59話:作戦開始

 大量の武具を前にドヤ顔で胸を張るノエルを前に、あからさまに怪訝な顔をしたラングがバスタードソードへと手を伸ばす。


「見覚えのある得物ばかりだな……」


「ん? そうなの? 途中で拾ったものばかりなんだけどな」


「あぁ、いや気にするな多分気のせいだ……」


「ならいいけど……」


 ラングが武器を手にしたのを皮切りに、周りにいた傭兵達もそれぞれに思い思いの剣や槍、はたまた大きな斧を拾い上げていく。


「どっちだって良い。コレさえ有ればこっちのもんだぜ」


 シュタールは、ブンッブンッと二度ほど手にした大斧を振るうとニヤリと笑う。

 その姿に、ノエルは些か緊張した面持ちでいそいそと余った武具を仕舞い込むと、今度は代わりに大きな壷を取り出した。


「さて、んじゃぁ作戦の説明をするよ?」


「おう、いったい何をしようってんだ?」


 ノエルは武器を片手に機嫌良さげな一同をクルリと見回すと、傍らに取り出した壷の蓋をポンと叩いて小さな小瓶をかかげてみせる。


「この中に油を詰めて奴らに投げつけてやるのさ。それだけで連中は炎系の魔法は一切使えなくなるはずだ」


「成る程、悪くねぇ案だな……。で、その壷の中身は全部油なのか?」


「まぁね、おっちゃん等も詰め替えるの手伝ってくれよな」


「あぁ、勿論だ。看守の見回りが来るかもしれねぇ、とっとと済ましちまおう」


 全員で油瓶を作りながら、ノエルが突入作戦の一連の流れを説明しはじめる。


 まず早朝、看守が朝食を運んで来るまでの間に全員で牢を抜け出す。

 そのまま子供達を洞窟内にある小さな横穴へ避難させ、ノエルとメイを含め傭兵達、計7名で改めて牢に身を潜めて看守を襲撃。

  これは子供達を巻き込まない為にどうしてもやっておきたい。


 その後、間髪入れずに食堂へ襲撃をかける、と。


「まぁ、こんな感じ? 食堂へなだれ込んだ後はおっちゃん等に任せるよ。玄人らしい所を見せてくれよな」


 全員を受けた傭兵達は大袈裟に頷いて見せる物の、またしてもラングの横槍が入る。


「わからねぇなぁ……。なぜ夜襲をかけない? それに前もって牢屋から抜け出す? そんな手段が本当にあるのか? だとしたら何故今まで黙ってた? 答えろ……」


 腕を組み、見下ろす様に睨み付けてくるラングに苦笑いしつつノエルが答える。


「鉄格子は魔法で切り裂く。今まで黙っていたのはおっちゃん等が信用出来なかったからだ。ついでに言えば、今になって話したのはこの作戦に失敗すれば、子供達は元より俺自身の命にも関わる。出し惜しみして良い場面じゃないからだ。これでいいだろ?」


 ノエルはウンザリした様子で首を竦めると、どうにかしろと訴える様な視線をシュタールへと飛ばす。


「まだだ、なぜ夜襲をかけないのか。その理由を聞いてねぇな」


 まるで脅すかのようにノエルの言葉に被せてくるラング。

 見るとシュタールも顎をしゃくり上げるようにしてノエルの回答を急かす素振りを見せていた。


「はぁ……。夜襲を掛けて失敗したらどうすんだよ、やり直しはきかないんだぞ? それよりも食事を運んでくる二人を確実に潰した方がいい。幸いな事にこの場所から食堂までは、結構な距離がある。多少騒がれても何とかなるだろ?」


「…………」

 


 ノエルが諭すように説明すると、言われたラングは未だに憮然とした面持ちで黙り込んでいた。


 二人の間に沈黙が流れる。この男はやりにくい。

 ノエルはもしかしたら自身の思惑が見透かせれているのではないかと一瞬顔を顰める。

 が、ここまで来たらもう後戻りは出来ない。

 目の前のこの男がどう出てこようと何としてでも成功させなければならないのだ。


「ラング、もう良い……。特におかしな様子はなかった。嘘を吐いてる訳じゃ無さそうだ。確かに俺たちが失敗すればコイツ等も全員揃ってあの世行きってのは間違いないんだしな……」


 ノエルとラングの間に流れる不穏な沈黙を破ったのはシュタールだった。

 もしかするとシュタールとラングには、こういった状況下での役割分担が予め決まっていたのかも知れない。

 表情にこそ出さないが、ノエルはその強かさに冷や汗を流す思いを感じていた。


 やはり荒事の中で生き延びてきた連中だけの事はある、と。


「だがシュタール、やな予感が消えねぇんだよ……。拷問でも何でもして、コイツの腹ん中の物を聞き出さねぇとヤバい気がするだ」


 そう睨み付けるラングの瞳には、隠し切れない程にノエルへの殺意が滲み出ていた。


「まぁ待てラング……。コイツはあくまで依頼者で、俺達はコイツに雇われた傭兵なんだ。流石に拷問は容認出来ねぇ。が、お前がそこまで食い下がるのも珍しい。そこで、だ」


 シュタールは宥めるように口にすると、ノエルの前にしゃがみ込み、目線を合わせる様にしてのぞき込む。


――お前が何かを企んでいるのは分かっている。


 口にせずとも鋭さを増したその目がそう物語っていた。


「一本道かどうかは知らねぇが、お前にはキッチリ食堂とやらにまで道案内して貰うぞ、いいな?」


 『反論は許さない』ノエルを取り囲む傭兵達のそんなピリピリとしたひりつく空気がその場を支配し始めた頃、ノエルは漸く溜め息混じりに両手を掲げる。


「分かった従うよ、それでいいだろ?」


「あぁ、それでいい。お前もこれで文句はないな?」


「…………」


「ラング!」


「……分かった、分かったよ。納得は出来ねぇが、団長の言うことには従うさ」


「ならいい……」





◇――――――――◇






――コツッ、コツッ、コツッ、コツッ、コツッ、コツッ。


 地下洞窟内を進む男達の足音が響きわたる。

 黒革の防具に身を包んだ二人の人影。

 髭面の男と短髪の男、いつもの食事係の看守二人組である。

 

 ガラガラと音を立てながら大きな木製の車輪の付いた配膳車を押し進めていく二人は、先日の一件を咎められ現在すこぶる御機嫌斜めであった。


「あのガキ、もし生きてたら俺がこの手でブチ殺してやる」


「不味いですよそれは」


「分かってる、ただ言ってみただけだ」


 不機嫌そうに鼻を鳴らす髭面の男の横を歩きながら、短髪の男は昨晩の事を思い出していた。

 

「ミルファの姐さんがあんなに怒ったところ初めて見ましたよ。マジでおっかなかかったっすね」


「あぁ、そうだな……」


 ノエルの不用意な発言に余程腹を据えかねたのか、ミルファは誰彼かまわず当たり散らしていた。

 無論その矛先が真っ先に向かうのは、まんまとノエルを逃がした当の二人な訳で……。


「あの人はサドっ気があるからな、怒らせると手に負えねぇ」


「なんです? そのサドっ気って」


 遠い目をして溜め息混じりに呟いた髭面の男に聞き返す。


「ん? あぁ、それはあれだな。人をなぶって悦に浸る変態・・のことだ」


「へ、変態って、まずいっすよそんな事言っちゃ」

 

「分かってるって言ってんだろ。 本人になんて口が裂けても言わねぇよ」


「なら良いんすけ、ど?」


 ふと横を見ると、先ほどまで隣を歩いていた筈の男の姿が見えず、慌てて振り返る。


「――ッ! なっ、何でお前がそこにいる?!」


 振り返った先で目にしたのは、確かに昨夜瀕死の状態で自身が牢の中へと投げ入れた少年の姿だった。


――有り得ない……あんな状態からたった一晩で……。


「何で怪我が治ってる? それに……俺の相棒は何処へやった……」


 地を這うような低い声色で、男はノエルへ殺気を飛ばす。

 しかし当のノエルは居に返すことなく、涼しい顔で奇妙な笑みを浮かべている。


――シャリンッ


 次の瞬間、男はノエルへと視線を向けたまま、静かに腰に差した片手剣を引き抜いた。


 『このガキはヤバい』そう何かが男に警鐘をならしている。

 その証拠に男はいまだにノエルから目を反らす事が出来ないでいた。

 周りに他の誰かが潜んでいるかもしれないこの状況下でだ。


(くそっ、一体何がどうなってやがる)


 混乱しながらも眼前の驚異に対処すべく身構える。

 と、グニャリと口角を上げたノエルが男へ向けて悪意の籠もった呪詛を吐く。


「そう睨むなよ。すぐに相棒に会わせてやるさ」

 

 

 

 

――あの世でな!――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!