2.靴紐のいどら

 手先が不器用なあの子は靴紐をほどきながら考える。紐は結ぶよりほどく方が簡単なんて誰が決め付けたのか、と。

 釣り糸は決してほどけないように結ぶ。園児が結ぶ紐は幾重の固結び。簡単にほどけるのは靴紐くらいだ。でもあの子の靴紐は蝶結びの上から固結びをしてほどけないようにしているから、きっと靴紐だって結ぶよりほどくのが難しい時がある。けーすばいけーすなのだ。


 あの子が小学生に入って知った事の一つが、ほどけない紐は切ってしまうという世間だった。切ってしまうと本来の紐としての役割は十分に果たせない。ただ、めんどうくさいという一心で切ってしまう。なるほど、それなら確かに結ぶよりも簡単だ。それでも靴紐を切るわけにはいかないのは、元に戻す事ができないし、戻しても使い物にならないからだ。


 信頼とか、絆とか、そういうものも結んだら決して解けやしないけど、いとも簡単に切れてしまうんだ。元に戻すのはできないし、戻しても使い物にならないのに。


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