ハルヒセリフ~古泉ver~

「ちょいと小耳に挟んだんだけどな」


「なんでしょうか?」


「付き合う女全部振ったって本当か?」


「……なるほどそういうお話ですか」


 肩にかかる黒髪をハラリと払い、古泉は真っ黒な瞳で俺を睨み付けた。まったく、無表情でいないときは怒った顔ばっかりだな。


「あぁすみません、何故あなたがそのことを知っているのか、情報源はどこからなのか、それらについて考えていたのですが、僕には見当が尽きません。しいて挙げるとすれば、新川さん、森さん……はたまた機関とは全く別の誰かなのか……全く、興味が尽きませんね」


「それはない」と思う。


「まぁそのことについては後程調べておくとしましょう、あぁ一応このことは涼宮さんには内密にお願いします。閉鎖空間が活発になっている今は特に、こちら側から余計な刺激を与えたくはないのですよ。最も、僕では役者が不足していますので、例えば新たな閉鎖空間を作り出す要因となる可能性はほぼないとは思いますが、念のためです」


「一人くらいまともに付き合おうとか思う奴がいなかったのか」


「これでも機関に所属している僕はそれなりに忙しいのですよ。おっとこれは、言い訳になってしまうかもしれませんね。ですが、少なくとも涼宮さんを取り巻く現時点においてはどなたからのアプローチであっても僕はお断りすることしかできません」

「いっそのこと、『全く』もしくは『全然』そう言ったことに興味がないと思ってもらってもかまいません。それくらい僕は今自分が置かれている立場に満足しているのですよ」


 どうやらこいつの口癖は「全然」のようだ。


「それに僕はエスコートというものがどうも苦手でして、また、バイトが入るとすぐに抜け出さなくてはなりませんので、せっかくお誘いいただいた方に不満を持たせてしまうでしょう」


 それのどこが悪いのだと思ったが、口に出すのはやめておいた。古泉がダメだと言うからにはそれはすべからずダメなんだろうな。


「そんな僕にどうしてかはわかりませんが、以前一度だけ男性から恋の相談を持ちかけられることがありましてね、『あの子が誰のことを好きか聞いてきてほしい』という頼み事でしたので、とりあえず女性本人のところへ向かい確認したのですが、『あなたにだけはそれを言われたくなかった!』とその女性は泣いてしまいましてね。それ以来僕にそういった相談事がくることはなくなりました」

「まぁそう言ったことは好意を寄せている本人が直接相手へ気持ちを伝えるのが最も良いのではないかと、僕は思います」


 虫でも見るような目つきを前にして重大な――少なくとも本人にとっては――打ち明けごとをする気になれなかったであろう女の気分をトレースしながら一応俺は同意しておいた。


「まあ、そうかな、俺ならどっかに呼び出して言うかな」


「おやおや、あなたには是非ともそうしていただきたいと考えていたものですから、一安心と言ったところでしょうか」

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