67話:ノエル VS おっぱい
アナベルに手を引かれ、
本来ならば、教会へ預けられた子供はまず始めに主祭壇で神に祈りを捧げなければならない。
しかしノエルの場合あまりにも身形が小汚かった為、アナベルから待ったが掛かったのだ。
全身に血と泥を浴び、おまけに最後は小麦粉まみれ。
そのままでは流石に失礼にあたると、先に身を清める事となった。
教会の裏手から外へ出ると、そこには青々とした芝生の大きな広場があり、更にその先には三階建ての学校の校舎の様な作りの建物が三棟並んで建っている。
ノエルは辺りをキョロキョロと見渡しながら、アナベルに引きずられるように建物へと向かって芝生の上を進んでいく。
アナベルの説明によると、建てられた三つの建物のうち一棟は孤児たちの居住棟で、もう一棟は学校として使っているらしい。
因みに三棟目の建物は普段は使われておらず、有事の際の避難所として建てられたとのこと。
町のど真ん中にこれほどの土地を有していると言う事は、よくよく考えればとんでもない事ではないだろうか?
大抵、町の中心には権力者、この場合は領主の館が建てられそうなものだ。
おまけにこの面積。
城塞都市はその性質上、出来る限り無駄の無いような土地の使い方をするはずだ。
にもかかわらず……。
(もしかして、俺はやべー所に預けられたんじゃないか? まいったな……)
「そう言えばノエル君っていくつなの?」
「……七歳です」
目を付けられては敵わないと、受け答えもしどろもどろになるノエル。
アナベルは、先程までのハキハキとした口調の変化を感じ取ったのか、優しげに口を開く。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。みんなとても良い子達だから。きっとノエル君も、すぐ仲良しになれるわ」
「はい……」
俯いたまま、か細い声で返事を返すノエルを見て、アナベルは顔を赤らめると誰に聞かせるでもなく小さく呟く。
「不安で心細そうに俯く少年……。いいわぁ……、凄く良い……」
聞こえる筈もないその囁きを、ノエル耳はしっかりと捉えていた。
いざという時に備え、身体強化と闇のエンチャントを纏っていた為だ。
そんな聞きようによってはぞっとしない発言に、ノエルがチラリと見上げると、潤んだ瞳で惚けた様に遠くを見つめるアナベルの姿があった。
(この人……、もしかしてヤバい人なんじゃ……)
――トクンッ。
(お前もそう思うか? あまり近付き過ぎないようにした方が良いかもな……)
「ふふふっ、ふふふふふっ……」
惚けた様に、にやつくアナベルに引きずられて、ノエルの顔はひきつった笑みを浮かべる。
――凄く不安だ……。
◇――――――――◇
孤児達が寝起きする居住棟。
その直ぐ脇に建てられた大浴場で、ノエルは唐突に訪れた身の危険に抗うべく必死の抵抗を試みていた。
「だ、大丈夫です、自分で出来ますから!」
「いいから、いいから。はい、両手を挙げてぇ」
「くっかっふごふご……」
バサッと強引に上着を託し上げられ、襟元が顔につっかえる。
シャツのボタンを外さずに脱がそうとするのだから当たり前だ。
苦しそうにふがふがと身を捩るノエルを見て、アナベルは「ふふふっ」と楽しそうに笑う。
天然なのか、それともドSなのか判断に苦しむところである。
そうしてジタバタとしながら漸く服を脱ぎ、すっかりスッポンポンにされると、今度はアナベルがいそいそと服を脱ぎ始める。
「え?! アナベルさんも一緒に入るの?」
「そうよ、だって勿体ないじゃない?」
慌てたように確認するノエルだったが、勿体ないと言われては返す言葉か見当たらない。
なにしろ先程大きな湯船に湯を張ったのはアナベルなのだ。
この世界のお風呂事情は、数多のファンタジー系ライトノベルのご多分に漏れず、贅沢品扱いとなっている。
通常は井戸の水で体を拭くか、もしくは魔力の余裕がある者が水生成の魔術で生み出した水で体を拭くかの違いくらいだ。
ただし、魔法使いであれば話は別になる。
つまりかく言うアナベルもまた魔法使いだったのだ。
これ程の至近距離にいながら、ノエルに属性魔力の存在を察知されずにいたところをると、恐らくは闇属性の使い手なのだろう。
「さっ、行くわよ、ノエル君!」
「は、はい……」
服を脱ぎ、振り返ったアナベルを見て、ノエルの視線は取り繕う様にふらふらと宙を泳ぐ。
デカい……。超デカい……。
漫画かよ! と、突っ込みをいれそうになる程の巨乳である。
着痩せって怖い……。
ブルルルルルロロローンッと、胸を弾ませながらノエルの背を押すように風呂場へと促す。
聞こえる筈のない擬音が聞こえる。
ヤバい、これはヤバいやつだ。
ノエルはビクビクとした面持ちでなすがままに進んでいくと、洗い場で椅子に腰掛けたアナベルがポンポンと太股を叩く。
「はい、ここに座って」
「え? 何で?」
「体を洗うからに決まってるでしょ? さぁ早く!」
言うや否やアナベルは手を引き強引に座らせると、ジタバタと逃げようとするノエルを逃がすまいと抱き締める。
――瞬間。
ピンと背を伸ばし固まるノエル。
後ろから両頬を生暖かいスライムに挟まれ、身動きが取れないのだ。
予想外、まさかこれほどの威力があるとは……。
げに恐ろしきはおっぱいである。
攻撃力が高すぎる……。
――ここは精子の境目。いくいかないの境界線。
当たっている。当てている。
そんな描写は幾らでも読んできた。
しかしこれは違う。そんな生易しいものではない。
――乗せている――
間違いなく。ワザと自分の意志で乗せている。
まさかそんな描写があるとは……。
ここに至り、ノエルは今ハッキリと確信する。
呑まれてはいけない。気をしっかり持たなくては。
――むにゅ……。
「ふぁぁ……」
思わす声が漏れる。
このままでは不味い、なんとか逃げ出さなくては。
焦るノエルをよそにアナベルは後ろから手を伸ばすと、体中を撫で回し始める。
ブクブクブクと次第に泡だらけにされていくノエル。
混乱する頭を落ち着かせんと、目を閉じ息を吐く。
――何故タオルを使わない?
アナベルの両手が縦横無尽に行き交い、ノエルへと確実にダメージを与えていく。
「はふぅ、はふぅ、はふぅ、はふぅ……」
息をも付かせぬ連続攻撃を繰り出し続けるアナベルは、息こそ乱れてはいるもののその戦意が衰えることはない。
彼女にとってみれば、ノエルは漸く現れた好敵手なのだ。
実の所、アナベルが自身の
世話をしている孤児達を一斉に湯浴みさせた時のことだ。
とある少年の下半身から目が離せなくなったのだ。
後に彼女は語った。あれは天啓であったと。
故にノエルは告げた。それは陰茎であると。
とは言え相手は子供。
当時のアナベルが繰り出した渾身の
彼女の
まさに
そこへ現れたのがノエルだった。
盗賊を装った、謎のローブの集団に家族を奪われた哀れな子供。
同情はするが、よくある話だ。
しかしあろう事かこの少年は、未だ七歳ながら両親の仇を討ったらしい。
しかも聞けば魔法すらも使いこなすらしい。驚愕である。
――もしかすると、もしかするかもしれない。
アナベルは
するとどうだ、ただ胸を目にしただけだと言うのに視線が泳ぐ泳ぐ。
お陰でアナベルは消えかけていた自信を取り戻す。
――我が胸は最強なり。我が乳房は無敵なり――
こうなればノエルに抗うすべは無い。
ただただ耐えるのみである。
しかし、それも遂に限界を迎えようとしていたその時――。
アナベルは、己が持つ
いまだ背を向けるノエルを強引に振り向かせると、
「怖がらないで、ここにはもうノエル君をいじめる悪い人たちはいないのよ? だから安心して頂戴」
唱えた呪文は泡属性。
遂に放たれた
両手でノエルの頭部を包み込むように抱き締める。
――瞬間――ノエルの意識が弾け飛ぶ。
それはこの異世界に二度目の生を受けて、初めて味わう
彼は後に語る。
『バブルスライム最強説』と。
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