第3話 カウントダウンタイマー ~ハッキングは犯罪です~
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フィルムを巻く音とともにスクリーンに表示される数字が小さくなって行き、0となる。白黒の画面は一瞬で色鮮やかな街並みへと移り変わる。爽やかな髪型をした好青年が海の風にコートを揺らしながら歩く。浜辺には先客がいた。じっと海の先を見ている少女に青年は話しかける。
「何やっているんですか?」
「ぎゃあああああああああああああああああ」
急に倉田くんに話しかけられて驚いた日奈子ちゃんは悲鳴を上げる。驚きすぎて椅子から転げ落ちた。矢羽田研究室の床は硬く、ほこりっぽい。
「大丈夫ですか!」
「ごめんなさい。ちょっと驚いただけです」
日奈子ちゃんはお尻をさすりながら立ち上がる。
「急に叫ぶから何事かと思いましたよ」
日奈子ちゃんはなんともなさそうで、倉田くんも胸をなでおろす。倉田くんは日奈子ちゃんが見ていたパソコンのスクリーンに流れている映像をのぞき込んで言う。
「これ、なんて名前の映画ですか?」
「さあ?」
日奈子ちゃんは小首をかしげる。DVDの入っていたケースを倉田くんに見せる。
「倉田くんなら読める?」
倉田くんは題名を見てみるが、読めない。
「フランス語みたいですけど僕は詳しくないので意味はわからないですね」
「やっぱそっか。台詞も字幕ついてなくてわからないんだ~」
「面白いですか?」
「ん~ん。つまんない」
そういって、日奈子ちゃんはDVDの再生を止めた。もう見るのはやめるらしい。日奈子ちゃんは倉田くんのほうを向いて助言を求める。
「ほら、私の担当している部分にカウントダウンタイマーがあるじゃないですか。あれってどんな感じに作ったらいいんでしょうか?」
フィールドワークと称してオリンピック用のサイトに掲載するネタを集めている矢羽田情報研のメンバーたち。それらと同時並行でサイトをつくることも進められていた。各人がそれぞれに分担してサイトに必要な部分を作っているのだ。
「たしかオリンピックまでの残り日数を表示するタイマーでしたね。数字だけ出ればいいんじゃないですか?」
サイト上に表示されるタイマーを作る作業はプログラミングによるので、面倒くさいと言えば面倒くさいが、特別難しい作業でもない。日奈子ちゃんが何に悩んでいるのか倉田くんにはわからなかった。
「え~それだとつまんないですよ。もっと面白い物を作りたいです」
「無賃でそこまでやる必要はないと思いますが……」
「無賃でも納得のいかない物は作りたくないんです~。もお、倉田くんやる気なさすぎ」
日奈子ちゃんはそう言って頬を膨らませて怒る。倉田くんは苦笑いをする。
「でも何も思いつかなくって。映画の最初のカウントダウンを見てみたんですけど、あんまりぱっとしないんですよね」
映画で使われるカウントダウンは、映画の世界にひきこむための導入のようなものなので、今回の目的には合致しない。オリンピック用のサイトに使うためには、カウントが進むたびに盛り上がることが求められていた。
「うーん。一日たつごとに電子音をならすくらいしかできないんじゃないですか?」
オリンピックが始まるまでカウントダウンをするというと、すごいものを作っているように聞こえるかもしれないが、実際に作るのはただのタイマーなわけで工夫できるところもかぎられる。
「電子音……それだ!!」
倉田くんの何気ない言葉が日奈子ちゃんの中にすっと入っていった。日奈子ちゃんは鞄に荷物を詰め、帰る準備をする。
「それでは家に帰って作ってきます」
そう言ってさっさと帰ってしまった。何か思いついたようだが、倉田くんにもよくわからない。倉田くんは一人になった研究室で自分の席に座る。
「日奈子ちゃんが何もやらかしませんように」
その言葉が誰かに届くことは無かった。
日奈子ちゃんが何かを思いついてから数日後。倉田くんは研究室内で一人もくもくと雑務をこなしている。あれから日奈子ちゃんは一度も研究室に顔を出していない。矢羽田教授も国際会議に出席するためにしばらくインドに行っている。倉田くんは思った。
(二人がいないとものすごく仕事がはかどる!)
日奈子ちゃんはもともとほとんど研究室にこないので、邪魔なのは矢羽田教授だった。普段の矢羽田教授の様子を思い出す倉田くん。
『おーい、倉田、この女優なんて名前なんだ?』
『今夜はラーッメンだな。うん。ラーッメンな気分だわ』
『今朝道に猫がいてさ。思わず写真撮ったんだが、見たい?』
仕事が山積みで忙しいときに限ってしょうもないことで話しかけてくるのだ。
「ずっと出張していればいいのに……」
倉田くんが静かな空間で仕事をしていると、勢いよくドアが開いた。
「完成しました!!」
日奈子ちゃんがすごい勢いで部屋に入ってきた。わきにピンク色のノートパソコンを抱えている。彼女がいつも来ているジャージは普段よりもよれよれに見える。髪もぼさぼさだ。どうやらあれからずっと自分の家にこもっていたようである。
「大丈夫ですか。目のところにクマができていますよ」
「私はウルトラ元気です!!見てくださいこれを!!」
日奈子ちゃんのテンションがおかしい。日奈子ちゃんは机の上に置いてある本やら資料やらを手でバーっと払って床に落とし、空いたスペースに自分のノートパソコンを置いた。
起動した画面には、カウントダウンを行っているタイマーとランドセルを背負った女の子の絵が描かれていた。
「女の子をクリックしてみてください。あっ、変なところをクリックしたらだめですからね!」
日奈子ちゃんはそう言って倉田くんにマウスを渡す。倉田くんは言われた通り、日奈子ちゃんから受け取ったマウスで小学生の女の子の顔のあたりをクリックした。
「もう、くすぐったいよ。お兄ちゃん」
小学生の女の子の口がちょっとだけ動き、喋った。というより絵の女の子にあてられているのは日奈子ちゃんの声であることが気になる。どいうことなの?という意味を込めて倉田くんは日奈子ちゃんを見るが、彼女は答えなんて教えてくれない。
「いきなり顔を触りにいくとは倉田くんもいい趣味していますね」
にやにやしながら日奈子ちゃんはそう言う。
「あの、これはいったいどういうことなんですか?」
日奈子ちゃんは首をかしげる。倉田くんが何がわからないのか理解できていないようだ。
「どういう事も何も見ての通りですよ」
「見てわからないから聞いているんですよ。ギャルゲーですか?」
女の子にさわっておしゃべりをするゲームにしかみえない。つまり、ギャルゲーだ。しかし、日奈子ちゃんはそれを否定する。
「ギャルゲーといっしょにしないで!これは育成ゲームなの!」
(これはめんどくさくなってきた)
倉田くんはしばらく口を閉じて彼女の説明に耳を傾けることにした。日奈子ちゃんは得意げに説明を始める。
「まずこのランドセルを背負っている小学生の女の子の名前は朝顔ちゃんです」
日奈子ちゃんはそう言って朝顔ちゃんのプロフィール画面をパソコン上に表示した。そこには家族構成、年齢、友達の名前、BWH、などが事細かく記されている。
「そして一番の特徴はオリンピックが近づくにつれて彼女も大きくなります」
つぎつぎに切り替わる朝顔ちゃんのイラスト。小学校を卒業し、中学生に。年齢ごとに別のイラストが用意されているようで、どれもまじめでいい子そうな感じを受けるイラストだ。なぜか途中で一回ギャル化しているが。
「たしかにすごいと思いますけど、このギャルゲーはオリンピックと関係ないんじゃ……」
倉田くんの疑問に日奈子ちゃんは食い気味で反論した。
「育成ゲーム!……コホン。それに朝顔ちゃんはコスチュームチェンジをすることができます。これを見てください」
そういって画像をパソコンに表示する日奈子ちゃん。
「朝顔ちゃん、日本応援Tシャツver。頬に入っている日の丸ペイントがチャームポイントです。ほかにも朝顔ちゃんは各種目のコスプレをします。競泳水着verから柔道着ver,陸上ユニフォームまであらゆる要望に応えるんです」
日奈子ちゃんはガッツポーズをして言う。
「だから、大人気間違いなし!!」
人気は確かに出そうだ。主に大きいお兄さんたちによる人気になりそうだが。しかし、倉田くんは心配しているところが一つあった。
「オリンピックまでのカウントダウンをすることが目的なのにここまで、朝顔ちゃんを目立たせてしまっていいんですか?」
本来の目的がかすんでしまうのは問題だ。一応、朝顔ちゃんのとなりでカウントダウンをしているものの、朝顔ちゃんのほうにしか目がいかない。
「抜かりはありません」
日奈子ちゃんはその問題は想定の範囲内だという。すでに対策が用意されていた。日奈子ちゃんは朝顔ちゃんの体を何度もクリックする。朝顔ちゃんのキャラクターボイスがクリックごとに連続で再生される。
「たのしみだな~、ぜんぜんねむれないよ」
「あ、もうこんな時間、おやすみお兄ちゃん💛」
「まだまだいっけるよ~」
「たのしみだな~、ぜんぜんねむれないよ」
「ねえ、あなたはどの選手のふくらはぎが好き?」
日奈子ちゃんは倉田くんに向き直って言う。
「ね」
何が、ね、なのか。しかも変な質問も混じっていた。
「矢羽田教授は言っていました。カウントダウンタイマーで待っている感を味わってもらうことが一番大切だと。つまり、タイマーなんて飾りです。いっしょにオリンピックを楽しみにしてくれているかわいい女の子がいたほうがいいに決まってます!」
矢羽田教授の意見はだいぶ曲解されているが、言っていることは間違っていないようにも思える。しかし、完成したサイトの全体像は教授の頭の中にしかない以上、倉田くんが安易にゴーサインを出すわけにはいかない。硬い文章にかわいらしいイラストのついたちぐはぐなサイトになってしまってはサイトに誰もこなくなってしまう。
「それなら矢羽田教授に電話で聞いてみましょうか?」
時差があるから向こうはまだ早朝だが、これくらいの時間なら問題ないはずだ。
「しましょう、しましょう!」
日奈子ちゃんも賛成する。倉田くんはスマホで矢羽田教授に電話をかけた。呼び出し音がいつもよりすこし長い。二人は電話がつながるのを緊張してまつ。やがて電話がつながった。
「あ、矢羽田教授ですか?ちょっと聞きたいことがあるんですが、いま大丈夫ですか」
「ああ、大丈夫だ。What are you doing? 返せ、こら。ふざけんじゃねぇ!」
電話の向こうから叫びごえと罵声が聞こえてくる。
「あの、本当に大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫だ。No. No. No.Are you kidding?」
倉田くんはスマホから口を離して日奈子ちゃんに言う。
「今忙しいみたいです」
「そんな~。私も話したいです!」
日奈子ちゃんは国際電話というものにワクワクしていた。このまま切っても日奈子ちゃんがちょっと話してから切っても変わらない気がしたので倉田くんは彼女にスマホを渡した。日奈子ちゃんと矢羽田教授が電話を始める。
「教授!私です!」
「おお、日奈子ちゃんか。元気しているか?」
「はい、超元気です。インドはエキゾチックですか?」
「おう、エキゾチックだぞ」
「ウィ~~」
「ウィ~~」
日奈子ちゃんに呼応するようにウィ~という矢羽田教授。よくわからないが二人は今日も楽しそうだ。倉田くんは日奈子ちゃんにはやく本題に入るようにジェスチャーで促す。
「ところでサイト用のオリジナルキャラ作ったんですけどサイトに使ってもいいですか。」
「おお、ゆるキャラってやつだな。やるじゃねぇか。採用!—まて、それはおいてけ。Freeeeeez!俺の財布ゥ――」
矢羽田教授はいったいインドで何と戦っているのか。もっとも日奈子ちゃんにはそんなことは関係ない。言質はとった。
「ありがとうございます、用件はそれだけなんで切りまーす」
日奈子ちゃんはスマホの通話を切った。日奈子ちゃんは倉田くんにピースをして言う。
「許可もらいました!」
うれしそうに報告してくる日奈子ちゃん。その電話の向こうでいったい何が起こっていたのか……。
「矢羽田教授ちゃんと帰ってこれるんでしょうか」
「倉田くん考え過ぎ。明日にはけろっとして帰って来るに決まっているじゃないですか」
よくよく考えたら、日奈子ちゃんの言う通りな気もしてくる倉田くん。出張にいくたびに何かしらトラブルを起こしているようだが、いつも自力で帰って来る。今回もどうにかするだろう。
「ふぁあ……」
日奈子ちゃんは眠そうに目をこする。ぶっつづけで作業をしていたせいで、さすがに限界がきたようだ。
「ちょっとソファで寝ます」
そう言ってのろのろとソファに向かう日奈子ちゃん。
「今日はもう帰ってもいいんですよ」
いつもならそんなことを言わないだろうが今日は目に見えて疲れているように見える。
「今日中にサイト内で動くようにしたくて……。そうだ、倉田くん。プログラムがちゃんと動くか試しておいてください」
「え~、僕がやるんですか」
「別の人がやらないと見落としがあるかもしれませんし……だめ?」
間違いを見つけるときに、作ったのとは別の人が間違いを探すのは、ダブルチェックの基本だ。非常にめんどくさい作業だが、ダブルチェックをするのとしないのではあとで問題が起こる確率が段違いで変わる。結局、必ずどこかでやらなければいけないのだ。
「わかりました。やっておくので日奈子ちゃんはもう寝ちゃっていいですよ」
立ちながら寝そうな日奈子ちゃんの背中を押してソファまで連れていく倉田くん。
「えへへ、ありがと」
倉田くんは彼女をソファに寝かせたあと荷物置き場からいつ買ったのかもよくわからない臭い毛布を持ってきて、かけてあげる。倉田くんがさっそく作業に入ろうと背中を向けると、裾を掴まれた。
「倉田くん耳貸して」
倉田くんはやれやれとしゃがんで日奈子ちゃんの声に耳を傾ける。
「実は低確率でエッチなボイスも聞けるんです」
倉田くんの耳元でそうつぶやいた。倉田くんは日奈子ちゃんの顔を見る。日奈子ちゃんはにやにやとしている。倉田くんはため息をつく。
「はやく寝なさい」
倉田くんは日奈子ちゃんの毛布を頭の上まで引き上げて仕事に戻った。
倉田くんは、日奈子ちゃんが起きたらすぐに仕事に入れるように、さっそく確認作業を始めた。けっしてエッチなボイスを聞きたいからではない。
「あ、もうこんな時間、おやすみお兄ちゃん💛」
このボイスの再生は22回目だ。正直考えていた以上にボイスパターンがあるので倉田くんも疲れ始めていた。
「ぜんぜん出てこないな」
もちろんバグの話だ。けっしてエッチなボイスを聞くために、探しているわけではない。
「ちょっと休憩しましょうか」
クリックするだけとはいえ、30分も続けていると飽きる。倉田くんはカンコーヒーを買いに行った。
倉田くんが自動販売機の所に来ると、先客がいた。
「あ、倉田くん、こんにちは!」
そこにいたのはレイアさんだ。彼女の手にはバナナキャラメルミルクイチゴ牛乳が握られていた。倉田くんも以前一度飲んだことがある。
「こんにちは。それまずいですよ」
倉田くんはバナナキャラメルミルクイチゴ牛乳を指さしてそう言う。
「え、そうなの?杉山教授は好きみたいだけど」
そう言いながら、レイアさんは100パーセントオレンジジュースを買った。どうやら自分用に買ったものではないみたいだ。
「杉山教授は趣味が悪いですねぇ。あんなゲテものを好き好んで飲むなんて、やはり人間の屑です」
「それだけでそこまで言わなくても……」
苦笑いをするレイアさん。倉田くんも缶コーヒーを買う。
「そっちの研究はうまくいっていますか?」
「”ボチボチ”」
えらく発音の良いぼちぼちだ。ふだん流暢な日本語を話しているから、倉田くんには彼女のその言い方が新鮮に感じた。
「レイアさんはどうやって日本語の勉強をしたんですか?」
「パパのお嫁さんに日本出身の人がいて、その人に教えてもらったの」
「レイアさんはハーフなんですか?」
「え?」
「ん?」
二人で首をかしげあう。どうやら彼女の母親が日本人というわけではないことに倉田くんは気付いた。気付いたがあんまり深く踏み込むと地雷を踏みそうな気がしたので、倉田くんはそれ以上訊かなかった。
「その人とは仲が良いんですか」
「ええ、とても優しい人よ。小さい頃はよく彼女の部屋にいって遊んでもらっていたわ」
レイアさんはその人のことを本当に楽しそうに語る。よほど仲が良かったんだろう。そしてきっと素敵な人なのだろう。倉田くんは彼女の話をにこにことしながらきいていた。
「あ、いけない。杉山教授がバナナキャラメルミルクイチゴ牛乳を楽しみにしているから、もういくね」
レイアさんはそう言って走っていった。一人自販機のところに残された倉田くんは思う。
(作業にもどりたくない。このままずっとおしゃべりしていたかった)
コーヒーの苦さがしみる。
倉田くんはカンコーヒーを片手に研究室に戻る。日奈子ちゃんはソファですやすやと眠っている。よほど疲れていたのだろう。起きる様子はない。
『実は低確率でエッチなボイスも聞けるんです』
彼女の言葉ははたして本当なのだろうか。さっきまで試してみた感じではそれらしいボイスには一度も当たっていない。いや、もちろんエッチなボイスにぜんぜん興味なんてないが。
「でも、ちゃんと動作しているか確認するためにすべてのボイスをチェックする必要はありますね」
倉田くんはカンコーヒーを投げ捨てた。
「本気、出しましょうか」
ネクタイを緩める。パソコンの前に座り、いったん脱力する。目をとじて集中力を高める。時間の流れが徐々に遅くなっていく。
矢羽田研究室の研究は本来セキュリティに関するものだ。加速化する情報社会。企業はさまざまなコンテンツを消費者に提供することになる。多様化する情報の形態にともない、すべての場合において同じ防壁では悪意ある攻撃をすべて防ぐことはできない。コンテンツに適したセキュリティを効率的に構築するのが彼らの研究目的だ。
そして壁を作ることにたけているということは壁を壊すのにもたけているということ。
倉田くんはカッと目を見開き、動き出す。つぎつぎと打ち込まれていく英数字がパソコンに指示を与えていく。しずかに、しかし、着実に防御がはがされていく。それに呼応するかのように彼女独自の防御プログラムが次々に起動していく。倉田くんも負けじとセキュリティの穴をみつけ、一瞬のスキをぬって攻撃する。そんな攻防がなんども繰り広げられる。
「コンプリート!」
ターンとENTER keyが押されると同時に画面上に一つのプログラムが表示される。
「僕の勝ちですね。日奈子ちゃんもまだまだ勉強不足です」
倉田くんはすべての防壁を突破した者にのみ許される勝者の顔をしていた。倉田くんは表示されたプログラムからエッチなボイスを探す。
「確率をいじっているってことは・・・・・・あ、これですね」
あきらかに出る確率が低くなるように設定されている音声ファイルがあった。倉田くんはそれを起動させる。
「倉田くんはほんとにばかだなあ」
倉田くんは驚いて立ち上がり、日奈子ちゃんが寝ているソファがある方を見る。彼女はまだ寝ている。すやすやと。倉田くんはおそるおそるもう一回ファイルを起動させた。
「倉田くんはほんとにばかだなあ」
先ほどと同じ音声が流れる。倉田くんは理解した。自分の動きが読まれていたことを。エッチなボイスをきくためにパソコンをクラッキングするだろう、と自分より年下の女の子に思われていたことを。
そして嘆く。最初からエッチなボイスなんてなかったという事実を。
「ちっくしょおおおおおおおおおおお!!!」
それは敗者の叫びだった。
「俺の机がコーヒー臭いんだけど!」
矢羽田教授は無事にインドから帰ってこれたようです。
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