22話「戦術」


『頃合いだ。第1戦闘攻撃飛行隊”ライジン”及び第101支援攻撃飛行隊”オニビ”及び第102支援攻撃飛行隊”ガシャドクロ”は全力出撃! 繰り返す! 第1戦闘攻撃飛行隊”ライジン”及び第101支援攻撃飛行隊”オニビ”及び第102支援攻撃飛行隊”ガシャドクロ”は全力出撃!』


 ロープを伝ってタケミカヅチに取り付いた整備員が魔力の詰まった魔力宝珠と空になった魔力宝珠を交換している間のことだ。

 タケルは次々と飛び出す”ライジン”部隊のワイバーンと、”オニビ”部隊のグリフォン12騎。それに”ガシャドクロ”部隊のマンティコア12騎が飛び出していくのを甲板から眺めていた。


 狒々の顔とライオンの身体、コウモリの羽にサソリの尾を持つマンティコアは、一応飛行出来るが速度も遅く、長くも高くも飛べない。だが、それを補って余り有る陸戦能力があるのだ。

 ワイバーンはその直掩である。

 グリフォンはちょうどそのワイバーンとマンティコアの間のような能力を持つ。それなりの飛行能力と、それなりの陸戦、空戦能力。万能ではあるが、どの能力にも限界がある。


 そこでタケルが考えたのが、マンティコアによる敵部隊への強襲計画だ。

 魔導戦闘空母アマテラスから高さを生かして滑空侵入するマンティアとグリフォンの部隊をワイバーンが守りつつ、一気に敵の前線部隊に突入。


 ここまで火炎弾を温存していた第1戦闘攻撃飛行隊”ライジン”12騎のワイバーン部隊が、それまでの鬱憤を発散するように大量の火炎弾を吐きまくる。

 敵前線の魔導部隊に雨あられと火炎弾を降り注がせる。魔導防壁は強力だが、物理攻撃を防げない。そしてワイバーンの火炎弾は魔力を使用しているが、物理弾として発射される。


 敵前線を守る盾であり、敵を殲滅する矛でもある魔導部隊を蹂躙していく。その直掩である弓兵隊、槍隊などが、慌てて盾を構えて魔導士達を守ろうと走り回るが、そこへ突っ込んできたのが、マンティコアの部隊だ。

 突然現れた獰猛な獣達が、その爪を、尾を、牙を振るう。さらに大量の炎をまき散らした。魔力による火炎放射であり、本来なら魔導防壁で防げるのだが、すでに魔導部隊は半壊。組織立った運用の望めない魔導部隊など、お荷物でしか無い。


 決死の覚悟で歩兵達がマンティコアに立ち向かうが、分厚い皮膚と強力な直接攻撃に紙切れの如く切り裂かれていくばかりだ。

 なんとかマンティコアの操縦者を狙おうと、弓兵達が隊列を組み弓を構えるが、そこへ今度はグリフォンの部隊が突っ込んできたのだ。グリフォンの遠距離攻撃は広げた羽から撃ち出される刃物のようだ羽根の攻撃だけだが、この近距離で大量に降り注げば、まともな防御手段の無い弓兵が耐えられる物では無い。混乱した弓兵に、前面の歩兵を抜けてきたマンティコアが蹂躙を開始する。


 僅か5分で前線部隊は半壊した。


『よーし! 十分だ! これ以上アマテラスと離れたら”ガシャドクロ”が戻れなくなる! ”オニビ”は直掩! 俺たち”ライジン”は殿しんがりだ!』


 ライジンの隊長スワロー・バイロンが叫ぶと、訓練通りマンティコアから戦線を離脱、それを守るようにグリフォン隊が続き、敵の追撃を防ぐべくワイバーン隊が旋回するが、すでに敵部隊にその能力は無かった。


『こんな……こんな簡単に敵を壊滅できるなんて……』

『今までの戦いはなんだったんだ……』

『それだけ俺たちも帝國も戦い方って奴を知らなかったってことなんだろ』


 余裕でアマテラスに戻る途中、マンティコア部隊の人間がその圧倒的な戦果に驚愕の感嘆を漏らした。今まで自分達の戦士としての矜持を信じて、各々突撃を繰り返していたあの日々。仲間を失ったときも、彼らは戦士として戦ったのだと自分自信に言い聞かせる毎日。

 それが……。


『タケルの教えてくれた”戦術”……実は最初は気にくわなかったんだ』

『俺もだ。俺達は戦士だからな。先頭をいくのが矜持だと信じて疑わなかった。仲間の盾になる事が当たり前だと思っていた』

『正直、スワローの野郎が俺達を説得しなきゃ、こんな訓練誰もやらなかっただろうな』

『だが……やってて良かった。俺達マンティコアの為にお膳立てされた作戦なんてと思っていたが、これは、きっと全員の為なんだな』


 何度も何度もタケルにそうやって説得された。戦士の矜持とは、生き残ってずっと仲間を守り続けることだろうと。死ぬことは仲間を見捨てることだと、何度もだ。

 なぜかタケルとすぐに意気投合したスワローの説得もあって、マンティコア部隊……マンティコアの里で育った戦士の彼らは内心不満を抱きつつも、訓練を繰り返した。

 常に最前線を先頭で切り開くことに矜持を持っていた彼らは、ワイバーンとグリフォンに守られながら最後方を安全に進軍。そしてさらにグリフォンにフォローされながら敵を殲滅。

 その上敵の戦力を削ったら、再び守られながら離脱するという、およそ今までマンティコアの戦士達には考えられない戦法を徹底して仕込まれたのだ。

 最初彼らは、せめて敵を全滅させるまで戦わせてくれ、殿をやらせてくれと、何度も頼んだが、それはタケルに却下された。

 理由は全力進行しているアマテラスに追いつけなくなるというものだったが、彼らにはそれは言い訳に聞こえていた。おそらく別の状況であっても同じ戦術をとらせるだろうと。

 だが今回に関しては、確かにタケルの提案する作戦は理に適っていた。だからこそ、自分達の矜持を押さえ込み、この作戦に従事した。

 タケルが強弁・・する組織立った運用。

 戦士である彼ら達にそれを理解するのは難しかった。


 が。


『俺達に戦士では無く兵士になれ……と言っていたタケルの意味がわかった気がするぜ』

『ああ、俺達は……戦士で……そして兵士で無ければならない。兵士になれば』

『そうだ。俺達は勝てる……帝國にだって勝てるんだ!』


 アマテラスの甲板に次々と降り立つマンティコア部隊。ワイバーン部隊が牽制してくれるおかげで安全にここまで帰って来れた。今までの戦いで有れば、絶対に死人が出ていた激しい戦いにも関わらずだ。


『ガシャドクロの諸君! 大戦果ご苦労だった! 次は俺達の番だぞ! ライジン! 残った敵ワイバーン部隊を蹴散らせ!』

『『『了解!!!』』』


 スワローが着陸したガシャドクロ部隊に手を振って、踵を返すと空へと戻っていった。

 これで空の趨勢は決した。


 なんとか体勢を立て直したアマテラスが、その巨体を推し進め、とうとう港町モガムリブを通過した。

 すでにフェロー連合にアマテラスを追撃する能力は無い。


 魔力を補充したタケミカヅチでタケルも再出撃。

 残ったワイバーンを殲滅する。

 鈍足なアマテラスではあるが、原チャリ程度の速度はあるのだ。ようやくその巨体を海上へと進める。

 タケルはようやく安堵のため息を吐いた。

 

 防衛線を構築していたフェロー連合の部隊は壊滅状態である。

 幸い町の被害はほとんど無かった。

 燃え上がる味方部隊。悠々と飛び去る謎の巨大要塞。

 薄暗い闇の中へと消えていく巨大な空中要塞を、モガムリブの住民たちはどのような胸中で見送っただろう。


 アマテラスはこうして大海原へとの脱出を成功させたのである。



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