4話「異世界に武者見参!」
蒼き
「タケルは! タケルはどうなったの!?」
ミコナ・メデュームは要塞の艦橋部分に上がるやいなや叫んだ。
今だ土に埋まっている艦橋だったが、一部泥は落とされ、外の様子が覗える。
「タケル? あの白黒の魔導騎士鎧装の事か!?」
「そう! 召喚した戦士、タケルが乗ってるの!」
「ありゃあとんでもねぇぞ……帝國の12騎士と互角……いや押してる!」
「ええ!?」
ミコナはガラスに張り付くと上空を見上げた。そこには二体の魔導鎧装が剣撃を散らしていた。
「凄い……」
「はっ! 奴が凄いんじゃ無い! この要塞に眠っていた魔導鎧装の素体が凄いだけだ!」
ミコナに続いて現れたのは、褐色の肌を持つエルフ、ヘイセ・ハファイだった。
「俺だったらもっとうまくやれてるっ!」
「今それを言ってもしょうが無いでしょ!」
「くっ……」
憎々しげに空を見上げて、二体の魔導鎧装を睨むヘイセ。
「ねえヘイセ、貴方から見てタケルの動きはどう?」
それを俺に聞くのかという表情をしたが、舌打ちしたあと答える。
「速いな……。恐ろしく速い。一見互角の様だが、あれは力量が違いすぎる」
「え!?」
慌てるように白黒の魔導鎧装を凝視するミコナ。
「違う。逆だ。遊ばれてるのは……」
何十にも及ぶ剣撃を交わして、帝國騎士はようやく理解した。
『貴様ぁ! 手を抜いているのか!?』
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ」
『ならばなぜ! 本気を出さん!?』
「あー、それはわかっちゃうのね」
『これほど弄ばれたら嫌でもわかる!』
「別に本気を出してないわけじゃ無いんだけどね」
そう、確かにタケルは防御一辺倒でまともに攻撃をしていなかった。
理由はただ一つ。
「いやー。ほら、死んじゃうかもしれないじゃん」
一瞬、致命的ではあるが、青の魔導鎧装が動きを止めた。
モニターに映る金髪の青年は唖然としている。
『き……貴様ぁ!! 愚弄するのもいい加減にしろぉ! 騎士が……騎士が命を惜しむとでも思っているのかぁ!?』
彼の怒りを受けるように、魔導鎧装が淡い光を帯びて、剣圧が増した。
「おお!?」
『くらえ! 正当帝國剣術ミラージュムーン!!』
「うおっ!」
大剣が青白く発光したと思ったらそれまでの動きとは別次元の速さで弧を描いた。
もらった!
帝國の騎士は内心で確信していた。ごっそりと魔力を持って行かれる秘剣だ!
まさに必殺の技である!
敵は朧に幻惑され、胴を真っ二つに切り分けられて後悔するのだ!
が ぎ ぃ ぃ い い ん ! !
だから金髪の騎士はスローモーションに自分の大剣の刃が、折れて空中を舞うその光景を信じられずにいた。
これが敵もなんらかの武技を使ったというのならわかる。
だが、魔導レーダーには一切の魔力増幅を認められなかった。
だから、くるくると飛んでいく愛刀を目で追うしか出来なかった。
「戦争みたいだからな。死んだらすまねぇ!!」
だから目の前の白黒の魔導鎧装が見慣れる形の剣を上段に構えた瞬間、男は外聞も無く全力で魔導鎧装を後退させた。
それでも激しく機体が揺れる。間違い無く機体のどこかが切られた!
それは艦橋のミコナ達にもハッキリと見えていた。
帝國騎士を騎士たらしめる必殺の武技を、神速で切り上げ、返す刀で魔導鎧装に切り下ろしたのだ。
切っ先は咄嗟に庇った左腕を切り落とした。
『貴様……貴様!』
『ズィーガー! ズィーガー・ブリュンヒルデ! そこまでです! 引きなさい!』
『なんだと!? ここまでコケにされて……』
『皇帝陛下からあずかる魔導騎士鎧装をなんだと思っているのですか! 今はお引きなさい!』
それは女の声だった。
タケルは深追いせずに様子を見る。
『くっ! たかが管理官の分際で!』
『私にはその権限があります!』
『くそっ! 覚えていろ! タケルといったな! その名忘れぬぞ!』
「それは光栄だが、良かったらあんたの名前も教えてくれよ!」
『自分で遮っておいていけしゃあしゃあと! 私の名前はズィーガー! ズィーガー・ブリュンヒルデ! 名門ブリュンヒルデ家の次男にして誉れ高き帝國一二騎士が一人だ!』
「ブリュンヒルデね。覚えとくぜ」
『次は必ず殺す!』
「俺もその心構えをつけとくよ」
『くっ!』
『何をやっている! ズィーガー・ブリュンヒルデ!』
『今引く! 私が殺すまで生きていろよ! タケル!』
「ああ、死ぬ気はねぇよ」
青の魔導鎧装が空を蹴るように身を翻すと、視界の先に集まっていた軍隊の背後に降り立った。
それまで火の玉やら光の槍やらを飛ばしていた一団は、魔導鎧装の撤退と合わせて砲撃をやめると、ゆっくりと撤退していく。
800程度の歩兵なら簡単に蹴散らせそうだったが、魔導レーダーが敵の一団に魔導士がいることを教えてくれる。
恐らくさっきから飛ばしていた火炎弾はその魔導士の仕業だろう。
下手に近づいて集中砲火されるのは流石にごめんだった。
『タケル! 聞こえる!?』
モニターの一部にミコナの顔がウィンドウとしてポップアップした。
『今、一部の魔導管制が起動できたの! ようやく通信できるわ!』
「そりゃ良かった」
『それでなんとか浮遊要塞を移動する方法がわかったんだけど、浮遊要塞を渓谷に固定する鎖が外せないの!』
「なるほど。俺にその鎖を切ってくれと」
『相変わらず話が早いわね! 敵が後退してる今がチャンスなの! お願い!』
「やってみる!」
さて、あの極太の鎖をこの刀で断ち切れるものかね?
タケルは苔に覆われた巨大な鎖の横に降り立った。
人間よりも太い金属製の鎖。
今タケルが搭乗している魔導鎧装の日本刀は十分巨大だが、それでもさすがに目の前の特大金属鎖に比べるといささか頼りない。
「……ええい! 男は度胸!」
太陽のような神々しい緋色の刀身をもつ日本刀を一度鞘に収めた。
『え……? 何をやってるの?』
『なぜ剣を仕舞う!? 戦意を喪失したのか!?』
外野のノイズがうるさかったが、タケルは無視してゆっくりと深呼吸。
「
それは富士に射す朝日のように煌めき、甲高い音を渓谷中に響き渡せた。
巨大な鋼鉄の鎖の切り口は、鏡のように美しく、自重でゆっくりと谷底に向けて落ちていった。
同時に浮遊要塞が大きく揺れた。
『きゃあ!』
『うおおっ!』
「大丈夫か? あと三本!」
タケルは分厚く土の乗った要塞を蹴り立つと、次々と残りの鎖を断ち切っていった。
『凄い……まさか一太刀だなんて……!』
『はっ! あの武器が凄いだけだろ!』
どうも褐色エルフはタケルの実力が気に入らないようだ。
『良くやったミコナ! これより浮遊要塞を渓谷に沿って前進させる!』
「え? 誰か知らないけど、一度渓谷の上に出た方が良いんじゃ無いの?」
今まで参加してなかった男性の声が答える。
『タケルと言ったか異界の戦士よ! この浮遊要塞は一定の高さまでしか浮かんのだ!』
「そうなのか。わかった。護衛するから進めてくれ!」
『了解した! 浮遊要塞前進!』
男の声と共にゆっくりと、それはゆっくりと進み始める浮遊要塞。
おそらく全長で400m前後はありそうなそれが動く様は、まるで山が進んでいるような迫力だった。
長き刻を眠りし、いにしえの浮遊要塞はこうして目覚めたのだった。
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