107話:ダンジョン 2日目――その4
やや茶色がかった小さな魔石を拾い上げる。小さいとはいっても3cmはありそうな大きさ。
今まで手に入れた魔石の中でも群を抜いて高価な部類だろう。
恐らく金貨五枚はするはずだ。
「ダンジョンに通い詰めたら大金持ちになれるんじゃないか?」
ノエルは手に入れた魔石をニヤニヤしながらひとしきり眺めると、小さな革袋に入れてインベントリへと仕舞い込む。
この階層であと何体の属性個体に遭遇するかは分からないが、今日一日だけでかなりの稼ぎになりそうだ。
「さて、どんどん行こうか!」
――トクンッ……。
「あぁ、そうか。確かに今回は使わなかったけど、たぶんボス戦では使うことになると思うから、その時には手を貸してくれな?」
――トクンッ!
戦闘に参加出来なかったのが残念だったのか、ややしょぼくれた様子の魂石を宥め、探索を再開する。
その後現れたのは丸腰のオーク五体。属性の気配を持つ個体は居らず、どれも一般的なオークだった。
黒炎で視界を潰し、白炎で仕留める。特に危なげなく殲滅し、先へと進む。
属性個体との遭遇を警戒しながらの探索の為、移動速度は些か落ちてしまったものの、大凡3時間程度でボス部屋と思しき扉の前まで無事到着する。
道中に遭遇したオークは三回に一回が属性個体で、どれもが単体で行動していた。
が、今朝方リリーから聞いた話によると、ボス部屋のオークは四体いるらしく、その内一体が属性個体だという。
つまりは、属性個体を交えての対複数戦となる。となれば相手がどう動いてくるのか、またこちらがどう動くのか。
考え得る行動を想定し、作戦を練る必要がある。
何しろボス部屋は一度入ると、殺すか死ぬかしない限り決して出入り口が開かないからだ。
ノエルは扉を背にするように座り込むと、休憩がてら作戦を練ることにした。
「四体か……。問題は隊列だよなぁ」
守りか攻めか。大まかに分けて考えるとこの二つになるはず。
魔法が使えるとはいってもオークはあくまでも魔物だ。それほど複雑なことはしてこないだろう。となると――。
オークがどの様な隊列を組んでくるかによって、作戦を考える必要がありそうだ。
「むぅ……」と首を捻りながら床に4つの小さな丸印を描く。
先のボスゴブリン戦を鑑みるに、あれは所謂守りの隊列だと思う。
盾持ちを最前列に配置し、ボスは後方から指示を出す。将棋の初期配置のような並びだ。
が、オークの場合はどうだろう?
ボスオークが後列にいた場合と前列にいた場合。その利点と欠点を考える。
「何とかなりそうだな……」
ノエルはボリボリと干し肉を噛み砕き、水で無理やり流し込むとインベントリから真っ黒な大鎌を取り出した。
「よしっ、いっちょやってやりますかぁ」
――トクンッ!
黒炎5個、白炎6個を作り出し背後へと浮かべると、魂石の魔力を借りて大鎌へと注いでいく。
あくまでも想像が当たっていればだが、最初の接触でボスを狩れる筈だ。
作戦通り、うまくいけば。だが――
大鎌を肩に担ぎ扉に手をかけた後、深く深呼吸を一つ。
次の瞬間。目端の鋭い表情へと変化を遂げたノエルは、ゆっくりと扉を押し開いた。
「ブヒィィィィッ。ブヒッ?!」
中へと足を踏み入れた途端、最前列のオークへと白炎を放つと、ノエルはそれを追いかけるように地を蹴った。
オークは迫り来る白炎から身を守るべく、慌てて土壁を作りだす。
間一髪といったタイミングで現れた土壁に白炎が着弾すると、ノエルは待ってましと言わんばかりに、土壁ごと感じ取っていたオークの気配を刈り取る様に、大鎌をブン回した。
「ブィッ……」
壁越しに微かなオークの悲鳴が上がる。予想的中。まさに瞬殺だった。
土属性を持つオークがその力を遺憾なく発揮できる隊列はなにか。
ノエルが出した答えは、属性個体を最前列に置いた攻防一体の陣形だった。
元々魔法とは構築、及び発動範囲が半径1mから3mと決まっている。
しかし、それは魔力操作に長けた魔法使いの場合だ。
つまり魔物であるオークの魔法発動範囲は、より狭いという事になる。
ならば後方にいては、たとえ土壁を出したとしても味方への攻撃を防ぐことは出来ない。
そこでこの隊列となると予想した。
恐らくだが、オーク達の作戦はこうだ――
部屋への進入者をボスオークが引きつけ、その間に手下のオークが取り囲む。これで詰み。単純だが効果的な作戦だ。
ただし、ノエルには物理透過効果というふざけた性能を持つ大鎌がある。
むしろ時間稼ぎのための土壁を出してくれた方が都合が良かった。
互いを分かつ壁があれば、オークの攻撃を気にせず壁越しに攻撃ができる。
それこそ
「残り三匹か。まぁ、ラッキーだったな」
大鎌を仕舞うと、鉈を取り出し右手に握る。
見ると発動者を失った土壁がボロボロと崩壊を始めていた。
と、ノエルはその隙間を縫うようにして黒炎を放ち、オーク達の視界を潰していく。
その後はもはや一方的。これまでと同じ作業でしかなかった。
足音を殺しながら後ろへ下がり、続いて放った白炎に身を焼かれていくオーク達に注意しつつ、伏兵の有無を確認する。
他に気配は感じられない。これで全部のようだ。
「何とかなったな……。後は、お待ちかねのお宝はっと……」
宝箱を期待しつつ周囲を見渡すと、部屋の中央の床がぼんやりと光を放ち始める。
やがて光が収束を始めると、そこを中心にして床に魔法陣が浮かび上がってきた。
赤い光を放つ幾何学紋様がクルクルと幾度か回転すると、直視出来ないほどの強烈な閃光を放つ。
「ちっさ!」
眩い光の後で、現れたのは幅30cm程の宝箱。
前回のボスゴブリン討伐後に現れた箱に比べると、随分と小振りな箱だった。
ノエルは早速と箱の傍らにしゃがみ込み、風を纏うと結界障壁を張る。
その後インベントリから短槍を取り出し、宝箱の蓋を開けにかかる。
すると、キンと言う小さな金属音が耳に届いた。
見ると床には長さ5cm程の針が数本散らばっている。
罠……だろうか? だとすると――
「魔導書きたぁぁぁ!」
立ち上がってガッツポーズを決めるノエル。覗いた箱の中には立派な本が収められている。
それはシミひとつ無い純白の革装丁で、金色の刺繍に金の文字。タイトル位置には光魔法と刻印が施されていた。
ノエルは恐る恐る罠を警戒しながら本に手を伸ばす。
光魔法と言えば上位属性の中でも、闇属性と並んでもっともレアな属性。
それこそ有力貴族でも無い限り、手に入れる事は難しいとされる属性だ。
更に言えば、今まさにノエルが欲していた属性でもある。それがまさか二十階層で手に入るとは……。
「やった、ついてる……。うぉぉぉぉ!」
両手で魔導書を天へと掲げ、小躍りするように飛び跳ねる。
今まで散々貧乏くじを引かされ続けてきたのだ、そりゃあ嬉しさも一入だ。
「よし、取り込もう。後回しにしたら無くなりそうだ。今すぐ読もう」
せっかく引いた当たりを、次の貧乏くじに奪われては堪らないと、慌ててその場にしゃがみ込むと、魔導書を開いた。
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ノエル (性別:男 / 年齢7歳)
種族:ヒューマン
所持魔術:7
火:着火 水:クリエイトウォーター
土:ピット 風:ブリーズ
光:ライト 光:プロフィール
空:インベントリ
所持魔法:4
水魔法:10/10
風魔法:9/10
火魔法:9/10
光魔法:8/10
闇魔法:8/10
空間魔法:8/10
==================
………………。
…………。
……。
「うーん……。いまいちうまくいかんなぁ」
ノエルは手に入れた光属性を早速使ってみたものの、思い通りの効果が出せないでいた。
ノエルの想像ではオンディーヌやセバールが使っていた、姿を変化させる魔法。それが光魔法によるものではないかと睨んでいたのだ。
試したところ確かに髪の色を変えることは出来た。
出来たが……、変わったと思った次の瞬間。一瞬にして元に戻ってしまうのだ。
ならばと使用する魔力量を増やしてみたが、結果は変わらず。
発動後、5秒と保たず戻ってしまう。考えても考えても分からずじまいだ。
「んー。駄目だわからん……。少ししゃくだけどセバールに聞いてみるか。よし、帰ろう」
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