再検査、そして昼食
「お待たせしましたね。次の予約は
医師の問いに対し、仙に代わって付き添って来た慎が、
「昨夜、入浴時に服を脱いだら前日は未だこんなに酷くはなかったらしいんですが、全身青紫の痣だらけだったんです。本人我慢強くて言わないので気が付かなくて。左肩の
静かに座っている波留子とは対照的にスマホの写真を見せながら詰め寄って来る慎の勢いに
「まあまあ落ち着いて下さい。小林さん、体の痣はかなり痛みますか。」
「はい。着替えをする時や不用意に
「そうでしたか。もっときちんと伺っておくべきでした。痛い思いをさせてしまってすみませんでした。内出血してる部分は腫れが
「では、検査を受けて頂きたいので
看護師に案内され
「
そう言って波留子を座らせた。看護師が押して行こうとするのを慎が
「先ずレントゲン室でレントゲン撮影をして頂いて、それからCT検査室の方へ行って頂きます。ではどうぞ此方へ。」
そう言って先を行く看護師に
レントゲン担当医は金属類を全て外す必要があるので下着を取って検査着に着替えて下さい、と言い更衣室へ案内した。少し着替えに時間が
撮影を終えて部屋から出て来ると担当医はそのままCT検査室へ行って結構ですよ、と言ってくれ慎は内心ホッとしていた。CT撮影を終えると更衣室に戻り大丈夫だから、と波留子はまた一人で更衣室に入った。
着替えを終えぐったりしている波留子を車椅子に座らせるとロビーに戻って待った。
「なんだか凄く疲れたみたいだね、着替えるの痛かったんじゃない。平気だった。」
心配そうに尋ねる慎に波留子は、
「大丈夫。脱ぎ着がし
「うん。」
波留子の名前が呼ばれ診察室へ入って行くと医師からレントゲンの結果、肩の骨に
会計を終え薬の
二十分程して仙が車で到着し、二人を乗せ病院を後にした。
「ハルさん、やっぱり今日もう一度診て貰って良かったね。まさかヒビが入ってたなんて、かなり痛むんでしょ、我慢しないで言えば良かったのに。」
「我慢してた訳じゃないよ。
「ハルコ、我慢強い。」
「うん、まったく、ハルさんらしいや。ところで、昼、何食べたい。」
「和食がいいな。昨日は昼牛丼で夜イタリアンだったでしょ。だから魚が食べたい。」
「じゃあ寿司でも食べに行くか。」
「やったあ!俺、大トロとウニ。」
「お前、相変らずだな。ハルさん寿司でいい。」
「うん、私はイカと貝が好き。あ、あと中トロ。」
「はいはい、二人とも寿司は好物だった訳ね。じゃあこれからは美味しい寿司屋は押さえておかなきゃね。」
昼時とは言え寿司屋で並ぶ様な事はなくすんなり入る事が出来て、波留子が怪我をしていると見ると一番手前の丁度三人横並びのカウンターを用意してくれた。
「好きに注文していいからね。」
波留子を真ん中に仙と慎が
「じゃあ俺、中トロと大トロね。」
「私、中トロ。イカは何がありますか。」
「真イカ、
「じゃあ真イカを
「あいよ、
「あ、じゃあ俺も彼女と同じものお願いします。」
「かしこまり。」
「あのね、今日の会議であの二人について会社としての対応が決まったんだ。刑部部長は八尾に自分との事を奥さんにバラすって
それから、総務部長の後任人事についてなんだけど、修弥から
「新人? じゃあ若い人の中に部長にしたい様な人物がいるんだ、凄いね、うちの会社って。」
と波留子が喜ぶと、
「いや、若くは、ないんだけどね。」
「えっ、じゃあ中途採用か。なら十分あり得るか。」
「いや、だからそのお、ハルさんに総務部長の後任をお願いしたらどうかって‥。」
「はあ? 何言ってんの仙。からかうのもいい加減にしてよ。」
そう言って仙の顔を見た波留子は仙の真面目な顔を見て驚いた。
「嘘!‥私未だ試用期間終えたばっかり。しかも終えた途端にこの有様で仕事に行けてない上、会社に迷惑掛けてるんだよ。桐生さん何考えてんの。」
「俺も最初驚いた。でも今日うちの部署だけじゃなく他部署からもハルさんの事を心配する声を聞いた。ハルさん皆んなの話をよく聞いてあげてるんだね。それで問題だと思う事、それとなく俺に教えてくれてたんだ。今朝彼方此方行ってそれとなく話を聞いてみてよく分かったんだ。さすが修弥、そういう情報は速いよ。俺としてはハルさんに俺の秘書を
波留子の
「ハルコ。」
慎に声を掛けられハッとして箸を置いた波留子は仙の顔をしっかり見て答えた。
「人事部長の
「ハル。やっぱり修弥は凄いよ。」
「えっ?」
「彼はハルさんが現時点で部長職の
「どうするって‥私はどうもしない、さっき言った通り。重役達がそうしたいならそうすればいいんじゃない。もしかしたら待ってる間に兼任してる部長さん達が大変だから誰か
「分かった。じゃあ重役連中にはハルさんの
「うん。でもさ、本音言うと仙の側でこのまま秘書の仕事がしたいんだよね。秘書の仕事って私に向いてる気がするし。」
仙の目を避けるように前を向いたまま波留子がポツリと言ったのを聞いた仙はおもむろに彼女の顔を自分に向けて、暫しその顔を見つめると彼女の
「ひゃあ、昼時からごちそうさんです。」
板前さんにそう冷やかされキスされた波留子の方が真っ赤になってしまうのだった。
昼食を済ませ店から出ると仙は会社に戻らなくちゃならないからタクシーを拾って帰るようにと慎にお金を渡して立ち去ったのだが、直ぐに戻って来て、
「年内は明日で終了だから五時からオフィスで
「ううん、私も皆んなとちゃんと話せなかったから納会に行きたい。その代わりマコちゃんも一緒でないと駄目だけど。一人じゃタクシーにも乗れないし、マコちゃんは私の介護人だからね。」
「分かってるよ。それにこいつ呼ばなくても毎年納会には必ず来るんだ。な、慎。」
「あゝ。でも明日ハルコが行くなら俺はちゃんとハルコの看護人としての仕事をするよ。ねえ、ハルコ。」
怪我をしていない方の肩に手を回し、慎が波留子に顔を寄せた。
「やっぱりお前はハルさんを連れて来たら直ぐ帰れ。」
「えゝ、何で。ああ分かった、
「
そう言って早足で車に戻って行った。
「マコちゃん、父親を
プッと二人で笑い出してしまい、暫し笑いが止まるまでその場に留まった。
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