23話「戦勝会」
「それでは! 私達の歌を楽しんでね!」
七色のスポットライトに照らされた、ミニスカ衣装のミコナとホースとシャル。
シャルはまだちょっと硬いが、ミコナは吹っ切れたのか、もともと巫女として人前に立っていた経験のおかげか、緊張している様子は無い。ホースはガッチガチである。
ここまで持ってくるのにえらい苦労したものだと、タケルはうんうんと頷いた。
フェロー連合を抜け、海上に脱出した我らが魔導戦闘空母アマテラスは、現在唯一帝國と渡り合っているゼベドナ王国へと向かっている。
前後左右、どこまでも広がる青い海。
海峡と言いつつも、その距離は数百キロ。退屈な日々が続く事になる。
幸い水と魔力は無限に生み出せるアマテラスだ、積み込んだ食料は渡航には十分な量だ。
つまり……。
「まったく……今までの緊張の日々は何だったのかと言うほど暇だな」
「油断は禁物だろう」
「わかっている。だが、ペガサス隊とワイバーン隊が交互で警戒しているが、敵影は一切無い。もっともこの広い海に出てしまえば大きいようで小さいこの空母アマテラスを見つけることは難しいだろう」
「まぁ……そうだろうな」
フェロー連合を突破した次の日だ。
タケルとジングン艦長、それに黒肌のエルフ、ヘイセ・ハファイで話合っていた。長老達はジングン達に任せると参加していない。
今はジングンとヘイセの会話をタケルは黙って聞いているだけだ。
「渡航にどれくらい時間がかかりそうだ?」
「ゴルゴン整備班長は、最速で5日と言っていた。蒸気ボイラーは全機破損。修理するくらいなら1から作った方が早いそうだ。さらにアマテラスの推進機関にも問題発生。それを最優先に修理。右舷後方の修理は後回しという状況らしい」
「ふむ……」
ジングンはあごを撫でる。
「食料は何日分あるんだ?」
「たしか15日前後はあるらしい。節約すれば20日以上いけるはずだ」
「ならば速度を落として7~8日程度で渡れるようにして、そのあいだに修理を進めた方がいいかもしれんな」
「賛成だ」
どうやら方針は決まったらしい。
そこでタケルは口を挟んだ。
「なあヘイセ、余裕はあるんだよな?」
「ん? まぁ、そうだな。食料にしても、時間にしてもある程度は。ずっと訓練漬けだったから休養にもいいだろう」
「だったらアイディアがあるんだけど」
「なんだ?」
ジングンとヘイセが片眉を上げる。
「パーティーを……戦勝会をやらないか?」
こうしてアマテラスの一大イベントが決まった。
◆
「ちょっ!? な、なんで私が歌うの!?」
場所は救護室。
現在けが人達が集まり、第991魔導衛生隊”ナデシコ”の8名によって治療を受けていた。その一員で有る無口ロリのシャルが、叫んだミコナに顔を向けた。
「いやー。やっぱお祭りといえばコンサートだろ?」
「意味がわかんないよ!?」
治癒魔法は使えないが、手伝いに来ていたミコナに戦勝会のコンサートを提案しにタケルは来ていた。
タケルの中に戦闘と歌は切り離せない因果関係としてその身に刻み込まれていた。理由などどうでも良いのだ。戦争するのであれば歌わなければならないと、タケルは信じ切っていた。アクティブオタクは伊達では無い。
「ほら、ミコナって巫女として、人前で歌ってたって聞いたから」
「歌って言っても巫女としての儀式だからね!」
「経験があればいいんだよ」
「……じゃあ儀式として歌うって事なの?」
「違う違う。単純にアマテラスの住民に慰労として楽しませるのが目的だ」
「え!? どういうこと!?」
「こっちの世界に歌手とかいないの?」
「歌手?」
「歌を商売とする人」
「それはわかってるわよ。存在はするわ。優秀な人になれば歌と踊りを国王に献上したりもするわ」
「じゃあ問題無いな。それをミコナにやって欲しい」
「だから! なんで私が!」
「いいじゃねぇかそれ!」
唐突に割って入ってきたのは、ワイバーンライダーのスワローだった。腕にちょっとした怪我をしたらしく、ちょうどシャルの治癒魔術を受けていた。
「はぁ!? 何が良いのよ! 私にさらし者になれっていうの!?」
「違う! ミコナにはアイドルになって欲しいんだ!」
「あ……あいどる?」
「ああ! 歌って踊れる皆の女神! 手が届きそうで届かない理想の偶像! それがアイドル!」
「言っている意味がわからないわ……」
「なるほど、その存在で皆を鼓舞するわけか」
「さすがスワロー! 理解が早いぜ!」
「あんた達ねぇ……」
頭を抱えるミコナ。
「なんだ? ここまで頑張ってきたアマテラスのみんなを楽しませてあげようとか、そういう気持ちはないのか?」
「え? そりゃ……せっかく落ち着いたんだから、楽しめるなら楽しませてあげたいけど……」
「なら決まりだな!」
「ええ!? ちょっと待ってよ! 私やるなんて一言も……」
「あ。あとシャルにも歌ってもらうからよろしく」
「……」
言われた意味がわからなかったのか、小首を傾げてこちらを見るシャル。
そしてしばらくの沈黙の後。
「あっちゃああああああ! 痛ぇえ! 痛えええよ! シャル! 魔術が! 魔術が暴走して! 痛ぇえええええ!!」
スワローが叫んだ。
どうやらシャルの治癒魔法が変な感じに発動しているらしい。
「……私?」
「おう! シャルは可愛いからな! 絶対必要だ!」
「……可愛い?」
「おう! 俺が保証する!」
「ちょっと! 私と随分態度が違わない!?」
「大丈夫だ! ミコナも可愛いから!」
「ふひゃ!?」
「痛ぇ! 痛ぇえっての!」
「おっと! ホースさんにも頼みに行かなきゃ! じゃあ二人ともよろしく! 歌が完成したらまた!」
タケルはそう言って救護室を飛び出していった。
「……馬鹿なの? あいつ……」
残されたミコナが呟いた。
「可愛い……可愛い……」
顔を真っ赤にして、小さく繰り返すシャル。叫ぶスワロー。だいぶカオスだった。
◆
「はい! そこでターン! ホースさん遅いよ!」
タケルはぱんぱんと手を叩いて、手に持っていたメガホンをホースに向けた。
場所は甲板の先端である。ミコナ、シャル、ホースの三人がタケルの指導でダンスをしていた。側にはバンドを組まされたスワロー引き入る第1戦闘攻撃飛行隊”ライジン”のメンバーもいた。スワローは見た目通りというか、ギターっぽい弦楽器を見事に弾きこなす。
無理矢理仲間に入れられたライジンのメンバーはお手製のドラムやベース、サックスにトランペット……らしき楽器をひーこら言いながら練習中だ。
「ええい! そんなに簡単に出来るものか! 踊りなど初めてなんだぞ!」
「文句言わない。一度引き受けたことはやるんでしょ?」
「ぐ……皆の慰安のためなどとおだてられなければ……!」
真面目人間のホースは、タケルの口八丁にのって、つい引き受けてしまったのだ。もっとも本人は歌と踊りと聞いて、奉納舞の様な物を想像していたようだが、そんなのは知らない。タケルからすれば引き受けた時点で勝ちだ。
そして一度引き受ければ、真面目人間のホースが途中で投げるという事は無かった。
ミコナは諦めて真面目に練習している。もっとも出来上がった曲とダンスを教えたところ、余りにも刺激的で逃げそうになったのも事実だ。
アクティブオタクのタケルが作製したのだ、40人とか50人で歌って踊るような、この世界には余りにも斬新な曲になったのは確かだ。
だが、曲を聴き、ダンスを知ったスワローは狂喜乱舞し、タケルと一緒になって三人を説得したのだ。
その情熱の熱量は蒸気機関よりも熱かった。
よくわからない男達の熱意に押され、渋々承諾した三人は、日本のアイドルの真似事をするハメになったのだ。
「まぁ……なんとか学園祭レベルまではいけるかな」
もともと歌が上手くリズム感抜群のミコナは、運動神経も良いらしく、ダンスも大体覚えていた。
驚いたのはシャルで、ミコナよりも透明感のある歌声は、小さいのに遠くまで響くという不思議な声帯を持っていた。
まぁホースはお察しである。運動神経は誰よりも良いはずなのだが……。
「ホースさんは歌も踊りもきっちり練習ですね」
「ぐぬぬ……」
「ミコナは完璧だな」
「でしょー!」
「知っているか? 完璧過ぎる女性は敬遠されるんだぞ?」
「ふぁ!?」
「シャルはいいな。歌は最高、踊りはたどたどしい……別の意味で完璧だ。その可愛さにテレビの前の男達は総崩れだろう」
「可愛い……可愛い……」
「テレビってなによ?」
「今調整してる、魔導モニターの……事だよ」
「なんで言い淀んだのよ」
「いや、ちょっと違いがあるんだけど、気にすることはない」
「そう?」
「それより練習練習! はい! ホースさん遅いよ!」
「なんで私にだけ言うんだ!」
「出来てないからだよ!」
そんな調子で特訓は続いた。
お披露目は当日という事で、甲板の先は現在立入禁止である。さすが全長400mはある巨体だ、一定ラインから立ち入れなくすればまともに歌も届かない。
もっとも現在艦橋に特設ステージを組んでいる作業音で、聞こえる物も聞こえないのだが。
そして戦勝会当日である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます