第2話 自己中な正義

「お前の顔何か変だな、表情が無いというか死んでいると言うかなんと言うか…よくわからないけど治癒すればどうにかなるでしょ!」


三村は緑の光に包まれる。その光は暖かく癒やされる光だ。

治癒が終わると不思議なことに大輝の顔が笑っている、治癒によって心を取り戻したようだ。


「なんか急にすごいわくわくしてきたぞ、生きることが楽しく感じる─あっ、俺死んだんだっけ。。?」 


「死んでないわよ、お前はこのルシフェルト王国で転生したのよ。」


「て、転生!?俺はさっき首を吊って死んだはずだぞ。」


「お前、死ぬときに走馬灯が走らなかったか?それは脳が死から逃れるためのすべを探していたんだよ。結果、異次元へ転生ということになったという事。」


「ちょっとまて!俺の脳の行き着く先可笑しくね?!考えた末、異次元へ転生って、結局ただの現実逃避じゃないか!」


少女はため息をついて、「とにかくついてきて」と大輝の腕引っ張って走った。

少女が足を止めると、大輝の視界に大きな屋敷が目の前に現れた。そして6人の女性がおかえりなさいませと迎えてくれた。 

屋敷の中へ連れて行かれると、空き部屋まで案内された。


「ここがお前の部屋だ、いきなりこの世界にきてよくわからないことが結構あるだろうけど、とりあえず今日はゆっくり休め。」


部屋から出ていこうとする少女に大輝は問いかける。

「なぁ、まだ名前を聞いていなかった、君の名を教えてくれ。」

「人に名を聞くときは自分から名乗るものでしょ?まったく無礼ね」

キレ口調で少女は言った。それに対して大輝は自分の間抜けさに落ち込む。


「すまん、俺は三村大輝。」

「私はイリナ、六眼魔導会の傘下、アルメイダ組の一員よ。」

「六眼魔導会なんだそれは?」


六眼魔導会は、ルシフェルト王国の西の森を拠点とした、はぐれ組織。

女だけで構成された組織から魔女会と呼ばれている。

代々この王国に結界をはって敵襲を防いだり、他世界へ侵攻しルシフェルト王国の発展に貢献してきたとイリナは簡単に説明した。


「ちょっとまて、他世界ってなんだよ、他国の間違いじゃないのか?まず他世界に行くなんて無理な─」 

「行けるわよ、ていうか今日も行くしね。」

「なにちょっと出かけてくるみたいな言い方してんだよ、他世界って何キロあると思ってんだよ、ていうか今日はどこに行くんだ?」

「一気に質問しないでよ。…それと今日行く場所はお前には教えられない。」 


イリナはなにか悲しそうな顔をしていた。大輝は問い詰めてはいけないと思いつつも、恐る恐るイリナ聞く。

「言いづらいのはわかるけど、教えてくれよ。」

「お前が住んでいた世界に侵攻するの。」


イリナが小さくつぶやくと、大輝は目を変えてイリナの両肩に手を乗せる、「なぜ侵攻する!なにかこの世界に対して災いをもたらしたのか?!」

「してないわよ、上の命令なんだから仕方ないでしょ...私だってやりたくないわよ...」         

「上の命令って...おいイリナ!その上のとこへ案内しろ!!俺が止めてやる!」


大輝は決して楽な道を選ぼうとはしない。間違ってることに対して必ず反抗する、それが大輝の人生の生きがいでもあった。

「上の命令など知ったことか、俺は俺の正義を貫く。」

勝手な大輝のいい文だが、イリナはその志に感服し上の所へ案内した。


屋敷の1番奥に大きな扉がある、ここを開ければ魔女会の主がいるそうだ。

扉にむかって「失礼します、魂の大草原にて捕縛した男が長に申し上げたいことがあると─」緊迫した表情でイリナが申した。


扉が開くと、中には5人の女と長らしき女が玉座に座っている。

女達がぼそぼそと大輝の方を向き話している。

「あやつ、この世界の者ではないぞ」

「男臭~い、鼻がまがりそう~」 

「下郎の分際が長になんのようだ??。。」

「イリナが拾ってきたのでしょ?」

「後で血祭りにしてやろうかしらね」

などと物騒な言葉が、かすかに大輝の耳へ聞こえてくる。


玉座の前までたどり着くとイリナは膝を折って心臓に手を当てている、それを見て大輝も膝を折る。

「さてさてー、お主達は私に何用でー?」

長はにっこりと笑った顔でこちらを見つめている。

イリナには長に用はない、ただ大輝をここに連れてきただけのこと、大輝が用件を言わなければ、何も始まらない。

薄々分かっていても大輝は長の迫力に言葉を発することが出来ない。

(いつもなら、初対面でもすぐ話せるのに、この圧はなんだ、口が開かない。。)


イリナは長の能力を充分把握している。(長の能力それは「脅威」。相手に対して闘争心や平常心を壊し、心の内から崩れさせる内部攻撃!…)


「なになにー?私に用件を申すのではなかったのかー?その無礼な姿は後2分までだ。2分後にどうなるかはみなまで言わんぞー?」 

大輝が沈黙を続けて1分が経った、長からあと2分喋らなければ処刑されると大輝は確信していた。

(ダメなのか…大輝はまだ転生してたった30分足らず!!…このまま本物の死を迎えるのか…それにしても長のこの圧はなんなんだ!!…) 


イリナは、大輝の処刑を免れることは出来ないと思い始める。一方、大輝は長に心を脅威にさらされるが、どうやら大輝の自己中心型の正義心は壊すことが出来ないようだ。

(ここで死んでいいのか?こんなことで俺は死んじまうのか?こんなイジメみたいな能力に殺される?ふざけるな、俺の正義は悪じゃ砕けないぞ!!…)

「長!お願いします、現世界へ侵攻することを止めてください!」

大輝は長の脅威から抜け出すと、長に向かって侵攻を阻止すべく訴える。


長は驚きを隠せず立ち上がり血相を変えて大輝に指を指す。

「きみきみー、どうやって私の脅威を破ったのだー?この脅威に恐れず立ち向かって来るというのかー?」

長の予定では、部外者である大輝に脅威を震わせ、そのまま処刑にする予定であったが、大輝の正義は砕けなかった。


「脅威か、俺が生きてた世界は世界そのものが脅威だったさ。例えるならば、人々に幸福を与える天使や神が悪魔に蹂躙されている、悪が征する弱肉強食の世界。」


大輝が生きてきた人生はとても過酷で

どんなに人の為に尽くしても、良い事をしたつもりでも、正直に生きれば馬鹿をみる。

報われること無く生きてきた大輝は悪が何よりも良い生活をしているとこの場で伝えたかったのだ。


ここにいる全員が驚いた表情で大輝を見つめる。大輝はその視線も気にせず現世界の過酷と不合理をただただ訴え続ける。

「そんな腐った世の中が嫌いだ。だが俺は何もできなかった。」

大輝は悔しそうな涙目で黙り込む。


この場の全員が沈黙してしばらくすると、大輝に向かって1人で歩いてくる女がいた。

「私も反対ですわ、まさか貴方の世界がそんなに汚い世界だとは思ってもいませんでしたわ。このまま貴方の世界へ侵攻しても私達が卑怯者じゃない。」


大輝に向かってきた青髪の女は、現世界は平和でのどかだと思っていたらしい。もしそうであればもルシフェルト王国の発展のため世界の資源と土地を利用しようと考えていたが、善人が悪人に蹂躙される世界はもはや戦争。

ここに我々が攻めたらルシフェルト王国も悪人になってしまうと考えたらしい。

六眼魔導会のイメージと価値を下げてしまうことは、魔女会にとって資源や土地の獲得よりも大きな問題となってしまうということだろう。


「そうだな、我々が横槍をいれては国の評価が下がる。」

緑色の髪の女がそう言った。他の者達も大輝の方へ集まってくる、皆さっきの沈黙した表情とは裏腹に、なにかやる気に満ちた顔をしている。

「お主の世界は臭そうだし行きたくな〜い。」 

黒髪の女はただ自分が臭くなるのが嫌らしい…おそらく。


話の流れが侵攻を中止する方向へと転換し、その流れを把握した長は笑みを浮かべ立ち上がり、全員に号令する。

「君たちー、現世への侵攻はナシだー、しばらく侵攻はせず、組織の強化に力を尽くせー。」

大輝はほっと胸を撫で下ろした。隣にいたエリナも座り込んでほっとしていた。

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