18話「フェロー連合脱出戦」


『第2戦闘攻撃飛行隊”シラヌイ”および、第3戦闘攻撃飛行隊”カムイ”! 訓練通り順次発進!』

『『『了解!』』』

『想定パターンC! 敵の飛行戦力無し! 繰り返す! 敵の飛行戦力無し!』


 タケルはそれを聞いて「おお」と漏らした。

 この世界の戦争がほとんど夜明けと共に始まる最大の理由。それは多数の生物を兵器として使う事にある。

 もっとも有名なのがワイバーン、グリフォン、マンティコアだ。

 これらは飼い慣らし繁殖させる技術が確立されていて、ごく普通に戦力として使われていた。

 もちろん馬や羊なども立派な軍事物資だ。

 陸の主力は今だ騎馬隊である。


 そして生き物であるかぎり、睡眠も必要だし、なにより夜行性でなければ、夜の運用に向かない。

 で、空の主力であるワイバーンはあまり夜目が利かない。鳥ほどでは無いが、余り夜に飛びたがらないのだ。

 だからこそ、この一ヶ月の間に、ワイバーンライダー達は必死で夜間訓練に従事していた。


 もう一つ理由がある。

 それは魔導砲の問題だ。

 闇の戦闘であれば、着弾の確認もまともに出来ない。それ以前に敵の目視が出来なければどこに打っていいのかわからないのだ。

 だから戦争は朝から夕方までである。

 魔導戦闘空母アマテラスはそんな常識をぶち破る奇襲を敢行したのだ。


 魔導レーダーで敵位置を確認。艦橋からの指示による盲目射撃。

 さらに……。


『こちらペガサス隊……第90早期警戒飛行隊”キュウビ”のホースだ。砲撃が少しずつ奥にずれている、このままでは町中まで届いてしまうぞ! 着弾位置を100mアマテラス側に寄せろ!』

『アマテラス了解! ……第905魔導砲兵隊”サクラ”はアマテラスが前進している事を考慮して着弾修正!』

『”サクラ”了解!!』


 低空飛行と徒歩に寄る先行で、敵地観測をしているペガサス隊からの連絡による着弾修正。

 これこそがタケルの考え出した、この世界における新しい戦争の形だった。

 もっとも好きだった小説から考案したあたり、アクティブオタクの本領が発揮されているとも言う。


 魔導カノンに続いて、魔導戦闘空母アマテラスにハリネズミのように設置された魔導砲が射程内に入り、各砲門が一斉に火を噴いた。

 まるでアマテラス自体が光輝いたと錯覚するほどの、圧倒的量の魔導弾が敵陣地に降り注ぐ。

 敵魔導士が必死に魔導防壁を展開して味方への被害を減らしていた。

 もっともアマテラス側の射撃精度が悪く、なかなか効率的な砲撃が出来ていない。


 そして敵の魔導砲や魔法による反撃が始まった。

 渓谷出口、町の外に設営された防御陣地が光に包まれたと思うと、アマテラス全体に爆音と振動が走った。


『敵魔導砲による攻撃を確認! 各員注意しろ!』

『こちら第2戦闘攻撃飛行隊”シラヌイ”だ! 今から急降下爆撃による一斉射で敵魔導砲を叩く!』

『アマテラス了解! 無駄打ちするなよ!』

『わかってる!』


 ワイバーンが一日にはき出せる火炎弾の数には限りがある。それを言っているのだろう。

 第3戦闘攻撃飛行隊”カムイ”はそのまま空中警戒しつつ、”シラヌイ”部隊が急降下、真上からの攻撃は重力の助けも借りて、速度が増す。

 エネルギーは速度で増大する。結果……。


『爆発確認! 敵最前線の魔導砲部隊半壊!』

『『『うおおおおお!!!』』』


 アマテラス艦内に歓声が響き渡った。


『シラヌイが上空に戻ったら、カムイは前線別部隊の魔導砲を攻撃! その後は空中待機!』

『魔導砲部隊はまだあるぞ!?』

『その数の魔導砲ならばアマテラスの魔導防壁はそうそう抜けん! それよりも敵別働隊に注意せよ!』

『了解!』


 帝國で軍事経験があるというのはダテじゃないのだろう。タケルの提案した様々な戦術を柔軟に取り入れ、かつ油断しないジングン艦長の的確な指示に感心するしか無かった。

 いったいどんな役職についていたのやら。

 今だ格納庫、魔導武士鎧装タケミカヅチの中で待機しているタケルはもどかしくも頼もしい味方達に満足していた。


「もしかしてこのまま出番無く終わったりして……」


 呟いた後、それはフラグだ! と内心ノリツッコミしたのがいけなかったのか、直後に魔導通信が入る。


『敵魔導騎士鎧装確認! VIPのお出ましだぞ!』

『了解! タケミカヅチ! 出る!』

『敵ワイバーン部隊も確認! 20……いやまだ上がってくる!』

『よし! ワイバーン部隊はシラヌイとカムイに任せろ!』

『タケルが出るまで魔導騎士鎧装とは絶対にやり合うなよ!』

『わかってる! シラヌイは部隊を2分する! 1隊は敵魔導騎士鎧装を牽制! 残りはカムイと一緒にワイバーンを迎撃する!』

『訓練の成果を見せて見ろ!』


 12騎のワイバーンで構成されるシラヌイの半分。6騎が魔導鎧装に距離を置いた攻撃とヒットアンドアウェイで牽制を開始した。

 空は一気に乱戦の模様を見せ始めた。


『アマテラス進路微調整! 右側の切り立った山脈ギリギリをかすめるように抜けるぞ! ワイバーン部隊はそれを留意!』

『『『了解!!!』』』


 それぞれの通信を聞きながら、艦載機エレベーターで甲板に上がるタケルと魔導武士鎧装タケミカヅチ。

 外に出ると地上からの魔力弾による砲撃が、アマテラスの魔導防壁にぶつかり光のクズとしてまき散らされる光景が目に飛び込んできた。

 見た目は綺麗だが、まともに食らったら死ぬので心臓に悪い。

 カタパルトの上にタケミカヅチを固定する。


『タケミカヅチ! 出るぞ!』

『ワイバーン部隊は援護! 敵を近づけさせるな!』

『『『了解!!!』』』


 甲板で待機していなかった最大の理由。

 単純明快に、敵の集中砲火が怖かったのだ。ワイバーンが決死の覚悟でタケミカヅチに襲いかかってきたらと想像するだけでゾッとする。


『カウント始める! 3.2.1……行けっ!!!』

『ぐおおおおお!!』


 0から一気に飛行可能速度まで加速。そのGは洒落にならない。

 タケミカヅチの背面から大量の蒸気が噴き出し、アマテラスの甲板を真っ白に染め上げる。その推進力でタケミカヅチが一気に空へと上昇した。


『来たなタケル!』


 魔導通信に飛び込んできたのは敵の魔導騎士鎧装を駈る、帝國12騎士が一人、ズィーガー・ブリュンヒルデだった。

 タケミカヅチの正面モニターの一角に、自信に溢れたズィーガーの表情が浮かび上がる。


「よお。良く会うな」

『今日こそ貴様を地面に縫い付けてくれるわ!』

「前回と前々回を忘れたのか? 今日は俺もお前を墜とす気でいくぜ?」

『はっ! 望むところだ! 今までの私と思うなよ!』


 ズィーガーの魔導騎士が手にしていた巨大な魔導砲を発射した。タケミカヅチが回避行動を取ろうとしたとき、両脇から敵のワイバーンが飛び込んできた。


「なにっ!?」


 回避先を潰されたタケミカヅチに魔力弾が着弾する。激しく揺れるが、タケミカヅチの展開する魔導防壁は抜けなかった。


『くっ! 硬い!』

「なるほど! 今までとは違うって事か!」


 アマテラスほど強力ではないが、いにしえの魔導鎧装は強力な魔導防壁を展開することが出来た。もっとも魔力消費が激しく、魔力残量がごっそりと減らされた。

 敵ワイバーン部隊の中で、明らかに動きの違う2騎。それが魔導騎士鎧装と連携を取るのだ。厄介きわまりない。


「……楽しめそうだぜ」


 タケルはぺろりと自分の唇を湿らせた。

 この時タケルは自分が笑みを浮かべていることに気がついていなかった。


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