第1話 東京Olympic開催 ~その金メダルを手にするものは~
オリンピック。それはスポーツの祭典。四年に一度、世界中のアスリートたちがひとつの都市に集い、己の肉体の限界に挑戦する。彼らは四年間という長い時間をかけて準備する。一瞬の輝きを待ち望む観客たちのために。
そして次のオリンピックにむけて、動き出している男がここにもいた。
「ふんっ!—ふんっ!——ふんっ!」
男はそれを持ち上げようとするがなかなか持ち上がらない。しかし、あきらめるつもりはない。男には果たさないといけない夢があるのだから。くたびれた筋肉が悲鳴を上げる。それでも両手を離すことはけっしてしない。
自分の髪に白髪が混ざり始めたのはいつからだっただろうか。子供はいない。仕事のためだけに生きてきた。その人生に後悔はない。後悔はないがときおり不安になるのだ。本当にこのまま進んでいいのかという自問。そんな問いをはねのけるためにも男、矢羽田教授は腕に力を入れる。
「んぬああああああああああああああ」
「あれ、矢羽田教授なにやってるんですか?そんな重いパソコンなんて持っちゃって」
部屋の模様替えですか?と訊くのは倉田くん。彼は矢羽田教授の助手として矢羽田研究室に勤務している。矢羽田教授が持ち上げようとしているパソコンは今どきのものと異なり、旧式のものなのでかなり大きい。そしてそのパソコンは旧式ゆえに重かった。
「お、倉田。ちょうどいいところに来たな。お前もそっち側を持て。このパソコンを部屋の外に出すぞ」
「え、いいんですか?このパソコンがなくなったら僕ら研究できなくなりますよ」
矢羽田研究室には予算がない。いまどき、どこの研究室も資金不足に悩んでいるが、矢羽田研究室はとくにお金がなかった。そもそもあまりお金がかからない研究ばかりしているせいで、ほとんどお金を回してもらえないのだ。そのため何世代もまえの古いパソコンを性能が低くてもだましだまし使いながら研究をしていた。
「ああ、気にすんな。新しいパソコン買ってやるから」
「買ってやるっていったいどこにそんなお金があるんですか」
ついに矢羽田教授の頭がおかしくなったのかな、と倉田くんは思った。そう思うのも無理はない。研究室というせまい空間にこもり続けるとどうしようもない気持ちになることはよくある。倉田くん自身、何度全裸で町中を走りたいと思ったことか。追い詰められると人は突拍子のないことをやりたくなるものだ。
「なんだ、その目は。俺が嘘ついていると思ってんのか」
「いえ、ただかわいそうだな、と思いまして」
倉田くんにかわいそうなものを見る目を向けられた矢羽田教授は悔しくなったので証拠を見せることにした。
「しょうがないな。お前には特別にあれを見せてやる」
「あれとは?」
教授は意味深に”あれ”と言い、鞄からあるものを取り出した。
「Let's Noteだ」
「ど、ど、ど、どうしたんですか。そんな嗜好品買っちゃって。借金ですか、いくら借りたんですか⁉」
矢羽田教授が鞄から取り出したのは、20万円以上するビジネス用ノートパソコン、Let's Noteだ。さらによく見ると、教授がもっている鞄も以前使っていたリサイクルショップで買ったすり切れたブランド物の中古バッグではなく、新品の高級そうなバッグに変わっていることに倉田くんは気付いた。驚いたことに本当に金を手に入れたらしい。
「い、いえ、失礼しました。Let's Noteをだされては信じないわけにはいきませんね。まさかLet's Noteが出てくるとは……。ところでそのLet's Noteどうやって手に入れたんですか?懸賞でもあたったんですか?」
倉田くんは現実を受け入れられなかった。昨日まで自宅の空調を使いたくないから消灯ぎりぎりまで研究室に残るなんて言っていた人がLet's Noteを買っているという事実を受け入れることができなかった。
「そろそろ信じろ。まあ、理由は簡単だ。学長にうちの研究費を増額してもらったんだ」
大学内で一番偉い学長は人事や予算などについてある程度決めることができる。しかし、大学としての収入が大幅に増えることなんてほとんどないのでたいていの場合は例年通りの人事、例年通りの予算となる。そのため予算を増額するのは、その研究が成果を出しそうなときくらいだ。つまり、簡単に言えば、こんな感じになる。
「来てる!来てるよ、これ。この研究、行けちゃうって!!」
学長がそう思った研究にだけ投資するために大金をつぎ込むことになる。実際のところ、そのような判断を学長が下すのにはリスクがあるためにどこかで賞をとった教授なんかに予算が回されることになる。もっとも税金による補助金が減っている現状、増額することはほぼないというのがただしい。その辺のせちがらい事情を知っている倉田くんは思った。
「どうしてまた急にうちなんかに予算を割いたんですか。もっと人類のためになる研究をしているところがあるでしょうに……」
「お前なんで俺の研究室に来たんだよ」
助手がそんなこと思いながら自分の研究を手伝っていたなんて知りたくなかった……、と矢羽田教授はちょっと悲しそうにする。
「いったいどんな手を使って学長をだまくらかしたんですか?」
「騙すとか人聞きの悪いこと言うなよ。まあ、学長が影響されやすそうな人だってのは否定しないがな。実は他大学が政府と協力してつくっている東京オリンピックにむけたPV映像を学長がたまたま見たらしい。そんでうちの学長がその映像にいたく感動したみたいでな。うちの大学でも東京オリンピックにむけて何かできないかって話になったわけだ。それで……」
「暇な研究室が矢羽田教授のところしかなかった、と」
「むっ……そういうわけで俺の高度情報研究室にオリンピック用の予算が下りた」
矢羽田教授は倉田くんのいったことを否定しようとしたが、自分の研究室が暇なのは、あながち間違いでもないので何も言わなかった。
「いや、予算が下りてもすることないじゃないですか。いったいうちの研究室で何をするんですか?僕、走ったりできませんよ。ダンスも苦手です」
倉田くんは運動はからっきしだった。運動部と無縁の生活をしてきたのだからしょうがない。もっぱら頭脳労働専門なのだ。派手な光のなかでかっこいいダンス
を披露することなんてできない。
「なんで、お前が踊るんだよ。やることはもう決まっている。実は予算の出どころが大学の地域振興費からでな。大学周辺の観光マップを作ることで東京オリンピックを見に来た外国人に観光してもらってお金を落としてもらおうってわけだ。地域の活性化にもなるし、学長も満足するしで一石二鳥ってわけだ」
「なるほど、そんなところから予算を引っ張ってきたんですね」
大学と地域とのかかわりを強め、その地域の発展のために使われる地域振興費。それならばオリンピック用に使っても問題なさそうなふわっとした定義の予算だ。それをたまたま暇だった矢羽田教授がぶんどってきたわけだ。
「でもそういうのは文系の学部の教授の仕事じゃないんですか?」
地域の特産を調べたり、おいしいお店を紹介する地図を作るのに工学部の情報研究室が
「手書きの地図を作って県庁に展示するくらいなら俺たちの仕事じゃないんだろうが、俺たちが作るのはサイトだ。外国からの観光客のためになる情報を選んで掲載するサイトを作ることでオリンピックを盛り上げるってわけだ」
そこまでいったところで矢羽田教授は怪訝な顔をする。倉田くんがあんまりのりきじゃないことに気付いたのだ。
「どうしたんだよ。やる気なさそうだな」
「そもそもオリンピックって言われてもそんなに興味ないですし……」
倉田くんは運動はからっきしだった。運動部と無縁の生活をしてきたのだからしょうがない。もっぱら頭脳労働専門なのだ。そもそもオリンピックはスポーツ好きのためのイベントだ。研究室と自室を行き来することですら嫌になることがあるくらい動くの嫌いな人間にオリンピックがどうとかいっても食いつきが悪いのは仕方がない。
「なんでだよ!!女子バレーボールなんか最高だろうが!!」
「ちゃんとスポーツを見ましょうよ」
矢羽田教授の目がぎらつく。あきらかに不純な動機で女子バレーボールを見ている。太ももしか見ていない人にスポーツの良さを語られても、面白くない。
「なんでそんなやる気ないんだ、お前。重要な仕事だぞ。お前のキャリアアップにもなるし……」
「キャリアアップ?」
とたんに目の色が変わる倉田くん。大学で助手という立場は非常に不安定だ。その職業の性質上、いつ職場が変わるかわからない。そして転職するときに役にたつのはキャリアという名の経験だけなのだ。
「お前はほんとに現金なやつだな。まあ、いいけどよ。俺たちが作るのは地図じゃなくて、地図の作り方だ。過疎化する地方を再生しようと行政はやっきになってるからな。俺たちが作ったオリンピック応援観光サイトが成功すれば、それをモデルケースにしてほかの地方でも似たようなサイトを作れる。その時に実際に地図を作る方法が分かっている俺たちはひっぱりだこだ」
そして矢羽田教授は最後にキメ顔でこう締めくくった。
「つまり、この経験はプライスレス」
なんだかんだ矢羽田教授は優秀な人だ。口は悪いし、白髪も多いし、雑用は全て倉田くんに押し付けるが、仕事はできる。ほとんど働かないだけだ。くさっても大学教授というわけだ。とはいえ、倉田くんも矢羽田教授とは長い付き合いだ。簡単に騙されることはない。
「プライスレスってただ働き前提ですか。屋外手当は?」
「つくわけないだろ。だまって働け」
やはり矢羽田教授は理不尽だ。倉田くんの死んだ目を見て矢羽田教授は言う。
「とはいえ、フィールドワークっていうのは楽しいもんだぞ。いろいろとできるからな」
「いろいろって何ですか?」
「ばっか、お前いろいろはいろいろだよ。行ったときの楽しみとっておけ。それより、ほらパソコン運ぶからお前も手伝え」
「わかりましたよ。それで、どこに運ぶんですか?」
倉田くんもいやいやながら手伝う。そもそも持ち手なんてどこにもないのでとても持ちづらい。パソコンの下に手を入れてどうにか二人でパソコンを持ち上げる。歩くたびにちょっとよろめいているが、二人なら運べる程度の重さだ。
「自治体の回収BOXだ。4/1から小型家電を回収して金メダルを作る計画がスタートするから、そこに出しにいく」
「そんな計画があるんですね。初めて知りました」
「都市鉱山から作る!みんなのメダルプロジェクト、だ。日本中のみんなの想いがメダルに籠められるなんてすばらしいことだと思わないか?」
日本には資源がすくない。しかし、ものづくりの国としてたくさんのものを生産する必要がある以上、資源を他国から輸入しているだけではいずれ限界がくることは目に見えている。そこで目を付けられたのが都市鉱山だ。都市で捨てられたゴミの中から使える部品を取り出して再利用するのなら理論上は無限に作り直せることになる。パソコンをつくるために古いパソコンの部品を回収して材料にする。そのパソコンが古くなったらまた新しいパソコンの材料に使う。掘っても掘っても金がでないから金メダルが作れないので電子データのメダルを贈るなんていう悲しい未来を防ぐことができるすばらしい考え方なのだ。東京オリンピックでは持続可能な社会を目指しての取り組みとして初のリサイクル金メダルが作られることとなる。
けっしてゴミメダルとか思ってはいけない。集めているのはゴミじゃなくてみんなの気持ちだからだ。日本中のみんなの思いをメダルに込められるイベントをただの廃品回収といっしょにしてはいけない。
「なんだか感慨深いですね。僕らがずっと使っていたオンボロパソコンが金メダルに変わるなんて……」
倉田くんはこのオンボロパソコンのことを思い出す。倉田くんが矢羽田研究室に来たときからずっと使い続けている。研究データの解析中にパソコンがフリーズして最初から解析をやり直した回数は数え切れない。はじき出された計算結果に一喜一憂しながら使い続けてきた。
しかし、そんな思い入れがあるパソコンもいづれは修理できないほど壊れ、捨てなければならなくなる。それが物である以上、いつかはそうなるのも仕方がないことなのだろう。いや、簡単にそれのことを物だといっていいのだろうか。彼らにとってそのパソコンはすでにいっしょに研究をしてきた”仲間”なのだ。彼らがパソコンを新型に買い替えられなかったのはそんな仲間を捨ててしまうような気がしていたからなのかもしれない。
もしゴミではなく、金メダルとして、今度は世界の人々に夢と希望を与えることができるものに生まれ変わるのだとしたら、それはとてもすばらしいことだった。
とても合理的とは言えない考え方だ。本当ならパソコンのスペックだけを見て、自分に必要なことができればいいだけだろう。所詮は便利な道具の一つにすぎない。だから倉田くんは、矢羽田教授がそうすることに驚いてしまった。
「矢羽田教授がそんなロマンチストだなって思いませんでした」
「ロマンを忘れたらこの仕事はやめてる」
教授のその口ぶりはすこしだけ寂しそうで・・・・・・。倉田くんがそこについてこれ以上聞くことはできなかった。
*都市鉱山から作る!みんなのメダルプロジェクトは2017年4月~2019年春頃まで続く予定です。また回収を行っていない自治体もあります。
なんとか回収場所までパソコンを運び込んだ二人。 自治体の回収場所まで歩いて運んだせいで3時間もかかった。二人とも免許を持っていないのだから仕方がない。ぜいぜいと息を荒げながら、二人はパソコンを置いて腰を下ろす。しかし、待ち受けていたのは悲しい現実だった。
「矢羽田教授。これって……」
「ああ、入らないな」
*回収BOXに入らない大きさのものは回収できません。
二人が一生懸命運んだオンボロパソコンは大きすぎた。どう頑張っても回収BOXには入らない。
「置いていったらばれないんじゃないか」
「ばれたときがまずいんですよ、教授」
二人はパソコンを見る。またさっき来た道のりをこの無駄に重いパソコンを持って、大学まで帰らなければならない。
「やっぱりおいてきますか?」
二人がひいひい言いながらパソコンを研究室に持ち帰ると、研究室に一人で待っている人がいた。ジャージを着ている女の子だ。
「あ、日奈子ちゃん。珍しいですね。研究室にいるなんて」
「はい、たまにはまじめに研究しようかと思って」
日奈子ちゃんは現在、大学院修士課程だ。所属はここ矢羽田情報研だが、研究室にはめったにこない。倉田くんは彼女がちゃんと卒業できるのか心配しているが、矢羽田教授は特に気にしていないらしい。
「お、いい心がけだぞ。頑張れよ」
なんて言うくらいにここの研究室はゆるいのだ。
「実はいまうちの研究室ですごくやばいプロジェクトを進めているんだけど、日奈子ちゃんは興味ない?」
矢羽田教授はどうやらさっき倉田くんにした話を日奈子ちゃんにもするみたいだ。日奈子ちゃんはうんうんと教授の話に頷いている。そして最後はやっぱりこう締めくくった。
「つまりこのプロジェクトの経験はプライスレス」
とうぜん賃なしである。学生にすら無賃で働かせようとする矢羽田教授に良心とモラルはあるのか怪しい。
「かっこいいです教授!」
日奈子ちゃんは目をキラキラさせてそう言う。どうやらすごく乗り気な様子だ。倉田くんとは大違いの反応だ。
「手伝ってくれる?」
「はい!ただ一つだけお願いが……。男子バレーボールの取材にいってもいいですか⁉」
丸め込まれているというより矢羽田教授と同類なだけだった。
「日奈子ちゃんもバレーボール好きだったんだね」
「いや~最近興味を持ちまして……。ぐっとくるものがありますよね」
興奮して語る日奈子ちゃん。
「お、わかってるねぇ」
矢羽田教授と日奈子ちゃんがバレーボールについて盛り上がってる。おっさんとJDが奇妙につながりあうめづらしい瞬間を見た。どちらも選手の話しかしていないが。
バレーボールトークの最中、日奈子ちゃんはふと思いだしたことを口にする。
「そういえば教授たちがいない間に杉山教授が来てましたよ」
杉山教授はとなりの部屋、数学研究室の教授だ。よく情報研研究室に遊びに来ては矢羽田教授をあおって帰る。
「また、あいつここに来たのかよ。あいつも暇だな」
「僕もあんまり好きじゃないんですよね。あの人」
矢羽田教授も倉田くんも杉山教授に対してあまり良い印象は持っていない。
「私にはふつうにやさしいんですけど……」
日奈子ちゃんは杉山教授についてよく知らない。ちょいちょいやってくる声がダンディなおじさんくらいの認識だった。部屋がとなりであっても直接的なかかわりがなければ話す機会などほとんどない。そのわりには矢羽田教授と倉田くんは杉山教授についてよく知っている。
「むかつくのはあいつが金持ってることだな」
「このまえ、僕に高級な時計をチラチラさせてきました」
いろいろ言っているが二人と杉山教授はいつもいっしょにお昼ご飯を食べていることを日奈子ちゃんは知っている。日奈子ちゃんには三人はただの仲良しにしか見えなかった。
「一番むかつくのはあれだな」
「そうですね。あれですね」
そして二人が共通する杉山教授のいやなところがあった。声をそろえ二人は言う。
「「Let's Noteを使っていること」」
ただの僻みじゃん、と思う日奈子ちゃんはきっとまちがっていない。
「まあ、これからはあいつにデカい顔をさせないがな」
「ええ、僕たち情報研にもLet's Note がありますからね」
矢羽田教授はLet's Noteを高らかに掲げる。彼の顔は誇らしげだった。倉田くんも満足げだ。彼らのプライドは20万円のノートパソコンによって満たされた。
「ふふ、これで杉山教授と対等になれたんですね」
日奈子ちゃんの放った何気ない一言に矢羽田教授の目が光る。
「”対等”?」
そうあくまで同じ土俵に立っただけだ。やっと横にならんだだけなのだ。
「僕たちは並んだだけで喜んでいたんですか、教授!!」
そこからの二人は早かった。矢羽田教授が手に持っているLet'sNoteを空中に投げる。倉田くんは矢羽田教授の意図を一瞬で理解した。
ロジック、それは論理的思考。正しいことを積み上げ、正しい結果を生み出す。誰がやってもどんな時でも、どこにいたとしても同じ答えに至る。それがロジカルシンキングだ。情報を専門にあつかう人間ならば、だれにでもできること。できてしかるべきことだ。だからこのとき、矢羽田教授と倉田君の頭脳は同じ結論へと至った。
倉田くんはLet's Noteの落下ポイントにすっと動く。
「トス!!」
Let's Noteを矢羽田教授の方へと再び打ち上げる。教授はタイミングよくジャンプした。宙で弧を描くLet's Noteを完全にとらえた。
「スパイク!!!」
強烈なスパイクをLet's Noteに打ち込んだ。回転しながら床にたたきつけられるLet's Note。
(何やってるんだろうこの人たち……)
日奈子ちゃんは引いているが、彼らの論理に一部の隙もない。すっきりとした顔の矢羽田教授と雄たけびをあげる倉田くん。二人はいまスポーツの喜びを味わっているのだ。
「これが勝利のスパイクってやつか」
「バレーボールが楽しいって初めて思いました」
「ぜったいバレーボールに対するイメージが間違ってます」
日奈子ちゃんの顔が引きつる。そんな彼女に矢羽田教授はやさしく語り掛ける。
「今回の東京オリンピックのテーマはテクノロジーだ。日本の技術のすべてを世界に見せつけるチャンスなんだよ。それにLet's Noteが金メダルになるってロマンチックだろ」
日奈子ちゃんは倉田くんに助けを求めようと顔を見るが、彼はうんうんとうなずくだけだった。ロマンチックとはなんなのか。テクノロジーとLet's Noteでバレーボルをすることになんのつながりがあるというのか。彼女にはわからない。
「……すごくかっこいいです」
日奈子ちゃんは考えるのをやめた。
そのころ隣の研究室。
「なんかいま隣の部屋から大きな音が聞こえませんでしたか、杉山教授」
「レイラ君、彼らのようになるなよ」
「どういうことですか?」
「そのうちわかる」
杉山教授は意味深にそう言い、手元の資料に意識を戻す。それ以上教える気はないようだ。彼は多くを語らない。語らずとも人は学ぶのだから。
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