16話「第1戦闘攻撃飛行隊『ライジン』」
アマテラス艦内に鳴り響く敵襲のサイレンに、タケルは魔導節鎧装タケミカヅチに走り寄ろうとしたのだが、そこにワイバーン乗りのスワローが大声を掛けてきた。
「タケル! お前は出るな!」
「え!?」
ワイバーンを三隊に分けて、その第1戦闘攻撃飛行隊『ライジン』の隊長となったスワロー・バイロンがタケルに駆け寄ってきた。
なお命名はタケル。みんなに寄ってたかって頼まれたのだ。
「なんで!?」
「今管制から連絡をもらったが、今回は例の魔導騎士鎧装はいない。しかも数は八騎だ。第1戦闘攻撃飛行隊の一二騎よりも少ないんだ! 俺達だけで十分だ!」
「そうかもしれないけど、実戦なんだぞ!?」
「わかってる。だがワイバーンの使い方って奴がようやく理解出来たんだ。実戦で試したい」
「気持ちはわかるけど……」
「大丈夫だ。前回まではお前が全面に出ていてよくわからなかっただろうが、この程度潰せないようじゃ先が無い」
いつもナンパなスワローだったが、真剣な眼差しをタケルに向けてくる。
だがその目は自信に溢れてもいた。
「……わかった。だがジングン艦長がダメって言ったら従えよ」
「わかってる! ……よし! 第1戦闘攻撃飛行隊『ライジン』出るぞ!」
実は後で判明したのだが、このアマテラスには三〇以上のワイバーンがいたのだ。
今まではそれを随時投入するような使い方をしていたが、部隊化し、ローテーションを組むようにした。
効率的な休息と訓練で、たった数週間でワイバーン部隊は見違えるほど精強になっていた。もとより彼らが故郷にいる頃から屈強な戦士であったのは間違いがないのだ。個々の技量は帝國のそれよりも遙かに高い。
第1戦闘攻撃飛行隊『ライジン』として編成された一二騎のワイバーンが訓練通り整列し、順序立ってハッチから等間隔で飛び立っていった。
タケルは格納庫端の小型通信室に飛び込んで、魔導モニターのスイッチを入れた。
『こちらジングン艦長だ。”ライジン”無理はするなよ?』
『わかってる! まぁ見ててくれ!』
綺麗に編隊を組んで空母の上を一周する”ライジン”部隊。
魔導レーダーには相変わらずばらけて突っ込んでくる帝國のワイバーン部隊が映っていた。
『よし! フォーメーションAだ! 先頭で突出してる馬鹿に一斉攻撃して上昇離脱するぞ!』
『『『おう!!!』』』
スワローの指示に部下が唱和して答えた。
アマテラスのワイバーン部隊ライジンと、帝國のワイバーン部隊が衝突する。
ばらばらと突っ込んできた敵の頭に、同時砲撃……いやワイバーンの火炎弾が吐かれ、一二個の弾幕を真っ正面から受けた先頭のワイバーンはなすすべも無く正面衝突。そのまま消し炭となって落下していった。
ライジン隊はそのまま編隊を保ったまま上空へ急上昇。帝國のワイバーン達はばらばらと散っていく。
『よし! 四小隊にわけて各個撃破! 三機連携を崩すなよ!』
『『『了解!!!』』』
真っ直ぐに上昇していたライジン部隊が、今度は綺麗に四つに分かれる。
今度は急降下しながら1:4で各個撃破していく。
「こりゃあ……何の心配も無かったな」
『ああ』
タケルの呟きに、ジングン艦長が通信で同意を示す。
ここ数日、スワローが食事時に嬉しそうに訓練報告してくる理由がわかった。タケルの教えた戦術を飲み込んで手応えを感じていたのだろう。
その後の戦闘は圧倒的にアマテラス側が優勢だった。
ものの10分で敵を五機撃墜残りの3騎は慌てて逃げ帰っていった。
もちろんこちらに損害無し。
甲板に着陸したライジン部隊の面々の表情を見ればその成果がうかがえるというものだ。
甲板で、格納庫で、ライジン部隊はアマテラス民の手荒い歓迎を受けていた。
「良くやったぞ! スワロー!」
「なんなんだありゃ!? 今までと全然違うじゃねーか!」
「凄いぞ! ライジン! 第1戦闘攻撃飛行隊ライジン!!」
その後はお決まりの三唱だ。
ライジン部隊の人間もノリノリで三唱していた。
「ちくしょう……俺等第2戦闘攻撃飛行隊の待機中だったらな……!」
「ははは! 嫌でも近いうちに出撃することにならぁな!」
「それもそうですね! そんときゃウチの隊の方が優秀だって事を見せつけてやりますよ!」
「楽しみにしてるぜ!!」
スワローと第2戦闘攻撃飛行隊の隊長が肩を組んでがなり合っていた。
大成果なのだ。そりゃ興奮もするだろう。
「スワロー! 俺の出る幕が無かったぜ!」
「おう! タケルに頼りっぱなしじゃねぇからな!」
スワローがタケルの尻を豪快にひっぱたいた。
そしてそんな熱狂の最中、覚めた目を向ける人物がいた。
「おお! 我が麗しのペガサスライダー! ホースちゃん! これは熱いキスでお出迎えかな!?」
「誰がするか! ……ふん。まぁ今日は少しは褒めても良いが……」
「これは! とうとうホースちゃんがデレたか!?」
「でれ……?」
「タケルに教えてもらったんだよ! お約束だと近いうちにホースが俺に惚れるってな!」
「いやそんな事は言ってねぇよ!」
「なんだと!? 貴様そんなデマをばらまいてるのか!?」
「誤解だ! 違うぞ! 俺の故郷の小話をスワローが勝手に歪曲しているだけだ!」
たまたま会話の流れでツンデレについて熱く語ったことがあり、その時の例題としてホースを出しただけだ。
なので完全なとばっちりと言うわけでは無いが、まぁ主にスワローの脳内変換が酷い。
「よし、スワロー。貴様に決闘を申し込む!」
「夜の大決戦なら大歓迎だぜ? もちろんベッドの中で……」
「殺す!」
「おわぁ!? 真剣はやめろ! 真剣は!」
「聞く耳持たぬわっ!!」
途端に格納庫が笑いに包まれた。
おそらく、魔導武士鎧装を出さずに完勝したという事実が、アマテラス民に安堵感を与えたのだろう。その後艦内の雰囲気は一気に明るくなっていった。
◆
それからさらに一週間が去った。
士気が上がったおかげか、蒸気タービンは順調に仕上がり、推進装置のテストも終わった。
現在2機の大型タービンが空母後方に設置され、大型の推進ファンが取り付けられた。
最終的には8機までタービンを増設する予定だったが見送られることになった。
ペガサスによる斥候で、港町「モガムリブ」の防衛体制が強化されつつあるらしいと判明したからだ。
まだ速度に大きな不安はあるが、ワイバーンだけでなく、グリフォン、マンティコア部隊の訓練も進んだこともあり、いよいよ海峡突破作戦が実施されることになった。
「……諸君! 我々は明日!
ジングン艦長の宣言に、一部の住人達がざわついた。だが戦闘に参加する予定の人間達はあらかじめ知らされていたし、何よりずっと夜間訓練も繰り返してきたのだ。皆が無言で聞き入っていた。
「陽が落ちてから進軍する理由は2つ! 1つは今回の目標が攻撃では無く、あくまで突破という事! もう一つは今までの戦争は全て昼に行われていたという前提を逆手にとった奇襲!」
本来であれば夜明け前の進軍を薦めていたタケルだったが、アマテラスの人間が全員戦士では無いと理由から、日暮れの進軍となったのだ。
「ここを……この海峡さえ突破してしまえば、現在帝國と唯一敵対するゼベドナ王国に入る事が出来る! そうすれば当面は帝國の脅威に怯えることは無くなるはずだ! 激しい戦闘になることが予想されるが、皆訓練通り実力を発揮してもらいたい!」
ジングン艦長の響く声。
そしてアマテラス住民は一丸となって叫んだ。
「「「「我らに自由を!」」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます