ノアの方舟

仁志隆生

ノアの方舟

 ここは人里離れた場所にある研究所。

 そこではいくつかの秘密の研究が行われていた。


「フフフ、やっと完成したぞ」

 頬がゲッソリと痩せている中年の男性科学者は、自身が作ったものを見てニヤリとしていた。

「おめでとうございます。さすが博士ですね」

 そう言ったのは科学者の助手をしている若い女性だった。

「いや、お礼を言うのは私の方だ。君がいなければこれを完成させる前にあの世に……ありがとう」

 科学者は頭を下げて助手に礼を言った。

「そんな、私はほとんど何もしてませんよ」

「何を言うか。君は長年研究を手伝ってくれただけでなく私の身の回りの世話もしてくれたではないか。愚痴一つこぼさずいつも笑顔で……それがどれだけ私の心を癒してくれたか、うう」

 科学者の目には涙が浮かんでいた。


「博士……」

 助手の目にも涙が浮かんでいた。

「と、いかんいかん。さて、早速これで」

「ええ、これで」




” 次のニュースです。今日未明◯◯山の麓にある研究施設で原因不明の爆発事故が発生しました ”



「へえ、あんなとこに研究施設なんてあったんだ」

 電機店の店頭にあるテレビを見た通行人が呟いた時


「事故現場から中継でお伝えしま……え!? な、なんだあれは!?」

 現場の記者は何かを見て驚いていた。


 そして映しだされたのは……

 山ほどの大きさの真っ黒な物体で、それが上空に浮かんでいた。


「な、なんじゃあれは!?」



 現場記者は絶句していた。

 どうやらそれは突然現れた、という感じであった。



「あ、あれは!?」

「え、ああ!」

 空を見るとテレビに映っているのと同じ物体が浮かんでいた。


 そしてその物体は勢い良く太平洋側に消えていった……と思った時


 ゴゴゴゴ……

「え、地震!?」

 辺りが大きく揺れだした。

「は、早く逃げ、ウワアアア!?」


 突如起こった大地震は日本を、いや世界中を揺らした。

 かの物体が海に落ちたせいで。

 そしてその地震によって世界中の大都市はほぼ壊滅状態となり、その後起こった凄まじい大津波がとどめとばかりに世界中を飲み込んだ……




「博士、隕石型爆弾の威力は予想以上でしたわね」

「ああ。本当に君がいてくれたおかげだよ」

 博士と助手は独自に開発した巨大宇宙船「ノア」の中で映像を見ていた。

「博士、これで地球上から全ての生物が消えましたね。博士のお考えを馬鹿にした連中が」

「そうだな。そしてこれからは私達で新たな世界を」

「ええ。クローン技術で創りだした死ぬまで歳をとらずにいる人造人間の美少年しかいない世界を……ハアハア」

 助手は鼻血出しながら戯けたことをほざいた。

「いや、美少女もいないと子孫が残せないだろう」

「そうでしたわね。百合百合も、ハアハア」

 助手はさらに勢い良く鼻血を出した。

「君はどっちもありなのか?」

「はい。でも一番好きなのは博士ですよ」

 助手は鼻血を拭きながらそう言った。

「は? 私は見ての通り冴えないオッサンだが?」

「それでも一番です」

「そうか。喜んでいいのかな?」



 そして二人は地球上に人造人間の美少年と美少女しかいない世界を作った。

 アホな趣味もあるが、純粋な少年少女が生きるなら醜い争いもなく世界は永遠に平和であるだろうと思って二人はこうしたのであった。


その後世界がどうなったか……

 

 それは、誰も知らない。


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ノアの方舟 仁志隆生 @ryuseienbu

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