17話「一点突破」
山脈から半島の先へ流れ出す大河。
それは険しい岩山を数十億年という長い年月を掛けて削り取っていった。
まるで魔導戦闘空母アマテラスが通る為に作られた、絶壁の街道の様に……。
「途中の広い盆地のおかげで時間は稼げたんだけどな」
「ああ。しかしあれほどの広さを持ってして、どこにもアマテラスが抜けられる低い場所が無いとは」
「ペガサス隊を使って大分調べたんだけどな。やっぱり正面の港町モガムリブを抜けるしか無い」
ホース・ブランを隊長とする第90早期警戒飛行隊『キュウビ』による一ヶ月に及ぶ偵察を繰り返したが、結局のところアマテラスが抜けられそうな場所は見つからなかった。
見渡す限りの深い森が広がる盆地だったが、回りは全て高い山脈に囲まれていたのだ。
「時間稼ぎが出来ただけでも良しとしよう」
「そうですね」
タケルはジングン艦長と艦橋で最後のブリーフィングを行っていた。
もっとも今日までに可能な限り作戦は詰めてあるので、実際には最終確認だけだ。タケル以外にも各セクションの責任者も集まっている。
「……くそっ。俺にも魔導騎士鎧装があればっ!」
「帝國ですら12騎しか持っていないのだ。1騎あるだけでも良しとせねば」
「わかっている」
ヘイセの愚痴に、艦長がやれやれといった体で軽く宥める。
「それにお前とコクヨーの指揮のおかげで、素人同然だった一般民も魔導砲などの対地対空攻撃を学んだのだ。……もっとも子供まで巻き込んでいたのには驚いたがな」
「彼らは信念を持って戦うと宣言した。ならば戦士だろう」
「……我らに遊ばせる人員がいないのは確かだがな」
「小型の魔導砲の銃座に座らせる。もちろんいざとなれば直ぐに中に引っ込めますよ」
「そうだな。このアマテラスの魔導砲1門がどれほど強力かと考えたらその処置は仕方ない事なのだろう」
ジングン艦長は憎々しげに顔を歪めた。
「子供たちに座らせるのは対空銃座だ。対地銃座に比べれば遙かに安全だろう」
「そうだな。敵のワイバーン部隊がどれほど上がってくるかはわからぬが、準備万端の地上からの砲撃にさらされるよりはよほど良いか」
「そもそも俺が敵を近づけさせない」
ヘイセの力強い宣言に艦長が頷いた。
タケルも内心で絶対に近づけさせないと固く誓う。
「……もうすぐ日暮れだな。全員配置に」
「了解」
各責任者がばらばらと散る。
タケルもエレベーターに乗ろうとしたところでジングン艦長が声を掛けてきた。
「……頼む」
「おう! 任せろ!」
タケルが拳を振り上げると、ジングンはニヤリと笑った。
◆
『アマテラスの皆に伝える! これより魔導戦闘空母アマテラスは海峡突破のため、港町モガムリブに前進全速する! 各員所定の位置にて待機! それでは出発する!』
格納庫に戻ったタケルは、魔導武士鎧装タケミカヅチに着座した状態で艦内に流れる艦長の宣言を聞いた。
同時にアマテラスは全力で前進を開始した。
『蒸気タービン全力運転! 海峡さえ抜けたらぶっ壊れても構わん! 限界まで回せぃ!!』
『『『おう!』』』
ゴルゴンの叱咤に部下たちが声を揃えて答えた。
フィンの形や最適なギア比など、細かいところまでは詰められなかったが、少なくとも蟻が這うような速度は脱した。
蒸気タービンの最大出力状態でどこまで負荷が掛かるかは未知数だが、ドワーフの職人によれば半日は耐えられると言っていた。それを聞いてゴルゴンは壊れるのを承知で全力稼働させる事を決意した。
『推進ファンの負荷値増大! ギアの限界値!』
『いよぉし! その数値を維持しろ! 摩擦による加熱に注意しろよ!』
『わかってますって! しかし蒸気を直接噴射するより、ファンを回した方がより推進力が得られるってのは驚きましたね』
『おう。これが終わったら手前ら蒸気タービンの可能性を引き出すからな!』
『『『おお!』』』
『速度10ノット!』
『よし! 想定以上だ! お前ら死ぬ気で速度を維持しろ!』
『『『了解』』』
10ノット……時速にしたら20kmも出ていない。それでも最初は5~6ノットという鈍足だったことを考えると十分に改善された。
15分ほどの全力運転の後、館内に新たな放送が響き渡る。
『目視で港町モガムリブの街明かりを確認! 全員戦闘行動に移れ!』
『魔導防壁起動!』
魔導防壁は魔力によるバリアーだ。
この世界の主要戦術兵器である魔導砲による魔力弾を防ぐ能力がある。もっとも攻撃を受ければ受けるほど魔力の消費が跳ね上がり、ムラが発生し、攻撃が抜ける……らしい。
魔力を無限に生み出すという魔導縮退炉を積んだアマテラスであれば、絶対に抜かれない魔導防壁を展開出来そうなものだが、一度に発生できる魔力の量には限界があるのだ。
魔導防壁にはもう一つ重大な欠点がある。
それは物理攻撃を防げないと言う事だ。
現状もっとも脅威になるのがワイバーンによる火炎弾の攻撃だ。
魔力によって発生しているらしいのだが、中央部の溶岩部分は物理変換された状態で飛来してくるらしいのだ。なおこの辺の魔導理論、タケルにはさっぱりだった。
人間が使う魔導の火炎弾は魔導防壁によって防げるらしい。
ただし爆裂魔法だけは別らしい。
もっとも爆裂魔法は射程が短いという欠点が有り、敵魔導士を接近させなければそれほど驚異では無いらしい。
それらの情報を事前に聞いていたタケルはいくつかの
そしてその策の一つが、甲板上で火を噴こうとしていた。
『こちら艦長! 魔導
『『『おお!』』』
強力ではあっても、なかなか出番の無い爆裂魔法の使い手達が甲板上に3門設置された魔導カノンで勢いよく返答した。
魔導カノンの見た目は中世の車輪付き大砲だ。
それこそがタケルの提案した策であった。
ゴルゴンとドワーフが、魔導蒸気機関の片手間に(テストや設置してるときなど)なんとか作り上げたシロモノだ。
理屈は非常に簡単で、大砲である。ただし火薬ではなく爆裂魔法で鉄の弾を飛ばすのだ。
帝國で、爆裂魔法は戦略戦術上役に立たずと烙印を押され、大量解雇。
弱き者を貶めるという文化になっていた帝國で肩身の狭い思い……いや、偏見の末に帝國を抜けてきた爆裂魔導士達だ。初めて魔導カノンを渡されたときの彼らの喜び様は想像に難くないだろう。
彼らは万感の思いを持って、名誉ある戦端を開いたのだ。
どうん! という腹を揺るがす爆裂音と共に、急遽用意された鉄の砲弾が弧を描き、渓谷出口、町の前に設営された敵陣地に飛来する。
訓練時間が少なく、まだまだ魔導カノン自体の作りも甘い。3つの砲弾はまとまる事無く好き勝手な弾道を描く。
だが……。
『敵の魔導砲陣地付近に一発が着弾! 見ろ! 敵魔導士が展開する魔導防壁をぶち抜いたぞ!!』
『『『をおおおおおおお!!!』』』
『ざまぁみろ! 帝國のクソ野郎共め!』
『俺達はやれる……やれるんだ!』
『魔力枯れるまで打ち続けてやる!』
『俺達の新たな力を思い知れ!』
敵の魔導士……いや敵軍人全てが顔面を蒼白にする一撃、それが開戦の狼煙となった。
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