125話:白仮面の正体

 自室のベットに寝転がると、胸の上で丸まったナインを撫でる。

 フサフサとした毛並みが心地の良い手触りを醸しだし、小さな吐息が首筋をくすぐっている。


 ノエルはひとり、野良と呼ばれた者達の事を考えていた。

 彼らの殆どは真面目に仕事について働いているらしいが、そうでない者。マフィア組織へ身を投じる者も少なからず存在する。

 今回の一件で明らかになった、そのような人々に近付くか否か。ノエルはそこに頭を悩ませていた。


 この世界は元いた世界と違い、絶対君主制で成り立っている。

 にも関わらず、組織立ったアウトロー集団の存在を許しているのは何故だろうか?

 考えられるものはいくつかあるが、どれもあまり気持ちのいい話ではない。


「結局はお目こぼしをして貰っているって事なんだろうな……」


 何らかの利益を享受する事で、領主が彼らの存在を必要悪として認めているのだろう。

 その何かが分からない間は、接触は避けた方が無難かもしれない。

 ノエルは疲労でうつらうつらとしながら、周囲の気配を探ると目を閉じた。

 作業を始めるのは夜になる。今の内に仮眠を取っておこう。




◇――――――――◇





 フェアリー・ベルにある倉庫街の一画に、彼らの溜まり場があった。

 古く、いつ崩れ落ちてもおかしくない程に老朽化した倉庫。その中には野良と呼ばる者達が屯していた。

 着ている衣服はボロボロで、腰にはナイフや剣を差し、ギラ付いた瞳を携えている。


 ノエルを襲った野良の集団だった。そんな彼らの元に、一人の男が尋ねて来ていた。

 真っ黒なローブに身を包み、深々とかぶったフードの奥には真っ白な仮面が顔を覗かせている。

 男達は白仮面の者を取り囲むように輪になると、一人のワービーストが前へと躍り出た。


 男の名前はウルグ。三ヶ月ほど前に町にたどり着いたばかりの新参者で、一連の騒動の首謀者であり、この愚連隊のリーダーを勤めていた。

 ウルグは同じ時期に流れてきた者達を、力ヅクでねじ伏せ今のグループを作り上げたのだ。

 決して弱い訳ではない。ただ、手を出した相手が悪かった。それだけの話だ。


「てめぇ……。今更どの面さげてのこのこと現れやがったんだ? 舐めてんじゃねぇぞ! おおっ?」


 激昂したウルグが白仮面の胸元に掴みかかると、それに呼応するように周囲を取り囲んだ部下達が殺気立つ。

 ノエルを始末するのに手を貸す。そう申し出た白仮面の男の口車に乗ったばっかりに、忠実な部下を5人も失う羽目になった。

 それなのに目の前の男はたった一人でのうのうと無傷で現れたのだ。

 ウルグはどうにも腹の虫が収まらなかった。


「図に乗るなよ? おまえラなんぞ、いヅでも殺せルんだぞ? 今ズぐ風穴を開けでやろうガ?」


「野郎……。ふざけんじゃねえ!」

 

 ウルグが拳を振り上げると、男はいつの間にか手にした銃をウルグの顎に押し当てる。

 ひんやりと冷たい鋼鉄の銃口が殺気立ったウルグを押し止め、否応なしに死を連想させた。

 銃の威力は、ここにいる全員が身に染みて知っている。依頼を受けた際、男に絡んだ部下の何人かが実際に風穴を開けられたのだ。それでもどうにも収まりが付かない。

 ウルグは血走った眼差しで男を睨みつけると、突き飛ばすようにして手を離した。


「失せろ! 今すぐ消えないと流石の俺も我慢ならねぇぞ?」


「依頼ハ終わっデいない。つドめを果せ……」


 白仮面の男はウルグを無視するように、小さな革袋を投げ渡す。


「俺の言葉が聞こえなかったのか?」


「お前らに後がナいゴドはわがっている。づぎは全員でやれ。ガねは用意ジてある」


「チッ、足元を見やがって……。裏切ったら許さねえぞ? さんよぉ?」




 

 

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