第七話 魔法学院の現状
魔法学院、Sクラス。
そこは学生の中でも、成績や魔法能力が特に優秀な学生を集めたクラスであり、より実践的な環境で魔法や知識を教えてもらうことが出来る。
学院内でもいろいろと待遇が良いらしく、専用の学生寮には室内お風呂が付いているとかなんとか。
校長の付き人として待っていた教頭先生に、Sクラスへと案内してもらい、空いていた席に座る。
すると、見計らったかのように校長先生が部屋に入ってきた。
「……えー、今回からこのクラスの担任になるクロエ先生です。私が話をするために引き留めてしまい、クラスに顔を出すのが遅くなりました。優秀な教師なのでしっかりと学んでください。クロエさん、自己紹介をお願いします」
校長先生がわざわざクロエと共にSクラスに訪れ、担任教師が遅れたことの言い訳を行い、生徒たちに対してクロエを紹介する。
どうやらこのクラスは優秀なものが多い反面、癖のある子が多いらしい。
未だに魔法の力は自分の方が上だとか、国王に使える貴族の出身だからと威張ったりするやつもいる。
そういったやつからの、新任担任への嫌がらせ行為等を防ぐためにわざわざ来たんだろう。
それが対策となるかは知らないが。
「今回からこのクラスの担任になります。クロエと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
何故かメイド服のままで出てきたクロエは、胸に手を当てて一礼する。
教師がメイド服を着ているのは流石におかしいと思うので、後で着替えさせることにしよう。
クラスの評判は何故かよかったが。
「ではクロエさん、後はよろしくお願いいたします」
校長はそう言って、足早に教室を後にした。
「では私の初めの仕事として、同じように遅れてきた生徒の自己紹介を行いましょうか」
クロエが俺とリフィアに手招きをする。
リフィアと共に教壇の前に並び、大学の座席みたいになっているクラスの生徒の方に体を向けた。
因みに、リフィアが遅れてきた理由は、校内で迷子になっていた。
たまたま俺達と廊下で会い、ここまで一緒に来たから良かったものの、見つからなければ行方不明になる所だった。
「ジンとリフィアさんです。仲良くしてください」
おいおい、それじゃあ幼い子に説明するみたいじゃないか。
流石に金銭を稼ぐ以外のことに興味がないとは言え、教師としてここで働くのだからそこら辺はしっかり真面目に取り組んでほしい。
後でクロエに教師としての言葉の使い方でも教えてやるか……。
話は逸れるが、学校の入学金とか授業料などは免除してもらっている。
理由は様々だが、Sクラスの時点で免除対象となるらしい。
Sクラスに分けられた理由は、試験で見せた魔法の対価だとのことだった。
「では軽く自己紹介を、まずはリフィアさんからどうぞ」
「は、はい」
リフィアが少し前に出る。
「私の名前はリフィアと申します。えっと、試験でも言ったように、大賢者のリードル様の弟子でした。免許皆伝を貰ったのですが、どうしてももっと魔法が習いたかったのでここに入学しました。よろしくお願いします!」
大賢者リードルの弟子というところで、教室がざわつく。
やっぱりこの国では有名な魔法師なのだろう。
「はい、静かに。次はジン君」
俺はクロエに目線で「君とかつけるのやめろ」と睨みながら一歩前にでる。
俺は見た目は青年でも、中身は何百年と超えている。そんな奴に君付けで呼ぶのはやめて欲しい。
「俺の名はジン。魔法は大体使えるが、学院の魔法が気になったので入学した。よろしくお願いする」
俺は簡潔に理由を述べてそのまま後ろに下がる。
教室の奥の方にいた、目つきが悪いが身なりはいい奴がなんか睨んできたような気がしたが、何か駄目なこと言ったか?
まあ、いい。
「では空いてる席に座ってください」
俺は、最初に座った教室の一番奥端の席へと座る。
フィリアは前の扉の方に空いていた席に座った。
「では先生に対して質問を受け付けます。質問がある人は手を上げて言ってください」
だから幼い子供かこいつらは。まあ、クロエと俺からしたらそうなんだが。
教室の前に居た賢そうな男の子が手を上げる。あ、あの男の子も受かったのか。
「はい、どうぞ」
「ではお聞きします。私は火属性の魔法が使えるのですが、先生は何の属性が使えますか?」
確かあの男の子は、火属性の魔法を得意としていたはずだ。
魔法学院に入った以上、先生から学ぶ意識が高いのはいいことだ。
「ええ、使えますよ。ですが、魔法関係に関しては副担任に任せているので、授業で副担任から学んで下さい」
クロエは、あくまでも魔法は見せないようにしているらしい。
別に魔法の使用ぐらいは禁じていないのだが、本人が頑なに使わないのだ。
「わかりました。ありがとうございます」
「他に質問は?」
すると、リフィアの隣に座っていたツインテールの女の子が手を挙げた。
「先生はどうしてメイド服を着ているのですか?」
あ、やっぱりそこが気になるよね。
「これは私の仕事着です」
「仕事着ですか……ここは貴族の屋敷とかではないので、出来れば普通の服に変えてほしいです」
そりゃそうだ、俺もそう思っていた。
俺の家や身の回りにいる時ならともかく、教師として複数の目がある中で授業を行うのに、メイド服では些か目立つ。
学院の顔に泥を塗ってしまったら、それこそどうにもならない。
「分かりました。考えておきます。ほかに質問は?」
教室の学生達は全員静かにする。どうやらこれ以上の質問は無いようだ。
「では初日からですが、一時間目は副担任による魔法の授業です。全員校庭へ移動してください」
クロエがそう伝えると、全員が一斉に動き出し、教室が騒がしくなる。
俺もさっさと移動しようと思い、廊下に出た。
「おい、少し待てよ」
すると後ろから声を掛けられる。
振り返るとそこには、さっきほどの自己紹介の時に俺を睨んでいた奴らがいた。
「少しついて来い」
そう言って、彼の後ろにいた取り巻きたちが俺の腕を引っ張って、そのまま廊下の端の方まで連れていかれる。
抵抗してもよかったのだが、怪我を負わせてしまっては学校長に怒られるので、素直に連れていかれた。
面倒事は回避するに限る。いや既に面倒事に巻き込まれている気はするが。
「お前、さっきの自己紹介はなんだ?少し調子に乗っているな」
連れていかれた瞬間の一言目がそれだった。
別に調子に乗っていたつもりも無いし、自分の思っていることをそののまま言っただけだが、相手の受け方によっては印象を悪くしたらしい。
「どうせどっかの田舎から出てきた半端者だろ」
俺の設定としてはそれで間違っていない。
「おい!なんか喋れよ!」
取り巻きの一人が言う。
やれやれ、黙ってやり過ごそうとしたのに。
「なら、喋ったら放してくれるのか?」
俺は答える。
「ふん!そんなわけないだろ!その生意気な口を二度と叩けないようにしてやる!」
俺の正面にいたやつが殴ろうと、拳を顔面に向ける。
しかし、その拳は俺に届くことなく、顔面すれすれの目の前で止まった。
「な!?どうして動かない!」
殴ろうとしていた奴が、自分の拳が空中で固められたかのように動かなくなったことに驚く。
そりゃあそうだ。
なんせ教室から出て居なくなったと思っていた担任のクロエがそいつの拳を抑えていたのだから。
「君達は一体、何をしようとしているのかな?複数にで一人に対して暴力を振ろうだなんて考えていないよね?しかも入学した初日に」
クロエは真顔で、殴ろうとしている腕を掴むとそのまま声を発する。
周りで見ていただけの他の取り巻きたちは、クロエのあまりの怖さに逃げ出した。
「クソ!覚えてろよ!」
定番の捨て台詞を吐きながら、睨んでいた男の子も逃げ出した。
「大丈夫ですか?主様」
「ああ、問題ない。むしろお前がここにいて、大丈夫か?」
「ん?何がですが?」
クロエは気づいていないらしい。
「クロエ‥‥お前は俺の付き人でもあるが同時に先生なんだぞ?そしてあいつらは生徒なんだ。そんな奴らに手を出したら体罰とかで訴えられるぞ?」
クロエはハッと思い出した。
「申し訳ございません。どうしましょうか……」
表面上は冷静を保っているが慌てるクロエが見れたのは久々だった。
このまま自分で解決させればいいのだが、今回のことは俺にもどうやら非があるらしい。
入ったばかりで問題にはなりたくないし、今回は手を貸すことにしよう。
「じゃあ、あいつらの記憶でも消しとくか」
「……よろしいのですか?」
「ああ、幸い周りで見ていた奴はいないようだしな。しかし次回からは自分で対処してもらうぞ、今回だけだ」
クロエは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
いつもなら何とも思わないのだが、あいにく今は学校だ。生徒に頭を下げる先生なんていないだろう。
まあ、周りに生物がいないことは確認済みだからいいが。
もし見られていたら、学院に変な噂が出来てしまう。それだけは避けないといけない。
「じゃあ、授業に行こうか」
「はい、主様」
「おいおい、学校では違うだろ?」
「そうでしたね、では行きましょうかジン」
「ああ、行きましょうか先生」
俺たちは校庭へと向かった。
----------------------------------------------------------------------
おまけ
「さて、さっさと記憶を消しに行くか」
俺は校庭へと向かった後、さっき俺を囲んでいた3人を見つける。
ほかの生徒には気づかれないように、背後に移動し魔法を行使する。
「『
瞬間、俺以外のあらゆる物体が瞬時に動きを止めた。
この魔法は発動した瞬間で使用者以外の時間を止める。時間操作魔法の応用だ。
そして、その中で使用者が起こした行動は、時間が戻るとそのままの結果で現れ、残る。
止まられたものは止められたことすら感じることが出来ず、何が起きたかも瞬時に理解することが出来ない。
俺は歩いて彼らに近づくと、その背中に手で地面に魔法陣を描く。
別に個別に弄ってもいいのだが、彼らにわざわざ時間をくれてやる必要もない。
出来上がった魔法陣に両手を添えて魔力を送り、魔術を発現させる。
この魔術はこれまた禁忌に指定されており、公で簡単には使えない。
「『
目の前に見慣れない板状の透明なモノが現れる。
これはこの魔法の細かい設定を表示するものであり、対象の記憶や身体的な情報が映し出されるようになっている。
記憶を弄るための記録範囲を指定したり、体内に流れている魔力量や健康状態などの変更が出来る。
とりあえず俺は、自分が連れ出されたところから奴らが逃げていったところまでの記憶を選択した。
選択した部分を消して、俺に対しての増悪的な部分は残るが、何もやっていないことにする。空白になった記憶は、彼らの都合のいいように勝手に補完されるので問題はない。
俺は板状のモノから手を放し、「追加、『
ただそれだけ。
もし周りいて動ける者から見ると、俺がプレートで何かして手を放した瞬間割れたように見えるだろう。
しかし、俺からしたらこれで一つの魔法だ。
ちなみにプレートが砕け散るエフェクトは俺が付け加えたもので、本来はただ単に消えていくだけである。
そして俺は魔法陣を消して、自分がさっきまでいた場所に戻る。
そして魔法解除の呪文を言う。
「『
周りの物体が少しずつ動き出し普通のスピードへと戻る。
俺は何事もなかったかのように、授業に戻るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます