11.吹雪と狼

 カピヨーゴロスク


 リョート北部の世界最高峰「カピヨー山」のふもとに形成された、気密性の高い石造りの家々が並ぶ街。周辺に森林地帯と豊富な自然資源があるために、自然と形成された街が徐々に拡大されていった。現在ではリョートでの政治的役割を担う中心都市として機能している。

 文化水準はあまり高くなく、機械や魔術加工のされたものを見かけることは少ない。暖を取るには薪ストーブや暖炉、焚き火などが主流。流入が無い訳ではないものの、魔術の発展よりも先にある原始的な手段が生活に組み込まれているため、必要以上の技術が定着していない。


 追記

 近年より建築物や施設関係、家畜や連絡便に外的被害が続いている。調査の結果、大型魔獣によるものと判明しているが、依然として犯行者の正体が掴めず捜査が難航している。

 また北方騎士隊内において、土着的な信仰・噂、通称「悪竜」により士気が下がりつつある。本部からの応援並びに支援を要請する。


 とある騎士隊員からの報告書より抜粋


 ◆


 ぎっ。ぎっ。

 踏みしめる度に絞るような音が鳴る。長らく降り続いた雪が初めて踏まれ、往く者の足に絡みつくかのように深く深く埋まりこむ。


「ふっ、ふっ、ふっ……」


 一歩、また一歩。引きずり出すように足を上げては沈め、誰も踏み込まない禁忌の道を進む。真っ白に染まった道は、さらに雪を積もらせながら果てしなく続く。

 リョートの国を大きく占める山稜、その中で一際大きくそびえ立つカピヨー山。その頂は遥か遠く、重く立ち込めた暗い雲の上にあり、そこが「聖地」であるという。

 俺は今、その過酷で困難な霊峰に足を踏み入れている。

 ぎっ。ぎっ。


「ふっ、ふっ、ふぅっ……」


 無言のまま雪山道に歩を進める。幸い、と言えるのか、古い昔には山頂へと続く参道があったらしく、時折見える道しるべを頼りにしばらく歩き続けた。今朝にカピヨーゴロスクを旅立ち、参道を登りだして既に三時間は経過している。

 最初こそは雪道を進めたものの、今は登りが続くこともあって体力の消耗が激しい。耐寒装備として揃えた靴や外套すらも、こびり付いた雪がそのまま張り付いて凍りだす始末だ。


「はぁっ、はぁっ……」


 手袋をはめた手をもみ合わせ、数度息を整える。今更ながらこの道のりの過酷さを嫌というほどに呪う。おおよそ生物が生きていけないこの世界はいったい何のためにあるのだろうか?


 カピヨーゴロスクを出ると言った日に、当然ながらアリタとユノには強く引き留められた。


「わざわざ死地に赴くというのか? 感心しないな。別の方法を探すことを勧めるが」

「山は本当に危ないんですよ! それに悪竜が住処すみかにしているって聞いてます!」

「ああ、知ってる。山に魔女……魔法使いがいるってことも」


 情報を得てから数日、アリタの言う通り回復に努めた俺は元来の体力を取り戻しつつあった。無論、四年も牢獄に囚われていた分はどうしようもなく埋まらないが、少なくとも魔法を難なく使えるほどの体力にはなった。


「別の方法を探すにしても、今ある手がかりはその竜と魔女だけ。おとぎ話だろうが、俺はどうしても確かめなきゃいけないんだ」


 頑丈に作られた鞄に準備した装備を詰め込みながら、俺は揺るがない決意を口にする。今あるのは焦りではなく、しっかりとした意思だ。

 無謀だろう振る舞いに二人は必死な形相で食い付いてくるが、俺が譲らないと分かるとアリタが深いため息をついた。


「……そういう頑固な奴を私も知っている。一度決めたら譲らないという人は、何を言ってもそれを成し遂げようとする。まったく、世話が焼ける」


 初めて、アリタが呆れて額にシワを寄せる顔を見た。


「君を止めることのできる理由を私は持ち得ない。だからせめて、本当のことを言わせて欲しい」


 改まってそんなことを言うものだから、俺はアリタをまじまじと見てしまう。短い間ではあるが、信頼に足る人だと知っているだけにそう畏まられると構えてしまう。


「君の行動は、既に察知されていたことだ。私が君と出会ったのも偶然ではない」

「は……?」


 間抜けた声が出てしまう。あけすけに言うが、それは自分の行動が筒抜けだったということ。しかしアリタはそれを悪びれる様子もなく、肩を竦めて続ける。


「かと言って、私は騎士隊にくみする者でも無いし、個人的な頼みがあったからそうしていたに過ぎない。第一、まさかあの村で会うとは思いもしなかった」


 チャンスがあればカピヨーゴロスクで探すつもりだった、と付け加えながら意外そうな顔でそんなことを言う。


「じゃあ、最初から知ってて黙ってたのか」

「怒るかね?  それも結構だが」

「いや……感謝こそあるけど、怒りはしない。アリタ先生だって、助けてくれたからな」


 その言葉に嘘偽りはない。無論、事情があって黙っていたことを騙されたと言えば聞こえは悪いが、それにあまりあってアリタには恩がある。ここまでしてくれた人を責める道理を、俺は持ち合わせていない。

 ふう、と溜息をひとつ。アリタは肩の力を抜いて困ったような顔で笑う。


「やはりお人よしだな、君は。別れるのが本当に惜しいくらいだ」


 ……そんな風に言われて、俺も少し名残惜しく感じてくる。もしかしたらアリタの言う通り、他の探す道も有り得るかもしれない。未だ知らない情報もあったかもしれない。


「もし戻ってこられることがあれば、また私の元に訪ねてきて欲しい。今度は友人として迎えたいよ。その時はこれを。の連絡先だ」


 アリタは懐から一枚の紙を取り出す。それはシワでよれた粗雑なものではなく、丁寧に折られた上質そうな紙。中には簡素に書かれた文字が並ぶ。しかし見慣れないそれを、思わず読み上げる。


「ムーンドロップ・オーリエンス……これは?」

の名だ。普段は隠している方のな。信頼の証としてありがたく受け取っておいてくれ」


 人に話せないことはも同じでね、と付け加えトントンと渡した紙を指で叩く。ふわ、と不思議な甘い……薬のような香りと共に、魔素の光が立つ。おそらく、紙に仕込まれた魔術で紐付けられた人物の位置を指すものだ。


「……ありがとうな、先生」

「ああ。君の旅路に、天使の加護があらんことを」



 心配顔のユノをなだめ、硬い面持ちで俺を見送ってくれた先生には、返すべき恩が山ほどある。きっとこの旅が終わる頃に、それを返す機会に恵まれるだろう。


「よし……」


 体に力を込め、活性化した火の魔素を蠢動しゅんどうさせ全身にまとわせる。突き刺すような寒さもこれで暫くは耐えられるだろう。立ち止まっての休憩を辞めて、再び雪道に足を沈めた。

 山頂までは長い。聞いた話では丸一日掛けても中腹にたどり着けるか否かというところだ。念を入れて準備した装備だが、やはりそれでも消耗が激しい。

 入山から既に五時間。未だ中腹には遠いものの、丁度よく風の当たらない洞窟を見つけた。奥が浅く、焚き火を起こしたであろう薪やボロボロになった道具の残骸が散らかっている。どうやら古くに人の手で作られたものらしい。

 ちょうどいい、休憩させてもらおう。流石に歩き疲れた。薪に手をかざし、小さく呟く。


「『――おこれ』」


 途端、薪に火が走り、小さな種火となる。そこによく乾いた薪を加えて、焚き火を完成させる。

 魔法は完璧ではない。何も無いところを燃やし続けるのは、常に奇跡を起こし続けることと変わりない。それは莫大な魔素を引き換えとして、激しい消耗を強いられるのだ。

 ふう、と溜息をついて腰を下ろし、焚き火に当たる。穏やかに揺らぐ火の煌めきに凍てついた体をゆっくりと解すように身を任せる。しばらく歩いた疲れも少しずつ薄れ、やがて緩やかに瞼を重くさせる。心地よい温もりに身を委ね――


「ガウッ!!」

「うおわっ!?」


 唐突な咆哮に、跳ね退くようにして後ろへと転び。


「ァだっ!!」


 すぐ後ろにあった洞窟の壁に後頭部を打ち付ける。目の奥がチカチカと閃き、睡魔は勢いよく抜け落ちた。


「な、何だぁ……?」


 痛みにひりつく後頭部を擦りながら声のした方を向くと、吹雪いた洞窟の外にひとつの影が見えた。


「グルルル……」


 それは、今にも噛みつきそうな勢いで牙をむき出し、唸り声を挙げて構える犬……いや、狼がこちらを睨んでいた。

 雪の色に似た、くすんだ銀の体毛に、黄金を思わせる瞳。ぶわりと毛を膨らませ、何倍も大きく見えるその体は、以前見た図鑑の動物を想起させる。

 ヒムロオオカミ。リョートの山岳地帯を中心に生息する、今や希少種として数えられる生物だ。おそらくだが、俺はそのヒムロオオカミの縄張りに知らず知らずのうちに入り込んでいたらしい。


「あー……と、いや、悪いな。すぐ出ていくつもりだったんだが、道中で疲れちまって。ちょっとだけ間借りさせてもらったんだよ」


 こういう時には慌てず、億さずに対応するものだと聞いた。言葉が通じるとは思っていないが、つい弁明するように口を挟んでしまう。じりじりと洞窟の壁を背にしつつ立ち上がり、生唾を飲み込む。

 野生生物に対しての対応など街中での野良犬程度だっただけに、今の状況で穏便に済むとはまず思えない。加えて今は俺が袋小路に追い詰められている。もしやこの洞窟も、狼の狩場であったのか? 嫌な思考が脳裏を過ぎるが、目線は狼から外さない。隙を見せればそのままガブリといかれるだろう。


「グルルルルル……!」


 低く唸り続ける狼は敵意を剥き出しのまま、しかし洞窟へ入ろうとはしてこない。パキッ、と焚き火が爆ぜる音に狼はピクリと身体を揺らす。なるほど、火に恐れて踏み込んでこられないらしい。

 しかし足元の焚き火は長く続けるつもりも無かっただけに、段々と頼りない小さなものになっていく。新しい薪を追加しようにも、動きを見せれば襲いかかってくるかもしれない。


(睨み合っててもジリ貧……なら、こっちから仕掛けてしまうか?)


 幸いながら、狼を追い払う程度なら体力も戻ってきている。悪竜に放った閃光を再び撃つのなら、コツは掴んだから疲弊するほどではない。

 手に火の魔素を纏わせ、ゆっくりと引きながら構えを取る。意表を突く作戦というのは相手を引き付けてからが一番効く。狼があと一歩近づいた時点で撃つ方が――


「ガウッ!」

(来るッ――!?)


 一吠え。狼が再び咆哮を上げ――踵を返した。雪道をものともせず、まるで雪上を滑るようにして撤退していく狼は、こちらを振り返ることなく吹雪の中に消えていった。


「なんなんだ……?」


 火を恐れて逃げていった……にしては、怯える様子が無かった。分が悪いと感じたのか?

 しばらく待ってみたが、戻ってくる気配もない。緊張が解かれ、ズルズルと背を岩壁に預けながら腰を落とした。驚きもあって、先程まで温く襲いかかってきた睡魔はなりを潜め、嫌に覚醒してしまった。


「……進むか」


 休憩は十分とった、ということだろう。またいつ襲われるとも限らない。場所を移した方が良さそうだ。

 焚き火を踏みつけて消し、再び洞窟の外へと踏み出す。吹雪いた天気もやや落ち着き、見通しは悪くない。狼が辿った道筋は雪に隠れ薄らと見えるが、途中からその跡も掻き消えてしまっていた。


 再度の吹雪の突き刺すような寒さにかじかみながら進む。洞窟から出て更に数時間。辺りは暗くなりだし、吹き付ける雪でまともな道も見えなくなってきていた。登山用に持ってきていたランタンにも火を灯して掲げるも、もはや夜闇がすぐ側にまで忍び寄ってきていた。

 まずい。明らかにまずい。休む場所も見つからなければ、夜通し歩き続けるかしなければならない。


「焔帝が凍死なんて、洒落にもならねえぞ……」


 愚痴にもならないボヤきを口にしながら、懸命に雪を踏みしめる。しかしその足も段々と末端から感覚が鈍くなってきている。

 ギシギシと身体から変な音が聞こえ出す。あまりの寒さに耐えきれなくなって悲鳴を上げだしたのか。火の魔素を巡らせてもなお異常な寒さまでは凌ぎきれていない。


 ――ォォオーーーーン…………


「……?」


 吹雪く音に混ざって、何かが聞こえた。これには既視感がある。風を切るような音と、何か唸るような……。


『止まれ、旅人』


 唐突に、響くような低い声が聞こえた。吹き付ける風の音ではなく、はっきりとした意思ある声。しかしそれは人の声と呼ぶには些か違和感があった。


「誰だ!?」


 返事は無い。代わりに沈黙と、その間を埋める吹雪の音だけが返ってくる。

 正体も見えないままにこちらに声を届ける、というのは魔術の一種にもある。ともすれば。


「魔女、なのか?」

『違う。しかし魔女に近いものだ』


 当然のように湧いた質問に対し、否定。予測したのか、間髪入れない返答には言葉を飲み込むしかなかった。

 徐々に吹雪が強くなり出す。手元のランタンの灯りすら頼りなく、拠り所のない弱々しさに揺れていた。

 低い声は唸るように言葉を続ける。


『旅人よ、ここを去れ。これより先は魔女の領域。我が主人は、誰とも会うつもりは無い』


 主人、つまり魔女と声の主は少なくとも繋がりがあり、主従関係である。気配は吹雪の中で掴みきれないが、はっきりと聞こえるその声からは揺るぎない存在感を放っていた。


「悪いが、そっちに無くてもこっちは用がある。悪竜についても知りたいことがあるんでな」

『……かの竜についてだと?』


 声の雰囲気が変わる。疑問、疑念。何かを探るような気配に、俺は怯まず答える。


「俺の必要なものを見つけたら、それを持って帰るだけだ。魔女やあんたに危害を加えるつもりは無い。必要なら竜についても知りたいんだ、頼めないか?」

『………………』


 再度の沈黙。返答に迷っているのか、信じきれないだけに言葉を探しているような、低い唸り声。


 ――ォオオォーーーーーーン……


 ふと、どこからか犬の遠吠えに似た音が聞こえた気がした。不思議なことに、吹雪の最中だと言うのにその声はやけに通り、続いて何度も聞こえ出す。

 いつしかいくつもの遠吠えが重なり、更に一際大きな遠吠えが聞こえて、


 急に吹雪が止んだ。


「……っ!?」


 ぴたり、と。先ほどまで頬を叩いていた雪すら、風に流されてはらはらと落ちていく。やがて一つの雪も舞うことなく、吹き付ける風すら止んで辺りはただただ静かな寒さだけが満たされた。


『一時的な結界魔術だ。そう構えるな』


 低い声が再び聞こえる。しかし、今まで吹き荒れていた吹雪が前触れもなく止まったのだ。警戒するなという言葉にはさすがに無理がある。


『なるほど、他の魔術師もどきとは違うらしい。魔女そのものではなく、竜に目を付けるとは』


 ズシ、と雪を踏む音が聞こえる。音の方角を見ると、俺は目を見開いてしまう。声を上げて驚くつもりが、喉が渇いてうまく声が出なかった。

 そこには、白銀の毛を持つ大きな狼……先程見かけたヒムロオオカミと同種だが、それの更に数倍大きな個体。およそ大人の男よりも高くそびえるそれは、金の目を光らせてこちらを見下ろしてくる。口を開けば丸呑みすら出来るだろう。


「魔術を使えるってことは、〝魔獣〟か?」


 魔獣。それは、自然の中に居ながら魔術を行使できるように進化したという生物たちのことを指す。通常、魔術は人間によって作られた技術のことを指すが、獣たちの中でも同じくある一定の規則性に基づいてそれを行使することが確認されているらしい。

 ちら、と横目に見れば、結界だというその魔術の境界には等間隔に狼たちが佇んでいた。おそらくは狼たちを魔術の起点にして、結界を張り巡らせたのだろう。

 狼は群れでの狩りを主とし、その連携は抜け目なく相手を追い詰める。ただの獣というにはあまりにも知恵が回る行動は、ただ一匹の魔獣がいるだけで成しえるものではない。ここにいる狼すべてが、魔獣並みの能力を持っていると考えるべきだろう。


『さてな、人が呼ぶ区分については詳しくない。そう言うそちらも只者ではなかろう?』


 俺が絞るようにして口にした言葉に、銀狼は試すように鼻を鳴らす。一時も緊張が解けることはない。目の前の巨躯は竜と対峙した時と何ら変わらない背筋の寒さを感じさせている。

 銀狼は冷静であり、強い威圧を放ちながら佇む。ふと見るとその足元には、何匹かの小さな狼がこちらの様子を窺うようにして立っていた。なるほど、どうやらこいつは群れのリーダーでもあるらしい。


『話を聞こう、旅人よ。しかし場所を移すべきだ』

「……凍えない場所ならどこでもいいぜ」


 せめて気丈に振る舞うつもりで軽口を叩いてはみるものの、銀狼はぶるりと全身を振るいこびり付いた雪を落とすだけだった。

 狼はそのままドスドスと雪を踏んでこちらへ来たかと思うと、少しだけ身体をかがめて這うような形になった。先程よりも目線は下がったものの、それでも真っ直ぐ立った俺の目線とちょうど合うくらいの高さだ。


『背に乗れ、旅人。案内しよう』

「案内……?」


 静かに促す狼は俺の疑問に答えるでもなく、無言のままで待っている。これは、乗らなければ答えるつもりもないという意思表示か。

 未知の土地で、未知の相手の遭遇。あまりにも頭で理解するのは途方もなく時間がいるだろう。だが、ここまで来て話せる相手がいるのは千載一遇とも言うべきだ。


「……わかった。頼むぜ、狼さんよ」


 元から危険を冒してでも成果を上げなければならない旅だ。意を決して、銀狼の背によじ登るようにして乗り込む。意外にもその毛並みは高級な織物を思わせるような手触りで、冷たそうな銀の身体はじんわりとした温かさで満ちていた。


『吹雪を突っ切る。目を閉じ、舌を噛まぬようにしろ』

「あ――――?」


 銀狼がそう言うや否や、グンと身体が急加速した。慌ててその背にしがみつき、凄まじい風圧に耐えようとする。加速させたトナカイそりとは比べようもない勢いだった。

 ふと前を見ると、真っ白い壁になった吹雪が見える。そういえば今のこの空間は、銀狼が作り出した一時的な結界魔術の中である。しかしその外は猛烈な吹雪の世界。唐突に加速したこの銀狼の速度でそこへ突撃すればどうなるか。


「待っ――――!」


 制止の声虚しく、俺は激しい吹雪に体当たりする形で突入することになった。


 吹雪のさなかのことは覚えていない。ただひたすら、この銀狼の背には二度と乗るまいとだけ強く思ったのだった。



To be continued...

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