。
ちなみにあの三人は、案の定飛び出してきた先生方によって保健室に運ばれた。
「どう、とは?」
俺は聞き返しておく。
「どう見ても、少年が安易に使えるような魔法じゃない。一体、どんな仕掛けを使ったのだ?」
ああ、この人、何か仕掛けをしてやったと思っているのか。
「いえ、あれは完全に私の純粋な魔力だけですよ」
「もしそうだとして、あれだけの魔力、一体どこで手に入れたのだ?」
手に入れた?
いやいや、これは俺が修行して培ったものだぞ?
「俺が練習して培ったものです」
「そんなバカな!あれだけの魔力を持っているのなんて、今じゃ大賢者様しかいないのだぞ!」
ああ、なるほど。
たった今、不思議に思っていたことが、確信になった。
やはりこの時代、魔法文明が退化している。
ここまででの試験官の行動とか、他のクラスの子達の会話の内容などで不思議には思っていたが、まさかそんなことになっていようとは。
「校長、一つ質問があります」
「なんだ?」
「このことは既に国王に、言ったのですか?」
「ああ言った。というかたまたまあの時、国王の側近が休暇中で視察に来ていたから、君の魔法を見た瞬間に飛び出していったぞ」
ああ、遅かったか。
この学園の奴しか知らないのなら、この学園を空間指定して記憶を消そうと思っていたのにどうしたものか。
このままここだけ記憶を消したら、ややこしい展開に進んでくるな。
「もしかしたら、国王陛下に呼ばれるかもしれないな」
校長が真顔で追い打ちをかけてくる。
多分、本人はそう思っていないだろうが、俺にとっては最悪な展開だ。
俺たちは校長室から出て校舎の裏に行った。
「主様、だからやりすぎないで下さいと申しましたのに……」
クロエが冷たい横目で俺を見てくる。
「すまない、つい調子に乗ってしまった」
俺は素直に謝る。
「これだから、戦闘狂は……」
クロエがまた言った。
俺はそろそろ自分が戦闘狂なのか、本当にしっかりと考えないといけないのだろうか?
いやいや、あれはただ単に楽しかったからだ、戦闘狂ではない―――多分……。
「それで、これからどうするのです?」
「多分国王から呼ばれるのは確定だろうなぁ」
「だったらそろそろ騙し通すのも限界ですかね」
「ああ、完全に調子に乗ったな、やらかした」
相手の挑発に乗るんじゃなかった。
俺もまだまだ子供なのだろう。
中身は50すぎたおっさんだけどな、自分で言うのも悲しいけど。
俺は自分で自分のことが少し嫌になった。
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