2話「いきなり最前線」
「ご……ごめんね?」
アメジストの瞳と髪を持つ少女が、黒髪の青年をのぞき見た。
黒髪の青年……山賀
「……まぁ良いけどさ」
タケルはふてくされてよそ見をしていた。あぐらをかき、肩肘である。
それよりも状況を説明してもらおう。
そう考えた時、爆音と振動が響き渡った。
「なんだ!?」
ズ ゥ ゥ ン !
ド ゴ ォ オ オ ! !
さらに爆音と振動が続いた。
「もう接敵してるの!?」
「マジかよ、展開はええな!」
「時間が無いの! ついてきて!」
ミコナはタケルの手を取ると、強引に歩み始めた。早足である。
「うぉっ!?」
扉の前に立つと、バシュッという空気音と共に自動で開いた。
廊下に出るとそこは現代の船と比べても遜色の無い金属製の廊下だった。
「なんなんだここ?」
「ここはようやく見つけたいにしえの浮遊要塞よ」
「いにしえの! 浮遊!! 要塞!!! 何それ燃える!!!!」
「ひぇ!? そ、そう? 同じ反応してた男の子が沢山いたわね、そういえば……」
「そりゃあそうだろう!」
「今は喜んでる場合じゃ無いの! とにかくこっちへ!」
廊下を進むと、慌ただしく走り回る人間がいた。
いや、人間だけでは無い。猫っぽい顔と獣耳を持った奴や、犬っぽいの。虎っぽいの、ウサギっぽいのも走り回っていた。
「獣人って奴か」
「……あなたも獣人を差別するの?」
「は? なんで!? 獣人いいじゃん! ファンタジーじゃん!」
「ふえ!? さ、差別が無いならそれでいいのよ」
「あるわけが無い! むしろ大好きだ!」
自称アクティブオタクの山賀猛にとって、生きた獣人などご褒美でしか無い。
もっとも比率としては人間の方が遙かに多いようだ。
そんなことを考えていると再び要塞を揺らす振動と爆音が響いた。
それを確認した少女が、近くに人間を捕まえた。
「あなた! 状況を教えて!」
「ミコナ!? 召喚は……召喚は成功したのか!?」
「ええ! それより状況を!」
「混乱しててはっきりしないが、フェロー連合の軍隊が800前後」
「フェロー連合? 帝國との関係は微妙だったんじゃ無いの?」
「それが……」
さらに爆音と振動が響き渡った。
「帝國が……帝國の魔導騎士鎧装が一騎混じってやがるんだ!」
「なんですって!?」
良くわからないが、どうやらこの要塞、かなりピンチらしい。
「今全力で防戦してるが、そもそもまだこの要塞の機能はまるで判明してないんだ! いくつか稼働させた対空兵器で防衛してるが、牽制になってるかどうかもあやしい!」
「不味いわね……急がないと」
ミコナと呼ばれた少女はタケルの手を思い切り握りしめると、駆けるように廊下を進み始めた。
途中何度か慌てふためいた人間とすれ違った。てっきり軍人が乗っているのかと思ったが、服装はばらばらだった。
どうやら本当に素人ばかりらしい。
「そうだ、今のうちに自己紹介しとこう」
まわりの騒ぎをよそに、妙に落ち着いてタケルは言った。
「……あなた、心臓に毛が生えてるの?」
「慌てても意味ないぜ? 焦りはミスを生むだけだ」
「それはそうだけど」
「だろ? 俺の名前は山賀猛18歳。タケルでいいぜ」
「タケルね。私はミコナ・メデューム。16歳……って年齢必要?」
「ミコナだな。簡単に状況を教えてくれ」
「そうね、移動しながら説明するわ」
時々響く破壊音が、のっぴきならない状況であることを教えてくれる。
「簡単に言うわね。私達は帝國に逆らって逃げている集団よ。帝國は亜人排斥を標榜して亜人差別をしている。それに反発した人間や、逃げてきた亜人の集まりよ」
「ふむふむ。そしてその帝國は強大だと」
「ええ、そうよ。大陸の四分の一を支配する大帝國で、近隣の主だった国も逆らえない。今私達がいるのはフェロー連合っていう国なんだけど、帝國とは敵対していないまでも、比較的反抗的な国……だったんだけど」
「そのフェロー連合が帝國と一緒に攻めてきたと」
「そう。私達はいにしえの文献をたどって、渓谷深くに隠された要塞にたどり着いたんだけど……」
「到着早々襲われた。と」
「……タケル、あなた本当に理解が早いのね」
「そりゃあお約束ってもんだからな!」
通路の途中、なんとエレベーターで階を移動した。
「私達の予想では、帝國からフェロー連合に帝國兵が合流するまで2ヶ月はあると思ってたんだけど……」
「帝國って遠いのか?」
「ええ。軍隊で移動したらかなりかかる距離よ。まさか魔導騎士鎧装を出してくるなんて」
「魔導騎士鎧装?」
「ええ。それは――」
ミコナが答える前にエレベーターが目的の階に到着した。
そこは巨大な倉庫……らしき所だった。
だが中に並んでいたのは巨大な羽を持った生き物だった。
「うをぉ!? なんだこりゃ!?」
倉庫の中は怒号が飛び交っていた。
「ワイバーンライダーはまだ出せないのか!?」
「まだ1騎しか装備完了してない!」
「構わん! 俺が出る!」
「馬鹿野郎! 一騎で上がってどうする!?」
「誰かが押さえなきゃやられるだけだ!」
「ちくしょう! ハッチ開け! 爆裂魔導士は弾幕を張れ!」
大騒ぎである。
「俺も出る!」
「足の遅いグリフォンで出てどうする!? ただの的だぞ!」
「地上部隊を少しでも足止め出来ればいい!」
「だったら俺も乗せてくれ!」
「魔導士が前線に出てどうするってんだ!」
「爆裂魔法は射程が短い! 一緒に行って魔導士の一人も吹き飛ばしてみせる!」
「クソッ! 頼む! 絶対生きて返してやる!」
「デッキ前気をつけろ! ワイバーンの次にグリフォンも出る!」
「敵魔導騎士鎧装を近づけさせるな!」
「上に言って弾幕を張らせろ!」
「すでに限界だそうです!」
戦力の随時投入など愚の骨頂。だがやるしか無いという追い詰められっぷりなのだろう。
タケルは隣で放心しているミコナの肩を叩いた。
「俺にやれることがあるんだろ?」
「え? そ、そうね。こっちよ!」
倉庫……では無く格納庫の奥にそれはあった。
金属のフレームに、むき出しの筋肉が絡みついたような、開発途中のヒト型ロボの様なシロモノが屹立していたのだ。
ビルで言ったら4階か5階建てくらいの高さがあるだろうか?
「うおお!? ロボ!?」
「魔導騎士鎧装の素体よ」
「素体?」
「これに魔力を吹き込んで……」
「ミコナ!」
素体の下にいた男がこちらに駆け寄ってきた。
褐色の肌でイケメンに特徴的な笹穂型の耳をしていた。
あれか? ダークエルフって奴か?
タケルが男を物珍しげに凝視すると、褐色エルフに睨み返された。
「……成功したのか?」
どこか苛立たしげなトゲのある口調だった。
「ええ。さすがはいにしえの召喚宝珠ね。ただもう二度と使えないけど……」
「そうか。それよりミコナ! もう一度騎士鎧装の固定化をやるぞ!」
「え!? もう散々やってダメだったじゃ無い! あの素体はヘイセと適合しないのよ!」
「じゃあこの状況をどうやって打開する!?」
「要塞の兵器は?」
「まだほとんど稼働してない! 今妹が動いた対空兵器で応戦してるが、一つ二つじゃどうにもならん! 牽制くらいにしかなってない!」
「だからって……」
「手がある」
「え?」
「せっかく魔導縮退炉があるんだ……、儀式に魔力を10倍つぎ込め」
「何言ってるの!? 無茶苦茶だわ! そんなのただの自殺よ!」
「だがやらねばならぬ! 俺は戦士だ! 俺以外に誰が適任だというのだ!?」
タケルを放置して二人が熱い議論を交わす。タケルはため息交じりに会話に割って入った。
「あー、白熱してるところ悪いんだけどさ」
「なんだ!?」
ヘイセと呼ばれていたダークエルフ(?)が血走った目を向けてきた。
「俺の役目だろ? それ」
ミコナとヘイセが目を丸くしてタケルを凝視した。
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