12話「タケミカヅチ」
帝國のワイバーン部隊が接近している事を感知したタケルは格納庫に鎮座する、白ベースにガンメタリックと赤青のアクセントが眩しい巨大な武者の姿をした魔導騎士鎧装に飛び乗った。
「艦載機エレベーターで上に上がる!」
『さっきの奴か!?』
「そうだ! 上
に出たらカタパルトを使う! ……ぶっつけ本番だが操作頼む!」
『わかった! なんとかやってみる!』
甲板に立つと、カタパルト前に男が走ってきて、指示してくれた。
『この板に乗ってくれ! マニュアルによればすげぇ勢いで飛び出すらしい!』
「わかった!」
タケルは魔導鎧装を金属製の射出板に載せた。
「いつでもいいぞ! あ、でも秒読みはしてくれ!」
『了解だ! 3,2,1,いけぇ!』
「ごわあああああああ!!!!」
凄まじいGがタケルを襲う。蒸気の力で一気に押し出されたカタパルトによって、一瞬に加速し飛行速度に達する。
「ぐっ! 飛べ! 魔導鎧装!」
タケルがフットペダルを蹴っ飛ばすと、勢いそのままに空母から飛び立った。
一瞬だけ甲板の高さより高度が墜ちるがそれもわずか。一気に上空へと白い蒸気を吹き上げながら飛び上がっていった。
「敵は!?」
『もうすぐ接敵する!』
空で待っていたのは真っ白なペガサスと、それにまたがったホワイトプラチナの長髪を風になびかせる女騎士、ホース・ブランだった。
タケルは慌てて魔導レーダーを確認すると、7つの光点が真っ直ぐに向かってきていた。
だが一つ気になることがある。
「なんだ? どうして編隊を組んで無いんだ?」
『ヘンタイ? お前はヘンタイなのか?』
「違うわっ! 編隊ってのは……えーと、綺麗に並んで飛ぶことだよ!」
ホースの余りのツッコミに、つい雑に答えてしまった。
『綺麗に並ぶ? それに意味などあるのか?』
「意味って……」
そりゃああるに決まってると答えようとした時、接敵アラームが響いた。
「後だ! 俺が突っ込むからホースさんは攪乱してくれ! 絶対に前に出るなよ!」
『くっ……ペガサスでワイバーンの相手は無理か……お前こそ無理はするな! こちらのワイバーン部隊も上がってくる!』
「任せろ!」
タケルは返答と同時に魔導鎧装を一気に上空へと向けた。
『なっ!?』
「こっちは飛び道具が無いからな! 工夫しねぇと!」
魔導レーダーを睨むと、タケルの想像通り、帝國のワイバーンはばらばらと、タケルに向かう一団とホースのペガサスに向かう一団とに分かれた。
『マジかよ……全然統制とれてねぇ……』
その動きは素人のタケルから見てもいい加減なものであった。
編隊はおろか、まるで先頭を競い合うかのようにひたすらに突っ込んでくるワイバーン達。
……まさかと思うが、統制されていない?
タケルの疑問に答えるように、一騎一騎が連携も何も無く突っ込んできたのだ。先頭のワイバーンの口から巨大な火炎弾が吐き出されるが、単発のそれを避けることは指して難しい事では無い。
これがタケルに向かってきた4騎が同時に吐き出したのなら意味もあったのだろうが……。
ワイバーンとのすれ違いざまに、タケルは巨大は緋色の日本刀で切りつけた。
ざしゅうという手応えと共にワイバーンは真っ二つに引き裂かれ、重力に引かれて真っ逆さまへと血飛沫をまき散らしながら落下していった。
それを見て、後続の3騎が慌てたように散開した。
「こいつらアホなのか!?」
タケルはその3騎は無視して、反転。一気に急降下した。
ペガサスに狙いを定めていた先頭のワイバーンを真上から急襲。体当たりする勢いで思いっきり蹴飛ばした。
その威力は凄まじく身体中から血液を漏らしてきりもみで落下していった。
『助かった!』
「囮に使ってすまねぇ!」
『いや! 良い手だ!』
ホースは魔導鎧装に向かって親指を立てた。どうやらお気に召したようだ。
「俺が必ずフォローする! 今は敵の攪乱だけ頼む!」
『いや……その必要は無さそうだぞ』
「え?」
よく見れば魔導レーダーに新たな光点。だがその色はホースと同じ青色。味方だった。
『よぉ! 待たせたな! 俺の分は残ってるんだろうな!?』
『スワロー!』
『俺が来たからには……あ?』
空母から飛び上がってきたワイバーンだったが、それを見た帝國ワイバーン部隊は慌てるように引き返していったのだ。
『逃げんなこらっ! 待ちやがれ!』
「ダメだ! 深追いは危険だ!」
『なんだと!?』
「逃げた先に別の部隊がいたらどうするんだよ!」
『ちっ。今日のところは見逃してやるか』
タケルの魔導鎧装の横まで上がって来たワイバーンにまたがった青年が舌打ちした。
赤毛のザンバラ頭で、ふてぶてしい雰囲気を感じ取れた。
『しかしえらいあっさり引きやがったな』
「一瞬で2騎も墜ちたんだ。妥当な判断だと思うぞ」
『それもそうか。下から見てたが良い腕してるなタケル』
「ありがとうってあんたは?」
『おっと、俺はスワロー。スワロー・バイロン。見ての通り世界最強のワイバーンライダーだ!』
「それは頼もしいな」
年齢的には大学生くらいのホークが、ホバリングしながらニヤリと笑うと、タケルも同じ様な笑みが出た。
『……取りあえず敵が戻ってくる様子はないな。二人は戻ってくれ。私がこのまま警戒にあたろう』
『それよりホースちゃーん。戻ったらデートしようよー』
『貴様はそれしか考えられないのか!』
『もちろん! 俺はいつだってホースちゃんの事しか考えてないぜー?』
『威張ることか! もう少し自分達の状況というものを考えろ!』
『ちゃんと考えてるぜ? だからこそ俺と子作りしてだな……』
『スワロー! それ以上続けるなら宣戦布告と取るぞ!』
『うへーい』
「……仲良いんだな」
『お前の目はいったいどこに付いてるのだ!?』
『いやー! わかる奴にはわかるんだなぁ! 俺らのラブっぷりが!』
『気味の悪いことを言うな! 私は貴様にペガサスの羽毛ほども好意は無い!』
『つれないなぁ〜』
『黙れ! それよりもワイバーンを休ませてやれ! ペガサスと違って長時間の飛行は苦手だろう!』
『へーい……行こうぜタケル』
「ああ」
二人のやり取りを見て、ちょっと羨ましく感じたが、脈があるのか無いのか……。アクティブオタクのDTにはホースの機微を感じることは出来なかった。
甲板に降りた二人は、交代で搭載機エレベーターで格納庫に戻った。
タケルが魔導鎧装から降りると、赤髪のスワローが近寄ってきた。
「いやー。こいつは便利だな。飛び立つのは問題無かったんだが、ハッチの中に着地するのが大変だったんだ。広い甲板に着陸出来るのはありがたい!」
どうやらワイバーンは魔導鎧装と逆に、着陸に甲板を使うのが楽らしい。
なるほど生物だけあって、飛び立つのはさして広く無いハッチからでもなんとかなるのだろう。
タケルは空母としての運用方法が見えてきた気がした。
「それにしても……今更だけどこれ、騎士って感じじゃ無いよなぁ」
「何がだ?」
「ほら、俺の魔導騎士鎧装さ、帝國の魔導鎧装と比べると形が全然違うじゃん?」
「ああ、随分厳ついよな」
「騎士ってより、武士だな」
「武士?」
「あー、俺の国の戦士かな?」
細かく説明するのも面倒で、適当に流す。
「武士……良いじゃねぇか! わざわざ帝國と同じ呼び方をするのもしゃくだ! 今日からこいつは魔導武士鎧装って事にしようぜ!」
「武士鎧装……おお! 悪くない響きだな!」
スワローの提案に乗っかるタケル。
「そんで? こいつの名前は?」
「え?」
「名前だよ、名前。魔導武士鎧装の名前」
「考えてなかったな」
「そうなのか? せっかくだから何かつけろよ」
「そうだな……」
タケルは腕を組んで思考する。
ふと、道場に祭られていた神さまの名前が頭を過ぎった。
「うん。良いかもしれない……」
「決まったのか?」
「ああ」
タケルは一拍おいて答えた。
「タケミカヅチ……こいつの名前はタケミカヅチだ!」
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