13話「それが一番かよ!」
帝國のワイバーン部隊を追い払い、格納庫に戻ってきたタケルは、ワイバーンライダーのスワローに煽られて、自らの魔導騎士鎧装を”魔導武士鎧装タケミカヅチ”と命名した。
すると格納庫中の人間が「タケミカヅチ! タケミカヅチ!」と合唱するではないか。
「なんか受けてるな!」
「意味はわからんが妙に響きが良いからな」
「剣の神さまで、通ってた道場で祭ってたんだよ」
「それは縁起がいいな」
まだ出会ったばかりだというのに、スワロー・バイロンとタケルは妙に意気投合していた。この赤毛の青年はタケルにとって妙に取っつきやすかった。
長年の知り合いのように軽々しく肩を組んでくるスワローだったが、嫌悪感は無かった。
「んで? 俺の狙いはホークちゃんな訳だが、お前の狙いはミコナか? シャルか?」
「うへぇ!?」
「あれでミコナを狙ってる奴は多いからな、落とすつもりなら気をつけろよ?」
「ちょ!? え!?」
「うははははは! 剣の腕は良くてもそっちはからっきしか! うはははは! そのうちお兄さんが色々と教えて……」
困惑するタケルをからかっていたスワローを遮るように大声がエレベーターから飛んできた。
「スワロー! 何の話してるの!?」
「おっと、当人が来ちまった。残りは今度な!」
スワローは機敏に自らのワイバーンに走り去ってしまう。
「もう!」
タケルの目の前まで来たミコナは腰に手を当て、憮然とした。
どうやらスワローは問題児らしい。
この話題を続けるのは危険だと判断したタケルは話題を反らすことにした。
「それにしても、帝國の動きは意味がわからんなぁ」
「え? どういう事?」
「ほら、折角のワイバーンの部隊があるなら、前回の魔導騎士鎧装と連携するべきだったし、ワイバーンの編隊自体が連携が取れてないというか」
「え? ヘンタイ?」
「そのネタはもういいって! ほら! 陸軍はちゃんと隊列を組んで進軍してたろ? 空で似たように隊列を組むことだよ!」
「ああそうなのね。でも普通じゃ無い?」
「え?」
戦力を分散する事が?
「魔導鎧装騎士って凄いエリートだから、戦果の為に先陣をきって、ワイバーンは下がらせてたんじゃないかな」
「なん……だって?」
「帝國では戦果を上げないと出世出来ないし、名誉も手に入らないわ」
「マジか……」
どうやらその辺に帝國を打ち崩す道筋がありそうだと、ほくそ笑むタケル。
もっともこちら側も独立愚連隊なので、その辺を変えていかないと意味が無いが。
「よし、長老やジングンさんに相談してみよう」
「何を?」
「これからの事」
「ああ、そうね。一緒に行くわ」
そんな訳で艦橋に向かおうとしたのだが、ミコナは別の道を進む。
「今、長老達は艦橋にいないわ。いても邪魔になるだろうからって、連絡だけつく部屋にいるの」
「へえ」
ミコナの案内で進んだ部屋は、魔導モニターが並んでいるこじんまりとした部屋だった。
「ん? どうしたんじゃ?」
「ちょっと相談がありまして……できればジングンさんもいた方が良いんですけど」
「ふむ。ちと待て」
長老の一人が慣れない手付きで通信機のスイッチを入れる。
「ジングンか? ちとこっちにきておくれ」
「わかりました」
すると天上の一部が開き、椅子に座ったジングンが降りて来るでは無いか。
「おおおお! かっちょいい!!」
興奮するタケルを見て苦笑いを浮かべるジングン。
「どうしましたか?」
「いやなに、そこのタケルがなんぞ相談があるらしくてな」
「ほう?」
長老の言葉にタケルへ視線を向けるジングン。
「まずは色々と質問からなんですが……」
この後タケルはジングンと長老、さらに途中から呼び出された褐色エルフのヘイセと、スワローにシャルを交えて様々な話を聞いていく。
結果として、帝國の陸軍はそれなりに組織だっているが、戦果主義であり、独断専行が目立つという事だった。
ワイバーン騎士に関しては、もともと気位が高く、割と好き勝手をやっているらしい。
さらに帝國の躍進に貢献した魔導騎士鎧装に関しては、基本的に一騎当千。
各魔導鎧装騎士に至っては、誰もエリート意識が突き抜けていて、他人の話を聞かない奴らばかりらしい。
「それで俺達ワイバーンライダーは帝國とは別の山奥にいた一族なんだが、帝國の野郎共が配下に入れとか抜かしやがったんで、一発ぶちかましたら、魔導騎士鎧装とワイバーンの大群連れてきやがってよ、故郷を捨ててこいつらと一緒にいるわけだ」
説明の中でスワローがそんな説明をしてくれた。
「うむ。彼ら一族が合流してくれなんだら、我らはとっくに滅んでいたじゃろうて」
「同じ様な理由で、グリフォンの一族、ペガサスの一族、マンティコアの一族が合流してくれておる」
「誰もが帝國によって故郷を追われた連中じゃ。我らは故郷を取り戻すために戦っておる」
「じゃが……」
長老ズが続けたが、声色は芳しく無い。
「その方法は今だ見つからん」
「どこに安住しようとしても、帝國の奴らはおってくるからの」
「……なるほど」
ならば答えは一つしか無いだろう。
「帝國を倒すしかないな」
タケルの言葉にその場にいた全員が絶句して、タケルを凝視した。
「なん……じゃと?」
「これはもう対処療法じゃダメだ。帝國の、皇帝を討つ。それしかない」
「いや……それはそうかもしれんが……」
「幸いこっちは移動空母だ。ゲリラ戦術に近い戦法が取れるからな。一気に首都に雪崩れ込んで皇帝を倒す。他に道は無いと思うぜ?」
「ぬぬぬ……」
もちろん問題は多いが、帝國の手は長い。
すでにこれだけの戦力を整えてしまった彼らを帝國が見逃すはずが無い。仮に解散したとしても、一人残らず探して殺されるか捉えられるかするだろう。このまま何もせず座すると言う事は、自殺にも等しい。
実際あんな険しい渓谷にまで虎の子の兵力を送り込んでくるほどなのだ、すでに講和の目は無いだろう。
タケルがそう説明すると、その場の人間たちは唸るしか無かった。
「……たしかにそれしか道は無いのかもしれないな」
「一つ最大の問題があるけど……それは道中考えよう」
「最大の問題?」
ジングンが眉をひそめる。
「仮に……いや、絶対に成功させるつもりだが、皇帝を討ったとしてその後の話だ。俺達が統治するわけにはいかないからな」
「なぜだ? 皇帝を討てばそのまま王になれば良いだろう?」
そう答えたのはヘイセだった。
タケルは力無く首を横に振る。
「いや、統治能力もないし、そもそも住民に歓迎される訳が無い。一番良いのは亜人に理解のある皇帝の血縁を王にする事だ」
「なんだと!? 皇帝の縁者など皆殺しだろう!?」
「それじゃ政治ができねぇっての」
「馬鹿な!」
憤怒するヘイセとは別に、ジングンは頷いた。
「たしかに……たしかにその通りだ」
「ジングン!?」
「……味方になってくれそうな血縁とつなぎを取る方法を模索しつつ、我らは帝國に感づかれないように、反撃の戦力を整えるべきだろう」
「お前までそんな事を言うのか!?」
「ならば、ヘイセ。お前が王になるか?」
「ぬっ……」
今まで差別されていた亜人が王になる、と言われればそれまで苦しんでいただろうヘイセにも容易に想像がつくだろう。
帝國民が受け入れるわけが無いと。
「……まぁ先の話だ。動いているうちに良い案が浮かぶかもしれん。今は帝國の追っ手を振り切りつつ味方を増やすことに専念しよう」
「……」
ヘイセは不満そうだったが、それ以上反対することは無かった。
「あのさ、仮に上手く味方が増えて、帝國が簡単に手を出せない状態になれば、そこで暮らすって手もあるぜ」
「なるほど。それも一案に入れておこう。それでいいな? ヘイセ」
「……納得は出来ない。だが承知した」
不承不承頷くヘイセを見て、長老達も頷いた。
「さて、大まかな事はきまったの。それでは最後に大切な事を決めようでは無いか」
「大事なこと?」
タケルだけでなく、長老達以外も頭に疑問符を乗せた。
「うむ。この要塞の名を決めるんじゃ」
無かったのかよ!
タケルは内心激しく突っ込んだ。
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