104話:ダンジョン 2日目――その1
「んで、その後どうなったんだ?」
ムシャムシャと
其処彼処で酔っ払ったダーク・エルフ達が独特な民族歌謡を打ち鳴らし、手を叩きながら楽しげに踊りを披露している。
そんな宴会の席の一画で、嗚咽を漏らしながら泣きじゃくるオッサンを見て溜息を吐く。
「はぁ……。泣くなよ、もう300年も前の話なんだろ? 幾ら何でも引きずり過ぎじゃないか?」
呆れ顔で切って捨てたノエルに、セバールは声を荒げた。
「なんじゃと? お主には心という物が無いのか?」
「んなこと言われてもなぁ。そもそも話の途中だろ? その後どうなったのか、肝心な所をまだ聞いてないんだが?」
「途中もなにもこれで終いじゃ……」
「へ?」
当時、セバール達ダーク・エルフは、リリーに指示されたとおりダンジョン内で待機していた。
それぞれが小隊毎に準備を整え、リリーの帰りを待っていたが――。
待てども音沙汰のない状態が数時間ほど続き、いよいよ業を煮やしたセバール達が様子を伺おうと偵察を出したところ、ダンジョンの出口が綺麗さっぱり消えていたという。
以来、彼らは300年もの長きに渡り、ダンジョン内での生活を余儀なくされてきた。
そして今から凡そ5年前、突如としてダンジョンの出入り口が現れたと言うのだ。
理由は全くの不明だが、セバールの推理では恐らく丁度その頃に神子が産まれたのではないかという。
神子であったリリーが施した封印が、別の神子の誕生と共に開け放たれた。
どういう原理かはわからないが、妙な説得力を感じる仮説だった。
に、してもノエルとしては勇者と話を付けに行ったと言うリリーのその後が気に掛かった。
神子対勇者なんて胸熱のビッグマッチを期待させておいて、その後は知りませんとか肩透かしもいいとこだ。
「で、そこに俺が現れたもんだから感極まって主だ何だと騒いだわけね……」
「うむ、面目ない」
「いや、まぁいいけどさ。でも出入り口が開いたんなら何で出て行かないんだ? もう自由なんだろ?」
「それがのう、どうにもランスロットが儂らに呪いを掛けたらしいのじゃ」
苦々しい顔で吐き捨てたセバールを見て、ノエルは首を傾げた。
呪いなどと言うものの存在など聞いたことがない。
生かしたままダーク・エルフだけをダンジョンに縛り付ける。
そんな都合のいい方法があるのだろうか?
「具体的にどんな呪いなんだ? 出たら死ぬとか、命に関わる類のものなのか?」
「いや、直接命に関わるものではない。魔力を奪われ、身動きを封じると言うものじゃな」
なるほど、とノエルは頷く。
体内に存在する魔力を奪われれば、その場で意識を失い、その後三日は痛みに悶え苦しむ事になる。
幼い頃、ノエル自身にも経験があったため、その理屈は直ぐにわかった。
「なるほどなぁ、そりゃあ大変だ」
「相変わらず冷たい物言いじゃのう。少しは助けてやろうとか思わんのか?」
まるで他人事といった風に口にしたノエルに、やや呆れ顔でセバールがごちる。
「まぁ実際、他人事だしな。とは言え事と次第によっては助けてやらんこともないぞ?」
「本当か!」
「あぁ、報酬次第だけどな!」
言ってノエルはニヤリと笑った。
◇――――――――◇
「お気をつけて……」
「あっはい、行ってきます」
翌朝になると、早々に朝食を済ませてから早速ダンジョンの探索を開始する。
昨日はついて行くと言ってたばからなかったリリーだったが、何故か今朝はすんなりと送り出してくれた。
もしかしからセバールが一言いってくれたのかもしれない。
ただ、終始頬を赤らめ、妙に身体をクネクネとくねらせていた。
年頃の女の子の考えることはよく分からない。
因みに昨晩の話の続きだが、セバールとの間で色々と取り決めや、今後に必要となる事柄を話し合った。
その際に聞いた話だが、どうやらダーク・エルフ達を苦しめている呪いの正体は、フェリー・ベルそのものらしい。
と言っても街の名前ではなく、その由来となった聖なる鐘の方だ。
これを聞いた際には、流石のノエルも思わず尻込みをせざるを得なかった。
聖なる鐘と言えば、街と教会の象徴ともいえるもの。
それをどうにかしようと言うのだから躊躇うのも仕方がない。
下手をすれば教会そのものを敵に回しかねないからだ。
ノエルは最悪ランスロットを敵に回しても他国へ逃げればいいと、高を括っていた。
が、相手が教会となると話が変わってくる。
信仰は国境を越え、様々な国々に根付いている。
それを敵に回してしまえば、下手をするとこの大陸にノエルの居場所が無くなってしまう。
それは流石に避けたい。そこでセバールとの間で、事を起こす前に先ずは必要な物資などを集めつつ時間を掛けてでも情報を集めることを最優先にする。そう決まったのだ。
まぁ、正直なところ直ぐにでも事を起こせと言われていたら、ノエルは彼らを見捨てていただろう。
ノエルは自身の事を、お人好しだとも聖人だとも思っていない。
むしろ、自分に利がなければ誰であれ知った事ではないし、他人の思惑に思惑に踊らされるのはごめん被る。と、本気で思っている。
ただ最近になって、こと子供が理不尽な目に合うと騒ぎ立てる困った
まぁそれにしたって、結局最後の最後は自分の身の安全が第一なのは変わらない。
「行くか!」
――トクンッ!
合点承知とばかりに魂石が脈打つ。そう言えばセバール達は知っているだろうか? 魂石を解放する手段を……。
「帰ったら聞いてみるか」
その後、次々に現れるゴブリン達を焼き払いながら順調に足を進め、前回の半分程の時間で、十階層の扉の前までやってくると、休憩もそこそこにボス部屋へと足を踏み入れる。
「「「ギャッギャャッ」」」
待ち構えて居たのは前回同様、合計10匹のゴブリン達。
四人二列の隊列を作り、その後ろにボスゴブリンを庇うように立っている。
「学習しない奴らだな。まぁ、攻略する側としては助かるが……」
ノエルは間髪入れずに前列を守るゴブリン達の足下に黒炎を放つ。
それを受けたゴブリン達が燃え盛る炎にタップダンスを始めると、続けざまに白炎を放ち息の根を止める。
続いて二列目のゴブリン達には白炎のみで対処していく。
呆気ない。前回とは比べ物にならない程に容易く命が燃えていく。
「残り二匹か」
囂々と燃え朽ちるゴブリン達を眺め、ノエルはゆっくりと円を描くように横へと移動する。
と、自身を守る仲間のゴブリン達が、早々に全滅させられたのが信じられないのか、ボスゴブリンはのたうち回る仲間をじっと見つめていた。
「はい、終了」
ノエルは無防備に佇む二匹のゴブリンに向け、それぞれ三発。合計六発の白炎を放つと、着弾を確認し、肩を撫で下ろす。
「いやぁ、楽勝だったな。順調、順調」
ノエルは辺りを見渡し、伏兵が居ないことを確認すると、前回魔法陣が出現した部屋の中央へと足を運ぶ。
が、暫くの間まってはみたものの、残念なことに宝箱が現れることはなかった。
どうやは宝箱の出現は確定ではないらしい。
「しゃぁないか、次だ次」
元々本命は二十階層のボス部屋だ。先へ進もう。
そうして十一階層へと降り、今度はオーク達を次々と返り討ちにしながら足早に先へと進んでいく。
十二階層。十三階層。十四階層。十五階層。
まるで駆け抜けるように降りていくと、漸く十六階層へと足を踏み入れた。
「さて、ここからは少し慎重にいくか」
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